battle11(6月第2週)
 
[取り上げた本]
 
1 「心室細動」        結城五郎                        (文芸春秋)
2 「ゲノム・ハザード」    司城志朗                        (文芸春秋)
3 「矩形の密室」       矢口敦子                        (徳間書店)
4 「デカルトの鏡」      金塚貞文                        (河出書房新社)
5 「名探偵の饗宴」      山口雅也ほか                      (朝日新聞社)
6 「時計を忘れて森へ行こう」 光原百合                        (東京創元社)
7 「冬の裁き」        スチュアート・カミンスキー               (扶桑社)
 
 
Boo「7月号の「本の雑誌」読んだ?」
Goo「読みましたよ。結婚特集のやつでしょ」
Boo「特集はどうでもいいんだけどさ、書評で大森望さんが新本格の現状について面白いこと書いてたねー」
Goo「ああ、笠井潔さんの評論(「ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?」ミステリマガジン連載中)への反
  論ってやつですね」
Boo「そうそう。笠井さんの評論の「『部分的に本格(のような)作品』が本格ミステリが窒息させるのでは
  ないか」という文章に対して、大森さんは「国産本格ミステリを『マニアックな読者に支えられた難解な
  ジャンル』にしないためには、むしろ『本格(のような)小説』を積極的に肯定していくおおらかさが必
  要」なあんて書いていた」
Goo「現在の新本格ミステリ界について、中核となるべきコアな本格ミステリが空洞化し、その周辺の「本格
  のようなミステリ」ばかりが繁栄している……という現状認識は共通してるみたいですけどね。ただ、笠
  井さんがその状況を危ぶんでいるのに対して、大森さんは楽しんでる。いわく「『カンブリア紀の爆発』
  と見なし、その驚くべき多様性を積極的に楽しんでいる」と……これはこれで一理ある意見ですよね。多
  様性にとんだ「本格」が生まれるのは、それ自体けっして悪いことじゃない。「本格」のコア部分が貧相
  になっているのはたしかに困ったことですが」
Boo「問題は本格周辺領域の隆盛が本格のコア部分の空洞化に影響してるかどうかだけど……関係はあると思
  う。はっきりいって本格の周辺領域ってのはさ、作家にとって書きやすいフィールドなのよ。本格の雰囲
  気だけ借りて、後は「自分の世界」で話を作ればいいんだもの。作家にとっちゃこんな楽なことはない。
  しかもそれできっちり売れてしまうんだから、誰も苦労してコアな本格なんて書こうとは思わないわよね。
  特に志ってもんがなければ、人間易きに流れるのが当たり前。本格ミステリに「愛」をもたない作家、こ
  だわりの無い作家は、どんどんそっちへ流れてっちゃうわけ」
Goo「なるほど、笠井説の「窒息」というより本格コア部分の空洞化・希薄化って感じですね。しかし、どう
  なんでしょう……本格周辺領域の作家の全てが単純に易きに流れているとは言いきれないのでは?彼らな
  りに、本格の新しい可能性に挑戦している人も多いんじゃないでしょうか」
Boo「それが安直だというのよ!もしどうしてもその新しい可能性とやらに挑戦したいなら、まずは一本。き
  ちんとしたコア本格を書くべきだと思う。そしてそこを出発点にして世界を広げていくのが物事のスジっ
  てもんだわ。マトモな本格さえ書けない作家が、本格の新たな地平を切り開くなんぞ、ヘソが茶沸かすっ
  てなもんね」
Goo「なるほど、ayaさんはつまり、その作家の安直さが許せないってわけですね」
Boo「そういうこと。そうやって、各作家がきちんとコアからはじめてくれれば、中心の空洞化なんていう情け
