battle1(12月第3週)
 
 
[取り上げた本]
 
1「未明の悪夢」   谺健二          (東京創元社)
2「朱色の研究」   有栖川有栖        (角川書店)
3「薪小屋の秘密」  アントニー・ギルバード  (国書刊行会)
 
 
 
Goo「ということで、よろしくお願いします」
Boo「なんで私が悪口担当なわけ」
Goo「悪口だったら、AYAさん、素でいけるじゃないですか」
Boo「・・・ま、いいけどね。で、記念すべき第1回目のお題は?」
Goo「まず、今年の鮎川賞受賞作である「未明の悪夢」です」
Boo「神戸震災をネタにした本格ミステリね。震災の描写ばっかし凝りまくって、ミステリ部分はエ
  ラく貧相だったわ」
Goo「いきなり辛口ですね。トリックは独創的だし、奇想天外だと思いますが」
Boo「マジ?まるわかりじゃん。大地震が背景という点だけアタマにおいとけば、バカでも想像がつ
  くわよ。大体、あのトリックさあ、いくら小説だからって警察が気付かないわけないわよー。
  建物を見れば一目瞭然・・・」
Goo「すいません、ネタバレしそうなんで、トリックについてはそれくらいで・・・ともかく、震災
  とその後の被災者の生活ぶりの描写は迫力ありましたよね」
Boo「あのさ、私はミステリが読みたいわけ。そうゆうテーマについて書きたいんなら、ノンフィク
  ションなり純文学なりに仕立ててちょうだいよ」
Goo「僕はけっこう感動しちゃいましたけど」
Boo「ミステリ観の相違だわねー。次いこ次!・・・あ、すいませーん!シメサバ追加!あとビール
  も3本ほどお願い」
Goo「・・・次は有栖川有栖の「朱色の研究」です。火村シリーズの長編ですね。パズラー長編とい
  うだけでも、最近では貴重な作品だと思います。出来の方も充分水準には達しているし」
Boo「一体全体、どこの世界の水準よ。少なくとも私の水準には達していないわ」
Goo「えっと・・昨今のミステリ業界の水準には達しているかと」
Boo「エラく貧相なのねー、昨今の日本ミステリ界のモノサシって」
Goo「派手なトリックはないけど、これはそういうタイプじゃないでしょ。たしかに地味だけど、そ
  れはいつものこと。端正にまとまった佳作だと思いますが」
Boo「わかってるわよそんなこと。私が気に入らないのは、その肝心のパズラーとしての密度なのよ
  ね。・・・有栖川作品の読みどころって、ラストの謎解きにおける論理の美しさでしょ。それが
  こうスキだらけじゃねー」
Goo「そりゃあ、あの名作「双頭の悪魔」に比べたらツライかも知れませんが、いうほど悪くはない
  でしょ。名探偵・火村がチラリと心のウチを覗かせるシーンがあったりするのも、ファンには興
  味深いし・・・」
Boo「いるのよねー。登場人物をアイドル視して、キャーキャーいってるバカが。そういうミーハー
  が国産ミステリのクォリティを落としてんのよ」
Goo「まあ、そういうのもミステリの楽しみ方の一つだと思いますが」
Boo「あのね。繰り返すけど、私はミ・ス・テ・リが読みたいわけ!」
Goo「ハイハイ、じゃ次行きましょ。今度は洋モノですよ。アントニイ・ギルバートの「薪小屋の秘
  密」。さすがのAYAさんもこの作家は知らなかったでしょ?」
Boo「残念でしたー、知ってましたー。読むのは初めてだったけど」
Goo「古典的本格中心のこの全集の中では異色の倒叙サスペンス。いわゆる青髭ネタで、美形で頭の
  切れる詐欺師が無垢な中年女を言葉巧みに騙すお話し・・・」
Boo「面白いっちゃ面白いけど陳腐な展開ね、前半は」
Goo「でもその女性が姿を消して、詐欺師が追われ始める半ば過ぎから意外などんでん返しが連続。
  サスペンスもガンガン盛り上がりますよね」
Boo「あのどんでんはねー、アンフェアとはいわないけど・・・」
Goo「なんとも人を喰った仕掛けですよね。読み返すと意外と入念な伏線が張られているし、実は
  この人、かなり手練れの職人作家かな、と」
Boo「それはいえるかも。でもさ、このシリーズは値段が高すぎる!」
Goo「いいんですよ、どうせマニア向けだから」
Boo「ビンボボなマニアもいるのッ!」
店員「へい!シメサバお待ち!おあとよろしーですか?」
Goo「ええ、もうけっこうです。すいません」
Boo「なによー、私クシカツ食べる!2人前お願いね」
店員「へい!」
Goo「・・・あの、僕もう帰っていいですか?」
Boo「お勘定の方だけヨロシクう!」
Goo「・・・人選を間違えた気がします」
Boo「ま、人生なんてそんなモンよ」

#97年12月某日/都内某北の家族にて
 
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