白髪三千丈
飯島 修
(1970〜)

 飯島を特徴づけているのはその年齢に不相応な白髪だろう。飯島は現在三十代だが、その頭髪は一本の例外もなく真っ白で、決して染髪や脱色などではない自然の白髪である。18歳でのプロ入り当時は、一般の若者と同様の黒髪であったが、二十代前半から白髪が目立ち始め、三十前には現在のような髪色になっていた。飯島の髪を現在のようなものにしてしまったのは、その精神を酷使する対戦スタイルによるものだろう。

 混沌之庭に限らず、将棋、囲碁、チェスなどは、何手先まで読むか、という事が重要になってくる。しかし可能性のあるあらゆる手を読んでいては時間がいくらあっても足りない。相手の過去の打ち回しを研究し、性格や癖を読むことにより、選択肢を狭める。それによって、より先の手を読んでいき勝ち筋を見出すのである。しかし飯島は本人が語るように、非常に生真面目な性格で異常なまでの心配性だった。そのため本来なら真っ先に切り捨てられるであろう手の可能性を捨てきれず、通常の勝負師の数倍の手を読んでしまっているのである。

 さらに飯島の髪にとって不幸だったのは、飯島の入門先が、早打ちで有名な明州派であった事であろう。明洲派の木谷守膳は、手を打つまでの時間をコントロールする駆け引きに長けた人物であり、弟子達には、どんな難局であっても次手を数秒の内に決めるよう指導した。そのため、飯島はただでさえ数倍もある手の筋道を、異常に短い時間で読み進めなくてはならなかったのである。

 このように精神を犠牲にした対戦スタイルは、若くしてその髪を白髪にしてしまったが、それと引き替えに類い希なる高速で的確な読みを手に入れ、2001年に二冠を達成した。間違いなく今後の混沌界を牽引する存在となるだろうが、本人曰く、「いつまで髪が残っているか分からない」そうである。

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