battle35(8月第4週)
 

 
[取り上げた本]
 
1「ハサミ男」        殊能将之                    講談社
2「ドッペルゲンガー宮《あかずの扉》研究会 流氷館へ」  霧舎 巧      講談社
3「氷の帝国」        ウィリアム・ディートリッヒ          徳間書店
4「見つめる家」       トム・サヴェージ               早川書房
5「イントゥルーダー」    高嶋哲夫                   文芸春秋
6「黄色い目をした猫の幸せ」 高里椎奈                    講談社
7「ペンギンは知っていた」  スチュアート・パーマー             新樹社
8「ミレイの囚人」      土屋隆夫                    光文社
 
 
Goo=BLACK Boo=RED
 
●高い完成度を備えた「一筋縄ではいかない」パズラー……「ハサミ男」
 
「さて、第13回メフィスト賞金受賞作の「ハサミ男」です。けっこう話題ですね。なんかいっとき作者と連絡が取れなくなって、メフィスト誌上でWANTED宣言が出されたり……」
「そのメフィスト誌上での合評でも、なんかこう期待を持たせる書き方してたもんねー。「完成度が抜群に高いぞ!」とかね」
「たしかに完成度は高いですね。パズラーとしてもよく考えられている。……というところで、粗筋行きましょう。えっと、主人公は2人の女子高生を残虐な手口で殺害し、その犯行手口から「ハサミ男」と呼ばれるシリアルキラー。3人目の被害者に狙いを定め、その少女をこっそりつけ回していたのですが、ひと足早く何者かに少女は殺されてしまい、しかも主人公はその死体の発見者となってしまいます」
「その少女殺害の手口が本家「ハサミ男」とそっくりで、そのことに興味を抱いた主人公/ハサミ男は、みずから真犯人探しに乗りだす……要するに「シリアルキラーが名探偵!」ってぇわけ」
「……ま、これ以上は書けませんよね。ともかく、設定の突飛さとは裏腹にきっちり考え抜かれたパズラーです。終盤のどんでん返しの連続もきれいに決まっていますし、総体として完成度はかなり高い」
「ふむ。たしかにきれいにまとまってはいるけれど、逆にこじんまりまとまりすぎて面白みに欠ける。「シリアルキラーが名探偵!」というキャッチフレーズのわりには、けれんがないというか」
「しかし、これは基本的にはパズラーですからね。ある程度地味な話になるのは当然でしょう。そういう意味で「シリアルキラー探偵」という趣向を持ってきたのは、その点を踏まえた精いっぱいの読者サービスであり、工夫であったと思うのですが。むろんトリックの核心とも巧みに連携されていますし」
「だからさ、私もそれは認めるし、悪くはないと思う。が、さほど良くもない。なんとなあく全体に平板で興趣に乏しく、サスペンスに欠け、印象に残りにくい。なんていうのかなあ……このネタだったら、もっともっと面白くなってもよかった気がするのね。まあ、そう持ち上げるほどの大ネタではないんだけれどね」
「作者の筆致はたしかにクールで、シリアルキラーものには珍しく乾いた・醒めた感覚が充満してますよね。でも、パズラーにはむしろこうした書き方の方が適切だという気もします」
「う〜ん。そのパズラーとして、どうか。という問題よね、気になるのは」
「パズラーとして、ですか? いったいどのあたりが不満なんです?」
「う〜ん、ネタバレせずに説明するのは至難の技なんだけどねえ。まず、この作品をパズラーと言い切ってしまうと、メイントリックのどんでんは見破れない。っていうか、パズラーであることがメイントリックのレッドへリングになっている、とでもいおうか。う〜ん、うまくいえないな」
「パズラーとして読者が解くべき「問題」が、メイントリックとはズレた位置に配置されているとはいえるかもしれませんね。しかし、それは作品として傷にはならないでしょう。パズラーとして読んで、さらに豪快などんでん返しも楽しめるという。よくよく考え抜かれた贅沢な作りとさえいえる」
「なんか違うんだよなあ。たぶん、そのあたりの有機的な連携が、いまひとつ効果的に処理されていないということなんだな。だからけっこう大胆不敵などんでん返しなのに、てんで印象に残らないというか。騙されても爽快感がない」
「う〜ん。それは冷めた文体のせいじゃないかなあ」
「だけじゃないと、思うけどね。それと、パズラーとして云々するなら、そうだな、まず犯人当てとしては少々緻密さに欠ける。そのくせ「問題」としては易しすぎ。登場人物が少ないし、あてずっぽうでも容易く当てられるわね」
「え〜ッ ぼくは最後まで五里霧中でしたが」
「迷探偵として定評あるキミじゃ、モノサシになんないんだよ。ま、それはいいとしても、終盤の謎解きがねぇ。パズラーにとっちゃ命であるはずのこの部分が、絶望的につまらないんだなー。作者は1人の名探偵に謎解きをさせるのではなく、多くの人物の証言を重ねていくことで論証していくんだけど……そしてそれは、作者なりの工夫だったと思うんだけど、やはり煩雑で分かりにくいし、華麗な推理というより、退屈な説明になってしまっている」
「それは、この作品の構造上致し方がないのでは? それと「名探偵の謎解き」という嘘っぽいシチュエーションを回避する狙いも、あったんじゃないですかね」
「その狙いはともかく、結果として退屈になったんでは失敗というしかないんじゃない。ともかくあの謎解きは、ロジックの破綻を怖れて、穴塞ぎに汲々としているって印象がある。なんとなあく、いじましいっていうか。本来もっとも痛快にして爽快な場面になるべきなのにねえ」
「新人らしさがない! ってやつですか?」
「っていうか、もともと謎解きのロジックそのものが美しくないのよ。緻密でもないし。それをああいうスタイルで語られたんじゃ、いっそう穴だらけにみえるわけで。弱点を強調してしまってるのよね……これは明らかに作者の計算違いでしょ」
「うーん。ともあれぼくは、新人離れした完成度の高さをもつ新人の作品の登場を素直に喜びたいですね。パズラーへのこだわりといい、構成の巧みさといい、新人としては本年屈指の実力者だと思います」
「ま、反対はしないけどさ。この人は短編の方が向いているような気がなんとなくする。短編、読んでみたいね」
 
