battle7(4月第2週)
 
[取り上げた本]
 
1 「塗仏の宴 宴の支度」 京極夏彦                         (講談社)
2 「探偵宣言」 芦辺 拓                              (講談社)
3 「パンプルムース氏のおすすめ料理」 マイケル・ボンド               (東京創元社)
4 「メビウス・レター」 北森 鴻                          (講談社)
 
 
Goo「前回はさんざんでしたねえ」
Boo「だいたいキミが、家でやろうなんて言いだすからいかんのだよ」
Goo「わかってますよ、僕もこりごりです。それよか、GooBooスペシャルの原稿、本当にありがとうございました」
Boo「もう2度と、御免だからね」
Goo「ま、そんなこといわずに。聞きましたよぉ、大学ミス研時代の原稿も残ってるんですよね。創作もあるって」
Boo「こ、こやつ!それはヒミツじゃ!ぜったい、ぜえぇぇ〜ったい他人目には触れさせんのじゃ!」
Goo「つぎはぜひ創作の方を……」
Boo「金輪際お断りだかんねッ。たとえ太陽が西から出ても絶対ダメッ。にしてもまったく、いったいどこでそんな
  マルヒ情報を入手したのよお」
Goo「こないだウチにきた、ayaさんの後輩たちから聞きました」
Boo「くっそ〜アイツら……殺す!」
Goo「ま、この件についてはじっくりお話させていただくとして……今日はまず、約束どおり京極さんの新刊からい
  きましょう。「塗仏の宴 宴の支度」ですね」
Boo「これは連作短編集だけど、続けて読むと長篇になるという、ま、ありふれたギミックね。でも、この本ではま
  だお話は終わってない、というよりこれからだし、後編が出てから取り上げた方がいいんじゃないの?」
Goo「そりゃそうなんですが、珍しくわりかたサラサラ読めましたし。ぜひ、取り上げたいんです」
Boo「あんたの苦手な妖怪蘊蓄・宗教蘊蓄・歴史蘊蓄は相変わらずてんこもりだったと思うけど」
Goo「あ〜まあ、そのあたりは斜め読みで」
Boo「ふ〜ん。だけどさ、そのへん斜め読みしちゃったら、あと他に読むべきところなんて、ほとんどないじゃん」
Goo「これまた極論ですねえ。まあ、作品によってバラつきはあるけど、謎がありトリックがあり謎解きがあるとい
  うミステリの定跡を、今回はわりと忠実に守ってるんじゃないですか?僕は、だからミステリ的にも十分楽しめ
  ましたよ」
Boo「だからこそ「ミステリとしての京極作品」の弱点が、かなりあからさまに出た作品だと思うわけよ。たしかに
  毎度のことながら凝りに凝った語り口にたいそうな蘊蓄よね。でも、それをはぎ取ってみてよ。ミステリとして
  は、いかがなモノか」
Goo「コロモの厚いトンカツですか」
Boo「このヒトに関しては、そんなレベルじゃないわね。小指の先ほどの貧相な素材を、語り口のテクニックと膨大
  な蘊蓄というソースでごまかしている、インチキフランス料理ってところかしら」
Goo「つまり、京極作品は素材でなくソースを味わうべきだ、と」
Boo「どうしても味わいたいならね!私は御免だワ。ソースに手をかけるヒマがあったら、まず素材をどうにかしろ
  よっていいたい。だいたい、この程度のネタなら今の半分の厚さで十分なのよ。それ以上の「厚さ」は作者のゴ
  マカシか、マスターベーションに過ぎないわ」
Goo「……まあ、後編が出たらあらためて検討しましょうよ。やっぱ「1つの村が消えてしまった謎、村人全員が殺さ
  れた噂の謎」という本筋のネタはほとんど未解明なんですから、この段階で評価しちゃうのは、作者に対しても
  アンフェアですし」
