battle12(6月第4週)
 
[取り上げた本]
 
1 「クライシスF」      井谷昌喜                       (光文社)
2 「ハーメルンに哭く笛」   藤木稟                        (徳間書店)
3 「ブラック・メール」    建倉圭介                       (角川書店)
4 「ウィルス・ゾーン」    アンドリュー・ゴリチェク               (早川書房)
5 「直線の死角」       山田宗樹                       (角川書店)
6 「密告」          真保裕一                       (講談社)
 
 
Goo「ayaさん、YAKATAはどれくらい進んでますか?」
Boo「キミってば、まだシツコくやってたわけ?私はもーとっくにお終いにしたわよ」
Goo「え?クリアしたんですかあ!」
Boo「じゃなくてー、リタイア。水車館終わったあたりで、もういいやって放り出した。だってつまんないん
  だもーん」
Goo「そりゃまあ、そうかもしれないけど」
Boo「私が綾辻さんに期待してたのは、そんなことじゃないわけよ。きちんとした本格ミステリとしての謎解
  き……とまではいかないにせよ、少なくとも推理する愉しさ、謎解きのスリルを味合わせてほしかったわ
  け」
Goo「でしょ?グラフィックの描き込みだって凄いし。ミステリの楽屋落ちネタもいっぱいあって愉しいじゃ
  ないですか」
Boo「でもさ、それって別に誰にだって作れるじゃん。わざわざ綾辻さんが出張ってこなくたって、スタッフ
  のなかにミステリマニアが1人いれば作れる。早い話、版権うんぬんの問題を別にすれば、あの程度の楽
  屋オチなら私にだって作れるわよ!そ、たぶんキミにもね」
Goo「易しすぎましたかね、やっぱ」
Boo「易しい難しいを云々するレベルじゃないでしょ、あのゲームに出てくる謎は」
Goo「まあ、どれもこれも手がかりはミエミエだし、カギは歩き回ってりゃ手に入るって感じではありますね」
Boo「もともとの謎は小学生のなぞなぞレベル。そこへ「これでもか」っつーくらい手がかりをくれまくる。
  そんなもん解かせていただいたって何が愉しい!バカバカしいったらありゃしないわ。結局のところ、こ
  の謎解きもバトルも、単なる「手間」でしかないわけよね……で、あたしゃそこまでヒマじゃないのよ、
  悪いけど!」
Goo「う〜ん、まあね。でもま、ぼくはもう少し頑張ってみますよ」
Boo「私も、あの冒頭の青屋敷の密室殺人は気にならないでもないんだ。あれだけはきちんと本格ミステリして
  くれるんだろうしね」
Goo「あ、あれですか。う〜ん、謎解きね……」
Boo「なによ、なんか知ってるわけ?知ってんだったらとっとと教えなさい!」
Goo「……ぼくはいま時計館にいるんですが、ここで、あの謎には一応の解答が出されるんですよ。まあ、この
  先、たとえばラストでそれがどんでん返しされるって可能性もないではないのですが、ともかくいちおう
  謎は解かれます」
Boo「で!?」
Goo「えっと、だからあとは実際プレイしていただいた方がよろしいかと……」
Boo「いいから吐け!」
Goo「でも……」
Boo「早く!」
Goo「ったく、知りませんからね!……つまり犯人は○○○○の○○○で、○○○○が○○○。だから○○○
  が○○○」
Boo「○○○○〜!?なめんなコラ!(以下3行削除)」
Goo「だから言ったじゃないですかぁ。でも、ほら、あっと驚くどんでん返しであることは確かでしょ」
Boo「……もういいよ〜。はやく始めよう」
Goo「……GooBooやるには最悪の雰囲気ですが、まあ仕方ないか。1冊目は「クライシスF」。第1回日
  本ミステリー文学大賞新人賞受賞作だそうです。これは新しいミステリ文学賞ですね。肝入りしてるのは光
  文社で、カッパノベルスでミステリファンにはお馴染の出版社です」
Boo「作者は読売新聞の広報部の次長?現在は現場は離れてるようだけど、記者経験もあるみたいね。残念なが
  らその経験が悪い方向に働いたようだけど」
Goo「粗筋いきます。え〜、妻と離婚して仕事の意欲を失い鬱屈していた敏腕記者が、ふとしたきっかけから各
  地に発生した事故の関係者の証言の奇妙な共通点に気がつく、と。それは、引き算ができなくなり強烈な眠
  気を感じるという奇妙な症状だった。この謎を追ううち、彼は全世界を巻き込む巨大な陰謀の存在を察知す
  る」
Boo「社会派ミステリ的要素にメディカルサスペンス要素、ついでにアクションや恋愛要素もぶちこんで……フォ
  ーサイスばりのスケールの大きなポリティカル・サスペンスをめざしたつもりなんでしょうね。作者としては」