●眼高手低の新本格ルネッサンス……「ドッペルゲンガー宮」
 
「新本格ルネッサンス! 新本格フェロモン100%! 鳴り物入りとはこのことですね。話題騒然のメフィスト賞第12回受賞作「ドッペルゲンガー宮」です」
「わざわざペンネームの命名を島田さんに依頼しているあたりにも、「新本格ルネッサンス」……夢よもう一度! てな出版社側の祈りが込められてる感じね。ま、どうにも儚い夢に終わりそうな気配が濃厚だけどねー」
「そんなことはないでしょう。たしかに未整理で拙い部分があるのは認めますが、作者自身「自分が読みたいものを書いた」とおっしゃってるとおり、全編に本格スピリットが充ち充ちた意欲作でしょう」
「意欲だけあっても、こうも「手」が追いついてないんじゃ話になんないよ」
「意欲だけってことはないと思いますが……とりあえず内容を。 人里離れた岬の先端に立つルネサンス様式の館「流氷館」で、主の開いたミステリ・イベントのさなか、その家の娘が失踪します。1年後、そのイベントの主席者に館の主から招待状が届き、不審の念を感じた人物が、某大学の一風変わったサークル≪あかずの扉≫研究会の面々に、館への同行と失踪した娘の探索を依頼したところから物語は始まります」
「まー、この≪あかずの扉≫研究会ちゅう主人公グループがスゴイぞぉ! 臆面もなく「名探偵」を自称するヤツ、自称こそしないがやっぱり「名探偵」なヤツ、「予知能力」をもった娘、鍵開けの達人、「無邪気で可愛い」娘、それともちろん語り手のワトソンくん。ベタどころかベタベタなこれらの登場人物は、ほとんど冗談としか思えない。てっきり洒落のつもりかと思ったけど、恐ろしいことに作者はマジ! うおおおお、寒気が、寒気が」
「……ともかく、研究会はその依頼に応え、「名探偵」を派遣。彼は一足先に流氷館に乗り込みますが、なんと館に集まっていた人々と一緒に「もうひとつの流氷館」へと拉致されてしまいます。やがて、いずことも知れぬその「もうひとつの流氷館」では、矢継ぎ早の連続殺人が起こります……」
「基本的には外界から切り離されたクローズドサークル内での連続殺人。いわゆる「嵐の山荘」テーマなんだけど、面白いのは、名探偵を含め主人公グループのほとんどがこの「もうひとつの流氷館」の「外」にいること。つまり、中の人間とは携帯電話によって連絡を取り合うという「ダイハード」チックな仕掛けなんだな」
「たしかに「ダイハード」ですが、この手の「嵐の山荘もの」の作品としては新趣向でしょう。アイディアですよねー」
「でも、残念ながらせっかくのその新趣向が、活かされているとはいえないわね。なんせ主人公がサークル内にいないから、必然的にサスペンスやショックが減殺されてしまうのよ。ま、それは仕方がないんだけど、だったら手が出せない名探偵側の焦燥感をテコにサスペンスを作り出す必要があるでしょ? なのに作者には「その技術がない」ときた。いたずらにジタバタするだけの空回りで、肝心のサスペンスはカケラも生まれないんだな、これが」
「とはいえ、「もうひとつの流氷館」の存在に関わるアイディアと、それを実現した特大級のメイントリックはなかなかでしょう。あまたある館もののトリックの中でも出色というべきでは? たぶんベースになった発想はきわめて単純なアイディアなんでしょうが、それを力業で実現してしまうあたり、二階堂さんの作品を連想させますよね」
「甘いな〜、甘い! あたしゃけっして二階堂さんのファンとはいえないけれど、この程度の作品と比べられたら二階堂さんが気の毒だと思う。だいたいねぇ、作品からトリックだけを抜き出して云々するのは間違ってるわ」
「といいますと?」
「トリックってのはねー、あくまでその作品の中でどう機能しているかが問題なのよ。そしてそれを総体として読者に対してどう見せるか。大切なのは「機能」であり「演出」なの。そういう点から云うと、この作品における、このメイントリックの使い方はド下手ね。あーいう力業の、それこそ一歩間違えばマンガチックなほどの大仕掛けなケレンは、それこそカーや二階堂さんばりの大仰な演出がないとかえって嘘っぽくなってしまうのよね」
「つまり、そうした演出がこの作品ではできてない、と。しかし、ああいう主役グループの設定では仕方ないんじゃないでしょうか? また、一歩間違えば嘘っぽく・マンガチックになりかねない「大業」だけに、登場人物達を「外」におくことで1クッション置き、嘘臭さを減殺させるというのも作者の周到な戦略であったように思えますが」
「それは違うでしょー。だいたいさあ、キミはあの「真相」ってやつに本当に驚けた? あたしゃぜ〜んぜん驚けなかったね!」
「うーん。ぼくはけっこう驚けたし楽しめましたよ。まあ、冷静に読んでみれば強引きわまりないトリックではありますけど……こういう子供じみたアイディアを現実のものにしてしまうって、ぼくは好きだなあ」
「私だって嫌いじゃないわよ、そーゆーの。でもさあ、今回の作品については、てんで平板でサプライズの欠片もないって気がしたわね。だいたいその問題のトリックだってぎこちないし……ま、それでも二階堂さんなら百倍活かして作品化してくれたんじゃないかな」
「たしかにメイントリックの肌合いなんかは二階堂さんを連想させますけど、基本的には「ミス研もの」でしょ。二階堂さんとは全然方向性が違うと思いますけど」
「キャラクターの設定はそうかも知れないけどね。しかし、そもそもその「ミス研もの」というアイディアが失敗だったような気がするわね。あの複数の名探偵による多重解決風の謎解きも失敗してるし」
「そうですか? あそこは、あれはあれでけっこう面白かったけどな。ロジックそのものは確かにご都合主義で飛躍も多いけど」
「キミの読み方は例によって甘すぎる。この作品はね、思いつきのネタ(ま、トリックといってもいいけど)にコーフンして、全体のきちんとした全体の設計図も引かないままに走り出してしまった。そんな作品なのよ。謎解きの方もムチャな理屈の上にさらにムチャな理屈をのっけて……そら恐ろしいくらいのご都合主義がしこたま。伏線の張り方の甘さもあって、パズラーとしては読めたもんじゃないわ。で、それをカバーするのが、ワトソン役の文字通り全力投球の「よいしょ」「フォロー」「賛辞」……まあ、このワトソン役に限らず、主人公グループの造形は鳥肌が立つほど幼稚なステレオタイプなんだけどね」
「うーん、そうした欠点を内包しつつも、読んでいる間はけっこう愉しませてもらった気がするんだけどなあ。たしかにこれが「本流か?」といわれると、肯んじにくいのは確かですけど。こういうのもあっていいんじゃないでしょうか」
「そうね。志の高さは買うわよ。けど、所詮これも徒花ね。マジで本格ミステリの本流をめざすなら、作者はかなりの努力が必要だと思う。少なくともこんな雑駁で散漫な構成で良しとしているようじゃ、百年経っても真っ当な本格は書けそうもない」
「なんだかなー、近親憎悪って感じがするけど」
 
