GooBooつきいち乱入スペシャル


 
第3回 「バベル消滅」 飛鳥部勝則 (角川書店刊)
 
【今回のヘルパー NOBODYさん】
 
今回の議論はいささかイレギュラーなものとなっています。そもそも今回は、この作品で使われている手法と「島田理論」の関係を議論したい、というテーマが先行して存在していたため、ヘルパーさんにも当該理論に関する知識と「思い入れ」を求めざるを得ず‥‥結果、困ったときのなんとやら。わが盟友NOBODY@SALOONさんに、再びのご出馬をお願いした次第です。‥‥ともあれ、急なご依頼にもかかわらず快くお引き受けいただき、見事な「島田教徒ぶり」を発揮して下さったNOBODYさんに、心から脱帽&感謝!
 
ATTENTION!
「ネタバレ」防止にはじゅうぶん配慮しましたが、その性質上、作品内容に深く踏み込んだ議
論を展開しております。小説を「まっさらの状態」でお楽しみになりたい方は、先に「バベル
消滅」を読了されることをお勧めします。


Goo「そういうわけで右余曲折ありましたが、ぐぶらん第3回は、ごぞんじ『殉教カテリナ車輪』で
 鮎川哲也賞を受賞&デビューした、飛鳥部さんの『ようやくでました!』な長編第2作『バベル消
 滅』。‥‥ヘルパーさんには、再びSALOONのNOBODYさんにご無理をお願いしちゃいました! い
 やー、それにしてもお待ちかねの1作ですね」
NOBODY「楽しみにしてた読者も多いでしょうね。私的には『城平京はどうした』といいたい気分で
 すが……。ともかく、よろしくお願いします」
Boo「ごめんなさいねぇ、NOBODYさん。なんかいつもご迷惑おかけしちゃって……それにしても、
 たしかに城平京さんってどうしちゃったんだろ。期待の大きさでいったら、飛鳥部さん以上なんだ
 けどね」
G「ま、とりあえず今日は『バベル』がテーマちゅうことで」
B「わかったわかった。……で、と。扉を開くと今回も麗々しく作者自作の油絵の口絵が付いてるん
 だけど、残念ながら内容的には前作のような図像学的な趣向はなし! 単に作中の美術教師が描い
 た作品という設定の口絵なんだよね」
G「図像学の趣向が使われなかったのはちょっぴり残念ではありますが(あれ、もっと読みたかった
 し)、それでもまあ、それでもこういう遊び心にあふれた趣向は楽しいじゃありませんか」
N「絵心があるってのは強力な武器ですよね。とくに本格というジャンルの場合、あって困るという
 もんではないですから」
B「たしかにそうよね。島田さんにしろ、竹本さんにしろ、あるいは森さんにしたって、絵心あるか
 らねえ。……思うにトリック作りって、そういうヴィジュアルな視点がけっこう大きな意味を持つん
 だと思うね」
G「そういう意味では、みずから油絵を描く飛鳥部さんなんて、本格書きとしてすっごく大きな武器
 を持ってるといえますよね」
B「しかし、問題はさあ、冒頭に麗々しく添付されたこの『絵』が、どう見たって『下手』であるって
 ことなのよね。有り体にいえば、三流イラストレータの作品といい勝負」
G「前作より落ちるってことですかあ?」
B「いやいや、もともと下手だったのよ。だけど、前作のそれは図像学的趣向という作品の内容に深
 く絡んだ『絵』だったから、その上手下手は気にならなかったのよね。‥‥いうなれば、『館の見
 取り図』。上手い下手よりその内容が問題だったわけ。ところが今回は単なる口絵だからねー、こ
 ちらとしてもついつい作品として鑑賞しちゃったわけだ。‥‥で、結論として下手だ、と」
N「館の見取り図ってのはうまい言い回し。そういう意味では今回の絵、前作のより奥の深さに欠け
 てたような感じはしますね。大まかな全景レベルというか」
G「まあ、今回は図像学的趣向はないわけですから、仕方がないのでは」
B「っていうか、単なる口絵だったら、もっとまともなイラストレーターに描いてもらった方がいい
 と思うけどなー。特にこの絵の真ん中に描かれてる女子高生って、作中に登場する美少女に似てるっ
 て設定なんでしょ? ……だけど、はっきりいって絵の中の女子高生ってソラ恐ろしいくらい不細工
 じゃん! なんでこう不細工に描くかなあ。いや、この女子高生が不細工だからイカン! てぇんじゃ
 なくて、単に絵として圧倒的につまらないだけなんどね。そこいらあたりがゲージツカってこと?
