battle30(5月第4週)
 
 
[取り上げた本]  
   
1「黒猫の三角」     森博嗣                       講談社 
2「法月綸太郎の新冒険」 法月綸太郎                     講談社 
3「サタンの僧院」    柄刀一                       原書房 
4「頭蓋骨の中の楽園」  浦賀和宏                      講談社 
5「ペルシャ猫の謎」   有栖川有栖                     講談社 
6「QED 六歌仙の暗号」  高田崇史                      講談社 
 
 
Goo=BLACK Boo=RED 
  
「いよいよ出ました! 「黒猫の三角」は、森さんの新シリーズの第一長編ですね」 
「出たね〜。ともかく、これはいろいろな意味でこれは問題作だと、私は思う」 
「ふむ、問題作ですか。というと? どのあたりが?」 
「まあまあそうあわてないで。取りあえず内容を紹介してよ」 
「ですね。じゃ、軽く。えっと新シリーズは、設定だけでいえば「館ものの密室殺人」。なんだか非常にオーソドックスな本格ミステリ風ですね。大きな学習塾チェーンを経営する富豪の夫人が脅迫状を受け取り、私立探偵に警備を依頼する。私立探偵は友人の学生アルバイト2名と共に、富豪の邸宅で警備にあたることになります」 
「おりしもその邸宅では夫人の誕生パーティが華やかに開かれていたッ! 屋敷の内外には探偵とその仲間たちが張り込み、監視の目を光らせていた……が、その目前で、一人で部屋に入ったはずの富豪夫人が殺されたのだあッ!」 
「えっと、まあそういうことでありまして。要するに衆人環視の中で犯人はいかにして夫人の部屋に侵入し、はたまた脱出したのか。読者の面前には、このきわめてシンプルかつ「堂々たる」本格ミステリ風の謎が提示されます。しかも、この殺人はこの地域で数年間にわたってある特殊な法則に基づいて繰り返されてきた連続殺人の1つであることもあきらかにされ、ミッシングリンクテーマの存在も示唆されるわけですね」 
「ところがぎっちょん! その密室殺人にせよ、ミッシングリンクにせよ、ものの見事に肩すかし! っていうか、謎そのものが卑小化されてしまうというか。本格ミステリとして読むならば……アンフェアとはいわないが……せいぜいが短編ネタ程度の「あッ」と驚く謎解きなんだよな。金返せ、こら!」 
「だから、これは森流のアンチ(本格)ミステリなのでは? というのが、本作に対するぼくの見解です。とことん本格ミステリ風のシチュエーションを用意しておきながら、ラストでそれを本格ミステリとしての枠組みごと「どんでん」返す。というか、この「真犯人」の提示する「悪」によって、謎も、謎解きも、一瞬にして無意味なものとなってしまうんですね。彼/真犯人によって、それらはそもそも「意味がない」「どうでもいい」ものとなってしまう」 
「それってつまり、本格ミステリというジャンルそのものの否定ということよね」 
「いや、しかしね、さらに深読みするならば、これはクイーンのあの「大トリック」を再現したともいえるのではないでしょうか。しかもこの作品の場合、それを……」 
「う、ネタバレしちゃうぞ!」 
「おっと! う〜ん、この部分についてはこれ以上つっこめませんかね」 
「そうねえ。まあ、「その部分」についてはミスリードテクニックだとしてもちょっとコスイ気がするんだけどね。まあわかるヒトにはミエミエなんだろうけどさ」 
「ぼくは全然わかんなかったですね〜。ラストでびっくらこいたクチ。密室とミッシングリンクの謎解きが「あまりにも」だったせいかもしれませんね」 
「う〜ん」 
「いずれにせよ、作者が書きたかったのは、この「アンチ本格ミステリ」という仕掛けと、犯人のキャラクター/テーマを重ね合わせることで、もう一つの価値観/スタンスを提示することだったのではないか、という気がします」 
「ちゅうことは、つまり真犯人の語っていることが作品全体のテーマだったということ?」 
