battle10(5月第4週)
 
[取り上げた本]
 
1 「グッドホープ邸の殺人」  ブルース・アレグザンダー                (早川書房)
2 「死はわが隣人」      コリン・デクスター                   (早川書房)
3 「散りしかたみに」     近藤史恵                        (角川書店)
4 「緋色の記憶」       トマス・H・クック                   (文芸春秋)
5 「柚木野山荘の惨劇」    柴田よしき                       (角川書店)
 
 
Boo「こんどまたコンペがあるんだって?」
Goo「そうなんですよ。この時期にパワー割かれるのもシンドイんですが、受けないわけにはいかなくて」
Boo「ま、いいけどさ、もし勝ったら、あたしも一枚噛ませてよ」
Goo「え?そりゃ何ページかお願いすると思いますけど……なんです、勝ったらってのは?勝ちますよ、絶対」
Boo「勝負は時の運じゃん。いい企画が勝つとも限んないし、だいたいあそこは「鶴の一声」で決まるんじゃ
  なかったっけ」
Goo「そうなんですよね。前回なんか最終選考まで残ったのにキャッチの色がキン赤じゃないからって、負け
  たんです。キン赤の方が目立つ!って」
Boo「人生っっつーのは不条理なものよ。とりあえず、もし!勝ったらよろしく〜」
Goo「はいはい、その節はよろしくお願いします。じゃ、はじめましょ。まずはポケミスの新刊から。「グッ
  ドホープ邸の殺人」です」
Boo「ホームズものみたいな雰囲気の歴史ミステリね。主人公の名探偵は実在した人なんですって?」
Goo「ええ、ぼくも知りませんでしたが、このサー・ジョンって人はまだ警察組織が無かった18世紀のロンド
  ンで、はじめて警察を創設した人なんですって。通称「盲目の判事」。盲目でありながら盗賊数百人の声
  を聞き分けたという伝説が残っているそうで。ま、日本でいうところの大岡越前みたいな存在でしょう」
Boo「お話は、貴族の邸宅で起こった密室殺人事件に、この「盲目の判事」が挑むというものね。密室といっ
  てもトリックはごく他愛ないものだし、本格ミステリを期待すると裏切られるわよ。特にあのインチキ密
  室!今どきこんな手を使う作家がいるとは思わなかったわ〜」
Goo「そりゃ期待する方が間違ってると思うなあ。ぼくは最初からそういう要素はあまり期待してませんでした
  から、楽しめましたよ。リアルに再現された18世紀ロンドンの風俗描写や、名探偵サー・ジョンの胸のす
  くような活躍ぶり!……いい感じです」
Boo「TVシリーズでも作ったらさぞかし楽しかろうって感じだわね。名探偵の助手を務める語り手が、孤児の
  少年ってこともあってか、わたしはディケンズを連想したわ」
Goo「ですね。そのディケンズやドイル、あるいはカーの歴史ものなどの雰囲気が好きな方にはお勧めです」
Boo「ただし、くれぐれも謎解きには期待しないこと!ありゃあんた、少年推理ドラマレベルだわ〜」
Goo「じゃあ、次いきましょう。現代英国本格派を代表するシリーズ、モースものの新作長編「死はわが隣人」
  です」
Boo「モースもこれで十二作目。作者がこれで「モースもの」は打ち切りと宣言したことや、これまで謎に包ま
  れていたモースのファーストネームが明らかにされたということで、大きな話題を呼んだ作品らしいわね。
  ま、打ち切り宣言は撤回したらしいけど。これもひょっとして話題作りの作戦だったかも。そう邪推したく
  なるくらい、今回は低調ね」
Goo「まあまあ。とりあえず粗筋いきます。オクスフォード大学の学寮長選挙を間近に控え、様々な思惑が渦巻
  くなか、1人の女性が射殺される。だが、彼女に敵はなく動機らしきものはどこにも見当たらない。地道な
  捜査を続けたモース主任警部はついに学寮長選挙と殺人の接点を見いだすが……」
Boo「核になっている謎はいつものそれに比べ単純で、定番のお楽しみであるモース警部の推理の試行錯誤もご
  く控えめ。ロジックの迷走ぶりは影を潜めちゃった感じよね。モースファンとしては、やっぱ圧倒的に物足
  りない〜」
Goo「うーん……まあ、謎解きのみに着目するとたしかにシンプルですよね。でも、シリーズを初めて読む人に
  とっては逆にこれくらいシンプルな方が読みやすいかもしれませんよ。なんせ、あの論理の迷宮ぶりはハン
  パじゃないですから」
