九州は宮崎の山村で実際に起こった事件をミステリ風にアレンジしたお話です。しかし中核となっている「謎の骨子」はあくまで実話であり、小説的・ミステリ的な歪曲はありません。MAQが行った演出は、ベースである実話を「ミステリ化」し「手がかりを提出するため」の方便とお考えください。 では、名探偵「志願」の皆さま、はりきってどうぞ! 証言1 青年団員(農業・28歳) そうですなあ、あげな死に様あ見たこたぁありません。 地面に頭から突き刺さったような……頭を下にちょうど腰の辺りまでずっぽり地面に埋まり込んで。むかし見た映画んごとありましたな。ほれ、湖で水面からにょっきり両足だけつきだしてる死体……「犬神家の一族」でしたか。 あんな具合に地面からにょっきり脚が生えてるんですわ。そいつを見たときゃあ……。 いやいや、転んで穴に落ちたゆう感じではありません。どれほど派手に転んだって、あんな風に脳天から真っ逆さまに落ちゃせんでしょう。それに穴の大きさがな、ほんと人一人入るか入らんかちう大きさで。転んだ勢いくらいじゃ、あそこまで深く嵌り込まんですわ。じゃから、仏さんを穴から引きずり出すのもたいへんでしたが。 そうですなあ、高飛び込みの要領で、木の上から逆落とししたらあんな風になるかも知れんですなあ。誰かが押し込んだとしたら、えらい力持ちですわい。あのおっさんを持ち上げて、逆さまに押し込む……できねえことはないでしょうが、ちょっと信じられませんなあ。そうだとしたら、おっさんはもう気を失ってるか死んでるかしてたとしか思えませんが。 あん人は近郷一の力持ちですけん、だまって殺られたりはせんでしょう。 証言2 隣家の住人(主婦・67歳) 隣のだんなを見たんは、あれは朝の10時頃だったか。山へ行かれるとこじゃった。いつものことじゃき、気にもせんかったが、声は掛けたぜ。お隣さんじゃからな。 様子? 普通じゃったよ。篭ぉ背負ってクワ下げて、腰に山刀……いつもんどおりの格好たい。ああ、水筒も下げよったな。弁当は篭んなかじゃないかい。日課ちうほどのもんじゃなかが、3日に1度は山ぁ行きよったな。あん人ん家も、昔はようけ山持ちじゃったが、一つ二つと切り売りして、今じゃ、あこ1つだけになったき。そらあ大事にしよったが。自分以外は家族でんよう入れん。 いつじゃったか都会ん衆がクルマ停めてキノコでん獲りよったち、大怒りしちょったと。 それ以来、山道ん入り口ぃ有刺鉄線なんかでふさいでな。なに言われるかわからんきに、近在のもんは近寄りもせんかったと。まぁなんぼ入り口ふさごうが、悪ガキ共ぁこっそり入りよったようじゃが。 じゃが、お孫さんだけぁたまに連れて行きよったな。 証言3 妻(主婦・55歳) あん山んこたぁ、なんでんかんでん知っちょるち言いよったになあ。あげん惨か死にざまさすとはなあ(泣)。 そん日もとくに変わった様子なんぞなんもなかったとですよ。ただその前日にも行ったばかりでしたけんなあ。2日つづけて山に入るんは、珍しいといえば珍しいことでしたが。ともあれいつもどおり「山、行っちくるけん、麦飯炊いちょけ」ち言うただけで。握り飯と水は持っていったから、夕方にもどるつもりじゃったんでしょうねえ。 いんやあ、脚も腰も達者なもんであんした。あん歳で、草相撲で大関張ってるくらいじゃきに、そこらの若造にゃ負けんですと。力でん意地でん近郷1のお人でしたとばい。あん山んことだって隅から隅まで知り尽くしておったとですになあ(泣)。夕方になってん帰ってこんかったにゃ、そら心配しましたが。じゃけども、ちょうどウチの兄さんがきてらっしゃって、「あん人も子供じゃないけん、せめて朝まで待ち」いうけん。 ……あん時、探しに行っちょれば、もしかして……(泣)。 兄ですか? はあ、浜ん方に住んどっとです。船持ちの漁師ですが。たまたまその前の晩に電話くれよって、マグロもって遊びに来てくれたとです。はい。 証言4 義兄(漁師・58歳) ちょうどよかマグロば入ったけん、久しぶりに酒でも呑もかちうて電話したとです。機嫌よかったとですよ。 