battle3(2月第1週)
 
[取り上げた本]
 
1 「消えた子供たち」     オーソン・スコット・カード  (早川書房)
2 「神曲法廷」        山田正紀           (講談社)
3 「冤罪者」         折原 一           (文藝春秋)
4 「空のオベリスト」     C・デイリー・キング     (国書刊行会)
 
 
 
Goo「今日はまたいちだんと寒いですよねー」
Boo「まったくねぇ。仕事の方もニッパチはダメだね。だからフトコロも寒い!」
Goo「だからって、そんなにてんこ盛りに注文しなくても……」
Boo「うっさいわねー、キミ。金がないからって心まで貧乏しちゃイカンよ」
Goo「……AYAさんに言われたくないです」
Boo「まーいいじゃん、細かいこといわないの!で、今日のお題は?」
Goo「今日はちょっと自信ありますよー。まずはカードの「消えた子供たち」です」
Boo「まぁた、ミステリじゃない本持ってくるー」
Goo「AYAさんこそ細かいこといわないでください。えっと、これは「エンダーのゲーム」などで有
  名な、欧米SF界の雄・カードの作品。ストレートノベルに近いホラーミステリってとこですか
  ね。僕的には昨年のベストの1冊って感じです」
Boo「ふーん。私的には昨年のもっとも怪しい一冊ってカンジだけどね」
Goo「怪しい?」
Boo「解説を斉藤由貴が書いてるのがアヤシイ。宗教臭さがプンプン匂ってくるのがアヤシイ」
Goo「・・・ともかくですね、ほとんど全編、運の悪いビンボな若夫婦の生活を描いていて、一見辛
  気臭そうなんですが、その夫婦の日常がなぜかすんごいスリリングで面白い」
Boo「つくづく辛気臭い夫婦なのよー。特にこの妻!うざったいたらありゃしない」
Goo「あのヒロインは、AYAさんみたいに神経がナイロンザイル製じゃないんですから。まあ、基本
  的には2人とも善人なんですよね。だからこそすれ違い行き違い、憎んだり許したり……こうい
  うリアルな人間関係のネジレを描かせたらホント巧い作家ですよね」
Boo「そして子供たちが消えていき、彼らの自慢の長男はオカシクなって見えない友達と遊びだす、
  と。この辺りのさりげない恐怖の盛り上げ方も見事だわね。でも」
Goo「でも、ってなんです。あ、ラストですか?」
Boo「そう、ラストよラスト。あれはないでしょー!あそこまでとことんリアルに攻めてきといて、
  ラストでアレはねー。やっぱ宗教はいってるーってカンジよね」
Goo「そうかなあ。あのどんでん返しで一気に、すべてのストレスが昇華されるというか、浄化され
  るというか。泣けましたよ、僕は」
Boo「あんた、とことん単純ね。ワタシゃどうもねー、作者の計算が透けて見えるんだもん」
Goo「ともかく子を持つ親なら、落涙率99%の必読本だと思います」
Boo「悪いけど、私は子供持つくらいなら舌噛んで死んじゃいたいクチなのよね。じゃ、次」
Goo「山田正紀の新作「神曲法廷」です。SFから本格ミステリへ華麗なる転身もすでに8作目。今
  までのミステリ作品はどうも違和感が残ったけど、この新作は悪くないでしょ。裁判所を舞台
  に密室、人間消失、そしてドーム球場を舞台に衆人環視の中の人間消失。まさにAYAさん好みの
  強烈な不可能犯罪ってやつですね」
Boo「勘弁してよー。派手な不可能犯罪ならいいってもんじゃないでしょー。強烈な謎はスマートに
  解決されてこそ、よ。なによあのビンボたらしい機械トリックは!なまじダンテなんか引っ張
  り出して仰々しさ演出しまくるもんだから、ますます解決部分が貧相に見えるてくるのよね」
Goo「確かに「神曲」のモチーフに全編が覆い尽くされていますが、こういう手法は珍しくないじゃ
  ないですか。京極さんに通じるものも感じましたね」
