Akkeyさんの推理
 
問題をアップした翌朝、この「迷答」と「正解」を二本立てで送ってくださったAkkeyさん。 
内容のブッ飛びぶりもさることながら、小説スタイルというのも凝ってますねえ。 
あまりに面白いので、ほぼ原文のまま掲載させていただきました!
 

東京近郊、紺地区署の会議室。
呼び集められた4人の男たちは、所在なげに安物のパイプ椅子に座り、あたりを見まわしている。
「お待たせしました」
4人が振り向くと、そこには痩せた眼鏡の男が立っていた。
「渥樹伊といいます」
そう名乗った男は、足早に部屋に入ってきた。
「渥樹伊さんよぉ、なげえこと待たせやがって、一体何様のつもりなんでィ?」
鬼瓦が詰め寄った。
「申し訳ありません。渥樹伊では呼びにくいでしょうから、あっきーとでも呼んでください……。
え〜、今日皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。あけみさん殺しの犯人がわかったの
です。そう、この渥樹伊の明哲、神のごとき推理により!」
自分の言葉に酔い、恍惚の笑みを浮かべる渥樹伊の異様な雰囲気に、4人の男たちは一様に言葉を
失い、顔を見合わせた。
彼らのそんなそぶりに気付いた渥樹伊は、わざとらしく咳払いをして、声を張り上げた。
「さて、皆さん! 今回の事件には不可解なことがとても多い。第1に切断された首、第2にその
首の口に詰め込まれた硬貨やガラス細工など……これらは何を意味するのでしょうか?
首を切った理由は色々考えられます。たとえば被害者の身元を隠したい、あるいは誤解させたい場
合。それから被害者の顔そのものが犯人を示している場合……たとえば犯人が平手打ちした手形が
痣となって被害者の顔に残ってしまったケースでしょうか……」
4人は渥樹伊の言葉に聞き入っている。
「しかぁし! 今回はこのどれでもありませんでした。犯人は……あけみさんの首が欲しかったの
です!」
一瞬、呆気にとられたような表情が男たちの顔をよぎり、渥樹伊は満足げな笑みを浮かべた。
「驚きましたか皆さん? 繰り返しましょう。犯人はあけみさんの首が欲しかった……だが何のた
めに? その答えは第2の謎にあります。思い出してください。首は、まるで膨れ上がったボール
のようでした。
そう! 犯人は世界でただ一つの、奇抜なボールを手に入れたかったのです。
しかし、人の首をボールに見立てるには髪の毛が邪魔です。そこで犯人は邪魔な髪の毛を顔に巻き
付けるために、三つ編みにしました。風呂上がりの女性は濡れた髪を纏め上げて三つ編みにはしま
せんよね。しかし、犯人は仕事で濡れた髪をいじっているので、その矛盾に気づかなかった……つ
まり……もうお分かりですね、皆さん」
一瞬にして凍りついた部屋の空気を切り裂くように、まっすぐに伸ばされた渥樹伊の指が1人の男
を指さした。
「犯人は……目黒さん、あなただ!」
 

「な、な、な、なんだと! バカなことをいうな!」
いつもの柔らかな物腰をかなぐり捨てた目黒は、追いつめられたケモノのように立ち上がった。
「み、み、み、三つ編みくらい、やろうと思えばだれだってできるぞッ! 大体、俺は美容師だ。
三つ編みするくらいなら、髪を剃って丸坊主にしてやらぁ!」
「ツッツッツッ……」
渥樹伊は余裕たっぷりに舌打ちしながら人さし指を左右に振り、目黒の言葉を制した。
「そんな事をすれば余計自分が疑われる……あなたはそう考えた。美容師でない者にも可能な三つ
編みをすれば、逆に美容師は疑われない、とね。……なるほどとても頭がいい。しかし私のライバ
ル、と呼ぶには少々物足りませんね」
怒りのあまり言葉もでない目黒を気の毒そうに見上げながら、鬼瓦が渥樹伊に声をかけた。
「だがよ、目黒はなんで生首ボールなんてものが欲しかったんだい。それにそうまでして手に入れ
たものを捨てちまったのもわからねェ」
「いい質問ですね、鬼瓦さん。その奇抜なボールを手に入れた目黒さんは、それをカバンに詰め、
出かけたのです。行き先は、そう、ボーリング場です。
ボーリング好きの目黒さんは、新しい奇抜なボーリングの玉が試したかったのです。しかし……目
黒さん、あの日のスコアはいかがでしたか?」
血の気が引き、どす黒い顔色となった目黒は、両手をぶるぶる震わせて渥樹伊を睨みつけている。
「そう、たいして良くなかったようですね。それはそうだ。所詮生首。ボールのようには転がりま
せんよねぇ」
 

「そんな馬鹿げた話があるか!大体、ボーリング場で、生首を転がしていれば、だれだって気づく
だろう!」
目黒の様子を気遣いながら鬼瓦がいうと、渥樹伊はわが意を得たりという顔で、うなずいた。
「そうですよねぇ。だれも生首でボーリングをしているとは思わない……そこがあなたの狙いだっ
たんですね、目黒さん。結局のところ、新しいボールが気に入らなかったあなたは、もうこんなボー
ルは要らないと帰りがけに捨てた。でもねぇ目黒さん、口の中のものくらいは捨てておくべきでし
たね。そうすれば、私の神のごとき推理でも、真相に近づくのが遅れたかもしれませんよ。まあ所
詮、あなたは3流の犯罪者。私のような空前絶後の天才的名探偵と勝負しようという方が間違って
いるわけで……」
次の瞬間、目黒の怒りは頂点を越えた。溶鉱炉のごとき目をギラつかせながら、目黒は渥樹伊に飛
び掛かり、右手に握り締めたハサミを閃かせた。
「しね〜!」
 
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