Boo「上手い!キミってヒトは、いいわけさせたら日本一ね〜。ところでさ、頑固でわがまま!なモース警部も
  さすがにお歳という感じよね。なんせ糖尿病が悪化し、緊急入院までしちゃうんだから」
Goo「性格も少しだけ丸くなったような気がしますね。そういえば、ラストでは相棒ルイスとのちょっとほろり
  とさせるようなやりとりもあるし、今回ばかりはモース警部のキャラクターで読ませるお話だったのかも。
  シリーズにずっとつきあってきたファンには、感慨深い一編なんじゃないでしょうか」
Boo「アホ抜かしなさい!モースもののファンてのはね、ゴリゴリのロジックマニアなの!こんな薄味の謎解き
  に満足するわけないでしょーが」
Goo「いちおうぼくもファンなんですが……けっこう満足しちゃったんですけど」
Boo「本格ミステリが、キャラクターや「人生」を描くことに力を入れ始めたら、もうそのシリーズは燃え尽き
  てるの!」
Goo「その熾火のようなほのかな輝きに、得もいわれぬ味わいがあるんですよ」
Boo「えーい、ジジ臭い!」
Goo「ともあれ、モース主任警部は英国ではホームズ以上の人気を持つ名探偵ですからね、シリーズは当分、続
  くんじゃないですか?TVシリーズもNHKが放映権を取得したそうだから、そのうちに日本でも放映される
  でしょう。楽しみ楽しみ!」
Boo「……にしたって、作者も歳だし、打ちきるべきシリーズだったと思うけどね。ま、いいや、次!」
Goo「次は国産もの、行きましょう。ちょっと古いんですが「散りしかたみに」。近藤史恵の新作長編です」
Boo「創元社系の作家の中ではもっとも力のある人の1人だと思ってたけど、今回はあまり感心しないわね。お
  話は歌舞伎の世界を舞台にしたサスペンスなんだけど、本格ミステリとしてうんぬんする以前に、作者自身
  が歌舞伎の魅力におぼれてしまっている気配があって……当然のことだけど、作家自身が題材に淫してしまっ
  たのでは、よい小説なんか書けるわけないのよね」
Goo「そうですか?まあ、たしかに本格ではないけども、ちょびっと「耽美」入ってるし、好きな人は好きなん
  じゃないかなー」
Boo「どこが耽美よ。あーんなあっさり味の耽美があるもんですか!」
Goo「あれでも薄味なんですかー?ayaさんのいう耽美っていったい……ともかく粗筋です。歌舞伎座の舞台の同
  じ場面で毎回かならずひと片の花びらが散る、という怪異をきっかけに、人気役者の顔斬り事件や彼の悲し
  い恋が複雑にからみあって悲劇を呼び、忌まわしい過去が姿を現す、と……」
Boo「ありがちなお話だわねー。まあ、作者はそこに叙述トリックを仕掛け、結末のどんでん返しで悲劇性を演出
  しているんだけど、どうもうまく決まってないのよね。ミステリの要素と歌舞伎の要素とが、互いに殺し合っ
  ているっつーか」
Goo「たしかに、全体として少々食い足りない印象が残っているのは、否定しませんけどね」
Boo「悲しい恋の物語なのに、あんなにさらさらすいすい読み終えちゃえるってのは、どーも納得が行かん」
Goo「もっとこうドロドロのデロデロにズッシリやってほしかったと?」
Boo「よくわからんけど、ま、そーゆーことよ」
Goo「じゃ、ずっしりの極め付け行きましょう。「緋色の記憶」、トマス・H・クックの長編サスペンスです」
Boo「ちょっとぉ、コレ本格ミステリ時評じゃなかったの〜?」
Goo「ま、その辺りは柔軟な姿勢で対処していきたい!と」
Boo「ちょーしのイイやっちゃな〜」
Goo「え〜粗筋です。ニューイングランドの閉鎖的な田舎町の学校に、若く美しい女教師がやって来る。旅行作
  家の父とともに長年自由な旅暮らしを続けてきた彼女の出現は、封建意識に凝り固まった街の人々の暮らし
  に大きな波紋を投げかける。そして、不倫、逃亡、殺人……訪れる破局の時。物語は少年の日に彼女の教え
  子だった、老人の回想という形で語られます」
Boo「これは語り口が抜群ね。じつは事件そのものはごくごくシンプルなものなんだけど、語り手の断片的な回
  想で断続的に語られていくため、なっかなかその全貌が見えてこないのよ。抑制が利きすぎるほど利いた語
  り口が、ニクイほど効果的」
Goo「そうそう。遠い過去に起こった事件で、表面的にはすべて決着がついちゃっているのに、最後の最後まで
  その全貌は伏せられたままなんですよね。悲劇の予感だけがひしひしと高まっていくって感じで……重いお