Goo「面白いネタですよね。世界的に多発する奇病、というか奇妙な症状の原因をこういうリアルな社会的問題に
  求めるってのは、ジャーナリストらしいなって感じです」
Boo「そのアイディアはともかく、この作者は思いついたこと全て、なんでもかんでも盛り込もうとするもんだか
  ら、要素が多すぎて逆に物語そのものがえらく痩せてしまった印象ね。しかもすべてが通りいっぺんで奥行き
  が無いからリアリティもない、なんだかシノプシスを読んでいるような気分にさせられたわ」
Goo「まあ、確かに要素の多さの割にはちょっと食い足りない観はありますが」
Boo「あとさあ、主人公とその同僚がいずれもめちゃかっこいい敏腕記者だったり、新聞社そのものもえらく立派
  で「誠実な報道機関の鏡」として描かれているのもなんだかウソっぽいわよねー。実際はどうだか知らないけ
  ど、少なくともそんな新聞屋にリアリティは感じられないな」
Goo「それは作者の立場上仕方ないことなんじゃないですか?なんせ現役の新聞社社員なんですから」
Boo「立場で筆が制限されるくらいなら、違う分野の主人公を作れってーの!」
Goo「報道機関の鏡として描かれた新聞社に、リアリティが感じられないのも困ったもんですね。ま、ともあれ次
  です。「ハーメルンに哭く笛」。京極エピゴーネンな長篇と話題を呼んだデビュー作に続く藤木稟さんの第二
  作ですね。前作同様、第二次大戦直前の不安な空気に包まれた帝都・東京で発生したオカルティックな猟奇犯
  罪を、盲目美形の弁護士探偵が解決するというお話」
Boo「えーっと、率直にいって前作の時は、京極エピゴーネンなどと失礼なことをいってしまったと反省している
  わ。も・ち・ろ・ん京極さんに対して、ね」
Goo「ったくもー。ともかく内容ですが、30人の子供が一時に誘拐され惨殺されるという派手派手しい事件を中心
  に、夜の東京を跳梁する魔人・笛吹き男、人造人間幻想にサーカス幻想、フリークス趣味、731部隊の暗躍に
  軍の陰謀等々、カストリ雑誌風の極彩色のネタをめいっぱいぶち込んで仕上げたごった煮って感じですね。謎
  もたっぷりありますよ。およそ論理では解けそうもない謎が、それもしこたま!このあたり、けっこうぼくも
  ドキドキしました」
Boo「そーよねー!この謎をいったいどう解くか思ったら、あっさりSFネタで解決しやがった!ついでにいえば、
  他にトリックらしいトリックがないわけではないけど、そちらは幼稚きわまりないジュブナイルレベル。もう
  なにをかいわんや!」
Goo「……あれだけブチアげた壮大な謎を、とにもかくにも解いて見せたんですから」
Boo「公平に見て、非常にできの悪いバカ本格としか思えないのだけど、一見「耽美風」一見「京極風」な装いを
  しているだけに、ダマされる連中がいくらも出てきそうね。これは正しくはバカ本格でも、むろん新本格でも
  なく、ハチャメチャ新本格「風」ないしは、支離滅裂SFホラーミステリ「風味」とでもいうべきところね」
Goo「でも、この作者はそれなりに当時の時代背景を勉強し、作中に取り込むべく努力しているように思えます」
Boo「いかんせん、しょせんは付け焼き刃。根本的な教養のなさ、センスの悪さ、文章力の欠如は如何ともしがた
  い。ともかくこういうレベルの低いレプリカが登場すると、京極さんがどんどん凄く見えてきちゃうんだから
  困るわあ」
Goo「……じゃあ、次の作品です。建倉圭介の「ブラック・メール」です」
Boo「この人はたしか第17回の横溝正史賞に「クラッカー」という作品で佳作入選した新人さんね。で、これは第
  二作。前作はコンピュータ犯罪をテーマにした作品だったけど、今回もEメールを悪用したコンピュータ犯罪
  のアイディアがメインね」
Goo「ある製薬会社の社長の孫が誘拐され、企業秘密のデータを送れと脅迫するEメールが届く。社長らは企業の存
  亡が掛かった重要なデータを渡すことを渋るが、犯人はあるトリックを用いてデータの奪取に成功。一方、同
  じ会社の社内では他人を騙った何者かによる中傷メールが飛び交い、少しずつ社員の間に不信と動揺が広がり
  始めていく、と」
Boo「誘拐事件と、メールシステムを使った人間関係の破壊(?)事件と、いずれも核となっているアイディアはご
  く小ぶりだし、それほど目新しいものではないわね」
Goo「でも、語り口の巧さでクイクイ読まされるし、ぼくは十分に堪能しました。新しさこそないけど、きっちり料
  金分楽しませてくれるサスペンスって感じです。しかも、一見無関係なこの2つの事件が、ラストで実にユニー
  クな形で繋がっていくところもなかなかでしょ?」
Boo「そこはこの作品のキモだけど、はっきりいって肝心のそのあたりの書き込みが物足りない。せっかくのアイデ
  ィアが十全に活かされていないわ。2人の主人公の動かし方とか、もう一つ工夫がほしいのよね」