「ええ。そんな気がします。で、これっておそらく以前の「犀川センセ」シリーズで見え隠れしてたそれと同じなのではないか。犀川シリーズでは背景にあったものを前面に打ち出してきたのではないか。そんな気がするんですよ」 
「で、それっていったいなんなのさ」 
「真犯人の独白で示される価値観というか思想というか。「悪」とは何か、「殺人」とは何か、という問題に関する、しょうしょう背筋が寒くなるような思想です」 
「ふむ。なるほど、いわれてみると「あの思想」って、ミステリ/本格ミステリの基盤に揺さぶりをかけるようなものではあるかもしれないね」 
「そうですそうです。つまり、さっきいったようにその「思想」と本格ミステリを無化するような「密室&ミッシングリンクの謎」が共鳴し合うことによって、未曾有のアンチ(本格)ミステリになりえているのではないか、と」 
「うううむ。仮に作者の意図はそうだったとしても、それが十分効果を上げているとはいいにくいんじゃないかなあ」 
「しかし、そういう狙いだったとすれば、このやり方はこれはこれでベストだったのでは?」 
「いや、そうは思わない。やはりね、ストレートな本格としても十二分に読ませて、その上で一切を無化するような「どんでん」というか、仕掛けというか。そういうものを用意してほしかった気がする。もちろんそれがひっじょ〜に困難な、ほとんど天才の領域の仕事だとは思うけどさ。アンチ本格ミステリなんつう野望を作品化するのだったら、それくらいやってほしかった」 
「まあ、そういわれれば、ぼくも同意するしかないですけど」 
「それにしても、一発目でこぉんな花火を上げてしまったこのシリーズ、今後一体どうなっていくんだろうね。果てしなく、本格ミステリを破壊していくシリーズになったりして」 
「そんな壮大な試みは、作者のキャラクタに似合わぬ気もするけど、実現したらそれはそれで面白いかも。今後に注目! ですね」 
「ま、いちおうそういうことかな……」 
「続きましては法月さんの新刊。「法月綸太郎の新冒険」はまたしても短編集ですが、これはかなりいいんじゃないでしょうか。久方ぶりにコアな本格を読んだという感じです」 
「カッチリした本格だわね。軽く内容にも触れておきましょうか」 
「ですね。えっと、収録されているのは全部で6篇ですが、まあいちばん最初の「イントロダクション」は挨拶代わりみたいなもんですから、正味5篇。まず「背信の交点」は別々の列車に乗った男女が、同時刻に同じ毒物で死亡するという事件。凝った心中事件か、はたまた奇妙な不可能犯罪か。列車を利用したトリックが鮮やかです」 
「たしかにこのトリックは面白かった。軽いツイストを効かせたラストも、なかなか余韻があっていい感じね」 
「つぎ、「世界の神秘を解く男」はポルターガイスト現象が起る家で、TV取材スタッフの面前で起った密室殺人という趣向です。カーを思わせる賑やかさですね」 
「少々盛り込みすぎたかな? 全体にゴタついた印象でラストの謎解きにも爽快感が欠けるし、ポルターガイストの解明もいささかおざなりな印象」 
「でも、他の作品にもいえることだけど、手抜きという感じはしないですよね。基本的なところはよく考えられていると思うんですが」 
「そうだけどさ、たぶん見せ方がうまくないのよね。スマートでないというか。かといって、カーのようなスラップスティックな笑いもないし。もう少し整理してスッキリさせたほうが完成度が高くなると思う」 
「ですかね。次は「身投げ女のブルース」。飛び降り自殺しようとしていた女を偶然助けた刑事が、直後に起った占い師殺害事件の謎解きに挑みます。これはこの本のベストでは? 冒頭から巧妙に張り巡らされた伏線といい、ラストのほとんど壮絶なまでのどんでん返しといい、まことに緻密かつ強烈って感じ。もののミゴトに背負い投げを食らわされた一編です」 
「このどんでんはほとんど「あざとい」といいたくなるほど強烈ね。前半部の伏線がラストで一本にまとまり、それまで見えていたものとは全く違う絵を描き出す。一瞬にして白と黒が反転するというか。しかし、これもごたついてるわね〜。その割りに舌足らずな印象もあるし。そのあたりを巧く整理すれば「今年の収穫」といえる作品になったかも」 
