battle21(11月第4週)
 
[取り上げた本] 
  
1 「マン島の黄金」      アガサ・クリスティ             (早川書房) 
2 「騎乗」          ディック・フランシス            (早川書房) 
3 「金蠅」          エドマンド・クリスピン           (早川書房) 
4 「ナイフが町に降ってくる」 西澤保彦                   (祥伝社) 
5 「有限と微小のパン」    森博嗣                    (講談社) 
6 「殉教カテリナ車輪」    飛鳥部勝則                (東京創元社) 
7 「御手洗潔のメロディ」   島田荘司                   (講談社) 
 
 
Goo「ベスト10をね、やろうかと思っているんですよ」
Boo「ミステリの本年度ベスト?」
Goo「そうそう。それもウチらしく本格のみにしぼったGooBooセレクションってやつはどうか、と」
Boo「ふん。10作も選べるかしらね〜。そこが問題だわ。そもそもまっとーな本格といえる作品が
  どれだけあったか、となると疑問を禁じえないわね〜」
Goo「いや、まあ、ベスト5でもいいんですけどね」
Boo「空前のミステリブームとやらで、数だけはしこたまでてるけどね。これは、と思う作品はそ
  れほどないって気がするわね」
Goo「いや、まあ、ベスト5でもいいんですけどね」
Boo「空前のミステリブームとやらで、数だけはしこたまでてるけどね。これは、と思う作品はそれ
  ほどないって気がするわね」
Goo「まあ、考えておいてくださいよ。いずれ声かけますから……というところで、早速始めましょ
  う。今日は海外もんからいきましょう。懐かしのクリスティーなど」
Boo「まさかねえ、今ごろクリスティの新作が読めるとは思わなかったわ。この「マン島の黄金」は
  出版社の企画の勝利ってとこね」
Goo「内容的には「落ち穂拾い」的な作品集ですよね。いわゆる単行本未収禄の短編集ってやつ。そ
  れだけに内容は非常にバラエティに富んでて、ファンならずとも楽しめる一冊なんじゃないでしょ
  うか。ポアロものも2編、入ってますしね」
Boo「ポアロものはいずれも後にもう少し長いモノに書き直された短編の、原形となった作品だわね。
  特にどうということのない謎解きミステリって感じ」
Goo「でも、やっぱりこの「居心地の良さ」にはほっとしちゃうなあ」
Boo「一番の呼び物は、先般「ミステリマガジン」に掲載されて話題を呼んだ表題作だわね。今度は
  きちんと謎解きの解説がついているから、雑誌掲載時に飽き足りない思いをした人はここだけで
  も立ち読みするといいんじゃないかな」
Goo「他は古風なホラーや心理サスペンス、メロドラマ風の作品など、ジャンルもいろいろ。まさに
  バラエティに富んでいますね。どれも特筆するようなデキってわけじゃないけど、ともかくきっ
  ちり楽しませてくれるのは確かです」
Boo「そういえば、クリスティの長篇恋愛小説もなかなか面白いということをご存知かえ?」
Goo「ayaさん、恋愛小説なんて読むんですね〜。「春にして君を離れ」なんて、ポアロもの以上にザ
  クザク読める面白さだったですよね〜」
Boo「あんたにゃいわれたくないわね。面白けりゃ何だって読むわよ。さー次々」
Goo「次は年に一度のお愉しみ、ディック・フランシスの新作長篇ですよ」
Boo「ふむ。「騎乗」か。今回はしかし、いろいろな意味で異色作って感じよねえ。なんつったって主
  人公が若い。17歳なんだよ〜。これまでほとんど30代以上の「男の中の男」を描き続けてきたフ
  ランシスにとっては、異例な若さの主人公よね」
Goo「そういえばそうですね。なんでいまさら、そんな若い主人公を持ってきたんでしょうね」
Boo「理由はいろいろ考えられるけど、やはりフランシス流の成長小説を描こうという意図がいちばん
  だったんじゃないかしら」
Goo「あの人ももう孫のいる年齢ですからね」
Boo「そうそう。その孫に読ませたかったのかも。ま、ともかくアラスジいって」
Goo「例にょって主人公はアマチュア騎手なんですが、ある朝突然理不尽な理由で騎手を解雇され、強
  引に父のもとに連れていかれるんですね。で、下院議員に立候補した父親の選挙活動を手伝え、と