  ない現象は起こりえなかったと思うしね。まあ、その作家や出版社の思惑にホイホイ乗っかって本を買い、
  彼らをいい気にさせちゃう読者側にも問題アリだけど」
Goo「しかしそうなると、本格というものが、大森さんが言うところの「マニアックな読者に支えられた難解な
  ジャンル」ってのになるわけで、作家にとっても読者にとってもなかなか入りずらい世界になるのでは」
Boo「あのさ。私ゃよくわからんのだけど、コア本格のどこが「難解なジャンル」なのかしらね。あんた、本格
  モノ読んでそんな感想持ったことがある?」
Goo「いわれてみれば……笠井さんのカケルシリーズくらいかな」
Boo「ありゃーキミ、本格としての要素以外の部分が難しいのよ。……つまりさあ、ストレートなコア本格が難
  解だなんて思う人は、ようするに本格が好きじゃないってだけなんじゃないの?悪いけど、そんな人に気
  安く難解だ・マニアックだなんて、いってほしくないわね」
Goo「なるほど〜。ということは、現在の周辺領域の華やかさって「カンブリア紀の大爆発」なんぞではなくて、
  香港裏町の屋台市の賑わいみたいなもんですかね?インチキ商品やイミテーションだらけ、という」
Boo「ま、そんなとこ。ともかくね、コア本格を読むのがマニアだってーなら、わたしゃマニアでけっこう!無
  理にパンピーにまで読んでいただかなくていい!っていいたいわね。ま、いいからとっとと始めましょ」
Goo「そうですね、今回は数も多いし。んじゃ、まずサントリーミステリー大賞の2冊からいきましょう」
Boo「この賞もねー、最近はてんで冴えないわね。始まったころはホントすごい才能がバカバカ出てきたのに。
  今回もまたヒドイもんだわ。特に大賞の「心室細動」!ありゃーなんなんだか」
Goo「だいたいこの賞は大賞より読者賞の方が面白いっつー定評がありますからね。ま一応粗筋なぞ。主人公は
  医師。教授の座を目前にした彼の元に、20年前に彼と当時の勤務先の院長が引き起こした医療過誤事件を
  脅迫する手紙が届く。隠蔽され時効も過ぎたはずなのに、なぜ今になって脅迫が始まったのか?脅迫者は何
  者なのか?密かに調査を進める主人公だったが、関係者は次々と謎の死を遂げていく……」
Boo「いかにも、なメディカルサスペンスだけど、謎の底はえらく浅いわね。事件の奥に隠された「恐るべき秘
  密」とやらも、いまさら驚くほどのものではなかったし、脅迫者の正体や、「謎の死」の真相とやらも陳腐
  きわまりない。今どきこんな「真相」に驚くナチュラルな読み手がいるのかしら?」
Goo「作者は現役のお医者様で、しかもすでに別の文学賞を受賞したキャリアをおもちのようですね。やはり、
  医師としての知識を活かした殺人トリックなんかが読みどころかな」
Boo「どうも、その医師としての感覚/価値観が、逆に足を引っ張ってるような気がしたわね。作者は医療過誤
  事件の裏に隠されたある「行為」の恐ろしさをしきりに訴えるんだけど、「真相」はわりとすぐに見当がつ
  くし、そうでなくともなんてことないもんなのよ」
Goo「きっと作者さんはすごく良心的なお医者なんでしょうね。だからこの「行為」は彼にとっては神をも怖れ
  ぬ悪魔の所業と思えたんですよ。そのへん、スレた読み手との感覚のズレがあったかも。まあ、医療現場、
  病院経営の裏話暴露的な部分は面白かったですよ。ドラマ化されるそうですけど、この辺をきっちり描けれ
  ばけっこう楽しめるドラマになるかも」
Boo「私は見ないけどね!」
Goo「……じゃ読者賞の「ゲノム・ハザード」に行きましょう。これは「巻き込まれ」「記憶喪失」型サスペン
  スの変形ですかね。……深夜、自宅に帰ると妻が殺されている。そこへ電話がかかってきて妻の声が聞こ
  える。怪しいやつに追われて命を狙われ、町をさまよったあげく家へ帰ると今度は別人が暮らしている。
