battle2(1月第2週)
 
[取り上げた本]
 
1 「98年度版このミステリーがすごい!」 (宝島社)
2 「傑作ミステリーベスト10」      (週刊文春)
3 「三月は深き紅の淵を」         恩田陸   (講談社)
4 「光の帝国」              恩田陸   (集英社)
 
 
 
Goo「明けましておめでとうございます」
Boo「はいはい、おねでとさんっと。しっかしさあ、年明け早々なんでパスタ食わにゃならんの?」
Goo「AYAさん、おセチ飽きたっていってたじゃないですか」
Boo「だからってパスタ食べるか、フツー」
Goo「・・・ま、ワインでも飲んでて下さい。さて、お正月休みというと、「このミス」と「文春」
  の2大ミステリベストをチェックして、読み漏らしてた本を読むのが正しいミステリファンの
  在り方ですよね」
Boo「あんた、いまだにそんなカッタルイことやってんの?」
Goo「いやー、だってリスト見るとけっこう読み漏らしてるし」
Boo「マジ?あのさ、あれって両方ともミステリベストじゃなくなってんじゃん」
Goo「またそーゆー極端なことを・・・」
Boo「そうかしらねー。たとえば国内篇で双方にランクインしてるものでいえば、「黒い家」はホラ
  ー、「死の泉」は伝奇ロマン、「嗤う伊右衞門」は恋愛小説。小説としての出来は別として、
  ミステリじゃないわよね」
Goo「厳密にいえばそうだけど・・・ミステリとしても楽しめるでしょう」
Boo「んなこといったら、w村上だってドストエフスキイだってミステリとして楽しめるわよ。あな
  た、そういう作家がランクインしてもOKだと思うわけ?」
Goo「・・・うーん。まあジャンルの境界線が広がっているのはたしかですね」
Boo「だったらエンタテイメントベスト10とでもすべきなのよ。ミステリベストというからには、コ
  アなミステリ、ピュアなミステリを選ばなきゃ」
Goo「それだとかなりマニアックなものになってしまう気がしますが」
Boo「そのどこが悪いわけ?ミステリというのは元来マニアックなジャンルなのよ。小説としてはおそ
  ろしくイビツな、いわば奇形の小説なの」
Goo「でも、こうして境界線が広がって多くの才能を取り込んでいけば、ジャンル全体の質的向上にも
  なるんじゃないですか?事実、先ほどあがった3作ともピュアなミステリとはいえないけど、どれ
  もたいへん優れた小説ですよね」
Boo「わっかんないヒトねー。そんなこたどうでもいいの。問題は、結果としてジャンルの定義がアイ
  マイになり、その個性が希薄になっていくことなの」
Goo「プレゼンじゃないんですから、そう小難しい言い方しないでください」
Boo「わかりやすく言ってるつもりだけどね。具体的に言うと、このままでは本格等のコアなミステリ
  は減ってくってことよ。私が危惧するのはその点なの」
Goo「確かにランク内の国産の本格は京極さんくらいですね」
Boo「京極さんねえ・・・本格かしらね」
Goo「ええー?本格でしょ。謎解きじゃないですか」
Boo「だってさーコロモが厚すぎない?妖怪蘊蓄なんかのコロモが。そのコロモ剥いでごらんよ、本格
  としてのお肉は貧相なものよ」
Goo「茶木さんのミステリ・トンカツ理論ですか・・・」
Boo「そ!ただし私のミステリ・トンカツの肉は「謎とトリックと論理」よ」
Goo「・・・本格原理主義者ですね」
Boo「まあ、なんとでもいってちょーだい」
Goo「本格原理主義者としては、もはや両ベストから得るものは何もない、と」
Boo「そんなこたないけどね」
Goo「本格原理主義的には容認できないでしょうが、僕は気になる作品がありましたよ」
Boo「・・・あんた、かなり性格悪いね」
Goo「あ、ワインもう1本取りますか・・・えっと、気になる作品ってのは、本格じゃないけど本格のス
  ピリットを継ぐ作品というか。・・・「このミス」9位の「三月は深き紅の淵を」。恩田陸さんの作
  品です」
Boo「恩田さんって、昔から本格の香りする人だったわね。香りだけだけど」
Goo「本来ファンタジィ・ホラー畑の人ですが、作品には毎回必ず冒頭にきわめて魅力的な謎が提示され
  るんですよね」
Boo「そ。それでラストでは必ずガッカリさせられる。毎回、物語に収拾付けられなくなって投げ出しち
  ゃってる感じよね。ファンタジィにキチンとしたラストはいらないとでも思ってんのかしら」
Goo「・・・この作品は、謎と謎解きへの偏愛をメインに据えた物語。入れ子構造のメタフィクション的
  構成といい、ミステリ的な企みと魅惑的な謎にあふれている。ドキドキするくらい魅力的です」
Boo「で、結局、その魅力的な謎は解かれぬまま物語は終わるわけよ。フザケンナ!って感じ。いわば謎
  解きファンのためのファンブックってとこだわね」
Goo「解かれない謎ってのも魅力的じゃないですか」
Boo「あんたマジでそう思ってんの?」
Goo「確かにたまらなくもどかしい一冊ではあるんですが。次作を期待させるに足る魅力があると思いま
  す。次は書いてくれるんじゃないでしょうか。本格を」
Boo「残念でした。もう新作でてるわよ。SF短編連作でしたあ」
Goo「あ、そうだったんですか・・・」
Boo「情報遅いわよ。新作「光の帝国」は古代から日本の各地に隠れ住んできた超能力者の一族を描いた、
  叙情あふれるファンタジ−SF。ミステリ味は皆無だけど、あの人のものとしては一番まとまってい
  ると思うわ」
Goo「・・・なんだかんだ文句言うわりには、きっちりと読んでますね」
Boo「逆よ。きちんと読んでるから文句言えるの」
Goo「恐れ入りました」
 
#98年1月某日/某サイザリヤにて

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