  いわれてしまう。内心反撥しながらも主人公は結局、父にしたがって様々な妨害や暗殺未遂事件か
  ら身を挺して父親を守り、政治の世界の裏側に触れながら少しずつ大人になっていく、と。当然、
  暴君の父親との確執がメインと思いきや、実はこの父親が「厳しいけど誠実な」、つまりいつもの
  フランシスが主人公に選ぶような人物なんですよね。当然、主人公は彼につねに圧倒されながら成
  長していく、というわけで」
Boo「作者自身の願望が入ってる感じよね〜。年寄りを大事にせえ! ってさ。でも、そんな若い主人
  公を持ってきたせいかしら、いつもの読みどころである「主人公が内なる恐怖や弱気を意志の力で
  克服していく」シチュエーションは今回は抜き。しかもミステリ的な仕掛けもごく薄味で、どんでん
  返しその他もほとんどないという」
Goo「それでも魅力的なキャラクターのぶつかり合いでサスペンスを高めて、クイクイ読ませてくれます
  よね。もうこのあたりの巧さは名人の域に達しているって感じです」
Boo「う〜ん。でもやっぱり食い足りなかったわねえ。ボリュームも無いし、全体に意外なほど薄味だし。
  さすがに衰えたか、といういう印象が無きにしもあらずよね」
Goo「まあ、料金分はじゅうぶん楽しませてもらったんですから、文句を付けるスジアイじゃないでしょ?」
Boo「そうね〜。でもさあ、成長小説というジャンルはフランシスにぴったりに思えたんだけど、少々書
  くのが遅すぎたようね」
Goo「そうですね。実際、今年は本国でも長篇の新作は発表されず、初の短編集が出版されたそうですし。
  これから先、もうそうたくさんの長篇は読めないかもしれませんねえ」
Boo「まあ、ね。じゃ次に行きましょ」
Goo「次は「金蝿」。ポケミスの復刊シリーズの一冊ですね。クリスピンという作家はぼくも2冊程度しか
  読んでないんですが、とてもいい印象が残っているんです。気の利いた本格派っていうか、「当時の」
  新本格派だったんじゃないかな」
Boo「これはその処女作。おなじみのジャーヴァス・フェン教授が活躍する謎解きメインの本格ものなんだ
  けど……」
Goo「とりあえずアラスジいきますね。え〜、新作劇の上演のため、劇団の人々がオクスフォードの町にやっ
  て来る。やがて舞台稽古が始まるが、ある晩、一座の鼻摘みもので関係者の憎しみを一身に集める女優
  の射殺体が発見される。状況は一見自殺にみえたが、フェン教授の慧眼はいち早くそれが殺人であるこ
  とを見抜く……」
Boo「これはさすがに訳が古くて、読みにくかったわねえ。しかも、いつにも増して主人公の古典引用僻が
  全開バリバリで、回りくどい議論だの文学談義だのもしこたま。前段の錯綜した人間関係を延々と説明
  していく下りなんか、一般の読者には少々苦痛なんじゃないかしら。それにさあ、作者お得意のけたた
  ましいユーモアも、訳のせいか「時代」のせいか、わかりにくいし」
Goo「でも、きちんと伏線は張られているし、トリックも用意されているし。ラストではきちんと謎解きも
  あるし、結構の整った本格といえるんじゃないですか」
Boo「う〜ん。一言でいって「弱い」わよね。実際には殺人は1件きりでしょ。それも特に不可解というほ
  どでもないシロモノだしさあ。そもそもこのトリックはやはり短編ネタだわね。トリックとしてつまら
  ないわけではないけれど、見破るのはさほど難しくないし、いかになんでも犯人に都合のいい偶然が多
  すぎる……ともかくミステリとしての中核が非常に小ぶりっていうか、物足りないのよね。で、またそ
  の物足りなさを、悪ふざけっぽいユーモアや古典の引用で覆い隠そうとしているきらいがある」
Goo「そのへんのアンバランスさはぼくも感じました。たしかに贅肉を削ぎおとして短編にした方が、面白かっ
  たかもしれませんね。やっぱ処女作だけあって「若書き」だったのかも」
Boo「まあ、未訳作品が残ってるみたいだし、後期のものならまた読んでみたいけどね。はい、次」
Goo「じゃ、そろそろ国産ものにいきましょうか。年末近くなってこちらも新刊ラッシュですね。とりあえ
  ず西澤さんの新作を取り上げましょう」
Boo「ふむ。「ナイフが町に降ってくる」か。これはノンシリーズのSF本格ね。で、今回のSF的趣向はタ
  イムストッパー」
