ならば、いっそのこと心ある同好の士のお力を借りて「これぞ1998年の本格ミステリ!」ってやつを選び抜き、もって最新の本格ミステリの動向を提示するというのはどうか。……とまあ、これが今回の「1998年度・本格ミステリベスト」選出の背景というやつ。すなわち「本格」に「とことん偏る」ことが狙いのベストですので、その旨御承知の上でお読みくださいますよう。 ではでは。座興ではございますが、お楽しみいただければ幸いです。 そしてもちろん、身勝手きわまりないMAQのお願いに、快くお応えくださった皆様に心よりの感謝を! |
対象作品/97年12月〜98年11月期に日本国内で出版された狭義の「本格ミステリ」
投票方式/各投票者が国内・海外の優秀作にそれぞれに持ち点10点を配分&投票 総回答数/25名様 |
順位 作品名 著者 出版社 票数 |
1 人狼城の恐怖 二階堂黎人 講談社 42 |
2 名探偵に薔薇を 城平京 東京創元社 31 |
3 ブードゥ・チャイルド 歌野晶午 角川書店 11 |
御手洗潔のメロディ 島田荘司 講談社 11 |
5 殉教カテリナ車輪 飛鳥部勝則 東京創元社 10 |
6 金のゆりかご 北川歩実 集英社 9.5 |
7 スコッチ・ゲーム 西澤保彦 角川書店 9 |
8 光と影の誘惑 貫井徳郎 文芸春秋 8 |
夏のレプリカ 森 博嗣 講談社 8 |
10 匣の中 乾くるみ 講談社 7 |
次 邪馬台国はどこですか? 鯨統一郎 東京創元社 6 |
●人狼城の恐怖
●殉教カテリナ車輪
●金のゆりかご
●スコッチ・ゲーム
●光と影の誘惑
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Goo「というわけで、いかがでしょう。こうして並んだ作品をみると、98年の国産本格ミステリはけっこう豊作だったような気がしますが」
Boo「ふむ。まー結果的にはそういっていいようね。あまり実感はないけど。でも、歌野さん以外の新本格第一期生や島田さんなど、本格のコアの部分をになう既成作家にあまり元気がなかったのは気になるわね」 Goo「そのアナを新人さんが埋めてくださったってトコロでしょう。特に鮎川賞関連の新人さんの活躍が目に付きます」 Boo「1〜2位以外はそれほど票数に差がないみたいだけど?」 Goo「そうなんです。「人狼城」と「薔薇」はほぼまんべんなく票を集めたんですが、それ以外の作品は皆さんほんと千差万別で。11位以下のノミネート作品もどっさりあるんです。なんというか、「本格ミステリに関する定義」の多様性が反映されたという感じですね」 Boo「なるほどねえ。まあ、それに文句を付けても仕方がないわね。とりあえず「いま現在の本格ミステリ」の指標としては、まずまずってところかしら」 Goo「じゃ、ayaさんのベストは?」 Boo「ふむ。そうね……」 |
別 御手洗潔のメロディ 島田荘司 講談社 |
1 世界ミステリ作家事典(本格派篇) 森英俊 国書刊行会 |
2 人狼城の恐怖 二階堂黎人 講談社 |
3 ブードゥ・チャイルド 歌野晶午 角川書店 |
4 殉教カテリナ車輪 飛鳥部勝則 東京創元社 |
5 名探偵に薔薇を 城平京 東京創元社 |
Goo「あ、こすい! 1位の「事典」はなしですよ〜。しかも6作だけ? それと、この「御手洗潔のメロディ」についてる「別」ってのはなんなんですか?」
Boo「うっるさいわね〜。「別格」って意味に決まってんじゃん! これでも結構妥協してんだかんねッ。キミはどうなのよ」 Goo「はいはい。ぼくのはですね」 |
1 人狼城の恐怖 二階堂黎人 講談社 |
2 名探偵に薔薇を 城平京 東京創元社 |
3 ブードゥ・チャイルド 歌野晶午 角川書店 |
4 光と影の誘惑 貫井徳郎 文芸春秋 |
5 殉教カテリナ車輪 飛鳥部勝則 東京創元社 |
6 匣の中 乾くるみ 講談社 |
7 邪馬台国はどこですか? 鯨統一郎 東京創元社 |
8 密室・殺人 小林泰三 角川書店 |
9 A先生の名推理 津島誠司 講談社 |
10 ミステリークラブ 霞流一 角川書店 |
Boo「なんだかけっこうバカ本格が入ってる気がするわねえ……下位グループは裏ベストじゃないの?」
Goo「ちょっとヒネクレてみました。トップグループは別として、下位は小説としての完成度は度外視して、ロジックやトリックの面白さメインで選びました」 Boo「いいけど……」 |
順位 作品名 著者 出版社 票数 |
1 猿来たりなば エリザベス・フェラーズ 東京創元社 31 |
2 完璧な絵画 レジナルド・ヒル 早川書房 21 |
3 殺しにいたるメモ ニコラス・ブレイク 原書房 19 |
4 ナイン・テイラーズ ドロシー・L・セイヤーズ 東京創元社 16 |