  しかも読めなかった英語が読めたり無縁だったはずの知識が身に付いてたり……ともかくこんな調子で絶
  対にあり得ない現象が連続し、読者は文字通り暗闇の中を鼻面取って引きずり回されちゃう。ことに異常
  現象がつるべ打ちされる前半は、ありきたりな設定ながらドキドキもんの面白さですよね」
Boo「これも最近流行りの、最新の脳化学や医学の知識を応用したメディカルネタね」
Goo「そういった専門知識部分にはそれほど深くは踏み込まず、ツルツルとテンポ良く読ませてくれるのは、
  作者が作家歴のある人だからでしょうね。核になってるアイディアもユニークだし、さすがド新人とは
  違うって感じです」
Boo「う〜ん、そうねえ。でもこのネタ、料理の仕方次第でもっともっと面白くなったんじゃないかなあ。
  たとえばラスト近く、記憶を少しずつ失っていく主人公が、妻の顔と名前を必死で胸に刻み込もうとす
  るところとか……じっくり書き込めばあの「アルジャーノン」ばりの痛みや怖さなんてものまで描けた
  ような気がするのよね。ところが作者は小手先の「巧さ」だけで、ひたすらテンポよく読ませることば
  かりに熱心で。なんか妙に平板で退屈な印象が残っちゃったわ」
Goo「ともかく、ぼくはエンタテイメントとして合格点をあげたいな」
Boo「ま、いいけどね。たださ〜、キャラクターはあんまりじゃない?拳銃を撃ちまくる女性ライターに、
  ハードボイルドなセリフで決めるイラストレーター。そんなヤツいないって!」
Goo「それをやりかねない女性ライター、ぼく知ってますけど」
Boo「私?実弾射撃ならグァムでやったけどね。チャカ譲ってくれる知り合いなんていない、わけでもない
  かな〜」
Goo「……怖い話になってきたんで次、行きます。次は矢口敦子の新作長篇「矩形の密室」。鮎川賞の候補作
  「家族の行方」でデビューしたんだったかな、この人は。いや、それ以前にもいろんなジャンルの作品を
  書いてたらしいけど、僕自身は「家族」しか読んでませんね」
Boo「この人は、どっちかっていうと純文学畑の作家ってイメージね。今回は、まあ趣向としてはモロ本格ミ
  ステリなんだけど……」
Goo「美貌の双子姉弟の弟が、パソコンネット上で開催された新人文学賞に応募。だがその作品の中に「殺人
  予告」を示唆する文章があるとする脅迫者が出現し、その事件をきっかけに姉弟の元にそれぞれ異なる思
  惑を抱いた人々が集まり、不可思議な「事件」が発生する。どうもうまく粗筋が説明できませんね」
Boo「ともかく、何から何までふわふわしたつかみ所の無い話なのよね。確かなのはきちんとした謎解きを期
  待すると裏切られるってことくらい。タイトルには「密室」とあるけど、読者が期待するような意味での
  「それ」ではないし」
Goo「カバーによれば「刺激的なメタミステリー」だそうですから、一筋縄では行かないのかも」
Boo「あのねー、このどこが「刺激的」な「メタミステリ」なのよ!こんな安直な仕掛けでメタミステリにした
  つもりでいるなら、作者には「おあいにくさま!」というしかないわ」
Goo「う〜ん。ぼくはアンファン・テリブルをテーマに、ちょっぴり耽美を効かせたフレンチ風どんでん返しミ
  ステリって感じで読みましたが」
Boo「笑っちゃうわね〜。あれが?フレンチ?作者の意図はともかく、技術の方がそれを拒否してるわね。った
  くなにしろ何から何まで下手くそなんだもん!ことに主要登場人物がどいつこいつもやたらエキセントリッ
  クで、そのくせやたら薄っぺらなのには、つくづくウンザリ。せいぜいが、座りの悪い殺人童話というとこ
  ろかしらね」
Goo「はいはい、まあこれについてはこれくらいで。次、「デカルトの鏡」ですが、これは文字通り「境界領域」
  の作品なんで取り上げるか迷ったんですが」
Boo「まあ、いいんじゃない?本格ではもちろんないけど、ミステリマインドはたっぷりある作品だし。作者は?
