battle17(9月第3週)
 
[取り上げた本]
 
1 「夜光虫」        馳星周                      (角川書店)
2 「海燕ホテル・ブルー」  船戸与一                     (角川書店)
3 「匣の中」        乾くるみ                     (講談社)
4 「ブードゥ・チャイルド」 歌野晶午                     (角川書店)
5 「ノックは無用」     シャーロット・アームストロング          (小学館)
6 「サイバー戦争」     エリック・L・ハリー               (二見書房)
7 「神の狩人」       グレッグ・アイルズ                (講談社)
 
 
Goo「いかがです?最近、仕事の方は」
Boo「全然ダメ。あいかわらず鍋底だわ」
Goo「やっぱそうですよね。どこに行ってもいい話なんか一個もありませんよね」
Boo「ほーんと。先が全然見えないのよねえ」
Goo「せめて先行きがいくらかでも見えてれば、頑張りようもあるんですけどねえ」
Boo「ま、当分は仕方ないんじゃないの? 今回の不況はさ、日本の経済システムそのものの問題とシン
  クロしてるから根が深い。そう簡単に解決するとも思えないわ」
Goo「ぼくもべつにバブルを再現して欲しいとは思いませんが、せめて普通に働いて普通に食える程度に
  はなってほしい」
Boo「ま、なるようになるべな。さっさと始めましょ」
Goo「はいはい。んじゃ、今回は話題の馳さんの新作から行きましょうか。「夜光虫」です。今回は長編
  としては初のノンシリーズ作品でしたね」
Boo「プロ野球選手が主役というのにも、驚いたわね〜。ま、読んでみれば問答無用の「馳ワールド」なん
  だけどさ」
Goo「んじゃ、アラスジいきますね。ayaさんがおっしゃった通り、主人公は肩を壊して挫折したプロ野球
  選手。引退後に事業を起こして失敗した彼は、莫大な借金を返済するため、新興の台湾プロ野球界に
  身を投じます。しかし、金欲しさにそこで彼は八百長に手を染め、地獄への転落の道を歩みはじめる」
Boo「例によって出てくるやつはどいつもこいつも悪党。それが寄ってたかって主人公を罠にはめ、食い物
  にし、奈落の底へたたき落とそうとするのよね。でもって、主人公がまたその罠に片っ端からはまりま
  くる。もう笑っちゃうくらいもののミゴトにね」
Goo「そもそもこの主人公、アタマが切れるわけでもなく腕っぷしが強いわけでもない。およそヒーローに
  もアンチヒーローにもほど遠い男なんですよね。しかしただ1点、彼の心の中にある決定的に「切れた」
  何か……決定的に壊れた部分があって、これが物語全体にギラつくような熱気を生み出している」
Boo「ふっ。「こいつを黙らせろ」ってね」
Goo「それそれ。彼が逃げ場のない状態に追いつめられると……そして、そうした場面はイヤになるくらい
  度々あるのですが……そいつが叫びはじめるんですよね。「こいつを黙らせろ」と。すると主人公は悪
  辣きわまりないヤクザすら超えた、凶悪な存在になるわけです」
Boo「ようするにキレるわけ。別に変身するわけじゃないし強くなるわけでもないけど、その瞬間、彼は確
  実に「人としての心」を捨て去った獣になってしまうのよ。チープといえばチープな設定なんだけどね。
  読んでるうちに、だんだんこのありきたりな言葉がものすごく不気味な呪文みたいに聞こえてくる」
Goo「かくて彼はあらゆるものに裏切られ、あらゆるものを裏切り、人間であることを捨て去って血と硝煙
  をぶちまけながら絶望的な疾走を続ける、と。この果てしないエスカレートぶりはほんとにもう壮絶と
  いうか。まさに馳さんならではの世界ですよね」
Boo「でも、あえて弱点を指摘するとしたら、やはりヒロインの造形ね」
Goo「うーん」
Boo「たぶん作者は、このなんともやりきれない「汚辱に満ちた世界」と、ヒロインの象徴するもの=そん
  な世界にはかなく灯る「人の祈り・希望」との対比を狙ったんだろうけど、このあたりのバランスには
  計算違いがあったんじゃないかしら。ラスト近く、そのテーマを意識した「別れ」のシーンがあるけど、
  残念ながら陳腐でほとんど印象に残らない。結局のところあの狂気じみた「こいつを黙らせろ」の圧倒