5 牧師館の死 ジル・マゴーン 東京創元社 8 |
6 ひとりで歩く女 ヘレン・マクロイ 東京創元社 7 |
7 毒の神託 ピーター・ディキンスン 原書房 6 |
8 ミステリ・クラブ事件簿 デイル・フルタニ 集英社 5 |
9 ヴァンパイアの塔 J・D・カー 東京創元社 4 |
空のオべリスト C・デイリイ・キング 国書刊行会 4 |
次 仮面劇場の殺人 J・D・カー 原書房 3 |
●猿来たりなば
●牧師館の死
●ひとりで歩く女
●毒の神託
●ミステリ・クラブの事件簿
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Goo「こちらは「猿」の1人勝ち、ですね」
Boo「ま、予想通りだわね。海外ものの純粋な新作で「本格」ってのは、いまやほとんどないからねえ」 Goo「投票も「海外」だけ棄権ってヒトが多くて。そもそも、皆さんあまり海外作品は読まないみたいですね。実際、投票してくださった方のうち、海外作品にも入れてくれた方は半分もいらっしゃいませんでしたし」 Boo「う〜ん。そっか〜、そんなもんなのかねえ」 Goo「ですんで、データとして「有意」かどうか微妙なんですが。ま、とりあえず1つの指標として」 Boo「若い本格ミステリファンは、海外モンが嫌いなのかしらん?」 Goo「っていうか、新刊では見当たらないから古典中心に読み進めてらっしゃるみたいですね。それと……これは邪推かもしれないんですけど、海外ものの本格の新刊って高価な単行本で出るケースが多いじゃないですか。国書みたいに。そのあたりも後回しにされる原因になっているのかな、なんて」 Boo「なるほど、それならまあ致し方ないか……え? ちょっと待ってよ! この8位の「ミステリークラブ事件簿」ってのはナニ? あたしゃ未読だわよ!」 Goo「はあ、実はぼくもまだなんですよ、あわてて買ってきたんですが、まだ読めなくて」 Boo「8位ってコトは何人かのヒトがあげてきたんでしょ?」 Goo「お二人の方の票なんですけど」 Boo「う〜気になるッ! キミ、読まないんなら貸してよ!」 Goo「いいですけど、必ず返してくださいね」 Boo「おっけーおっけー! じゃ、私の海外ベストだけど……やっぱり5作ね」 |
1 猿来たりなば エリザベス・フェラーズ 東京創元社 |
2 ナイン・テイラーズ ドロシー・L・セイヤーズ 東京創元社 |
3 毒の信託 ピーター・ディキンスン 原書房 |
4 殺しにいたるメモ ニコラス・ブレイク 原書房 |
5 地下室の殺人 アントニイ・バークリー 国書刊行会 |
Goo「純粋な新作はありませんね」
Boo「人のこと言えないでしょ、キミだって」 Goo「う〜ん。まあそうですが」 |
1 猿来たりなば エリザベス・フェラーズ 東京創元社 |
2 ナイン・テイラーズ ドロシー・L・セイヤーズ 東京創元社 |
3 毒の信託 ピーター・ディキンスン 原書房 |
4 ひとりで歩く女 ヘレン・マクロイ 東京創元社 |
5 殺しにいたるメモ ニコラス・ブレイク 原書房 |
6 緋色の記憶 トマス・H・クック 文芸春秋 |
5 地下室の殺人 アントニイ・バークリー 国書刊行会 |
8 完璧な絵画 レジナルド・ヒル 早川書房 |
9 悪魔のひじの家 J・D・カー 新樹社 |
10 空のオべリスト C・デイリイ・キング 国書刊行会 |
Boo「う〜ん、かなり苦し紛れって感じ」
Goo「ま、そうなんですが……海外は仕方ないでしょう」 Boo「マゴーンは?」 Goo「う〜ん。期待が大きすぎたみたいです。ぼくはちょっと」 Boo「鳴り物入りだったからねぇ。いずれにせよ、海外については1999年もつらいことになりそうよね」 Goo「ダイヤモンドシリーズの新作長篇がもう出るとか出たとかいってますけど、それにしたって、また再評価・復刊組の古典作家が中心になりそうですねえ」 Boo「本格がどうのこうの騒いでるのは、たぶん世界中で日本だけなんだわね」 Goo「たしかにそうですよね。なんか理由があるんでしょうか? 日本人の国民性と「本格」の関連……って」 Boo「あるかもね。あってもおかしくない。それくらい特異な現象って気がする。日本人なんておよそ「非論理的・情緒的」な国民がなぜに本格を好むのか。たとえばいかにも「本格好き」そうなドイツじゃあ、本格ミステリなんてあまり読まれないって聞いたことがあるわ」 Goo「へえ。でもまあ、日本の中でも「本格」なんぞにこだわってるのは、ごくごく一部って気もしますけどね」 Boo「それをいっちゃあおしめえよ」 Goo「ま、ともかく今年も素晴らしい本格ミステリがいっぱい読めますように!」 Boo「ということで、今年もよろしく!」 |