 商品と考えればごっついマイナスだと思うけどなー」
N「うんうん。ま、ひとつの『作品』として観賞するならアリかなぁとは思いますが、絵の女子高生
 が作中に登場する美少女と似てるって設定はゼッタイになかったほうがよかった。これは萎えます
 よ」
B「って、何が?」
N「……真剣な顔で訊かんでください。ともかく、よう見ると男みたいやし……。だから『この少女
 はじつは男だった!』みたいなんが真相やったら、傑作になったかもしれない。伏線はバッチリで
 すから(笑)」
B「いい!それすっごくいい〜」
G「えーい、いーかげんにしなさいってば! んもーアラスジいきますかんねッ。舞台は新潟沖に浮か
 ぶ孤島・鷹島。まあ、孤島といってもちゃんと街があり、芸術家村なんつうものもあるんですが‥
 ‥この島の中学校に勤務する美術教師が、美術室で何者かに殴殺されるという事件が起こります」
B「そして被害者のそばには、「バベルの塔」をモチーフとした絵が‥‥これが問題の口絵の「絵」
 なのね」
N「そうそう、問題の……」
G「もう口絵のことはええっちゅうに! ともかく遺体の発見者である教員・田村は、翌日またしても
 学校関係者の遺体を発見し、その現場に「バベルの塔」を描いたカレンダーを見つけ、この奇妙な
 符合に疑問を覚えます。そこへまたしても学校関係者が事故死し、田村は矢も楯もたまらずに勝手
 に事故現場を調査。またしても「バベルの塔」の絵がついた小冊子を発見します」
B「これは笑った〜。「も●●の塔」か、これは? これぞまさしく犯人からのメッセージ!? ミッシン
 グリンクの連続殺人か!? 」
G「ったくもう、どうなっても知りませんからね! ともかく、その『メッセージ』に気づいたのは自
 分1人と確信した田村は、憑かれたように事件の解明に取り組みます」
N「この田村のキャラクターはしっかりと描けてますよね。絵に憑かれていく過程に無理がないとい
 うか」
G「たしかにそうですね。この作家は第一作からかなり完成された文章力をもっていましたしね。最
 近の新人の中ではぴか一でしょう」
B「っていうか、この田村のキャラクタ造形にリアリティがないと、作品そのものが成立しないじゃん。
 茶番になっちゃう」
G「だぁーッ! そうゆう危険な発言は慎んでください!」
B「はいはい。えっと、アラスジの続きね。そのまた一方では、『バベルの塔』の絵を見るため、毎
 日島の版画館に通う、奇妙な、ほとんどエイリアンみたいなエキセントリックな美少女高校生の存
 在が、『バベルの塔』の謎にさらなる神秘のベールをかけるのであったぁ!‥‥なーんちって」
G「うわ、鶴亀鶴亀‥‥。っていうか、大胆ですよね。そうきたか!  ちゅう感じで。非常に大胆きわ
 まりない仕掛けを全編に張り巡らせてある。しかも、パズラーとしても非常に精密で」
B「大胆な仕掛け、ねぇ? なるほど大胆ではあるけど、はっきりいってこのミスリードの張り方には
 あまり感心できないね。アンフェアではないけれど、やってはいけない手。つうかやってほしくな
 い手だったな」
N「これをやると、どうも安っぽい感じが拭えなくって、それこそ腰が砕ける。〈間章〉の使い方には
 工夫があったと思いますけど。私は、これのちょっと前に読んだ綾辻さんの某短編を思い出しました」
B「そうそう。でもさー、短編ならまだしも長編でこれをやられちゃうとねえ」
G「そうですかねえ? たしかに少々危うい綱渡りですが、この場合はぎりぎりアリでしょう。それに、
 いずれにせよあれだけ念入りに謎解きされてしまうと、文句は付けられないような気がしちゃうなあ」
B「っていうか、あの長々しい謎解きが、だからこそ私には逆に、『いいわけ』にしか聞こえなかった
 のさ。謎ときそのものとしての面白さが感じられない。というか美しくないのよね。パズラーなのに、
 謎解きがミスリードに負けてどうするって感じよね」
N「全面的にayaさんに賛成かなぁ。私も『いいわけ』にしか聞こえなかったです。だまされたという快
 感もなかったですし。トリックの発想という点から見れば、前作といっしょなんですよね。しかもそ
 れを越えていない」