  的な迫力の前に、何もかもけし飛んでしまった感じね」
Goo「まあ、どうにもやりきれない後味の悪いお話なんですが、この「こいつを黙らせろ」のヤケドしそう
  な熱さを感じるためだけでも、読む価値はあると思いますよ」
Boo「それにしてもラスト、何だか甘くない? ひょっとしてシリーズ化? まさかとは思うけどさ……」
Goo「それはそれで楽しみですが……ま、次に行きましょう。どうやらこの馳作品や花村作品に刺激されて
  書いたフシが伺われる、船戸さんの新作長編「海燕ホテル・ブルー」です」
Boo「いつもの船戸タッチとは全然違うしね。だいたい本そのものが薄い! で、内容も、まあ彼のものと
  しては軽め……よね」
Goo「まあ、船戸作品といえば、きわめつけのヘビー級ばかりですからねえ。さて。主人公は長い懲役を終
  えて出所したばかりの前科者。出所した彼は裏切り者を探して下田の町を訪れる。いったんは、ある男
  との出会いを通じて心を癒しかけるが、やがて魔物めいた魅力をもつ「運命の女」との出会いにより、
  際限のない地獄へと転落し始める……これはいわゆる「ファム・ファタール」=魔性の女ものの転落ス
  トーリィですね。逆らえぬ魅力を持った「女」が、男の運命をどんどん狂わせていくというパターン」
Boo「これはねぇ、悪いけど失敗作じゃない? 前半ではこの「魔性の女」テーマとは関係のない部分でた
  くさんの伏線……というか、ストーリィのタネが仕込まれているのに、後半ではそれらが全て放擲され、
  なしくずしに「魔性の女」ストーリィになってしまっているような感じ……これは途中で構想を変えた
  というより、「投げて」しまっているように思えるのよね」
Goo「う〜ん。「夜光虫」という飛び切り凄絶な「転落もの」を読んだ後だったから、そう感じたんじゃな
  いんですか?」
Boo「うんにゃ。私はこっちを先に読んだのよね」
Goo「あーそうでしたか」
Boo「一番の問題はさ、肝心かなめの「魔性の女」が少しも魅力的に描けてないってコトよ。船戸さんって、
  女描くのがこんなにヘタだったかしらね〜。ともかくそのせいか、彼女に魅入られて堕ちていく主人公
  が、どうにも救いようのないバカにしか見えないのよね」
Goo「おなじバカでも「夜光虫」のバカはとことんキレてるスゴミがありますからねえ……ま、仕方ありま
  せん。次、行きましょう」
Boo「次は乾くるみの第2作か。あの「匣の中の失楽」へのオマージュとは、しかし大きく出たわよね」
Goo「ぼく自身は「失楽」は「幻影城」版を読んだきりで、内容忘れてたんだけど、だからって読み返すほ
  どヒマじゃなくて。申し訳ないけど「素の状態」で読ませてもらいました」
Boo「キミは賢い!この本の読み方としてはその方がぜったい正解よ。だってさー、「失楽」とまともに比
  べたら腹が立つばっかだもん」
Goo「エキセントリックなメンバーがそろったミステリ愛好家グループの1人が、「いかにも」な密室状態
  の部屋から消失し、失踪する。残された仲間達は推理合戦を繰り広げるが、真相は分からぬまま、メン
  バーは1人ずつ奇怪な密室の中で殺されていく。それぞれ奇妙な意匠とメッセージが込められた5つの
  密室の謎をめぐって繰り広げられる、陰陽術から量子物理学に至るペダントリィをふんだんにちりばめ
  た推理合戦。そして、驚愕のラスト。まあ、このラストは議論の別れるところでしょうけど、中盤の推
  理合戦とか、ぼくはとても楽しめました。ことに二重三重の暗号なんか、すごくよく考えられてる」
Boo「そうね、「失楽」みたいな入れ子構造でないぶん、ペダントリィまみれの推理合戦も分かりやすかっ
  たかもしれないわね」
Goo「問題は、するとやはり「驚愕の」ラストということですか」
Boo「そうねえ……「失楽」へのオマージュであるからにはメタミステリ的な仕掛けがあるのはお約束だと
  思うけど、「この手」を使うとはね。なんというか、ある意味、前述の推理合戦で盛んに出てきたペダ
  ントリィに、作品の構造自体が飲み込まれてしまっている。これをやっちゃったら、やはりメタ・ミス
  テリというより「逸脱」だわね!」
Goo「きっついなぁ。西澤作品が本格ミステリである程度には、これも枠内と認めていいんじゃないですか?」
Boo「あのね〜、西澤作品は最初からそういう設定であることを明示しているからこそ、本格足りうるのよ!