●なぁんも考えないで楽しめる、近年希な剛速球冒険小説……「氷の帝国」 
「次の「氷の帝国」はウィリアム・ディートリッヒという人の冒険小説。この作家さんは本邦初紹介でしょう。これが処女作だそうですが、今どき珍しい! といいたくなるような非常にストレートな冒険小説です。これは面白かったな。なあんも考えないで楽しむことができました」
「ふむ。たしかに娯楽小説の王道って感じで楽しめるんだけど、冒険小説っていうとやっぱマクリーンやバグリイといった大御所の傑作群を連想しちゃうからねー。それらと比べるとやはり薄っぺらでマンガちっくだわな」
「いきなりマクリーンと比べられたら誰だってツライでしょう。ま、内容行きますね。えー、舞台は第二次大戦直前のアラスカ、ドイツ、そして南極。主人公はアメリカ人の腕利きパイロットなんですが、その慎重な性格ゆえにある富豪冒険家の南極横断飛行を途中でうち切り、それがために「臆病者」の烙印を押された彼は、アラスカでしがない輸送屋をやっています」
「ようするに主人公は「負け犬」なのよね。その「負け犬」がいかにしてその過去を克服するかがテーマの1つになっている」
「その主人公に、あのナチスドイツから、南極探検のオブザーバーとして参加するよう要請されます。ナチの企画した探検の意図に不穏なものを感じ、迷うのですが、結局主人公は失われた誇りを取り戻すため探検隊の一員として南極に向かいます。さてここからが本筋。荒れ狂う南氷洋、怪しげな探検隊員、美女科学者……やや「典型的」なネタを散りばめながら探検隊の船は南極へ。そして暴風雨に遭遇し遭難の危機を主人公の決死の飛行で回避した一行は、嵐を避けて奇妙な無人島の入江に逃げ込みます。そこには半ば沈没したノルウェイの捕鯨船があり、奇怪な死体が転がっています。その死因を調べるうちに、一行は戦争の帰趨を左右しかねない驚くべき事実を発見します」
「ま、後半はその発見を巡り、さらには主人公とロミジュリ状態になってしまったドイツ人女性の恋を巡って、ナチスドイツと主人公の凄絶なチェイス&バトルが展開されるわけよね。通俗といえばとことん通俗。ご都合主義しこたま!」
「だけど、面白いですよう。ことに主人公グループが南極にたどり着いてからは、まさに波瀾万丈! ページをめくる指が止まらなくなってしまう。B・ウィリス主演で映画化希望!っつー感じですね。ヒロインはN・キッドマンかな」
「うーん、面白いのは否定しないけどさ、やっぱマクリーンなんかの描写力に比べると厚みつうか重量感が足りないように思えて仕方がないわねえ。これは訳文のせいかもしれないんだけどさ」
「どーでもいいじゃないですかあ、こんだけ面白ければ! そりゃマクリーンは面白いし、バグリイもライアルも好きだけど、これはこれで上出来の娯楽作品だと思うなあ」
「こうゆう冒険小説のキモはさ、やっぱ非力な人間と荒れ狂う大自然の闘いがハイライトだと思うわけよ。圧倒的な自然の力に、しかしくじけず挑む卑小なヒーローの男っぷり! これなのよね。そのためには自然描写にどれだけリアリティを持たせることが出来るか、がとても大切だと思うのよ。その点、この作品は「南極」なんつう格好の舞台を用意した割には、今ひとつ食い足りない。「南極って怖い!」と思わせてくれなけりゃ、主人公達の冒険ももう一つ盛り上がらないわよねえ」
「ほーんと、ayaさんって贅沢ですねえ。こういうプリミティヴっつうかストレートな冒険小説なんて、最近めったに読めませんよォ。読めただけでもありがたいと思わなくっちゃ!」
「う〜ん。そーゆーもんではないと思うけどなあ」
 