Goo「作者も後書きで書いてましたが、「スーパージェッター」を思い出しましたよね〜。つまり、この作品
  の主人公は時間を止めることができるわけです。ただし、それは恣意的にというわけではなく、あるきっ
  かけが必要で。しかも、ある条件がそろわないかぎり再び時間を動かし始めることもできないという」
Boo「そのきっかけというのが傑作よね〜。主人公が何か「疑問」を強く感じると時間が止まり、それが奇
  麗に解消されないかぎり時間は止まったままだというんだからさあ。超能力というよりある種の天災だ
  ね、これは」
Goo「モロ謎解きのために造られたよう設定ですよね。ともあれ、そういう前提条件の中で展開される事件
  の方ですが、これもかなり奇矯、というか、不可解な不可能犯罪ではありますね。きっかけは、主人公
  の目の前に見知らぬ男が刺されるという怪事件で、これはこれで十分奇怪なんだけれども、さらにその
  謎を追っていくうちに彼は次々と「何ものか」に刺された人間を発見するわけですね。しかも、それは
  一見、同時に行われたとしか思えない状況を示しているという」
Boo「主人公の「能力の発動」に巻込まれた女子高生、というワトスン役が付くけれど、ともかく世界の時間
  が停止しているのだから、彼がこの事件の謎を解き「納得」しないかぎり、時間は動きださない。よって
  警察も介入できないし、関係者の尋問もできない、という。えらく都合のいい状況ではあるわな」
Goo「ある意味、登場人物はこの2人だけってことですよね」
Boo「謎解き、という点に関していえば非常にピュアな環境を設定して見せたわけだけど、う〜む、これはや
  はり失敗じゃないかぁ?」
Goo「というと?」
Boo「この設定と事件の状況をすなおーに見れば、答えは「それしかない」わけで、そのくせ「それしかない」
  はずのその答えに、一向に気付かない主人公が、とてつもなくバカに見える」
Goo「う〜ん。たしかにフーダニットの視点からいったら物足りないけど、実際の犯行方法や動機の面で、い
  ろいろ考える要素はあるじゃないですか」
Boo「だけどこの場合、条件が限定されているから、真犯人が割れてしまえば、そんなもんある程度見当がつ
  いちゃうわけよ。結果としてラストで明かされる犯行方法にも動機にも、驚きというものが感じられない。
  謎解きミステリとしては、やはり計算違いがあったとしか思えないわ」
Goo「たしかにラストの驚きはいまいちでしたが……」
Boo「作品の性質上「この設定」あっての「事件」なんだけど、その設定そのものが逆方向に作用して謎解き
  を陳腐化してしまった、と。犯人像の動機にも相当無理があるし、この路線/SF本格にやや行詰りを感
  じさせるような仕上がりといわざるを得ないわね」
Goo「西澤さんはある意味、本格のホープですからねえ。多少点が辛くなるのは仕方がないトコロですかね」
Boo「まあ、西澤さんは今年も大活躍だったから、作品のしつにバラつきがあるのも仕方ないかもね。じゃ、
  次」
Goo「満を持して登場っつー感じですね。森博嗣さんの「有限と微小のパン」。シリーズ完結編、であります」
Boo「冒頭からいきなり「F」以来久々の「あのひと」真賀田四季博士も登場し、シリーズは美しい円環構造
  を描いて完結するという仕掛けなんだけど……とりあえずアラスジいってよ」
Goo「ゼミ旅行の下見を口実に長崎のテーマパーク(たぶん、ハウステンボスがモデルでしょう)を訪れた萌
  絵以下3人は、そこで不可思議な連続殺人事件と遭遇する。教会の中で男の死体が出現しさらに空中へと
  消失。腕だけが残される。はたまた警察官の面前での密室殺人では犯人が消失。さらにはバーチャルシス
  テムを体験中の萌絵の目の前で、再びバーチャルな密室殺人が。繰り返し届けられる謎めいた真賀田博士
  のメッセージに翻弄される萌絵。超絶の天才・真賀田博士の真意はどこにあるのか!」
Boo「繰り返される奇天烈な不可能犯罪は、まるで島田荘司の作品に出てきそうな設定だわね。ところがこれ
  を解決するために作者が用意したのは、「これをやったらおしめえよ」的トリックだったのよねえ。アン
  フェアとはいわないけどさ、この解決は「読者の想像を超えた」というより、「想像したけどまさかやる
  わけねえだろ」というネタを臆面もなく使って見せたということでしょう。ま、一言でいって茶番ね」