  この作品のようにルールが明示されないまま、あるいは既存のルールと読者に思わせたまま、最後の最
  後で次元の違うルールを持ちだしてくるのは、「本格」としてはアンフェアの極みよ。はっきりいって、
  この作品のラストで読者が味わうショックは、自分の立てたロジック・イマジネーションが「超えられ
  た」ことによるものじゃない。次元の違うルールを持ち出してくる作者の「鉄面皮」ぶりに対するショ
  ックなのよ! こういうのは私は読者への「裏切り」と呼びたいわね」
Goo「ははあ。なまじ中盤の推理合戦の出来がよかったもんだから、怒りが倍増してるんでしょ。ま、とも
  かくその「裏切り」まで含めて、作者の「ぶっ飛びぶり」を楽しめるかどうか、が、この作品に対する
  評価を決めるんじゃないでしょうか。つまりは広い心で受入れた方が楽しめる、と」
Boo「そういう甘やかしは作家のためにならん!と私は思うけどね。ま、「広い心」で読むなら前述の「華麗
  なる推理合戦」のような本格ミステリ的部分がむしろコロモであり、ペダントリィであると。そう考え
  るのが正解かも知れない。つまりこれは「本格ミステリ味」の分厚いコロモで覆われたファンタジィ/S
  Fとして読むのが正しい、と」
Goo「う〜ん。ま、それにしても、次作ではいったいどんな作品を書いてくれるのか、見当もつきませんよ
  ね。ぼくにとっては、それなりに楽しみな作家になってきたみたいです」
Boo「ま、いいけどね。次いこ次」
Goo「はいはい。じゃ、おクチ直しになるかどうか。久しぶりの新本格一期生・歌野晶午さんの新作です」
Boo「長かったリハビリにようやく終止符を打ったのかしらね? じゃ、アラスジは私が……。主人公は15歳
  の少年。彼は幼いときから奇妙な「前世の記憶」を持っていた。その記憶の中で彼は黒人の子供で黒人の
  家族とともに暮らしていたが、ある日、奇怪な悪魔/バロン・サマディに襲われる……というものだった。
  およそ非現実的な記憶なのにどうしても「妄想」とは思えない彼は、その内容をホームページで公開し情
  報を集めていたが、その直後、彼の家を何ものかが襲い彼の母親を殺害する。そして、現場には彼自身が
  描いた「前世の記憶」の絵が残されていた。「前世」からやってきた悪魔が母親を殺したのか?彼の持つ
  前世の記憶とは何か?」
Goo「前世の記憶という発端の怪奇性、過去探しという中段のサスペンス、そして名探偵による鮮やかな謎解き
  という結末の論理性……基本をきちんと押さえた本格ミステリですよね! 歌野さんとしては久方ぶりに
  悩んだり屈折したりしていない、溌剌とした新作といっていいんじゃないでしょうか」
Boo「まあ、「前世の記憶」というスペシャル級の謎に比べると、謎解きの核になっているネタはいささか「手
  垢のついたもの」って感じね。そのからくりもわりと簡単に想像ついちゃうし」
Goo「でも、とにもかくにもカーばりの不可解な謎の数々をきれいに一本の推理にまとめていく手際はじつに手
  堅くて、なんちゅうか久方ぶりに本格の醍醐味を堪能しましたね」
Boo「そうねぇ、手堅いっていうのは確かだわ。反面、少々ちんまりまとまりすぎた気もするけどさ」
Goo「うーん。「新しく」はないけれど、洗練され、巧くなったといえるんじゃないですか? 謎解きばかりで
  なく、冒頭からラストまで一瞬の緩みもなく持続されるサスペンスの醸成もみごとだと思いますよ。文字
  通り一気読みできるリーダビリティっていうか」
Boo「名探偵のキャラクターはどうだった? 天藤さんの作品の名探偵にああいうキャラクターがあったわよね」
Goo「たしかに似てますけど、個人的にはこの個性豊かな天才型名探偵はモロ!好みです。これはぜひシリーズ
  化してほしいですね」
Boo「この本が売れでもすればありえるかもね。ハイ、次」
Goo「じゃ、今度は海外ものを。まずは、そうですね。「ノックは無用」いきましょう。「毒薬の小壜」で知ら
  れる心理サスペンスの名手・アームストロングの、かなり短めの長篇です」