●足りないものは「名探偵」だけ……「見つめる家」
 
「お次は「見つめる家」。トム・サヴェージの邦訳第3作目となるサスペンス長編です。「崖の家」「愛をこめて、ヴァレンタイン」の前2作は、いずれもたいへんスリリングな作品でしたが、この第3作目はそれら以上に上出来のサスペンスですね。ゴシック小説風の一見古風な装いのお話のせいか、あまり話題にもなってないようですが、これは本格ファンの人もぜひ読んでおいてほしい作品です」
「いや〜、たしかにサスペンスたっぷりで面白いけどさ、本格として読むのはさすがにキツイんじゃないの〜?」
「伏線はかなり綿密に張ってあるし、トリックだってとびきり大きなやつを一個、使ってるじゃないですか? 個人的にはあとは「名探偵」さえでてくれば、そのまま本格ミステリになったんじゃないかって気がするんですよ。そう……とびきりサスペンスフルな館もののパズラーに」
「パズラーねえ……キミはこの手のゴシックっぽいお話が好きだから。ま、いいや、アラスジを」
「へいへい。えー、ヒロインは旅行代理店のOL・ホリー。ごく平凡な両親に育てられ、ごく平凡な生活を送っていた彼女の元に、ある時、全米屈指の富豪である名家ランドル家の当主から彼女に驚くべき手紙が届きます。実はホリーはこの名家の血を引く子供で、事情があって養子に出されたのだというのです。そして、現在の当主である女性は、これまたある事情で一族の財産をホリーに残したい……端的に言えば新たな当主となってほしい、というのです。ホリーは、とまどいながらもランドル邸を訪れます」
「当主を失った富豪の怪しげな館に、何も知らない娘がやってくる……ゴシックロマンだねえ、「レベッカ」そのまんまだもんなあ」
「作者は、しかしあえて「そのまんま」の設定を使っているんですよね。そして「狙い」はみごとに成功しています。え〜、アラスジの続きです。ホリーを迎えた大勢の使用人に美しい叔父夫婦は揃って彼女を歓迎します。しかし、実はホリーの出現で遺産相続のチャンスを失った叔父夫婦は密かにホリーを殺す計画を練り、また深夜の屋敷を徘徊する「半分顔のない」男やホリーに何事かを伝えようとする黒衣の狂女など、屋敷には秘密と陰謀の影が渦巻いています。やがて多数の客を招いて開かれたクリスマスパーティの夜、ついに恐るべき惨事が……」
「怪しげな登場人物、陰謀、出生の秘密、一族の血に秘められた秘密、スキャンダル、美青年との恋……たしかにゴシックサスペンスの定型通りの設定でありストーリィであるんだけど、そのスピード感はやはり現代のもの。ともかく次々と読者の意表を突く展開が連続し、ページをめくる手が止まらなくなってしまうわけで、そのリーダビリティはまさにジェットコースター感覚だわね。ま、そうはいっても、意味もなく「秘密」を隠して黙り込む登場人物や、求めて窮地に飛び込んでいくような馬鹿オロカなヒロインには、「定番」と思いつつもイライラするんだけど」
「ところが、そう思ってしまった読者は、すでに作者の術中にはまっているんですよね。ともかく終盤のどんでん返しに次ぐどんでん返しを呆気にとられながら読み終えて、あげく明かされた「真相」はかなりショッキングです」
「私は半分くらい読んだ所で察しが付いた。けど、逆転また逆転の続く物語のスピード感に幻惑されちゃうのは無理ないかも。この作者は相当のテクニシャンだよ」
「読み返すと、「真相」は非常にあからさまな形で、しかも非常に早い段階から読者の目の前に突きつけられているんですよね。手がかりの伏線もかなり大胆に張られているし……確かに名探偵による謎解きこそないのですが、ぼくはこれは十分本格ミステリとして読むことができる、しかも上出来な作品だと思います」
「うーん。キミの言いたいことはわかるんだけど、しかし、これはやはり本格ではなくサスペンスとして分類すべきなんじゃないかなあ。きわめて巧妙な、巧緻に充ちたサスペンス」
「たしかに使われているトリックは、いずれも使い古されたものばかりですし、使い方そのものにも新しさはありませんが、それを作者は優れた語り口とプロットワークでもって、みごとに隠蔽している。これは明らかに本格ミステリ的な方法論だと思うのですが」
「うーん、そもそも優れたサスペンスというのは、多かれ少なかれ本格ミステリ的な要素を巧みに取り込んでいるもんだと思うよ。いや、これはサスペンスに限らず、すべてのミステリについて言えることなんじゃないかな。やっぱり本格ミステリというのは、あらゆるミステリの「母」なんだと思う」
「なるほどねえ。そういわれればそうなんですが、この作品についてはともかく伏線の張り方が実に本格ミステリ的というか……なんせ「名探偵」はいませんから真相が明かされてもその伏線がいちいち解説されたりはしないのですが、「本格読み」ならラストで確実に伏線に気づくはず。この「してやられた」気分というのは、やはり本格ならではのものなんではないかなあ。まあ、別に死にものぐるいでこだわるような問題でもないんですが」
「まあ、ね。ただ、使い古されたトリックであっても、作者の腕一つで上出来な作品として活かすことができる、このことがよおくわかる作品であることは間違いないわね」
「そうですそうです。あえて今年の収穫の一つ、とぼくはいいたいですね」
 