「ぼくはこのままで十分傑作だと思いますけどね。んじゃ、次。「現場から生中継」はひねりにひねったアリバイもの。なんせ容疑者はナマ中継中のTVに映っていた! という前代未聞・難攻不落のアリバイをもっていた、という。携帯電話を使った二重三重の仕掛けが面白い、トリッキーな作品です」 
「ストレートなアリバイ崩しと見せて実は……というサービス満点の一編だわ。しかし、こういうタイプの機械的なトリックはどうも板についてないっていうか。いかにも勉強しました・研究しましたという感じで、トリックの説得力はいまひとつね」 
「最後の「リターン・ザ・ギフト」が最新作ですね。こないだの「メフィスト」に載ってたやつ。交換殺人の新しい趣向って感じですね」 
「これは考えすぎでしょう。手あかのついたネタをあーでもないこーでもないとひねくったって印象だわ。その試行錯誤ぶりが作品にそのまま出てしまってるといったら、少々気の毒かしら」 
「いずれも120枚くらいの分量で、やや長めの短編というか短めの中編というボリュームなんですが、きっちり使い切って丁寧な仕事をしてらっしゃいますよね。なんちゅうか「誠実な」本格ミステリっていうか」 
「そうね、悪くはないと思う。鮮やか、というのではないんだけど、かっちりとスキのない作り込みだわね。ただ、この主人公、どうしてこうも花がないのかしら。名探偵らしい華やかさが少しも感じられない。これってたぶん作者自身に余裕がないから、なんではないかな。作品全体にいえることだけど、遊びとか洒落っけとか、どうもそういう余裕がないみたいなのよ。いつも限界ギリギリで仕事をしているっていうか……読んでて息苦しいのよ」 
「うーん、でも本格としての骨格はすごくしっかりしてるし、いい意味で読者に媚びてないというか。硬派というか。ぼくは非常に好感をもって読了しましたが」 
「別にその意見に異を唱えるつもりはないわ。クォリティの高い本格短編集だと思うもの。だけど、だからこそ、もう少し遊び心というか、余裕が欲しいのよね。肩の力を抜いて書けばいいのに、なんてね」 
「えー次は「サタンの僧院」。昨年「3000年の密室」でデビューされた柄刀さんの第二長編ですね。第一作は古代史の謎をメインに据えたかっちりした歴史推理の力作でしたが、この新作はカーばりの不可能犯罪が続出し、しかもそこにカトリックの神学論争が絡んでくるというゴージャスな一編。この作家さんはすごく力を付けられましたね」  
「たしかに力作よね。謎解きは少々物足りないんだけど、ともかく不可能犯罪の謎が強烈きわまりない。これだけでも本格ファンは夢中になるだろうな」 
「物語は、ヨーロッパのとあるカトリック神学校から始まります。敬虔なカトリック信者の若者が集まるこの学校に、ある日奇怪な闖入者が現れます。馬にうちまたがり、中世の甲冑に身を固めた「僧正」と名乗るその人物は、学院生たちに奇跡を見せてやると語り、学院生の一人である若者……学院長の息子であり、主人公の一人である甲斐・クレメンス……におのが首をはねさせます。驚いたことに「僧正」は首を失ったまま奇跡の成就を約し、甲斐におのが居場所を記した暗号文を与えます」 
「まるっきり中世の幻想譚のようだけれど、これはまぎれもなく「現代」の物語、なのよね。まあ、最後の最後までそうゆう中世チックな雰囲気なわけ。しかもけっこう描写に厚みがあって、少しも薄っぺらな感じがしない。……だったらいっそのこと、まんま中世の話にしてしまってもよかった気もするんだけどね」 
「さて、必死で暗号文の解読に取り組んだ甲斐はついにそれを解き明かし、単身、その村へ向かいます。一方、その出立と入れ違いに帰着した甲斐の兄・アーサーは、甲斐の危機を知って彼の後を追おうとします。そして、彼の行き先を知るため、暗号文の謎を解く鍵である「700年前の不可能犯罪」の謎解きに挑みます。この不可能犯罪というのがまた凄くって」 