Boo「ホテルの1室を舞台にした一幕物のサスペンスコメディみたいな軽い作品。ほどほどのドタバタ、ほどほ
  どのサスペンス、ほどほどの恐怖、ほどほどの笑い……これはヒチコックの映画、というよりTVの方のヒ
  チコック劇場を見ているような感じね〜」
Goo「まあ、この作家はヒチコックのTVドラマの脚本を書いていたこともあるそうですから、こういうのはお
  手の物なんでしょうね。さて。夫婦は9歳の娘をホテルの部屋において講演会に出かける。後を託した子守
  の娘は、しかし「軽い」サイコだった……。子守娘を夫婦に紹介したエレベータ係の老人。娘に呼ばれて何
  も知らずに訪れる若い男。泣け叫ぶ子供の声を不審に思って訪れる老婆。様々な人たちの思惑と事情と誤解
  が交錯した時、子守娘の狂気が目覚める、と」
Boo「う〜ん。子守娘の狂気が少しずつ明らかになっていく描写なんか、巧いもんだとは思うけれど、それ以上
  の作品ではないわねえ。……ところでキミ、これが原作になってるモンロー主演の映画は見たの?」
Goo「それが見てないんですよ〜。若き日のモンローがサイコの子守娘やってて、なかなかの名演らしいし、映
  画そのものも面白いらしいんですけどね。ビデオもどうやら絶版になったみたいで」
Boo「私も未見だけど、たぶんその「映画」の方が、この小説そのものより面白いんじゃないかな〜」
Goo「どうでしょうね。見てないんでなんとも。モンローは見たいですけどねえ。でもまあ、ぼくはこれはこれ
  で気の利いた小品として、十分読むにたる作品だと思います」
Boo「そうねえ、ただ翻訳はいただけないわね。こういうタイプの作品じゃ気の利いた言い回しが命だろうに、
  あまりにもヘボ。日本語としてもどうかと思う」
Goo「こなれてないのは確かですけどね。……では次は「サイバー戦争」。「最終戦争」とか「全面戦争」とか、
  全面的に「近未来戦争シミュレーション」モノの作家である作者が書いた異色の大作ですね」
Boo「つっても翻訳の順番が前後しただけで、ホントはこっちが第2作らしいわね。内容は……「モロー博士の
  島」!」
Goo「まあまあ、そう先走らないでください。とりあえずアラスジいきますんで。優秀な心理学者ローラは、あ
  る日、巨大エレクトロニクスメーカー&衛星放送会社の経営者にして天才科学者のグレイから、1週間百万
  ドルの報酬でコンサルタントとして雇いたいという手紙をもらう。依頼に応えたヒロインが招かれたのは、
  グレイが南海の孤島に最先端技術を投入して作り上げた驚異の研究施設&生産工場都市だった。驚異的な科
  学技術の数々に圧倒されるヒロイン。そして、彼女の患者として紹介されたのは、そのあらゆる技術をコン
  トロールし世界をネットする、世界最大のニューロ・コンピュータだった。従来のコンピュータとは全く異
  なる発想で作られた「かれ」は「意識」を持ち、「鬱病」を病んでいるという。とまどいながらも対話を繰
  り返すうち、やがて「島」に隠された奇怪な秘密が姿を見せはじめる。それはこの世界の枠組みそのものを
  変えてしまいかねない危険な知識への扉だった……」
Boo「天才的マッドサイエンティストが支配する島の「驚異と恐怖」に触れて、驚きまくるヒロイン。文庫で上下
  巻・1000ページ近い大長編だけど、基本的にはもうエンエンとこのパターンの繰り返しなのよね。ともかく
  「超一流の心理学者」であるはずのヒロインが、これら驚異の科学技術と謎に触れてもただひたすらビックリ
  したり怯えたりするばかりという、とてつもなくチープな反応しかしないのも情けない。これじゃ通俗冒険小
  説のおバカ・ヒロインそのままよね〜。世界最高の頭脳の持ち主であるグレイが、どうしてこんなおバカなヒ
  ロインをやたらと大事にするのか全く分からん」
Goo「う〜ん。ま、そうなんですが、きわめてユニークな進化論論議やコンピュータ論議、ロボット戦争にウィル
  ス退治等々、長篇数冊分のアイディアがブチ込まれてる。まさに盛りだくさんつうか」
Boo「にもかかわらずラストまで読むと、実は「ものスゴく大仕掛けの」ハーレクイン・ロマンスだったりするの
