暗闇坂の人喰いの木/講談社文庫

プロローグの猟奇事件から、もう止らなくなります。これはおもしろい。島田氏の作品の中では一番気に入っています
過去と現在が絡み合い、人を喰うと噂される楠や奇怪な家にこれまた異常な登場人物。特に昭和初期の「人喰いの木」のエピソードの部分はそれだけでもホラー小説として楽しめますし、イギリスの巨人の家の謎もよくできています。また作中ある人物が語る死刑の話などもなかなかに興味深い内容です。そんな一つ一つのエピソードが次第に関連しあい、やがて一つになるあたりは島田氏の真骨頂といえますね。そして探偵御手洗潔が解き明かす真相にはゾッとするものがあります。
この後の「水晶のピラミッド」「アトポス」に登場するある人物が初見参。「斜め屋敷の犯罪」から続く島田氏らしいトリックですがこの作品にはあっていると思います。というより全体の雰囲気を壊さないためにはヘタな小細工をするよりこのようにしたほうがいいのでしょう。いずれにしろ、細かいことを気にさせない程のパワーが溢れている一冊です。








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眩暈/講談社ノベルス

島田氏自身の「占星術殺人事件」を元にした作品。「御手洗潔シリーズ」です。単独でももちろん面白いですが「占星術殺人事件」を読んでからの方が面白さが増すと思います。
「水晶のピラミッド」は私としては外した感があったのですが、この作品はいいですね。最初の異様な手記から引き込まれていきます。これは何だろうと読み進んでいくうちに島田氏の術中にはまってしまいます。
この作品、この手記が全てだといえるのでは・・。もう他の事はどうでもいい、この手記の謎が知りたい。そういう思いにかられてどんどん読み進んでしまいます。しかも島田氏らしいオカルトっぽい設定が雰囲気を盛り上げています。しかし、謎の一部がある作家の作品を先に読んでしまったので、おぼろげに見当がついてしまったのが残念でした。もちろん、それだけではありませんけどね。








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竜臥亭事件「上」「下」/カッパ・ノベルス

「御手洗潔シリーズ」ではありますが今回彼は登場せず、友人の石岡氏が活躍?する番外篇となっています。「上」「下」二冊の長編ではありますが、ぐいぐい引き込まれる面白さがあります。竜臥亭という旅館で次々に殺人がおこる、変形の「吹雪の山荘」ものか。雰囲気としては横溝正史の「金田一シリーズ」に通じるものがあります。島田氏にしては久しぶりの日本物という感じがしますね。私としてはこういった傾向の作品をどんどん発表してほしいのですが・・
ある箇所でエラリー・クィーンを読んだ人なら、これは「◯の悲劇」かなと思ってしまう部分もあります。私など絶対にそうではないかと思い込み、あの人が犯人だとばかり思っておりました。でも、もしそうだったら悲惨な結末になっていただろうな。
また島田氏にしてはめずらしくホロリとさせるラスト。余韻が残りますねぇ。御手洗氏が不在という設定で始めは危ぶんだが、どうしてどうして石岡氏もなかなかやるものです。これからの石岡氏の活躍にも期待をもてる一冊であります。まあ、あの推理は「因縁」という事で良しとしますか・・・。








アトポス/講談社ノベルス

悪い意味でまたやってくれましたね。というのが正直な感想ですか・・
「水晶のピラミッド」と類似した作品で、続編とも呼べるかもしれませんが、これはミステリーの形を借りた「ある作中人物」の「成長記」と「あるテーマ」について問題を掲げる「社会派」小説なのかもしれません。
この「アトポス」面白いことは面白いのですが(確かに引き込まれるものはあります)何か漠然とした不満が残る。島田氏の「御手洗シリーズ」ということで過度に期待しすぎているのでしょうか。
ブラド・ツェペシと並ぶ吸血鬼伝説の一方の雄「エリザベート・バートリー」のエピソード部分や、過去の香港の奇妙な出来事、人間の心臓を割いて血をすする人物等のエピソードを読むと、これから一体どうなるのかと期待が膨らむのですが・・・。実際このエピソード部分は大変面白い。いっそのこと綾辻氏の「殺人鬼」のようにホラー小説にしてしまったらどうだったのだろうか、とも考えてしまう。ミステリーとしては最後の謎解きの取って付けたようなトリックは不満が残ります。「斜め屋敷」や「暗闇坂」では物語に溶け込んでいたのでまだ良かったのですが・・・。(それでもかなりスゴイトリックでしたけれども・・)まあ、あの演出を収拾するためには仕方ないともいえますがねぇ。








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