「周囲に何も高い足場がないのに、足跡一つない広場の真ん中で墜死していた姫君。そして高い塔の上の密室で、家来と共に殺されていたその姉の謎。おお、カーか! 二階堂黎人か!」 
「てなわけで、その不可能犯罪を見事に解き明かしたアーサーは、甲斐を追って「僧正」の元に向かいます。さて、首なし騎士の正体は? 彼の起こした奇跡は本当に「神の子の蘇り」なのか?」 
「まあ、ほかにも「奇跡」や不可能犯罪は次々出てくるのよね。密室状態の鐘楼に一瞬の間に出現する死体、衆人環視のただ中で「見えない凶器」に刺される「予言者」等々……じっつに盛りだくさん」 
「ですよね、しかもそれらを一つ残らず、とにもかくにも合理的に解き明かしてしまうんですから。本当に贅沢な、堂々たる本格ミステリだと思います」 
「まあ、目先の「奇跡」「不可能」を演出するのに熱心すぎて、その謎解きは、謎解きというより「解釈」「説明」の域を出てないし、およそ再現不可能なトンデモなトリックがほとんだけどね」 
「それでも、これだけ連発されたらぐうの音も出ないと言うか。圧倒されちゃいますよ。それにね、たしかに一つ一つ取り出せば「トンデモ」なネタなんですが、かといって軽薄な、あるいは薄っぺらな感じはないじゃないですか。これは繰り返される重厚な神学論争や緻密な文体が、それらを見事にカバーしているんですよね。お見事だと思います」 
「うーん。力作であることは否定しないけどね。このトリックはなんぼなんでもちゃちすぎないかあ? 一生懸命考えましたって感じがモロ出てるというか、「スマートじゃない」のよね。なまじ全編が重厚な神学論争で彩られているだけに、いっそうそれとの落差が大きいっていうか。少なくともどう見てもこれって「現代」の話とは思えない。続発する奇跡に翻弄される村人や学生たちは、まるで中世の迷信深い人間みたいだよ」 
「う〜ん。ぼくはそういう雰囲気も含めて、ものすご楽しめたんですけどね」 
「だとしたらね、それこそ時代設定は「中世」とかにした方が、さらに効果的だったっと思うのよ」 
「なるほどね。まあ、それはともかく、名探偵役のアーサー君はかっこよかったー。シリーズ化されるといいなあ」 
「そうね。「薔薇の名前」のバスカヴィルのウィリアムの若い頃って感じ。作者は意識してると思うわ」 
「ですね。ともかくオールドタイプの本格ファンの方には強くお勧めです」 
「で、次は……頭蓋骨の中の楽園」ね、浦賀さんか。いきなり古いね」 
「古いというほどじゃないでしょ? 4月の発行ですもん。SFかファンタジーかベタ甘な青春小説か、てぇんで毀誉褒貶相半ばする作者の第三作長編。今回は比較的「いわゆる」本格ミステリ的枠組みに沿ったお話になっていますね」 
「作中に登場する作家に、そのあたりの路線変更のいきさつを語らせてるのがケッサクね。ネット書評家への悪口もでてくるし……まあ、あくまで作中人物がいってるわけだけど、作者、かなりナーバスになってんじゃないの? なあんて邪推したくなるわよね」 
「まあ、前作、前々作は相当叩かれましたからねえ。ウチも含めて……。とりあえずアラスジなぞ。これもなんだかまとめにくいなあ。えっと、自殺した父と殺された兄をもつ女子大生が殺され、首なし死体で発見されます。ところが、彼女のその死はあるミステリ小説の中で予告されていたことが分かります。しかし、その小説との関係は分からぬまま、同じ大学の女学生が次々と殺され、やはり首を切り取られます。というわけで、犯人が首を切った理由は? はたまたその死を予告していた小説の意味は? 混迷する事件の謎に、「記憶の果て」の主人公・安藤が挑戦します」 
「てなアラスジだけ聞いてると、まるでこれが本当に本格ミステリであるかのように思えてきちゃうけど……」 
「いやあ、だって本格ミステリでしょ? 少なくともそう読んでいけない理由はないんじゃないですか。今回はきちんと謎解きもあるし、しかもそこでは点在するいくつもの謎をきれいにまとめ上げて、あっと驚く真相を提示している」 
「あれは謎解きなんてもんじゃない。可能性の高い「解釈」ですらない。ほとんどこじつけに近い「妄想」、というか。そもそもそこにロジックのカケラもないじゃん」 
