解体諸因/講談社ノベルス

タイトル通り「バラバラ事件」ばかりを扱った短編集。「バラバラ事件」とはいっても殺人事件だけではなく、町に貼られたポスターの女性の顔の部分だけ全て切り取られる事件とか、くまのヌイグルミが切り裂かれる事件や戯曲形式の殺人劇が挿入されてあったりとバラエティにとんでいます。よくまあこれだけ「バラバラ事件」ばかり集めたものです。西澤氏の思い入れがわかる作品集だなぁ
その中でも私は「くまのヌイグルミ事件」がお気に入り。殺伐とした事件の合間にホッと一息つけるような雰囲気がいいですねぇ。考えてみればこの事件だけ時代設定が前なんですね。主人公、匠千暁がまだ大学生の頃の事件ですから・・・。この事件でもう一人の主人公、辺見祐介が匠千暁の先輩とわかるので、二人の主人公の関係をあかすためにこの事件だけ設定を前にもってきたのだろうか・・
エレベーターが9階から1階へ降りる間に女性がバラバラになっていたという事件は、トリックは成る程と思ったのですが動機が凄いですねぇ。もう執念というか、ここまでやるかという感じですなぁ。まったくこういう事を考え付く西澤氏には脱帽です。
途中に入る殺人劇は戯曲形式という事もあり他の事件とは趣きが異なり、作者の西澤氏も遊んで書いている印象ですな。部長刑事の台詞には大笑いしてしまいます。それでも結末はオッとなるので、どうしてこれもなかなかです。
そして最後の事件。これを読んだらまた驚き。いやあ、やられました。








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彼女が死んだ夜 匠千曉第一の事件/カドカワノベルス

サブタイトルにあるように西澤氏のデビュー作である「解体諸因」に登場したタックこと匠千暁の第一の事件であります。同じく「解体諸因」に登場したボアンこと辺見祐輔、タカチこと高瀬千帆も登場。時代設定が「解体諸因」よりも前なので彼等はまだ大学生で生き生きと酒を飲んでおります。
ミステリーというよりも青春小説あるいはラブコメを読んでいるいるようで思わず笑ってしまうような場面も多々。彼等の楽しい雰囲気が伝わってきて気持ち良くサクサク読めてしまいます。爽やかな作品ですねぇ。
それにしても、ハコちゃん。インパクトあるなぁ。大学生になっても門限が6時という厳格な、というより異常な家庭で育った彼女はやはり変わっていた。けっこう怖いです。自己中心型で目的のためには手段を選ばない。なんといっても、あんな事までしちゃうんだもんなぁ。普通はやらないよ、却ってまずくなるもんなぁ、うん。まあ、そうなってしまったとこが彼女の悲劇なわけだけど・・
ボアン先輩は想像通りタフだったし、タックはやはり弱かった。本当に「解体諸因」に比べて二人とも実にのびのびしている。やっぱり学生時代というのが一番楽しい時期なのかもしれない、と思ってしまいます。
事件の方は大体想像がついてしまいますが、西澤氏はさらにひと捻り加えてありました。でも、おかげで後味悪い。せっかく青春調できたんだから最後まで爽やかにやってほしかったって殺人事件なのだからそういうわけにはいかないか・・








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麦酒の家の冒険/講談社ノベルス

「彼女が死んだ夜」から続く、匠千暁(タック)とボアン先輩、タカチというお馴染みのメンバーが活躍する作品第三弾。
今回の事件は少々風変わりで、迷い込んだ別荘の中は家具も何もなくガランとした建物内にあるのは一つのベッドと冷蔵庫だけ・・・。そして、冷蔵庫の中には冷えたジョッキが13個ととても飲みきれない程の缶ビール。一体これはどういうことだ、とお馴染み三人+ウサコが推理合戦を繰り広げるという物語。
謎というのはこれだけなんで、密室やバラバラ事件が起こると期待されてた方はがっかりだと思いますが、これはこれで面白いです。
みんなで勝手にこの別荘のビールを飲みながらの推理合戦は、作者の言葉にある通り、読んでいるこちらまでビールが飲みたくなってしまう。冷えたジョッキに冷えたビールを注ぎ、ゴクゴク喉をならしながら飲むのを想像するとたまりません。本当にこの作品は飲みながら読むのがいいのかも・・・。タックの名推理の源が発見できるかもしれません。
それにしても、これだけの謎で中弛みなく最後まで読ませてしまう西澤氏の手腕には恐れ入ります。シリーズキャラクターに助けられているとはいえなかなかこうはいかないのでは・・
今回の事件は夏の事件(彼女が死んだ夜)後の骨休めともいえる内容なので、彼等にはこの後も新たな事件でどんどん活躍してもらいたい。「解体諸因」の現在の事件ではタカチ、ウサコの姿が出てこないので、彼女達はどうしたのかという興味もありますしね。








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