このシリーズはいつも奇想天外な設定で楽しませてくれるのですが(その反動でトリックはかなり強引になる)、あれれ・・・。今回はわりと普通の設定でありますなぁ。ちょっと拍子抜けかな・・
しかしながら探偵の氷室想介がサイコセラピストなので、登場してくる人物達がどこか普通ではないのは今まで通り。冒頭かかってくる奇妙な電話などはなかなかゾクゾクさせるものがありますな。でもそれからが普通の展開になってしまったのが惜しい。「旧軽井沢R邸の殺人」のような勢いでいってほしかった。
舞台は大阪ツインビルの「空中庭園」、サイコな登場人物といい期待していたんですがねぇ。
この作品には「因果応報」の概念がかなり登場してくるのですが、なにか決めつけられるとそんなことはあるまいと反発したくなるのは私がヒネクレ者なのかなぁ。でも歩くとき右足から歩くか左足から歩くかということまで気にしていたら何も出来なくなってしまいますよね。
作中でも氷室想介がJリーグの「ドーハの悲劇」などいろいろと語っていますが、このことにかなりのページ数を使っていることからして吉村氏は、この「因果応報」のことが書きたくてこの作品を書いたのではないかと思うぞ。そういえば「旧軽井沢R邸の殺人」では登場人物達に「結婚観」をいろいろと語らせていた。
吉村氏の作品はミステリーの形を借りた吉村氏の主張の発表の場となることが多々あるけれど、この作品もその中の一冊となるのでしょうね。(笑)
タイトル通りトラベルミステリーな作品でありますが、時刻表トリックやアリバイ崩しではないところがいい。さすがに飽きてきましたので・・
それに志垣・和久井コンビがいい味を出しており、読んでいると思わず温泉に行きたくなります。うん。冬の雪に埋もれた白骨でのんびりと露天風呂につかっていたいなぁ。
そういったのんびりした描写とは別に、吉村氏得意の意表をついた謎。今回は大勢の人が入浴中の大浴場の外にある露天風呂で背広を着たまま沈んでいた被害者。まあ一連の吉村作品を読んだ方ならわかるのですが、これを真剣に考えると後で本を投げ出したくなると思いますので、軽く考えるのが楽しく読むコツですな。
けっこう癇にさわる言動の多い夏目警部も今回は出番も少なかったこともありおとなしかったので一層読みやすかった。考えてみると吉村作品の中では志垣・和久井コンビが一番魅力的なキャラクターだなぁ。
軽く読める作品ですが、ラストでは思わずホロッとしてしまいました。こういう描写には弱いのです。
一つには探偵役の朝比奈耕作が全然働いていない。もはや探偵というよりもただその場に居合わせた乗客という感じで、当然ながら彼がなにもしないうちに事件は解決しました。(彼の場合頭をつかうよりもただ行動するというパターンが、友人の平田均が登場していた頃から多かったのですが最近はそれが特に顕著になっています)確かにシリーズキャラクターが登場すると読むほうにとっても取っ付きやすい面はありますが、ほとんど無駄話としか思えない会話しかしないのなら、却って登場せず他の人に会話させた方がさっぱりしていて好感がもてると思うのですが・・
犯人も驚くほど意外でもなく、「トワイライト」に関するトリックも以前どなたかの作品(西村氏あたりか・・)で読んだようなトリックで驚きは皆無。それでも非常に読みやすい文体なので最後までストレスなく読めるのですが印象が薄いなぁ。もっともやたらに知識をひけらかす自己満足型ウンチク満載の作品や、途中で読むのが辛くなり投げ出したくなるような作品よりはいいのかもしれませんが・・
ところでこの作品では本筋以上に面白いのが「トワイライトエクスプレス1号車スイート」通称「幻のチケット」入手に関する考察。本文や巻末の「取材旅ノート」で触れられていますがあやふやなまま・・・。今度、このチケットに関するドキュメンタリーでも書いてもらいたいなぁ
ウン、なかなかおもしろいです。北海道チミケップ湖を舞台に事件が起こるのですが、過去の事故のエピソードに絡んで怪しげなワラ人形や幽霊話がありオカルトっぽい雰囲気がどんどん盛り上がりホラー小説のようである。
また吉村氏の作品には変な人物が登場してくる事が多いですが、この「銀河鉄道の惨劇」に登場する「お坊っちゃま」も楽しいですぞ。いやぁ、笑う笑う! この雰囲気と「お坊っちゃま」のおかげて「上」は大変面白い。いったいこれからどうなるんだ、という期待感が盛り上がってきます。が、「下」に入ると期待していた方向とは違う方向へ話しが進んでいきなにか肩すかしをくったような気分・・。
あまり間があいたため吉村氏も当初の構成を忘れてしまったのではと想像したくなってしまいます。「上」巻の不気味な雰囲気がすっかりなくなってしまったのは残念・・。