Goo「じゃ、気分を変えて翻訳ものを。「ウィルス・ゾーン」は、これも新人さんの作品ですね。まあ、新人といっ
  ても、作者は生命科学を専門とする大学教授。いわば専門分野の知識を活かしたメディカルものなのですが、実
  際に読んだ感触はむしろ007などのスパイアクションに近い、スケールの大きなサスペンスです」
Boo「ステレオタイプの登場人物といい粗っぽいアクションといい、エイズという今日的に話題をテーマにしながら
  も、ごくごく通俗的。いっそ古くさく感じてしまうくらいのB級アクションね。映画化しませんか〜って全身で
  叫んでるみたいな本だわ」
Goo「お話は、エイズの起源とエイズ治療の新薬を巡る、製薬会社・アメリカ政府情報機関・スコットランドヤード
  の3ツどもえの闘いで、売りはこのエイズの起源に関する新説なんですが……」
Boo「これが陳腐なのよね〜。エイズの起源に関しては、早くからいろんな説が流れてるし、この作品で提示されて
  いる説も今さら驚くようなものではないわ」
Goo「じゃあ、これはどうです?「直線の死角」。第18回の横溝正史賞大賞の受賞作です。スケールはそれほど大き
  くないけど、テンポがよくてかっちりまとまっていて、ぼくはとても楽しめました」
Boo「悪徳弁護士めいた主人公が交通事故の賠償交渉で調査を進めるうち、ありふれた事故の奥に隠された陰謀を暴
  くというお話ね。交通事故の賠償金、特に逸失利益(被害者が生きて働いていたらこれだけ稼げたはずだから、
  賠償せえという)に目をつけた着眼はなかなかのものね。賠償交渉のやりとりや交通事故鑑定人の活躍ぶりなど、
  ディティールがしっかりしているのも好感が持てる」
Goo「ね、新人離れした書きっぷりですよね〜」
Boo「でもさ、何しろ事件の作りが小ぶりなんで、真相がすぐに見通せてしまうわね。また、それをカバーするため
  か、主人公の恋愛譚にかなりの分量が割かれているんだけど、これはやはりどう考えても余計な要素だったと思
  う。なんかいかにもとってつけたような感じだし」
Goo「ぼく的には、そうした点を差っ引いても、コンスタントに書きづけられる素人離れした安定した実力の持ち主と
  みますが?」
Boo「ま、いんじゃないの。書ける人だとは私も思う。ところでさ、この横溝賞、新人賞の中ではあまりメジャーな賞
  とはいえないけれど、巻末にきちんと選考委員の選評を載せているのは立派よね」
Goo「選考委員の顔ぶれも面白いですよね。綾辻行人、北村薫、宮部みゆきの3氏はともかく、内田康夫さんが入って
  いる」
Boo「やっぱ角川の功労賞だから?あの新本格3人と内田康夫がどんな論議を交わしているのか?ぜひ聴いてみたいも
  のよね〜」
Goo「なんたって「軽井沢のセンセ」ですから」
Boo「エッセイとかアンケートとか、あのセンセってばものすごいこと平気で書くからねえ。小説はどうなのかな?
  読んでないし読む気もないけど」
Goo「初期の長篇とかは、それでもけっこう読めますよ。「死者の木霊」でしたっけ?けっこう面白かったな」
Boo「信じられない〜!」
Goo「読んでみなさいって!じゃ、今回のシメはちょっと古いけど「密告」。真保さんの、これも小役人シリーズって
  ことになるのかな」
Boo「今ごろ取り上げるか〜?もう忘れちゃったよ〜」
Goo「ま、そうおっしゃらず……主人公は警官。といっても生活安全課、昔でいう防犯課の総務に勤務する内勤職です。
  彼はかつて射撃のオリンピック強化選手で、その選考会の直前にライバルを卑劣な「密告」によって失脚させた、
  という負い目を持っています。ところが、いまや彼の上司となったかつてのライバルが再び何者かの「密告」によっ
  て失脚し、その犯人として彼は仲間の信頼を失う。だれが、何の目的で彼を卑劣な罠にはめたのか。失ったプライ
  ドを取り戻すため、主人公は孤独な捜査をはじめます」
Boo「消せない汚点を背負って、プライドを取り戻すために孤立無援の闘いをはじめる主人公。こいつぁ、まるきりフ
  ランシスね!」
Goo「ぼくはマッギヴァーンを連想したな。もちろん、地味だけど相変わらず安定した面白さはさすがの一言!例によっ
  て緻密な取材に基づいた警察内部の詳細な描写が、物語に厚みを加えています。こういうプロの仕事に触れるとホン
  ト、ほっとしますね」
Boo「まあ、ネタそのものはむしろ古くさいくらいの社会派ミステリという感じね。ラストのどんでんも読み慣れた人
  なら見当付くはず」
Goo「それでもやっぱりイイ!渾沌とした日本ミステリ界の、これぞ一服の清涼剤!」
Boo「……キミ、ちょっと疲れてない?」
 
 
#98年6月某日/某ジョナサンにて
 
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