  よ、これが!……とほほ」
Goo「ま、ハリウッドで映画化されたら面白いものができるかも、です」
Boo「……」
Goo「さー、ラストです。はりきってまいりましょう。これも大作ですね」
Boo「この作家は「ブラック・クロス」という作品で日本に紹介された人ね。「ブラック・クロス」もなかなかい
  いデキの戦争冒険小説だったわ」
Goo「そうらしいですね。ぼくもあちこちで良い評判を聞いていたんですが、ツン読状態で。……が、この新作を
  読んでたまげまして、ただちに「ブラック・クロス」も読まねば!と思ってしまいました。ま、「神の狩人」
  がそれほど凄い本だったということなんですけど」
Boo「最近急速に増えているインターネット・サイコものよね。このジャンルも少々食傷気味だったんだけど……」
Goo「これはその決定版じゃないですか? 主人公は昼は先物取引のトレーダー、夜は超高級エロティック・ネッ
  ト「EROS」のシスオペをする青年。あるきっかけから、主人公は全米に広がる「EROS」会員の女性が次々と
  惨殺されていることに気がつく。犯人は全米を駆け巡り、毎回手口を変えていたため、警察はそれが同一人物
  の犯行であることにさえ気付かなかったのだ。警察から疑われ強引にFBIへの協力を求められた主人公は、彼ら
  とともにEROSの探索を進めるうち、ネットに出没する犯人らしき人物を発見する。しかし、天才的な知性と高
  度な技術を駆使する犯人にFBIは幾度となく翻弄され、次々と犠牲者が増えていく。追いつめられた主人公は、
  ついに自らおとりの女性に扮してネットの中で犯人と対峙する……」
Boo「ま、ネット・サイコものとしては、定番通りのパターンで取り立てて新味はないんだけどね」
Goo「でも、これはどんなネット・サイコものとも全く違う個性と重量感と、サスペンスを備えた作品だと思います
  ね。ともかく内容の濃さ、リーダビリティの高さでは、あの「羊たちの沈黙」に匹敵するクオリティじゃない
  かと」
Boo「ふむ、大きく出たわね〜。でもま、たしかに似たところはあるわ。ことに驚異的な知性を備え、謎に満ち、し
  かもとてつもなく恐ろしい存在である「真犯人」像は、かのレクター教授を連想させる」
Goo「この犯人と、おとりに扮した主人公が交わす虚々実々のライブチャットは、エロティックでありながら深い洞
  察に満ち、しかもおそろしくサスペンスフルで。まさに手に汗握るとはこのことか、と」
Boo「巧いなあと思ったのはさ、主人公が単なるヒーローじゃなくて、妻との結婚生活に重い秘密をかかえていつ爆
  発するか分からない状態だというところね。いわばスネに傷持つ等身大の人間なわけよ。こうした描き方が、
  作品にすごく奥行きを与えているのよね」
Goo「実際、その秘密が「犯人」との真剣勝負の対話のなかで、否応なく切り刻まれて、犯人を追いつめると同時に
  どんどん自分も追いつめられていくんですよね。このあたり、「羊」のレクターVSクラリスの対話を思わせて
  とてつもなくスリリング!二十三重に仕掛けられた伏線が生みだすサスペンスは、ちょっと他に例がないくらい
  濃密です」
Boo「こういう濃いサスペンスを読むと、やっぱ肉食人種にゃかなわないなあ、とか思っちゃうわよ」
Goo「根本的に馬力が違うという感じですよね」
Boo「ほーんと!」
Goo「ともかく長い作品ですが、ぜひ読んでみて欲しいですね。とくにwebやってる人にとってはいちだんと面白
  いんじゃないかな」
Boo「……ところでさ、次回はアレ取り上げるの?」
Goo「アレって?「始末」ですか。ええまあ、間に合えば」
Boo「じゃなくて〜アレよ!世界最長!」
Goo「うう。あれですか……」
Boo「やっぱ、立場的に、取り上げないわけにゃいかないか」
Goo「ぼく、1から読み直さないと、完璧に忘れてるんですよね」
Boo「キミもか!」
 
#98年9月某日/某ロイホにて
 
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