●小綺麗にまとまりすぎた正統派ハードボイルド……「イントゥルーダー」 
「ちょっと遅くなってしまいましたが、「イントゥルーダー」は第16回サントリーミステリー大賞&読者賞のダブル受賞作品。作者の高嶋さんはどうやら原子力関係の技術者さんらしいのですが、今回の受賞前にもいくつか受賞歴があるようで、まったくの新人さんというわけではないようです」
「文章、こなれてるもんね。理系だからどうこうというより、新人離れした安定した文章だと思う」
「というわけで内容ですが、これは作者の専門知識を十全に活かした、しかもきわめて正統的なハードボイルドの佳作ですね。アラスジ行きます。主人公は一流コンピュータメーカーの副社長で、日本のS・ジョブスと呼ばれる天才技術者。ある日突然、昔2ヶ月だけ同棲していた女性から、息子が交通事故で重体だと連絡されます。それまで息子がいることさえ知らなかった主人公は、とまどいながらも病院に向かいますが、息子は瀕死の重傷で意識不明。しかも事故の状況に不審を覚えた主人公が単身息子の身辺を調べるうち、巨大な陰謀の影が見え始め、主人公自身も身の危険を感じはじめます。しかし、話したことさえない息子の真意を求め、彼はあえて窮地に飛び込んでいきます」
「冒頭の展開はゴダードの「日輪の果て」そっくりね。意識不明の息子の実像を求めて息子の回りの人たちに話を聞いて回るというのは、ガーヴの「ヒルダよ眠れ」の趣向を一ひねりしたものかしら。それと後半クローズアップされる「父子もの」風のテーマは、「初秋」とか一連のハードボイルドを連想させるわね。ついでにラスト近くで明らかにされる「巨大な陰謀」というのは、相当ステレオタイプよね〜」
「つまり「借り物」ばっかといいたいわけですか? でも、「初秋」は違うでしょう。実際、血がつながった「親子」であるわけだし、一緒に生活したり教えたりするわけでもないし」
「そうなんだけどさ、雰囲気がね。たとえ離れていても「子」の方は主人公を見つめ、その背中を見て成長してきたつう話しでしょ」
「まあ、たしかに全体としてあまりオリジナリティは感じませんが……だけど、こーんなに金持ちで社会的地位の高い主人公によるハードボイルドってのはオリジナルなんじゃないですか? おまけに腕っ節はとことん弱いし」
「だけどさあ、その「個性」が、さほど作品に活かされてるとは思えないのよね。後半、「巨大な陰謀」が見え始めてからは、主人公が一流企業の創業副社長であるが故のジレンマが強調されてくのかなあと思ったんだけど、これはしごくあっさりクリアされちゃうし。ラストのテーマをぶち上げるには格好のネタだと思うんだけどね。なんつうか全体に主人公の動きがきわめて直線的なのよ。むちゃくちゃ頭のいい、切れる技術者って設定なのにね」
「うーん。しかし、作品としての完成度は高いと思いますよ。新しさはないけど、これだけ安心してクイクイ読める新人の作というのも珍しいのではないでしょうか。ごく正統的なハードボイルドという点も、最近では貴重だと思うし」
「なまじテクニックをもっているもんだから、新人らしい「冒険」もせずに易々と水準作に仕上げて、事足れりとしてるような気がしちゃうのよ。だいたいさあ、覚醒剤にスーパーコンピュータ、原発と、あきれるくらい賑やかにネタを盛り込んでる割には、どれも中途半端っていうか平板で陳腐。手持ちのネタを適当に案配して、定番通りのどんでん返しをいくつか入れてできあがり! って感じで、安直。私は感心できない」
