●獣有り、其の状は狐の如くして九尾。其の音は嬰児の如くして能く人を食う。食す者は蠱せられず。【南山経首】
南山の青丘山(せいきゅうざん)にいる獣。九本の尾を持った狐のような姿で、赤ん坊が泣くような声で鳴き、しばしば人を食べるとされています。
この獣を食べると、邪気におそわれなくなるといいます。魔除け、病除けの薬とされていたようです。
郭注では、ここに記述された獣の事を「すなわち九尾狐なり」と注釈しています。
しかし、原典には「狐の如くして」とあるため、九尾の「狐」ではないとしている説もあります。また、山経においては、「獣有り、其の状は…」とした後には必ず「其の名を云々という」との記述があるはずなのに、ここにはそれが見られない事から、何かしらの脱落があったまま現在まで伝えられているとも考えられています。
どちらであっても、この獣は「九尾の狐」そのものではないようです。しかし、九尾の狐に似た姿をわざわざ記載した事を考慮すると、この獣も強い霊力を持った存在であると考えられます。
九尾の狐の伝承は、人を化かしたり誑かしたりする妖怪としての物がポピュラーです。
一方、山海経の大荒東経においては、九尾の狐は天下泰平の時に出現する瑞獣とされており、一般的なイメージとは逆になっています。
どちらの解釈も、元々九尾の狐は強い霊力を持った獣として、人々に畏れられていた事に端を発していると考えられます。