名探偵なんか怖くない/講談社文庫

いやぁ、面白いです。トラベルミステリー以前の西村氏の作品はバラエティにとんでいて面白いものが多く非常に気に入っておりますが、この作品もそんな中の一冊。パロディ・ミステリーとでも呼べるのでは・・
タイトル通り名探偵達(エラリー・クイーン、エルキュール・ポアロ、メグレ警部、明智小五郎)がある人物に招待され集まり、そこで事件に遭遇するという物語。
冒頭でこの人物があの「三億円強奪事件」の謎を解くため、選びだした青年をモルモットに再び三億円を強奪させ、その青年がどういった行動をとるかを名探偵達が推理する、という計画を提案する。
その計画が実行され名探偵達の推理通りに行動していくかにみえたのだが・・
というあらすじなのですが、どうしてこれがなかなか面白い。各探偵達の性格等もうまく描かれており思わずニヤッとすることもあります。こういうミステリーを書こうとするあたり西村氏自身そうとう彼等のミステリーが好きなんだなぁと思う。
そして、ただのパロディに終わらず謎やトリックもしっかりしているのは流石ですな。4者4様の「読者への挑戦」もあり、どっしりとした本格物の合間にサラッと読むのにぴったりかな。
何度も書くが本当にこの時期の西村作品は面白いのでぜひ読んで戴きたいです。





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名探偵に乾杯/講談社文庫

名探偵シリーズ第4弾です。この後このシリーズは発表されていないのでこれがおそらく最後の作品ですね。クリスティ女史が「カーテン」を発表したことにより、このシリーズの探偵の一人エルキュール・ポアロが亡くなってしまったので致し方ないですが・・
この作品でもそのポアロの追悼会を開くためエラリー・クイーン、メグレ警部、そしてポワロの友人ヘイスティングズが明智小五郎の所有する伊豆の小島「花幻島」に集まるという設定。そこに招かれざる客として新聞記者や推理作家、そして自称ポアロ二世と名乗る青年が登場し、事件が・・という内容になっております。
解説にも書かれておりますがこの作品はアガサ・クリスティの「カーテン」を読んでからでないと面白くないでしょう。それに「カーテン」のネタバレの部分がかなりあるので未読の人は読まない方が無難。逆に読んでいる人がこの作品を読むと、あれっそうだったかなと又「カーテン」を読みたくなりますね。そして「スタイルズ荘の怪事件」も読んでおいた方が一層楽しいと思うな。
今回若い探偵登場を願う3人の名探偵達は事件を自称ポアロ二世、マードック青年に委ねるが、次々に事件が起こってしまう。それも密室殺人。このあたりは小林少年(この作品中ではもはや少年ではないが・・)の気持ちが良く解り、なぜ明智達名探偵が乗り出さないのか疑問に思ったが、その時の明智の言葉に愕然。そして、このトリックは・・・。伏線はあるのだが・・・。
ところでこの作品はここでは終わらずこの後「カーテン」の謎について言及している。なるほど、そういう見方もあるのか。ことによると西村氏、これが書きたいためにこの作品書いたのか?





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殺しの双曲線/講談社文庫

西村氏がトラベル・ミステリーを手掛ける以前の作品。この時期は多種多様な作品を発表しておられた西村氏ですが中でもお薦めの一冊です
巻頭に双子を使ったトリックと明言しているのも初期の西村氏らしい遊び心が溢れています。そして私好みの「吹雪の山荘」物であります。
A・クリスティ「そして誰もいなくなった」ではインディアン人形ですが、この作品ではボーリングのピンが被害者を象徴しています。この手のミステリーに要求されるサスペンス感(誰が犯人か、次は誰が・・)も抜群。数多い西村作品の中でもベスト10に入ると思います。読み始めたらラストまで止らない面白さとスピード感。そしてクリスティ作品同様"誰もいなくなる"わけですが、ここに西村氏の苦心の後が伺われます。けして現実的ではないですが、それはないだろうと憤慨するような事はないと思います。
そして動機ですが、作中ホテルの宿泊者達も色々と考える場面が登場しますがわからない。その動機は西村氏らしいとはいえますね。