  学者さん?」
Goo「みたいですね。17世紀末のパリを舞台にした歴史ミステリ長篇。というかミステリ風の味付けをした歴史
  小説というところでしょうか」
Boo「17世紀のヨーロッパといわれても、たぶん読者はなんのイメージもわかないでしょうけど、この頃のフラ
  ンスはまだ革命前。絶対王制の絶頂期にあたる時代ね。物語の背景になっているのは、このフランスと当時
  世界有数の貿易港だったヴェネチアの間で勃発した「フランス・ヴェネチア鏡戦争」という事件で、これが
  もーめっちゃ面白いのよね!」
Goo「えっと……絶対王制の繁栄のもと、贅沢大好き!なパリ市民が何より珍重していたアイテムが鏡だったと。
  でも、フランスにはそれを作る技術力がないので、この分野の先進国ヴェネチアから優秀な職人を引き抜き、
  自国内で生産を開始しようとするんですよね。ところが、ヴェネチア側も職人達を拘束し、厳戒体制を敷く。
  かくてここに、鏡製造技術を巡り干戈を交えぬ隠微な、しかし壮絶な「戦争」が勃発した!と。ほんと、こん
  なことがあったのか〜って感じですねえ。全く予備知識ない時代の話なんだけどクイクイ読まされちゃいま
  したよね」
Boo「物語はこの鏡戦争の行方を追いながら、パリの鏡製造工場で発生したヴェネチアの鏡職人の謎の死を巡る謎
  解きに、フランス側・ヴェネチア側の陰謀合戦を絡ませつつスピーディに展開していくのよね。まあ、職人の
  謎の死を巡る謎解きは本格ミステリ的に読むにはいささか無理があるし、トリックもご愛嬌程度のものだけど
  ね」
Goo「でも、ともかく波乱万丈で一瞬も飽きることなく読みきっちゃえますよ〜。ヴェネツィア大使とパリの警視
  総監の火花を散らす推理合戦なんて趣向も楽しいし、知的好奇心を存分に刺激してくれる、歴史ミステリの好
  著!です」
Boo「そうね、私もおおむね同感なんだけど、タイトルの「デカルト」の「自動人形伝説」を巡るエピソードは、
  それそのもの面白さは別として、物語とうまく絡み合っていないようでいまひとつ物足りなかったな。タイト
  ルにもってくるならもうひと工夫ほしかったって感じ」
Goo「ま〜ったく素直じゃないんだから!ま、いいや、次です。新本格派の作家が勢ぞろいしたアンソロジー、
  「名探偵の饗宴」です。参加した作家は、山口雅也、摩耶雄嵩、篠田真由美、二階堂黎人、法月綸太郎、若
  竹七海、今邑彩、松尾由美の8人」
Boo「大事な名前がいくつか抜けている気も、しないではないわね〜」
Goo「まあまあ。まずは豪華な顔ぶれといっても差し支えないんじゃないですか?」
Boo「でも肝心の出来の方はとなると、揃いもそろってウ〜ムね。特に男性陣。キッド・ピストルズも(山口氏に
  しては)驚くほど陳腐なトリックを持ちだしてくるし、きっちりした謎解きものに挑戦したメルカトル鮎もな
  んだか精彩がない。例によって幼稚なトリックを仰々しく解いて見せる二階堂蘭子は、まー仕方ないけど。…
  …法月綸太郎に至ってはまともに小説に仕立てることすら投げてしまってるように見えるわ。きっと、これを
  アヴァンギャルドとかいって、持ち上げる向きがいることを作者は期待しているんでしょーねッ」
Goo「そのせいか、女性陣の頑張りの方が目に付きましたね。とにもかくにも「短編ミステリ」として楽しませてく
  れた今邑、松尾あたり。ともかくきっちり枚数分楽しませてやろうという「プロ意識」が感じられました」
Boo「まあ、いずれも謎解きミステリとして読むと物足りないんだけど、他があんまりだからね。ともかく「新本格
  派」というくくりでいえば傍流扱いの2人だけど、作家としての「技術」と「プロ根性」は他の連中をしのいで
  いるといえそうよ」
Goo「ぼくも、特に今邑さんは、目立たないけどコンスタントに佳作を書いてる実力派だと思います」
Boo「で、そのイキオイでまた女流?」
Goo「はいはい。「時計を忘れて森へ行こう」、光原百合さんの短編連作ですね。この創元社の叢書は「クイーンの
