『山海経』とは何ぞや?

 『山海経』は、もともとは中国古代の地理書で、当時各地に生息するとされていた動植物や人々、その地に奉られている神々についての記述が主となっています。

 全部で十八巻からなる山海経は、その内容から大きく二つに分けることが出来ます。
 前半五巻は「五蔵山経」、または「山経」と呼び習わされており、洛陽周辺の山々(いわゆる五岳)と、そこに連なる山脈や山岳地帯について記されています。
 後半十三巻は「大荒海内経」または「海経」と呼ばれており、「海外内経」と「大荒経」の二部から構成されています。これらには「中華」の文化圏からは外れている、いわば辺境の国々等について記されています。

 『山海経』が成立した年代は、明確には分かっていません。
 ただし成立した順序には見当がついており、最初に「山経」、次に「海外内経」、最後に「大荒経」が成立したと言われています。

 このように早くから成立していた書物ではありますが、後世になって儒教の「怪力乱神を語らず」の思想が広まった事、そして「山海経は怪の祖」との認識が定着して行ったため、想像上の動物や国々を多く記した『山海経』は、荒唐無稽な物として一段低い物と見なされてきました。

 しかしこれは、裏を返せば『史記』などのように、権力による削除や書き換えが為されなかったという事につながります。すなわち、散逸や誤字脱字はあったとしても、書き記された当時の思想がそのまま今に伝えられているという事です。
 じっさい近年になって、日本人や西欧人、そして「怪力乱神を語らず」の伝統に縛られていない若い世代によって、『山海経』は古代人の精神世界を豊富に保存している、いわば神話のタイムカプセルとして再評価、研究されるようになって来ています。


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