Boo「キミ、言ってることが180度ひっくり返ってるよ」
Goo「作品ごとに探偵役が変わったり関口君が逮捕されたり、けっこう賑やかで楽しい作品なんですけどね」
Boo「小手先のテクにごまかされてんじゃないわよ。ともかく次に行きましょ」
Goo「はいはい。では、前回取りこぼした「探偵宣言」を。「地底獣国」が好評だった森江春策シリーズの、これも連
  作短編集ですね。森江探偵の高校時代、大学時代、記者時代と、それぞれの時代に彼が遭遇した奇妙な事件が語ら
  れるという趣向です。1篇1篇を見ると、非常にトリッキーな本格ミステリという印象ですね」
Boo「いやー驚いたわ」
Goo「ですよね。飛行する死人とか家屋消失とか、大ネタも多いですしね」
Boo「バ〜カ。私が驚いたのはね、この人、なんて下手くそなんだろう!ってことよ」
Goo「はぁ……」
Boo「トリック作りがヘタ、文章がヘタ、構成がヘタ、ストーリィテリングがヘタ。もーヘタづくしで、ウンザリ」
Goo「それはちょっと言い過ぎじゃ」
Boo「いいのッ!ともかく「地底獣国」とかは、まあそれなりに読ませてくれたのにさ。今回はホントひどいんだから。
  この人、努力家だと思うのよ。「探偵宣言」の各篇のトリックにしろ謎解きにしろ、一生懸命考えているのがよく
  わかる。いかんせん、仕上がったものはてんで退屈なのよ。才能、ないのかも」
Goo「それは暴言でしょう。なんというのかな、僕は思うんですが、この人ってまだ自分のスタイルが確立しきれてな
  いって気がするんです。「探偵宣言」についても、いろんな手法を試行錯誤してるというか」
Boo「じゃあ君、温かく見守ってやんなさい。あたしはパス」
Goo「はいはい。次行きましょ。え〜次はちょっと気分変えて「パンプルムース氏のおすすめ料理」なんていかがでしょ
  う」
Boo「はあ?本格どころか軽本格ですらないじゃん、アレって」
Goo「でも、愉しい本じゃないですか〜。僕は大好きなんですよ、こういうの」
Boo「ははあ、他に弾がないんで、こんなもんまで引っ張り出してきたな」
Goo「え〜っとサクサク行きましょう。この人は「くまのパディントン」の作者として有名な方ですね」
Boo「ま、でもこの本はグッと大人向けって感じ」
Goo「ですね。美食趣味がメインのドタバタコメディなんですが、エロティックな要素もありますしね。なんてか、フ
  ランスの艶笑譚プラスちょっとオールドなユーモア小説の味わいかな」
Boo「それじゃ読者にゃわかんないって」
Goo「じゃあ、粗筋いきます。主人公のパンプルムース氏は元パリ警察の刑事で、現在はグルメガイドの仕事をしてい
  る」
Boo「まあ、ミシュランの覆面調査員みたいなもんね。身分を隠して有名レストランを食べ歩き、味を評価して回るヒ
  ト」
Goo「で、調査に訪れたレストランで特別料理を注文すると、皿に載って出てきたのが男の生首だった!から、さあ大
  変。それをきっかけに主人公はたびたび命を狙われ、ついでにホテルの女将からもコナかけられてジタバタすると
  いう」
Boo「このヒト、生命狙われてもいっこうに食欲が衰えないのよね、食べ物のことばっか考えている」
Goo「なんかドーヴァー警部みたいですね。まあ、パンプルムース氏ははるかに洗練された美食家ですが。んなわけで
  ともかく次々出てくる料理の描写がなんとも美味そうなんですよね。ギャグも豊富だし、ミステリとしても一応ち
  ゃんとどんでん返しがある」
Boo「ま、多くを期待しなければ洗練されたエンタテイメントとして楽しめるわね。私は主人公の相棒である、元警察
  犬にして美食犬のポムフリットが好きよ」
Goo「可愛いですよね。けっこう大活躍するし」
Boo「映画化されてないのかしら、映画向きの素材だと思うんだけど」
