混沌八仙
李先、騨鞭

(宋代)

 宋の詩人孟腎の詩「混沌八仙歌」に登場する混沌師の八人。「混沌八仙歌」は、唐の大詩人杜甫が詠んだ「飲中八仙歌」を真似て作られたものであり、「飲中…」と同様に八人の特徴的な混沌師が登場する。油断ならぬ好々爺、李先。出自は胡人、騨鞭。境林湖の主、取豪仙人。身の丈八尺の大丈夫、臨栄。漂白の儒学者、伯佑。用兵は郭嘉の如し、惇正。奇行の好事者、田融。江南の侠者、厳瑞。これら八人は明代では非常に人気が高く、棋譜が出回り多くの混沌師の手本となった。

 ところが、この詩に登場する八人の混沌師は実在しなかった、つまり孟腎による全くの創作であったのである。そもそも「混沌八仙歌」は同じく孟腎作の小説「唐人居」に登場する詩であり、後にその詩のみが有名になり、明代に実在の人物であると誤解されてしまった。また、出回った棋譜というのも、全く同じ内容で別人の棋譜が元代や明代前期に見られるし、歯牙にもかからない出鱈目なものも多く含まれていたようである。しかしながら彼らの人気は衰えることはなく、特に李先は人物像が一人歩きし、後の大名人すらも李先を愛好して止まなかった。

 李先の人気の高さは、現在も残る数多くの棋譜からも伺い知れる。前述の通り、明代までの李先の棋譜は単なる偽物であったのだが、混沌八仙が創作の人物であると知れ渡ってからは、腕に覚えのある混沌師たちが競って李先の架空の対戦を創作し、李先の棋譜として発表していったのである。混沌師達はこれぞという勝負を想像し、また他人の棋譜を見ては「李先はこんな手は打たない」などと批評し合う。もともと詩の一編にすぎない李先像は、このような討論のなかで形作られていったようである。現在でも中国では架空の対戦を「李先翁棋譜」と呼ぶのだが、事情を知らない人は、あまりに膨大で煩雑な李先の棋譜に混乱してしまうことも多々あるので気を付ける必要があるだろう。

戻る