「でも、この「真相」には驚かされるんじゃないですか」 
「驚く、というより呆れた。アンフェア云々以前の問題だね、これは。思うに作者は、あちゃこっちゃでさんざん叩かれて「おーし、んじゃあやってやろうじゃんかよ、「驚愕の真相」ってやつを!」って考えたんじゃないの? んで、そのことばっか追求してるうちに、こぉんなゴタゴタした、てんでスマートでない「驚愕の真相」ができあがっちまった。今にも崩れそうな、しかも信じられないくらい薄っぺらな大伽藍ね」 
「問題の「首切りの理由」についてはどうです? あれって、どこかホックのあの名短編を思わせる動機でしたよね」 
「そうね。まあ、そのバリエーションといえるかも。バリエーションであることが悪いとはいわないけど、だったら、ホック作品をしのぐ使い方をしてほしいわよね。あまりにもお粗末でしょ?」 
「うーん。もう少し丁寧に伏線とか張っといてくれたら、ずいぶん違ったと思うんですけどね。それはそれとして……これは「妄想」かもしれないのですが、この作品の真犯人のキャラクター、というか「思想」って、どこか森博嗣作品の「あの人」を連想させません?」 
「えー? そうかな〜」 
「いや、どことなく似ているような気がするというか。作者はちょっと意識してたんじゃないかーなんて」 
「私は「あの人」も森作品も好きじゃないけど、これに比べれば1億倍まし! だと思う」 
「いや、それはそうかも知れないけど……とりあえず、関連性つうか類似性を指摘してこうかなー、と」 
「意味なーし!」 
「続きましては「ペルシャ猫の謎」。有栖川さんの国名シリーズの新刊ですね」 
「といっても収録されている7編のうち、国名シリーズは表題作の1篇のみ。まあ、一応火村シリーズに連なる作品が集められているわけだけど、玉石混淆というか石石混淆というか……」 
「一編ずついきましょうかね。えっと、まず「切り裂きジャックを待ちながら」。クリスマス公演を控えて準備を進める小劇団で、新作に主演する花形女優が失踪し、身代金を要求するビデオが届きます。それはさらわれた女優自身が犯人に脅迫されて語っているものでしたが、なにがなんでも公演を開きたい一座は強引に準備を始めます。しかし、そのゲネプロのステージ上、クリスマスツリーのに吊された主演女優の死体が発見されます」 
「派手な話ではあるわね。あとがきを読むと、これはもともとラジオドラマとして書かれたものを小説化したそうだから仕方ないのかしらね。ともかく派手な筋立てのわりに、謎解きも含めて核になっているトリックはおっそろしくチャチ。出来の悪い「古畑」レベルよね〜」 
「そうですねえ。それこそ「古畑」でやったら、けっこう面白かったかも知れないですね。次は「わらう月」です。これは写真を使ったアリバイトリックをメインにした謎解き。なんかトリックに関わる部分の記述にミスがあるそうですね」 
「ふーん。まあ、どちらにせよ、陳腐なトリックであることに変わりはないわね。一生懸命考えてるんだけど、面白みつうものがない」 
「うーん。「捜査される側」の助成の一人称視点というのも工夫だったと思うのですが」 
「彼女の「月への恐怖」というのが1つの趣向になっているわけだけど、うまく活かされてない。味付け以上のものではなかったみたいね」 
「次の「暗号を撒く男」は、独身男性の殺害現場である住宅に残された「奇妙な様子」にまつわる謎解き。殺人事件そのものはすぐ解決しちゃいますしね」 
「はさみに二枚の皿、マーライオン……謎解きというより「なぞなぞ」だわねー。勘弁してほしいわ、まったく」 
「作者もいうとおりヘンな話ですけど、それなりじゃないですか? 気の利いたショートショートっていうか」 
「気の利いたあ〜? どういう「気」だっつーの!」 
「そーかなあ。「赤い帽子」は珍品ですね。警察の「社内報」に連載された」作品ということで、刑事が主人公」 
「松本清張ばりに「足」で捜査する、という。それにしてもなあんで尻切れトンボなの? うっすら解決が暗示された段階でさくっと終わってしまうんだもんなー。いちばん面白かったのにな」 