  13」とかいうシリーズなんだけど、これってエラリー・クイーンの「クイーン」ではなく「女流」のクイーン
  らしいですね」
Boo「どうでもいいじゃん、んなこと。内容は……いーかげん食傷気味なのにまだ出すか!「北村学派」ね。いわゆ
  る「日常の謎」を推理する連作短編というやつ」
Goo「えっと、お話は八ケ岳山麓の観光牧場……ではなく、自然保護運動の普及をめざすカルチャー施設みたいな共
  同体を舞台に、女子高生の一人がたりで進みます。都会の喧騒に疲れた人たちが八ケ岳の美しい自然に触れて人
  間性を回復していく。昨今流行りの「癒し」がテーマ。ですんで、事件といってもちょっとした行き違いや誤解
  といった程度のもので、それを自然開設指導員(レンジャー)の青年が解きほぐしていくという」
Boo「はっきりいってミステリというほどの内容じゃないわよ。主人公の語り口は、北村さんの「わたし」シリーズ
  に強い影響を受けているけど、「幼稚」に模倣するくらいだったらしない方がマシってのをつくづく痛感したわ。
  強いて読みどころといえば……緑深い森、みずみずしい草花、月と星、雪、青空、ノウサギ、搾りたての牛乳、手
  作りのジャム、そして心優しい青年……よーするにある種の少女が好むアイテムがぎっしり詰め込まれてるって点
  かしら」
Goo「それってたとえば、非常に古くさいタイプ……陸奥A子とかあのあたり……の少女マンガを彷彿させますね〜」
Boo「うげ!キミってば、陸奥A子なんて読んでたわけ〜?」
Goo「はあ、読んでましたよ。いけませんか?」
Boo「いや、まあ、悪かないけどね。しっかし、キミってほんとに見境ないわね〜」
Goo「ジャンルに貴賎なし!ってのがぼくのモットーですから。なあんだって読むし、なあんだって聞くし、なあん
  だって見ますよ。ぼくは」
Boo「ま、いいか。ともかく!この作品に登場する謎や謎解きってのも、そうしたマンガに出てくるエピソードの域
  をでないものであることは確かね」
Goo「いんじゃないですか?このお話に出てくる施設にはモデルがあるそうで、ぼくはちょっとだけそこに行ってみた
  いなという気分になりましたよ」
Boo「勝手に行けってーの。ま、これで6冊か。今回はオール国産ものだったわね」
Goo「じゃ、ついでに海外ものでもう一冊いきましょうよ。「冬の裁き」老警官エイブ・リーバーマンものの新作で
  すが、読みました?」
Boo「あーアレね。ま、読むには読んだけど、警察小説はちょっとね」
Goo「でも、ほら、組織だった捜査活動が描かれるわけでもないし、いわゆるモジュラータイプの警察小説とはちょっ
  と違うじゃないすか」
Boo「そうねー。ま、中心になる事件は2つだけね。若い夫婦が襲われ、夫は殺され妊娠中の妻も重傷を負うっていう
  強盗事件と、リーバーマンの相棒を狙う偏執狂との闘いの2つ。どっちも平凡といえば平凡な事件」
Goo「作者は被害者、犯人、捜査側にほぼ等分に筆を割きながら、彼らの「どうしようもない」人生をじっくり描い
  ていくって感じで、けっこうしみじみしちゃいますよね」
Boo「う〜ん。あーゆーシミジミ路線はあんたに任せるわ。だってここには謎なんてなんいもないんだもん」
Goo「作者が描きたかったのは、「平凡な人間が悪を為す」こと。あるいは「為さざるを得ないこの世界」じゃないか、
  と。実はこれ、事件の発端から解決まで1日しかたってないんですよね。ありきたりの一日。でも、その一日で人
  はなんと重たい現実に直面し、辛い選択を選ばねばならないのか……」
Boo「まー重い物語ではあるけど、作者はテンポよくくいくい読ませてくれるんで、私にも読み切れたわね。傑作って
  ほどじゃないけど」
Goo「どうも意見が合いませんね〜。このしみじみした渋さがわかんないかな〜」
Boo「なにをいまさら!」
 
 
#98年6月某日/某デニーズにて
 
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