「才能はある人だと思うんですけどね」
「ちんまり体裁良くまとまっただけの小才子に、私は興味はもてないわね」
 
●頼むからミステリのふりは止めてくれ……「黄色い目をした猫の幸せ」
 
「高里椎奈さんのこれは第2作。「黄色い目をした猫の幸せ」は例の妖怪三人組の薬屋探偵シリーズ・第2弾ということになります。実際にはこちらの方が執筆は早かったそうなので、実質上の処女作ということになりますか」
「ミステリとしては同じように低レベルだけど、あっちの方が一見派手だからデビュー作に持ってきたんじゃないの。まーどうでもいいんだけどね、こんなちゃちな作品」
「まあまあ。とりあえずアラスジをば。えー、発端は派手ですね。ある少年が薬屋のもとに殺人を依頼してくる。まあ、依頼を断るまでもなく少年は去ってしまうのですが、翌日その殺人依頼のターゲットだった別の少年が首と手足を切断された惨殺死体で発見されます。前日の「殺人依頼」の件を嗅ぎつけた警察に疑われたこともあって、薬屋探偵は捜査に乗り出します……」
「まあ、無粋は承知でミステリ的な部分についていうと、それなりに伏線は張ってあるけど所詮はとことん安普請。偶然しこたま、犯人側の仕掛けも探偵側のロジックも飛躍と破綻だらけで真剣に読もうとすると腹が立ったり気が遠くなったりしてくるので、「ミステリとして読む」のは止しにしましょう」
「まあ、ね。基本的にこれは妖怪三人組の気の利いたやりとりや、細部のこじゃれた表現を楽しむべき小説ですからね」
「刑事たちのそれも含めて、絵に描いたようなヤングアダルトノリで統一されている。その手を愛読してた人は楽しいのかも知れない……あたしにゃ理解の外だけどね。だいたいさー、ヤングアダルトあがりの女流作家って、総じて小説がむちゃ巧い人ばかりなのに、どうしてこの人だけこんなにもヘタ、なのかね」
「ヘタ、ですか?」
「気が遠くなるほど陳腐で通俗なキャラクタ造形ってのは、まあ「百万歩譲って」良しとしよう。だけどさ、根本的に下手でしょ。主役3人の書き分けさえ出来てない。あたしゃすーぐ誰が誰やら分からなくなるし」
「そーですかぁ?ayaさん、YAを読んでないからでしょ?」
「読んでるわよ。昔だけど、「ジャパネスク」だって「ブギーポップ」だって読んだ。どれも、この作家の作品の千倍は面白かったね」
「うーん。そのあたりの大御所に比べられるとツライのかなあ」
「これさあ、マンガにすればいいんじゃないの。結局、主役グループにせよ警察にせよ、こりゃどーみても少女マンガ(それも相当古臭いやつ)のキャラじゃん。作者が書き分けられなくても、絵にすればOKでしょう。それが無理ならYAみたくしこたま挿し絵を入れるとかさ。その方がきっと読みやすいし面白く感じられるんじゃないのかな。なまじ小説スタイルだから、警官たちの少女マンガチックな会話に総毛だったりしなきゃなんない」
「あれはあれで面白い味わいがあると思うんだけどなあ」
「たしかにキミのレベルに最適な幼稚さ、ではあるわな。……しかし、第一作で華々しくブチあげた「妖怪がらみのもめ事解決」というコンセプトはどこいったんだろうね〜。今回のこれって妖怪の影も形もないじゃん」
「まあ、こっちの方が先に書かれたものだそうですから……」
「ふーん。んじゃ、この作品における主人公三人組が妖怪である必然性ってナニ? ただのイロモノ? 味付け? あー、「個性的なキャラクター作り」ってやつかあ! いやあ、こりゃあ一本取られたなあ!」
「やれやれ」
 