G「う〜ん。発想のベースは同じかもしれませんが、作者の狙いそのものは相当大胆なものだったと思
 うんですよ。たしかに処理の仕方はおよそスマートとはいえないけど、発想そのものは買ってあげて
 もいいんじゃないかなあ。いずれにせよこういう大胆さというか、稚気みたいなもんがぼくは大好き
 なんですよね」
B「ちょっと違うけど、たとえば多重解決ものってあるじゃない。で、そういう作品では、先に提示さ
 れ、結果として否定された仮説が実は『真相』よりも面白いというケースは、こりゃまあよくあるこ
 とだけれど……」
G「島田さんの『水晶のピラミッド』!」
B「……嬉しそうに挙げてんじゃないわよ。でね、ところがこの作品の場合はその上(下?)を行っちゃっ
 てると思うわけ。つまりさんざっぱらあおりたてておいて、魅力的な仮説すら提示されないまま、結
 局のところおそろしくみみっちい! としかいいようのない真相に収束されてしまう。つまりさあ、
 結末で作品全体がいきなり矮小化されてしまうんだよね。この方法論って、ほとんど……アンチミス
 テリって感じじゃん」
N「ああ、苦手な用語が出てきた……」
G「いやいや、NOBODYさん。この場合、ayaさんは『いわゆる』アンチミステリとはちょっと違う意味で
 使ってらっしゃるみたいですよ。どっちかっつうと否定的な意味で。ですよね?」
B「そうだよーん。結末でそれまで作り上げてきたものを一挙に矮小化してしまう……いわば自分が作り
 上げたミステリの大伽藍を、みずから破壊してしまうという点において、まさしく『アンチ』な『ミス
 テリ』である、と。わたしゃそう思ったわけだ」
G「それは大袈裟すぎる言い方ではないかなあ。しかし、そこまでいわれたら『これ』を持ち出すしかあ
 りませんね」
B「って何よ? 秘密めかしちゃって」
N「リーサル・ウェポン登場っすか?」
G「いや、ま、それほどのナニじゃないんですけど……つまりですねー、これって要するにいわゆる『島
 田理論』を逆手に取った、野心的な試みだったのではないでしょうか?」
B「にゃにを〜!? 血迷ったか!」
N「ま、MAQさん……!?」
G「まあまあ、聞いて下さいよ。すなわちですね、『冒頭の幻想的な謎』をラストの謎解きでつじつま合
 わせ/謎解きをするのではなく、まるごと無化してしまうという非常に大胆かつ野心的な試みという…
 …」
B「くッ! この作品如きに島田さんを引っぱり出すとは片腹痛いわ!」
N「MAQさんとのおつき合いもこれまでか……」
G「あー泣かないで下さい泣かないで下さい。しかし、そんなに驚くほどの奇説でしょうか? 冒頭に置か
 れた巨大な謎/幻想をロジックによって解体し、現実の地平に引きずりおろす……それが島田さんのい
 う本格ミステリだったとすれば、この作品は、幻想をロジック/本格ミステリ的手法でいったん現実に
 落とした上で、さらにもう一度ロジックによって幻想に還元させる。二段重ねの壮大などんでん返しを
 実現しているとは、いえないでしょうか?」
B「キミのその大仰な言い回しを聞いてると、たいそうな作品に思えてきちゃうけどさ。結局のところ、
 この作品におけるそれは矮小化でしかないでしょうが」
N「バベルの塔という魅力的な幻想を扱ってるぶん、目立っちゃうんですよね」
G「しかし、その点については、島田さんもあまり重要視してらっしゃらない、というような発言をされ
 ているじゃないですか。冒頭の『幻想』がじゅうぶんに巨大かつ美しいものであれば、その解明のロ
 ジックはおのずと美しいものになる、と」
N「しかし、その幻想=幻視にしても、ちょっと小粒で物足りない。『逃げ道』があるというか……。
 MAQさんの主張を容れるにしても、物語を幻想に還元するパワーそのものが弱いのは否めないかと。
 これが島田さんやったら、犯行現場に原寸大のバベルの塔を建てるくらいのことはやってくれるんで
 すが(笑)」
G「やりかねませんねー、島田さんなら(笑)」
N「読みたいでしょ?(笑)」
G「読みたい読みたい!(笑)」
B「え〜い! そこで楽しく『島田教徒のヨロコビ』を共有しあってんじゃないわよ。だぁーかぁーらぁー!