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七人の証人/講談社文庫

やはりトラベル・ミステリー以前の一冊。今ではすっかり有名な十津川警部がいきなり誘拐され、気が付くと何処かわからない孤島にやはり誘拐された人といた。といきなりすごい設定で始まる作品。今の十津川警部からは考えられないうかつさですが、孤島で気が付いてからは名探偵振りを発揮してくれます。思えば西村氏のトラベルミステリーがあれほど人気になったのは、この十津川警部の人柄によるものが大きいでしょうね。この作品でも警部の公平にものを判断する態度が貫かれており非常に気持ちがいい。
内容的には隔離された島に集められた人々が一人二人と殺されていく「吹雪の山荘」物の部分と過去の事件が現在に絡む「回想の殺人」物の部分がうまく融合しており、だんだんと過去の事件の真相が明らかになっていく過程はとても面白い。この過程がこの時期の西村氏の真骨頂なんですね。人間の心理というものをとてもうまく捉えています。解けなかったパズルがどんどん解けていくような快感があります
それにしても設定が凄いですね。いきなりの警部誘拐と過去の事件の真相を探るために無人島に事件のあった町並みを作ってしまうとは・・・。





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赤い帆船(クルーザー)/角川文庫

やはりトラベル・ミステリー以前の一冊。この頃の西村氏は海を舞台にした作品も数多く発表していますが、中でもこの「赤い帆船」は気に入っている作品です。
日本からタヒチへのヨットレースに事件が絡むという設定は現在のトラベル・ミステリーの原型ともいえるのでは・・。そして、ご存じ十津川警部も登場(んっこの頃はまだ警部ではなかったかな)。この頃の警部は現在の警部とは若干雰囲気が違いますねぇ。まあ、西村氏も警部も今より若いですので当然ですけど・・。その辺りを比較しながら読むのも楽しいものです
この作品、ミステリーとしての面白さも然る事ながら、単純にヨットレースの海洋物として読んでも面白いのでは・・。私なども事件そっちのけで楽しんでいました。トラベル・ミステリーが人気あるのも、こういうところなんでしょうね。
事件はトラベル・ミステリーの王道、アリバイ崩しです。まあ、正直いいましてこの作品、ヨットが主役のような一冊です。





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終着駅(ターミナル)殺人事件/光文社文庫

初期のトラベル・ミステリー(確か3作目あたりか・・)。最近のトラベル・ミステリーは読んだそばからタイトルも忘れてしまったりするのですが (けっして面白くないという訳ではなく・・) この頃の作品は一冊一冊趣向を凝らしてあり(今は凝らしていないという訳ではなく・・)力が入っております。その中でも 特にこの作品は素晴しい。
この時期の西村氏というのは月並な言葉でいうと「人情」があります。世間からみるとけして成功しているとはいえない人々にも暖かい視線を注いでいるようで、殺伐とした中にも暖かみがあります。私が西村作品が好きなのはこういった要素があるからなんですね。もっとも人情も何もないただ殺伐とした作品も好きだったりしますが・・
この作品時刻表トリック、アリバイ崩しのトラベル・ミステリーですが一番の焦点はその動機ですね。地方から東京に出てきた同窓生達が久しぶりに集まり帰郷する。その同窓生達が次々に殺されていくのですが、動機がわからない。犯人は途中で見当がつくのですが、直接の動機というのは一体何だろうと最後まで引っぱられます
そして・・・。唸りましたねぇ。きちんと伏線が張られており、また最後の被害者のダイイングメッセージが意味不明なのですが、それがラストで電光のように蘇ります。
それにしても、あまりにも悲しい動機・・。こんな事でと、やりきれない思いが残ります。





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