オクラホマの怪人
藤崎 俊則
(1957〜)

 藤崎は25歳まで会社勤めをしながらアマで活躍。アマ名人になった年にそのままプロに転向した。物静で慎重な性格そのままに、一度優勢に立ったら決して冒険はせず、一切のミス無く鉄壁の守りを貫いて勝利を収める。悪く言えば面白みのない打ち回しが特徴の、注目されずらい勝負師といえる。しかし困ったことに、藤崎はある日突然「オクラホマの怪人」に”なってしまう”のである。普段はスーツ姿の藤崎が、ある時は肩にオウムを乗せ、ある時は文金高島田のカツラをかぶり、ある時は冷凍のインドマグロを小脇に抱えて対戦場に入り、過去何人もの対戦相手を唖然とさせた。対戦中も当然のように奇声を発し、数々の奇行は対戦相手を混乱させる。藤崎が怪人となった時の対戦相手は、必ずと言っていいほどミスを犯すため、一時は藤崎の奇行は高等な作戦なのではないかとも噂されたが、それは間違いであったことはすぐに明白になった。なぜなら藤崎が怪人となったときの勝敗は23戦1勝20敗無効試合2と、普段の藤崎と比べて全くと言っていいほど勝てないのである。それもそのはずで、怪人藤崎は折角の相手のミスに乗じるどころか、まるで故意にそのミスを無視するかのように打ち、勝負は目も当てられないほどの泥仕合となってしまう。つまり怪人藤崎の奇行が作戦であるなら、その作戦を潰しているのもまた怪人藤崎その人なのである。

 なぜ藤崎は突然に「オクラホマの怪人」になってしまうのかはしばらく不明で、多重人格なのではとの噂が挙がったこともあった。しかし藤崎の友人で俳優の森下尽同氏によると、藤崎は極度の緊張症のため、重要な勝負の前日には友人達と試合直前まで飲み明かしてしまい、泥酔状態で勝負にのぞんだために、あのような奇行に至ったのだという。「オクラホマの怪人」の名も、酔った友人の一人が適当に付けただけで大意は無いということだった。

 藤崎の奇行はさすがに問題になり、やがて自らプロから引退。一部同情の声もあがったが、引退後なぜか冒険ライターを名乗り、取材を一切しないで有名人のゴシップ記事を書いたりしている所を見ると、「オクラホマの怪人」こそが彼の本性だったのではないだろうか。

戻る