Goo「どうでしょう、聞いたことないなあ。それにしてもayaさん、対象が本格ミステリじゃない時は評価が優しくなり
  ますね」
Boo「ま、私って本来優しい女だし〜。Booはあくまで仮の姿」
Goo「乖離性人格障害かも知れませんね」
Boo「……乖離してやろうか、コラ」
Goo「……じゃあ、次行きます。次は北森鴻の新作「メビウス・レター」です。この作家は鮎川賞出身で、たしかこれが
  長篇4作目ですか」
Boo「このヒトも自分のスタイルを模索しているクチよね。毎回、作風が違う。デビュー作は歴史推理、2作目はメディ
  カルサスペンス、3作目は古美術界を舞台にしたコンゲーム風。で、今度の新作が……」
Goo「折原一ばりの叙述トリックものですもんね、驚きました。内容は、新進気鋭の作家の元に届く奇妙な脅迫状、時を
  同じくしてその作家の周りで人が殺され、連続放火事件が発生する。作家の隠された過去にはどんな秘密が潜んでい
  るのか!なあんて粗筋話しても、叙述ミステリだからあまり意味がないか。でも、なかなか話のスジが見えなくてイ
  ライラさせながら、ラストまで一気に読まされちゃう。まさに叙述ミステリならではの楽しさは十分味わえます。こ
  の作家のものとしてはいちばんまとまっているものの一つじゃないかな」
Boo「そうねえ。思わせぶりなモノローグに、「死者」宛に送られたくるかのような奇妙な手紙、なんてえのもこの手の
  ミステリでは常套手段でしょ。やっぱ食い足りなかったなあ」
Goo「そうかな、メインの叙述トリックは底の浅いものだけれど、幾つものそれを重ねていくことで、二重三重のどんでん
  返しを作り上げている。よく考えられていると思いますよ」
Boo「確かにそうなんだけど、それでもやっぱりインパクトに欠けると思うな。「叙述ミステリ」を、いかにも教科書どお
  りに書きましたというか、優等生のミステリって感じ」
Goo「そうかなあ、叙述ミステリなんつう手間のかかるタイプの作品を、それなりに器用にこなしていると思うけどなあ」
Boo「それそれ!問題はそこよ!「それなりに」「器用に」「こなす」……つまり、今度はコレ、つぎはアレと、出版社の
  いうがままのジャンルのミステリを書いているような、そんな気がするわけ。オレはこれが書きたいんだ!という情
  熱が感じられないのよね」
Goo「でも、ジャンルは違っても、いつもそれなりに読ませてくれるじゃないですか」
Boo「なまじ新人離れした文章力やテクニックをもっているだけに、なんでも「そこそこ」こなしちゃう。ある意味不幸な
  ことよ」
Goo「そんなもんですかねえ。ラスト、インパクトありませんでした?」
Boo「たしかによく考えられたドンデンよ。でもね、私にはそこに作者の計算が透けて見えるのよ。ここをこう裏返して、
  こう引っ繰り返して……一丁上がり!ってね」
Goo「う〜ん。それはayaさんがひねくれてるからそう見えるんじゃないかなあ。あのラストは、僕は錯綜した複雑なトリッ
  クの割には、実に整理された印象で読みやすかったけどな。まあ、食い足りない、といえば確かにその通りなんだけど」
Boo「この人には、本当に書きたいものが何なのかもいちど考え直して欲しいわね。技術は持ってるんだから、こぎれいに
  まとまった佳作より、破綻しかけた冒険作を書いて欲しい。ぜひ!」
Goo「あ、なんか勝手にシメちゃいましたね。森さんの新作はどうするんです」
Boo「悪い悪い、実はまだ読んでなくてさ。また今度ね〜」
Goo「う〜む」
 
#98年4月某日/某プロントにて
 
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