  話なのに、読み出すとやめられない。隅々まで作者の計算が行き届き、それでいて読者にその計算を意識さ
  せない巧さですね」
Boo「しかし、これミステリアスではあるけど、純粋なミステリと呼ぶのはいささか躊躇しちゃうわねー」
Goo「うーん。抑制された緻密な文章といい、むしろ純文学とでもいいたくなるような文学性がありますよね。
  でも、そのサスペンスは間違いなく一級品でしょう」
Boo「そうねー。本格じゃないし、ちと点が甘くなっちゃうかもしれないけど、これは私もお勧め!」
Goo「うひー、明日は雪だあ!」
Boo「じょーだんじゃないわよ。私だって褒めるときは褒めるわ。当然だけどね」
Goo「じゃ、その調子でつぎ行きましょ。ハードボイルド警察小説の柴田よしきが、本格ミステリに挑戦!した
  「柚木野山荘の惨劇」です」
Boo「この人もいろいろ書くわよね。たしか妖怪もの伝奇アクションも書いてた……けど、他ジャンルに挑戦し
  た作品はどれもこれもロクでもない。もちろんコレも含めてね」
Goo「あらま、そうですか。妖怪もの伝奇アクションって「炎都」「禍都」のシリーズですよね。結構評価高い
  みたいだけど」
Boo「ファンタジィ読んだことない人の発言としか思えないわね。借り物だらけの設定に安っぽいストーリィ。
  コミックの方がなんぼかマシって感じだわ」
Goo「ま、ぼくもあの2作にはちょっと異論ありですけどね。ともあれ「柚木野山荘の惨劇」ですが?」
Boo「はっきりいって、作者のセンスのなさばかりが浮き彫りになったってカンジの作品だったわ」
Goo「でも、タイトルからしてすごいじゃないすか。なんたって「ゆきの山荘」、つまり「吹雪の山荘」ものっ
  てコトですよね。おまけに内容的にも思いきりコード型の本格でしょ?土砂崩れで孤立した山荘に集まった
  作家と編集者。そこで次々と人が死ぬ……という。たいそうな自信だな〜って思いましたけど」
Boo「っていうか、作者としてはパロディのつもりだったんじゃないの?そうとでも思わなけりゃ、あのメイン・
  トリックはツラすぎる。せいぜいが短編用って感じの小ぶりなネタだったと思うわ」
Goo「確かにまっとーな本格ミステリ長編のネタとしては?ですが……それでも「殺人」の真相はかなり意外だっ
  たじゃないですか」
Boo「私的には、「それ」も含めて短編ネタだったと思うわけよ」
Goo「そうですねえ、ネタそのものは悪くない気がするのですが、やはり小粒といえば小粒か。ところで、この
  作品ってじつは物語の語り手がネコで。ユーモアミステリの線を狙っているのかな?けっこうギャグという
  か、ユーモア狙いの語り口ですよね」
Boo「あの柴田よしきが、ユーモア狙い……という時点で、あたしゃ悪い予感がしたんだ」
Goo「あ、やっぱし。たしかにギャグセンスはあまりないみたいですね。この人」
Boo「とゆーか、皆無!でしょ〜。出すギャグが片っ端から滑る滑る、滑りまくり!ちっとも笑えなくて寒いった
  らありゃしない。だもんで、本格ミステリとしてのネタの弱さが、いっそうクローズアップされちゃったっ
  て感じだわ」
Goo「まあ、向いてないというか、慣れないことはするもんじゃないということでしょうか」
Boo「編集者にノセられて書いたのか、作風の幅を広げたくて書いたのか。……わからないけど、これに懲りて二
  度と手を出さないのが身のためね」
Goo「うーん。まあねえ、ただ、ギャグはともかく、トリックのセンスなんかは悪くない気がするんで、ぼくは短
  編あたりでもう一度挑戦してみたらいいかな、と思います」
Boo「ということで、じゃあ次回はサントリーミステリー大賞かしらね?」
Goo「そうですね、それを中心に。間に合えば「YAKATA」のレビューもここでやりたいんですが?」
Boo「ゲームまでやんの〜?」
Goo「だって「YAKATA」は特別じゃないですか。綾辻さんの小説の方の新作は、まだ当分先のようだし」
Boo「だあって、あれってRPGでしょ〜?あたしゃ苦手なんだよ〜。綾辻さんのシナリオは読みたいけどさ」
Goo「どっちにしたってやるつもりだったんでしょ?」
Boo「そりゃそうだけどさあ……ジマンじゃないけど、あたしゃRPGってクリアしたことない!のよね」
Goo「マジすか〜?ううう、どうしましょう?」
Boo「ま、やってみてのお楽しみだわな〜はッはッはッ!」
Goo「ははは……」
 
#98年5月某日/某アイホップにて
 
HOME PAGETOP MAIL BOARD