Goo「……でも、四季博士、かっこいいし……」
Boo「マジ? 「あれ」が「超絶の天才」とやらのやることかね」
Goo「う〜ん、じゃラストのどんでんはどうでしたか? かなり意外だったじゃないですか。伏線も張ってあっ
  たのに、ぼくは完全にダマされましたが」
Boo「ぬぁーにがどんでん返しよ。ちゃんちゃらおかしいわね! メインネタが割れた時点で、そのラストに
  仕掛けたどんでん返しの方も、容易に予想がついちゃったわ。だって「それしかない」んだもの」
Goo「あー予想付いちゃったですか」
Boo「あったりまえでしょ。ともかく、そんなこんなで作品全体がエラく薄っぺらで空虚な張りぼてに見えて
  きちゃって、読み続けるのが結構苦痛だったな」
Goo「む〜。でも、作品全体にちりばめられた謎の豊富さといい、読んでいる間は退屈しなかったけどなあ」
Boo「まあ、幸せならそれでいいけどさ。結局のところ、作者はこのシリーズを通して「本格ミステリの謎と
  謎解き」というものの虚しさを繰り返し描いていたわけで、いわばこの作品はその集大成」
Goo「う〜ん、ということは、これって森流の「アンチ本格ミステリ」なのかもしれませんね」
Boo「ま、なんにせよこの作品をもってシリーズが完結したのは、マコトにメデタイ」
Goo「作者の次なる展開に期待したいですね」
Boo「だ〜れが!」
Goo「やれやれ、んじゃ、次です。「殉教カテリナ車輪」は今年度の鮎川賞受賞作品。巷でもなかなかの評判
  ですよね」
Boo「今回は候補作が3つしかなかったということで、低調だったんじゃないかと思ったんだけど」
Goo「必ずしもそういうわけではなかったようですね。この作品も新人賞の受賞作として、十分満足の行くレベ
  ルの仕上がりだと思います」
Boo「そうね〜。この作品の一番の手柄は「装丁」ね! なんたってまずその凝った美しい装幀に驚いたもん。
  表紙カバーはマット系の黒い紙で、そこに光沢のある黒でしゃれた書体のタイトルと著者名。ダークでど
  ことなくデカダンな香りは澁澤龍彦あたりの本を思わせるのよね。しかもページを開くといきなり袋綴じ
  でしょ。切り開くとそこには、写実的な画風で描かれた奇怪な油絵の図版が2点。意味ありげなタイトル
  といい、じっつにミステリ心をくすぐる「つかみ」よねえ」
Goo「……なんか、内容はどうでもいいって言ってるように聞こえるんですが……ま、アラスジいきますね。
  主人公はある地方の美術館員。彼は、わずか5年の創作期間に数百枚の作品を残して自殺した無名の地方
  画家の作品に魅かれるものを感じる。で、その作品と死の謎を追い始める。と、ここで問題の2枚の絵が
  登場するわけですね」
Boo「要はこの奇妙な……奇怪といってもいい2枚の絵に描かれたモノを分析し読み解いていくことで、作者が
  そこに込めた何ものかを導きだし、ひいては作者の精神状態を探ろうとする。つまりこれが「図象解釈学」
  (イコノロジー)というやつで、いわれてみればこれって、なるほど本格ミステリそのままの謎解きなのよ
  ね」
Goo「実際、このくだりは魅力的でしたよね。大抵の読者にとっては、おそらく馴染みのないネタであるはずで
  すが、作者はコレを難解な蘊蓄に走ることもなく手際よく扱って、きわめて平易に謎を解いていきます」
Boo「まーね。いささか平易すぎて物足りない……分析・推理の過程に飛躍がなく驚きが足りない、という気も
  しないではないけど。ま、まずはこの素材に目をつけた作者の作戦勝ち。それくらい魅力的なネタだといえ
  るわ」
Goo「さて、作品はこの「図象解釈学」による謎解きが前半部を占め、後半は一転して別の語り手による「ごく
  ごくオーソドックスな」本格ミステリになります。これは画家の自殺の動機となったらしき「過去の事件」
  で、2つの密室殺人に1つの凶器、犯人消失という謎に「もう一つの大ネタ」でもって巧妙な仕掛けが施さ
  れています。つまり、後半はストレートな本格として書かれているわけですね。この部分も悪くない仕上が
  りです」
Boo「ただし、これはやはり長篇のネタというより短編向きのものよねえ。密室トリックもユニークではあるけ
  ど、それだけ取り出すとエラく呆気ないという印象が残る。つまり、作者はここに前述の「もう一つの仕掛
  け」を施すことで、不可能性を演出しているわけだけど……」