「ぐっどたいみんぐ」ち英語なんか使って上機嫌じゃったね。が、翌日の夕方、マグロ下げて行ってみりゃあ、帰っとらせん。遅うなっても音沙汰ない。そらぁ心配しましたが、大の男が一晩くらい帰らんからちうてすぐ騒ぐのもなあ。一晩待ってみちぅて、わしも泊まらせてもらったとですわ。じきにわしゃあ酒呑んで寝ちまいましたが、妹はずっと起きてまっとったみたいです。ふびんなことですわ。 翌朝の夜明けがたですな、妹がもうがまんでけんようなって、青年団長ん方に駆け込んだんわ。すぐさま青年団の方々……いうても5人ほどですが、皆で山へ行ったとです。はぁ、わしも行きました。じゃけんど、あん山んこつ知っとるもんはダレもおらんで、仕方がないからあれの孫ば連れて行ったとです。 あん人が山に連れていくのは、あん孫だけでしたから。道ぃ知っとるのもアレだけで。 証言5 孫息子(小学生・8歳) ……………………………。 知らん。爺ちゃ、樹になっちょったと。いつもん場所で。 ……………………………(泣く)。 証言6 医師(村医・29歳) はい、そうですね。死因は窒息死です。死亡推定時刻は、失踪した日の午後3時くらいだと思われます。大きな外傷はありません。薬物の反応もありませんでしたし。ただ、爪が一枚剥がれていました。他の指もそうですが、びっしり土が詰まっていて、どうやら穴の中でかなりもがいたようですね。苦しまぎれに穴の土壁を掻きむしったんでしょう。 いや、でも、穴の大きさからすると動かせるのは手首から先くらいだったと思われますが……それでも必死でもがいたんでしょうね。まあ、意識があれば当然でしょう。ええ、穴に頭から落ち込んだ時点では生きていたし意識もあったと思いますよ。粘っこい赤土の穴ですから、自分の体で蓋をする形になって窒息したんでしょうね。もがくうちに内部の土がどんどん崩れ、元々狭かった穴に埋め込まれるような形になったんでしょう。 なんとも悲惨な亡くなられ方です……。 え?……ああ、ぼくが右足引きずってるのは、捻挫したんですよ。現場でね、穴にはまって転びまして。いえ、死体のあった穴じゃないですよ。そっちには、ぼく近寄ってません。 証言7 警官(駐在・48歳) 本官が現場に到着したときは、すでに遺体は穴から引きだされ、現場近くに横たえられておったとです。現場は山の中腹の草ぼうぼうの平地で、消えかけた山道からちょっと外れたところ。樹木もびっしり生えておりまして、太かツル草がびっしり巻き付いて少々薄気味悪い雰囲気でしたな。 穴の深さですか?1メートルちょっとつうところでしょう。だからちょうど頭から股のあたりまで、すっぽり底まで埋まってたわけですな。穴から1メートルほど離れた場所にカゴとクワが置いてありました。いや、掘っている最中に穴に落ちたわけではありませんわ。クワは穴から離れた場所にあったし、山刀も仏さんが腰に刺したままでしたけん。掘ってる最中なら、仏さんと一緒に穴の中でしょう、クワの方も。 遺体の様子かい? 泥まみれで、両腕を胸の辺りに引きつけるような姿勢。脚は開いて伸びておりましたな……映画のアカデミー賞というのがありまっしょう。あれの賞品のオスカー像みたいな格好ですたい。脚はひらいとりましたがな。はは、わしゃ映画が好きなんですわ。特にハリウッドもんが。……いやまあ、そんなことはどうでもよろしいが。 |
さて、問題篇はここまでです。ちょっと手がかり出しすぎちゃったかも。 こんなに見え見えにしておいて「挑戦」というのもなんですが、ま、これは作者の最大の喜びですので。 では、あらためて。 わたくしMAQは、読者の皆さまに挑戦いたします。 1.異様に深い穴は誰が、何のために掘ったのか。 2.男はなぜ、倒立状態で地面に埋め込まれていたのか。 以上の2点について、お答えください。 むろん謎を解くためのカギは、問題篇の証言の中にすべて潜ませてあります。 ちなみに、設問は1と2に別れていますが、1が分かれば自動的に2もおわかりになるはずですので。 |
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