●ライスに連なる都会派軽本格の典型……「ペンギンは知っていた」
 
「あの森英俊さんの監修になる「エラリー・クイーンのライヴァルたち」という新しい叢書の一冊目は、スチュアート・パーマーの「ペンギンは知っていた」。ぼくはこの人はほとんど知りませんでしたね〜。「ミステリマガジン」で短編を読んだことがあったような気はするんですが……主人公が元気のいいおばさん先生だったこと以外は真っ白けですね」
「そうねえ。短編は何度も「ミステリマガジン」に紹介されているけど、長編の邦訳はこれが初めてだし、この作家も忘れられた本格ミッシングリングの1人といえるかも。ちなみにキミが覚えているという名探偵役のヒロインは、この作品でも主役を張ってるオールドミス(といっても39歳よ! 失礼な!)の小学校教師、ミス・ヒルデガード・マーサ・ウィザースね。この「ペンギン」は作者のデビュー作品であり、同時に名探偵ウィザースのデビュー作品でもある。彼女は合わせて14編の長編で活躍したってぇんだから、けっこう人気があったんでしょうね。ちなみに、長編の邦訳はこれだけだけど、短編なら「犯罪の中のレディたち」と「クイーンの定員」に収録されてるそうよ」
「作風的には、マローンもので有名なクレイグ・ライスに近いものを感じますね。都会的な軽本格っていうか。素っ頓狂な事件の連続にドタバタのコメディ味をブレンド、レトロモダンな洒落っけをひとふりしたような……。舞台はNYの水族館。小学生の一団を率いて見学に来ていたヒロインは、ペンギンの水槽に浮かぶ死体を発見します。たちまち水族館は封鎖され容疑者の尋問が始まりますが、被害者はある株式仲買人と判明し、その妻が容疑者としてクローズアップされるや、彼女のかつての恋人だった青年弁護士が犯行を自白してします。急転直下の解決に、しかし納得行かないヒロインは、半ば強引に警察の捜査に協力を申し出、生徒をほったらかしにして捜査を開始します……」
「まあ、その後も密室状態の牢獄で容疑者が首を括られたり、次々と自白する男が出てきたり、物語はとてつもなく賑やかね。続発する「謎」や「意外な展開」には不自由しないけど、謎にせよその謎解きにせよ、一つ一つの内容はごくごくお手軽なものだったり強引きわまりないものだったり……やはりこれはあまり真剣に本格として読むタイプの小説ではないわね」
「ぼくは、逆に想像してたよりもずっと本格らしいだなあ、と思いましたけど。たしかにバタバタと落ちつきなく事件が連続し、何がなんだか分からないうちに解決していく観はあるんですが、謎解きとしての基本的な骨格はけっこうかっちりしてるんじゃないかな。なんせ処女作ですから、全体に雑駁で未整理な印象はありますが、軽本格と切り捨ててしまうのはちと惜しい。もう何作か読んでみたいですね」
「まあ、それは私も同じだけど、基本的には上出来のミステリドラマって感じのレベルでしょ? たとえばさあ、ラストの法廷場面で名探偵が犯人を指摘するシーンで、彼女が仕掛けた「トリック」なんて、ありゃあんたどう考えてもTVドラマでしか使えないよ。まあ、作者は映画脚本も手がけていたらしいし、実際このシリーズも映画になってるそうじゃない。作りの派手さといいドタバタぶりといい、(一昔前の)映像向きの作品だったと言えるんじゃないかな」
「うーん。まあそうですかねえ。たしかに映像化されてるんだったら、ぜひ見てみたい気はしますが」
「でしょ? それと、このシリーズは前述のクレイグ・ライスのマローンものと競演した短編があるそうじゃない? 私はそっちが読んでみたいわね。体質的に、この2人の名探偵はすごくフィットするような気がする」
「ayaさん、マローンが好きですもんね。それはぼくも読みたいな。てなところですかね?」
「あとひとこと」
「なんですか?」
「こーんなもんが「クイーンのライヴァル」か? へそが茶をわかすぜい!」
「あ、やっぱし」
 