Goo「この「もう一つの仕掛け」、アンフェアという人もいらっしゃるようですが、ぼくはOKです。ayaさんは?」
Boo「う〜ん。いちおうOK。だけど、やはり不自然ではあるわね。処理の仕方にもうひと工夫ほしかったって感じ。
  それともう1点。こういう趣向なら当然、前半の「図象解釈学」と後半の「本格ミステリ」的謎解きとがラス
  トで有機的に連結され、響きあい、そこに全く新しい真相が姿を現す……というような構図を期待していたわ
  けよ。ま、これは残念ながら裏切られちゃったけどね」
Goo「まあ、それができていたら大変な傑作になっていたでしょうね」
Boo「でもさ、それができなかったから、結果として作品は2つに分断されてしまっているわけよ。で、前半・後半
  それぞれに食い足りない、という印象ばかりが残る。前半に比べた時の後半の文章の密度の低下、作品全体の
  コアであるはずの「画家」のキャラクターの弱さ、といった弱点もその一因よね」
Goo「まあ、そうはいっても、これがたいへんユニークかつ意欲的な作品であることは間違いないでしょう。また、
  本格ミステリ的な仕掛けについても、作者はすでに十分なテクニックを身に付けてらっしゃるように思えます」
Boo「ま、そのあたりは私も認めるけどさ。だからといって、この作品のような「図象解釈学」の要素を抜きに、
  十分に魅力的な作品を書くことができるかどうか? やはり疑問よね。小説作品のために油絵を新たに描く、
  という凝った作業をそうそう繰り返すことはできっこないんだし……」
Goo「その意味でも、次作には多いに注目したいものですね」
Boo「いちおう、留保付きの注目株にしとくわ。私も。じゃ、ラスト。御手洗さんで締めるんでしょ!」
Goo「お待ち兼ね〜! 「御手洗潔のメロディ」は5年ぶり(?)の御手洗ものですね。残念ながら長篇ではなく短
  編集で、しかも書き下ろしはなし……」
Boo「実際には4つの収録作は、ファンなら半分以上が既読作品でしょうね」
Goo「ぼくも買ってすぐ未読だった「IgE」に目を通したきりで、大事に本棚にしまい込んでいたのですが、今回あ
  らためて通読してみた次第です」
Boo「やっぱりね〜、段違いに面白いわよね〜」
Goo「実際、ミステリといえる作品は「IgE」と「ボストン幽霊絵画事件」の2つだけ。「SIVAD SELIM」「さらば
  遠い輝き」は、ミステリ短編集という趣旨からいえばボーナストラックってやつで、ミステリ味はほとんどな
  いのですが、物足りなさは感じません」
Boo「なんつーかこの、ファンサービスでありながら、きちんと読みごたえのある作品に仕上げてらっしゃるつーか。
  んも〜んも〜好きッ!」
Goo「……どーも、御手洗さんが出てくると、GooBooが成立しなくなっちゃいますねえ。ま、ともかく内容にも簡
  単に触れときましょう」
Boo「べつにいいじゃん。「読め!」で」
Goo「まあまあ。まず「IgE」ですが、一見無関係としか思えない2つの奇妙な事件を結び付け、御手洗さんが大事
  件の発生を予測し未然に防ぐというお話」
Boo「作品の構造はホームズの「赤毛組合」にちょっと似てるわね。御手洗さんの推理の展開は強引といえば強引
  なんだけど、その大胆きわまりない三段跳び論法の天衣無縫ぶりがとても愉しい作品ね」
Goo「一方「ボストン幽霊絵画事件」は、一瞬にして室内の壁に壁画が出現するという奇現象を解き明かす、長め
  の謎解き短編」
Boo「冒頭の銃弾打ち込み事件の謎はいささか児戯に類する安直さだけど、壁画の奇跡の謎解きはさすがにユニー
  クで面白かったわ。構成に不満が無いわけじゃないけど、全体としてみた時のクオリティの高さはさすが!」
Goo「で、4篇通して読むと、御手洗さんの学生時代の活躍、横浜時代の名探偵ぶりと私生活、そして近況を愉しむ
  ことができるという仕掛けになっています」
Boo「御手洗ファンにとっては何よりの贈り物といえるでわよね〜」
Goo「……どうも、御手洗さんが出てくると、シマリがなくなっていかんなあ」
Boo「いいのいいの。御手洗さんの話が読めるだけで、あたしゃ幸せ」
Goo「やれやれ……」
 
#98年11月某日/某ロイホにて
 
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