それと朝比奈耕作シリーズではよくあるパターンなんですが彼はほとんど探偵らしい働きをしていませんねぇ。もっぱら聞き役にまわっております。考えてみればこのシリーズは彼が活躍する場面というのはあまりないですね。自然に事件が解決しているというパターンが多いような気がします。
館に閉じ込められた男女、そして転がる死体。北原白秋の「金魚」に見立てられた殺人。この辺りは本格物の香りがプンプンするのであるが、吉村氏らしい「館もの」に対する皮肉な会話(朝比奈耕作は推理作家という設定なので・・)が交わされはじめたあたりから本格物の香りは何処かへいってしまいました。せっかく楽しめそうな設定だったんですが残念。
私などは、そこまでリアリティを追及しなくても楽しく読めればそれでいいと思いますけどね。まあリアリティを追及することで緊張感をだしたかったのだとは思いますが、それが成功しているとは言い難い。そのまま本格路線で突き進んでほしかった。
それでもこの作品は面白いですね。「朝比奈耕作シリーズ」ではベスト3に入るのではないかと思います。ただし「本格」の「館もの」が好きな人には許せないかもしれません。
そしてラスト。これはずるいぞ(トリックではなくね)。ここまではけっこう文句をいいながら読んでいたのだがラスト付近を読むとホロリとさせられると共に考えさせられてしまった。うまく丸め込まれたような気分である。
読み終えてみるとこの作品、現代の問題をも内包しているような一冊といえるのでは・・
氏のシリーズ物の中でも特にこの「氷室想介シリーズ」は「シンデレラの五重殺/光文社文庫」「金沢W坂の殺人/カッパノベルス」といい奇抜な設定が多いので面白いです。本格好きな方からはそっぽを向かれるかもしれませんが・・
今回は軽井沢と東京で同時刻におきた事件で、もちろん犯人は一人。しかし、この謎は最初に書いた通りかなり苦しい説明ですな。というよりも、いい加減にしろとなるかもしれません。それを許せるかどうかでこの作品の評価が決まるでしょうね。私としては、よくまあ考えたなという感じです。
私がこの作品を決定的に好きなのは「博士」というサイコな人物が登場しているからです。いいですねぇ、この「博士」。もう想像すると楽しくなります。もう事件の謎よりこの「博士」に尽きます。このような人物を生み出した吉村氏に拍手をおくりたい。逆にいえばこの「博士」が登場していなかったら、この作品の評価は全然変っていたかもしれませんね。彼のキャラクターだけで引っぱったようなものかな。
ところでホルストの「惑星」ですか、私も好きです。ただし、私は「木星」だな・・。
蛇足ながら、吉村氏の初期作品は文庫化されるさい、大幅に加筆修正され、中には犯人がノベルス版と違うものもあります。この作品で一例をあげると、運転手のマックス氏は文庫版では見事に作品上から消えてしまいました。
閉ざされた村、そして「バード爺さん」等一風変わった登場人物。日本版「ツイン・ピークス」の世界です。ただし、あまりに意識しすぎていて鼻につく場面もありますが・・。
「ツイン・ピークス」が好きな方なら楽しく読めると思います。けっこう引き込まれますので6冊という長編ですが割合楽に読み進むことができますよ。吉村氏の「狙い」としては「ツイン・ピークス」の雰囲気を盛り込むためにここまでの枚数を必要としたのでしょう。ただ「ツイン・ピークス」を視ていない人がこれを読んだらどうなのだろう・・。おかしなミステリーというだけで終わってしまうのでは、という危惧も確かにあります。
うーん、それにしてもあの人、あっさり殺されてしまうのですねぇ。吉村作品の場合、まず死なないだろう、と思っていた人物が簡単に殺されたりしますから油断ができないです。それに思わず「こんなのあり」と叫びたくなるラスト・・。これだけはやめてほしかった・・・。
この作品では「時の森殺人事件」に登場する捜査側の人物が総出演。ただしこの事件では部署や肩書きの違う人物もおり、単独で読んでも面白いですが「時の森殺人事件」と合わせて読破した方が楽しさ倍増です。なんといっても「時の森」だけでは解らない事実が解るかもしれませんよ。
この作品、タイトルが示す通り「本」が重要なキーになっており、作中作の短編小説が登場するのですがこれが結構不可解(謎をのこす・・)。私など本編よりこちらのほうが面白いなんて思っていたりしたのですがね。うーん、すっきりしない。けっきょくのところどうだったのでしょう。
わりと吉村氏の作品というのはスピード感で読ませていって細かい所はとばしてしまうタイプが多いようです。強引な所も多々ありますし・・。まあ作品として面白ければ私としてはそれでいいのですけれどね。しかし、やはりすっきりしないのはよくないぞ。
タイトルの「読書村(よみかきむら)」は実際にあるとの事で写真が掲載されていました。