たっくん4さんの推理
 
久しぶりの迷探偵さんには、痛いところを突かれまくり! たっくん4さんは、当方に負けず劣らずヘソ曲りの本格ミステリ読みさんと拝察します(笑)。天翔る奇想2題、どうぞお楽しみください。
 
※例によってこの“説”で指摘されている人物が、正解における真犯人かどうかは不明です。正解とされずに迷探偵に収録されるハメになったのは、犯人の名前・ロジックのどちらか、あるいは両方が間違っていたから、とお考え下さい。
 
■解答1
 
まず、稲毛海岸、という具体的な地名に違和感を覚えます。
そもそも、こんな論理的なパズラーに、具体的な地名や日付は一切必要でないはず。それをわざわざ細かく書き込むということ自体、なにかの伏線に違いない!
 
検証するとすぐわかることに、事件があったと思われる、1998年8月25日深夜に、千葉県を含む関東地方に台風など来ていなかったことは、史実によって明らかです。そこで、問題編をよく読んでみると、98年4月10日以降は、年号の表記がないことに気が付きます。……結論はただひとつ。
98年の事件であるよう誤解させるように書いてますが、この墜落事件は98年のものではないのです。そう、地名と日付を書き込んだことには、他に叙述トリックがあることを示す、フェアプレー宣言だったのです。
 
となると、他にも大きな伏線があります。犯人の名は鬼瓦権三、これはほぼ人物を「この世に一人」と特定できる名前なのに対して、
被害者は「田中」「光子」「義男」。最もありふれた名のひとつ。これは明らかに、叙述トリックの暗黙のルール「ありふれた名前は別人の可能性有り」をちゃんと守ってますよ、という大胆なフェアプレー宣言に違いない!
 
ふっふっふ、叙述トリックとわかれば解決は簡単です。全てのトリックは、手帳メモにあるのです。「再構成メモ」という表現が、これまたフェアプレー宣言です。これは、「田中義男・鬼瓦権三」事件を担当している現・稲毛警察署捜査課山村巡査部長が、3年前に鬼瓦権三が起こした<江東区での殺人強盗事件>を記したメモだったのです。
 
そのメモが意味するところは、およそこういうことでしょう。それは田中さんのお屋敷での事件でした。田中家の家政婦・**光子さんは、二人の男の子を育てながら、住み込みの家政婦をしています。住み込みと言っても、3人は、隣接する小さな小屋に住んでいます。本家と区別するために、使用人用の建物を、離れ、と呼びます。二人の息子達、夫君と義男君が、近所のジョギングから大汗をかいて帰宅した直後、32歳の強盗・鬼瓦権三が何を間違えたか離れの玄関に押し込みます。その後、鬼瓦は光子さんを脅して本家に誘導。ベランダから当家の主・田中氏を突き落とし、室内を物色しているところに、夫君と義男君が、勝手知ったる本家に、裏窓から侵入、格闘の末、二人の子供もベランダから投げ落とされました。鬼瓦は手近な現金をつかむと、ゆうゆうと玄関から出てゆきました。
 
鬼瓦権三は、<一階の>ベランダから3人を突き落としただけで、殺人など犯したつもりはマッタクなかったのですが、3人のうち誰かが打ち所が悪く死んでしまい、強盗殺人の容疑で追われることになりました……。光子さんは、その後、これも田中という名字の男性と再婚し、当時のことを、山村巡査部長に語ったのです。
 
その3年後の8月25日、鬼瓦権三は、稲毛の高層マンションに押し入り、当家の田中義男さんともみ合っている際、ベランダから同時に転落し、その死体は義男さんを上に、折り重なって発見されました……光子さんの証言は、夫を失って、少し錯乱しているようですが。
 
「同一犯人による、時期が異なる2つの事件を、ひとつの事件と見せかける」空前絶後の叙述トリック。MAQさん、さすがですね!!
 
 
 
【解答2】
 
ふっふっふ、叙述トリックとわかれば解決は簡単です。
パークシティの田中義男さんは、「25階下の地上に転落」したのですから、墜落した部屋は26階のはず。しかし、死体を発見した方の目撃証言は、「25階の田中さん」と言ってます!
 
叙述トリックというのは、こういう小さな矛盾が手がかりとなるのです。ここから導き出される結論は、「TVのインタビュー証言は、別の田中さんについて語っている」。
 
その証言が意味するところは、こういうことでしょう。25日、千葉県内の別のマンション25階に住む田中さんと、その不倫相手が、ふたりで公園で服毒自殺するという事件があったのです。(その後、飛んできた看板に頭をぶつけて大量出血したので、死因の分析はしばらく混乱していましたが。)
 
で、我らが稲毛パークシティ26階の田中義男さんと鬼瓦権三は、田中さんが先に墜落、その後で鬼瓦権三が墜落し、こっちは鬼瓦を上に重なって死んでいました。さぁ、これで死体に関する矛盾はありませんよね?
 
えぇ? 鬼瓦を墜落させた犯人だぁ? そんなもの、夫の復讐に燃えた田中光子が犯人でもいいですし、窓から台風で飛ばされて入ってきた謎の物体におびえて逃げ回って墜落した、でも何でもいいです。好きにしてください。
 
とにかくなにがなんだろうが、「2つの全く独立な事件に関する記述を、ひとつの事件と見せかける」驚天動地の叙述トリック。MAQさん、みごとですね!
 
 
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