「そうですね、かっちりした出来で面白かったですよね」 
「この「短編集の中」ではね。なんかだんだんいやになってきたなあ。次は「悲劇的」か。出来の悪いプラクティカルジョーク。「猫と雨と助教授」は名探偵・火村のポートレイトってとこ。ま、ファンの人だけ読んで下さいって感じだわ」 
「短編は……あまり得意じゃないのかも知れませんね。有栖川さんって」 
「このシリーズはもともと好きじゃないけど、どんどん悪くなってる。ネタというか、アイディアがどんどん枯渇してる」 
「もともとこの人はトリック一発! とかネタ勝負という感じじゃないですからね。きっちり伏線を張ったパズラーですからね。ある程度ボリュームがないと、書けないでしょう」 
「いいから「江神さん」ものを書きなさいと。これにつきちゃうわね」 
「う〜ん。ま、いっか。じゃあ次は「QED 百人一首の呪」でデビューした高田さんの長編第二作。これってシリーズになったんですねえ。「QED 六歌仙の暗号」です。前作はぼくの方が「百人一首」に関する知識がないため、じゅうぶん楽しめなかった記憶があるんですが、今回は……すんげぇ面白かったです〜!」 
「まあ、シリーズなんだから当然なのかも知れないけど、趣向は同じよね。ただ、テーマが「七福神」と「六歌仙」に秘められた壮大な歴史的謎解きというわけえ、割り方なじみやすかったってのはあるわね」 
「んじゃま、一応アラスジを。「七福神」を研究テーマに選んだ学生が変死するという事件をきっかけに、明邦大学では奇怪な事件が連続します。大学は「七福神」の研究を禁止しますが、変死した学生の妹・貴子は、あえてその「七福神」を研究テーマ選び、友人である奈々と桑原(前作で活躍した名探偵コンビ)と共に「七福神」と兄の変死の謎に挑戦します。やがて、七福神と六歌仙に隠された壮大な暗号と呪いが姿を現す……」 
「こうした歴史推理ものにありがちな弱点……歴史上の謎解きと現実の事件のリンクの弱さ……は、今回はかなり強引な形ではあるけど、だいぶんましになっている感じね。そうはいってもやはり「六歌仙と七福神」の謎解きがメインであることに変わりはないけどね」 
「これはよくできてたじゃないですか〜。たとえば「なぜ、七福神に女神は一人だけなのか」「なぜ毘沙門天は四天王のうち一人だけ選ばれたのか」「そもそもなぜ七人なのか」「なぜ宝船に乗っているのか」等々、「いわれてみれば」って感じの奇妙な謎が次々登場し、それらをすべて説明しちゃう「真相」には、マジで目からうろこ落ちまくりっていうか。まさに歴史推理の醍醐味が存分に発揮された快作って感じ」 
「まあ、基本的には「トンデモ」な推理なんだけど、ここまで大風呂敷を広げてくれると、いっそ痛快だし、愉しいわよね。小説としての構造は相変わらずバランスが悪いし、物語としてはおよそ出来がいいとはいえないのだけれど、ともかく「七福神の謎解き」一本でくいくい読ませてくれるのは間違いないわ」 
「こうゆうおバカな、というか、天衣無縫な「妄想」に近い推理っていいですよねー。読んでてわくわくしてきちゃう。もうストーリィのガタつきぶりなんか全然気にならなかったな」 
「本格ミステリとしてはこういうのもアリだわね。できれば小説としてももう少し洗練されてほしいんだけど、まあ新人の……メフィスト系の作としては上の部といっていいでしょうね」 
「なにもそんなに奥歯にモノの挟まったような言い方しなくたって……面白がって読んでたくせに」 
「わたしにも立場ちゅうもんがあるのよ、ってね。と、後は? 「血食」だっけ」 
「あーっと、アレは未読なんで次に回させて下さいよ。来月出すものが無くなっちゃう」 
「んなこたないでしょ。海外もんもいっぱいたまってるし」 
「まあそうなんですけど、それらもふくめて次回、つうことで」 
「えーい、いつまでたっても追いつけないじゃんか〜」 
  
  
 
 
#99年5月某日/某ロイホにて 
  
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