無からの銃弾 【解決篇】 by YABU
 
 
一人の靴音
 
菅原:「高倉不動産の社長室の窓には弾孔が二ヶ所あいていた。そして、 高倉社長は胸を二ヶ所撃たれて殺さ
   れていた。犯人は窓の外から高倉社長を狙撃したと考えるのが当然だ。ここで問題なのは、このビルの
   壁にはベランダのたぐいがないのに、どうやって犯人は17階の窓の外にいることが出来たか、というこ
   とだ」
織田:「まさか・・・」
菅原:「そうなんだよ。織田君が窓掃除に使ってるそのゴンドラ。それがあれば簡単だよな。織田君。拳銃は
   そのまま下にでも落としたのか?」
織田:「菅原さん、信じてくださいよ。いたっ」
菅原:「一緒に探しに行こうか。柳田、警察に電話してきてくれ」
柳田:「分かりました」
 
風の音
 
柳田:「菅原さん。すぐ来てくれるそうです」
菅原:「そうか。じゃ、下に降りていようか」
 
飛行機の爆音
パトカーのサイレン
 
菅原:「おっ、刑事さん達の到着だ」
牛腰:「七曲署の牛腰です。殺人犯を捕らえているとのことでしたが。犯人はどこですか」
菅原:「ええ、こいつらです」
 
かちゃ
 
菅原:「柳田、佐藤、動くな。動くと撃つからな」
柳田:「菅原さん。冗談は止めて下さいよ」
佐藤:「何だよ。そいつが犯人じゃねえのかよ。おい」
菅原:「黙ってろよ。さっき織田君を犯人と思わせたのは、お前達二人のシナリオ通りに動いてやっただけだ
   よ。最初からお前達が犯人だってことは分かってたんだ」
柳田:「どういうことですか」
菅原:「柳田、お前が演出を担当したんだろうが、役者にもっと演技指導をしとくべきだったな」
佐藤:「何だよ。そりゃ」
菅原:「佐藤への指示は、織田君に罪を着せるために窓に向かって二発打ち込んでおくこと。そして、万が一、
   ブラインドがさがっていたら、忘れずにあげておくこと。この二点だったんじゃないのか」
柳田:「・・・」
菅原:「しかし、それだけじゃ駄目なんだよ。部屋の電灯を消さなきゃ。あのけちな高倉社長が明るい昼間に電
   灯を点けっ放しにしておくか。電灯が点いていたってことは、ブラインドがさがっていたということだ。
   多分、窓がきれいに磨かれていたことから考えて、織田君が窓掃除を始めたので、中を見られないように
   おろしたのかもしれないな。その状態じゃ、窓の外の織田君からは部屋の中の高倉社長を撃つことは出来
   ない」
織田:「そう言われれば、高倉不動産の部屋のブラインドがおろされるのを見た気がします」
柳田:「それでも、窓を外から叩くなりして、ブラインドをあげさせたのかもしれないじゃないですか」
菅原:「いや、それなら高倉社長の遺体は窓際にあるんじゃないかな」
柳田:「くそっ」
菅原:「そうであれば、やっぱり佐藤が高倉社長を撃ってから鍵を使って、ドアを閉めたと考えた方が自然だ。
   社長自身の鍵は使えないわけだから、あと残るのはマスターキーだ。マスターキーは柳田。お前が管理し
   てたよな」
柳田:「そうです」
菅原:「そのマスターキーを佐藤に渡して、高倉社長を殺させた。そして、わざと俺達二人が見回る時間を見計
   らって、俺達の目の前に飛び出させた。追いつくのは、当然元陸上選手のお前の方が早い。その時にマス
   ターキーを佐藤から受け取ったというわけだな」
佐藤:「柳田」
柳田:「しょうがないな」
牛腰:「さあ、二人ともこっちへ来るんだ。菅原さんでしたか?御協力感謝します」
菅原:「柳田、お前が何故こんなことをしたのか、俺には分からない。だけどな、人の命を奪うというのは、やっ
   ぱり駄目だよ。それじゃ、高倉社長と同じだぞ」
 
パトカーのサイレン
 
織田:「菅原さん。本当にありがとうございます」
菅原:「いや。それより、夕飯一緒にどうだい?」
 
【解決篇・了】
 
 
●MAQからひとこと
 
「Bの悲劇」に続くYABUさんの新作は、
謎、手がかり、ミスリードといった要素が過不足無く配置され、
それ以外の要素は潔く切り捨て、きりりと引き締まった作品になりました。
ラジオドラマという趣向は、作者御贔屓のカーの影響かもしれませんね。
よろしければ、感想をYABUさんまで!
 
myabu@lsi.nec.co.jp
 
 
HOME TOP MAIL BOARD