Boo「そうそう。そう考えると、これもまた作者の計算が透けて見えるのよ。現在売れ線の本格ミス
  テリを山田流にアレンジしたという。だけど、トリックはロクなもん思いつかなかったという」
Goo「うーん、そこまでいくと曲解だと思うけど・・・何にせよ、ヘンな話ですがいま本格ミステリ
  にいちばん情熱を燃やしてるのはこの人かもしれませんね」
Boo「確かにね。情けない話ではあるけれど」
Goo「本格に賭ける情熱といえば、この人もスゴイですよね。折原一。作品は「冤罪者」です」
Boo「この人の場合、本格ミステリというより叙述トリックに賭ける情熱だわね。その異常なまでの
  執着ぶりは彼自身の作品の登場人物そっくりだわ」
Goo「でもこの新作では、叙述トリックはそれほど前面に出てない気がしますが」
Boo「そうね。いつもほどじゃない。でも相変わらず読みにくいというか、わかりにくいお話よね。
  ドンデン返しの連続でクイクイ読ませるけど、なんとも未整理って感じ。文章も荒いし」
Goo「まあ、それもミスディレクションになってるんですから。ともかく構想・アイディアは非常に
  複雑で凝っていて、僕は面白かったです」
Boo「それでいて仕上げがあまりにも荒っぽいもんだから、その面白さが伝わりにくい・・・こーゆ
  ーのも眼高手低というのかしらねー」
Goo「じゃあ、AYAさんのお得意の分野にいきますよ。国書刊行会の世界探偵小説全集の21巻、「空
  のオベリスト」です」
Boo「このシリーズはいわく付きの作品が多いけど、これもまた、過去いろんな出版社から刊行予告
  が出ながら実際には一度も出版されたことがない“名のみ聞く幻の名作”ね。・・・幻のままに
  しとけばよかった気もするけど」
Goo「あれ?どうしたんですか?AYAさん好みのオールドファッションな謎解きじゃないですか」
Boo「そうなんだけどね・・・この作家の特徴はいわゆる“手がかり索引”なのよ。つまり名探偵の
  謎解きが終わった後、その謎解きの証拠が本のどこに記述されていたかを索引にして掲載してあ
  る。このことからもわかる通り、徹底してフェアプレイを重んずる作家なんだけど・・・」
Goo「確かに手堅い謎解きですよね。道具立ては犯行予告に飛行中の旅客機の中の事件、限定された
  容疑者と派手なものが揃っていますが、謎解きはホント手堅い」
Boo「手堅いというか、ジミなのよね。地味すぎてオドロキがないの」
Goo「確かに鮮やかに謎が解かれた!という爽快感はないかも」
Boo「ちょっとした矛盾の意味を名探偵が見破った瞬間、それまで見えていたすべての手がかりが全く
  別の意味をもって輝き始め、だまし絵のように「真実」という名のもう一枚の「絵」が浮かび上
  がってくる・・・本格ミステリの面白さってのは、その一瞬の爽快感に尽きるのよね」
Goo「この作品にはそれがない、と」
Boo「ま、仕方ないでしょ。これまで訳されなかったのには、それなりに理由があるってことよ」
Goo「……そういえば前に、同じ作家の「鉄路のオベリスト」を読んだ時もあまり感心できませんで
  したしね。でもまあ、ミステリ史を研究してるような熱心なマニアには、やはりどうしても読み
  落とせない本なんじゃないでしょうか」
Boo「まーいいわ。一応そういうことにしておきましょ」
Goo「不気味なほど、しおらしいですね」
Boo「実はけっこう期待してたんだよ、この本」
Goo「希望的観測は裏切られるためにしか存在しない……って言葉、知ってます?」
Boo「あんたの人生みたいだね」
Goo「……やっぱ気のせいだったようです」
 
 
#98年2月某日/某お多幸にて
 
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