●巨匠、健在なり!……「ミレイの囚人」
 
「さて、次は「ミレイの囚人」。久々の、ほんっとーに久々の土屋隆夫さんの新作長編です」
「いやあ、土屋さんの新作が読めるとはねえ。正直いってあきらめてたんだけどね。鮎川さんのアレ同様……」
「いやいや、あれだってもうプロットはできあがってるそうじゃないですか。鮎川さんはいつでも書ける、っておっしゃってるんでしょ?」
「とても、そんな楽観できる状況とは思えないけど……。ま、いいや。ともかく「ミレイの囚人」よ」
「ですね。まあ、土屋さんについては今さら紹介するまでもありませんよね。戦後の我が国本格ミステリ界をになってきた巨匠です。鮎川さんと共に現役としては最長老のお一人でしょうね。未読の方、もしいらっしゃるようでしたらただちに読みましょう。え〜っと「針の誘い」「危険な童話」「赤の組曲」「影の告発」……」
「きりがないのよ〜」
「はいはい。しかし、これって、ストーリィは紹介しない方がいいんじゃないでしょうか? 構成そのものに仕掛けが施されてるわけですし、設定を説明するだけでもサスペンスを殺ぐことになりそうな気がします」
「うーん、そういえばそうよねー。じゃあ、アラスジは止めとこう。回りくどい評になるけど、仕方ないわね」
「えっと、この作品では、ある超有名な海外作家のサイコホラー長編……映画化もされた作品……の設定が活かされています。ミステリ作家が主人公をつとめる前半は前半部は、まさしくサイコサスペンス風に展開していきます。もちろん細部はまったくちがう設定になっているのですが、これはやはり「あの作品」を意識してますよね」
「当然、そうでしょ。正直いって「なあにを今さらヤキナオシてんのよ、巨匠老いたり!」とか、一瞬思っちゃったんだけど……」
「ところが、そう思った時はすでに作者の術中にはまってしまってるんですよねえ……。ともかく、この前半部はサイコホラーとして読んでもきわめてスリリングで、思わずクイクイ読んじゃうんですが、実は縦横に伏線が張られた「問題篇」でもある。というのは後半、物語はがらりとその様相を変え、堂々たる本格ミステリに変貌するのです!」
「堂々たる、というのは大袈裟じゃないのー? アンフェアとはいわないけどさ、パズラーとして読むとかなり不満が残るわよねえ」
「まあったく文句の多い人だなあ。ま、ともかく後半、物語は本格ミステリに変貌する、と。これはいいでしょ?」
「ま、その点に異論はないわ」
「この後半の主人公は秋宮警部補……こっちは概要しゃべってもいいですよね?……とあるマンションで作家志望の男が殺害され、主人公はその捜査を担当します。事件直後、現場付近で不審な女が目撃されますが、彼女はその直後にクルマにはねられて死んでしまいます。その死んだ女が犯人かと思われるのですが、現場にはなおも不審な点があり、捜査が進むに連れ死んだ女と「前半部の事件」が奇妙な形でつながりを持っていることがわかってきます。うーん、これ以上はいえませんかね」
「それだけじゃ、読者には何がなにやらわからないだろうけど……仕方がないかしらねー」
「ともかく、じつに大胆なトリックを駆使して、ラストで作者は豪快なドンデン返しを決めてくれます。たしかにayaさんがおっしゃるように、純粋なパズラーとしてはいささか手がかりの提供の仕方が物足りないのですが、これは仕方がないでしょう」
「しかしあれは少々安直すぎないか? あのサブトリックは。たしかに手がかりや伏線は張りにくい類のものだと思うけど。安易といえばすげえ安易だよ。構成そのものに仕掛けたトリックの方は、こりゃさすがに土屋さん……というか、土屋さんらしからぬ派手なけれんに充ちてて大いに楽しかったけどね」
「ぼくは、あれだけやってくれればおっけーです。まだまだ書けますよ、土屋さんは」
「うーん。しかし、文章とか、さすがに古びている気がする。丁寧に書かれた端正な文章なんだけどね、ボキャブラリそのものが20〜30年前のものって感じで。けっして読みにくいわけじゃないんだけど、なんだか昔の本を読んでるみたいな気分になる」
「それは許容範囲でしょ。文章としてはむしろ読みやすいと思う」
「読みやすさ云々でなく、センスというか雰囲気というか。やっぱりちょっと辛くない?」
「それも、まあ許容範囲でしょ。ともかくぼくはあの土屋さんが、これだけ元気いっぱいな「試み」に充ちた本格ミステリを書いてくれたことを、素直に喜びたいですね」
「ま、それには私も賛成だけど、若い読者がどんな風に感じるのか、ぜひ知りたい気はするわね」
 
#99年8月某日/某ロイホにて
 
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