 結局のところ『ロジックはおのずと云々』という発言は、島田さんだからできることなの。島田さんに
 しか言えない言葉といってもいい」
G「う〜ん、そうなんですかねえ」
B「キミはね〜、綾辻さんと島田さんの対談本(『本格ミステリー館にて』)をもう一度読み返すべきだ
 わね。実際、この点については、綾辻さんの感想がそのまんま読者の実感値だと思う。つまりね、幻想
 をロジックで解体し、現実の地平に引きずり降ろす……それはその通りよね。だけど、島田さんの凄い
 ところは、その解体のロジックそのものがつねに冒頭の幻想を上回る美しさとスケールと驚きを持って
 しまうという点にあるの」
N「島田さん自身はことさらそうと意識しなくとも、おのずとそうなってしまう……」
B「そうなのよ。島田作品ではラストで提示されるロジックが、解決が、そして現実が、けっして冒頭の
 幻想に負けないし、それどころかつねにそれをはるかに超えた『ファンタスティック』を提供してくれ
 る。大切なのはここなのよ。この『ファンタスティック!』がなければ、いくら島田理論をなぞっても
 成功とはいえないの」
N「……つくづく島田作品って、ロジックよりもトリックよりも発想やなぁと思うんですよ。常人の枠を
 超えたところから降ってくる解決とでもいいましょうか。『占星術』とか『斜め屋敷』を再読して痛感
 したんですが、真相を知ってから読むと、そこに書かれてるのははじめから『答え』なんですよね。
 『伏線』なんてものは通り越している。ちょっとした発想のジャンプさえあれば、謎でもなんでもない
 という驚き。それこそファンタスティックってやつで」
G「わぉ、これは思わず膝を叩いちゃいますね! 『ロジックよりもトリックよりも発想』かぁ……たしか
 にそうだよなあ」
N「もすこし島田作品の話をしていいですか」
B「どうぞどうぞ、ご遠慮なくですわん」
N「前述の話とも関連するんですが、初期の頃こそそれほど目立ちませんが、島田ミステリって作を追う
 ごとに解決編がアッサリしてくるじゃないですか」
G「ですね。たしかに御手洗ものの長編では、その傾向が強いですね」
N「それこそ伏線を回収しないまま終わることも、けっしてめずらしいことじゃない(笑)。これは、解
 決編でそんなに枚数を取る必要はない、『真相』はすでにずっと前からあなたの目の前にあったんです
 から、という作者の主張のようにも思える。まさに『冒頭の幻想がじゅうぶんに巨大かつ美しいもので
 あれば、その解明のロジックはおのずと美しいものになる』わけですが、これを自然と自分の考えとし
 て持ってるってのが、島田さんの凄さでもあり、ウィークポイントでもあると感じます」
G「うーん。いいえて妙というか……しかし、ってことは島田理論を実践できるのは島田さんしかいない、
 ということになっちゃいますねえ」
B「いまのところ、そうよね。そうとしかいいようがない。将来はわからないけど」
G「しかしですね。パズラーという点に限っていえば、この作品はある意味、島田作品の弱点を補完する
 緻密さを、創出しているとはいえないでしょうか」
B「なによ〜、なんか超ムカツク言い方だわね〜」
N「あ、でも、それはいいとこ突いてるかも」
G「ですから、純粋にパズラーとして読んだ場合、島田作品で御手洗さんなりが提示する『謎解きのロジッ
 ク』は、パズラーのそれとしてみれば正直少々途方も無さ過ぎる場合がある。有り体にいえば、読者が
 純粋に論理的に謎解きするのはひじょうに困難である場合が多い」
B「NOBODYさんの言葉を借りれば、『常人の枠を超えたところから降ってくる解決』を待つしかない。ロ
 ジックの積み重ねよりも『発想の飛躍』が必要なのよね」
G「ですね。極論しちゃえば、考えられるいくつかの解答のうちもっとも途方もないものをあえて選び、こ
 れを力業のロジックでもって現実のものとしてしまう。それが島田作品だと思うわけです。むろんそれは
 弱点でも何でもないわけで、むしろそれこそが島田作品の大きな魅力の一つであり、島田さんを島田さん
 たらしめているポイントではありますが……ことパズラーの純粋さという点では、いささかのクエスチョン
 がないでもない」
B「ほっほぉ〜、それで?」
G「……なんかブチブチ音がしてるんですけど……ともかくですね、そこに飛鳥部さんはパズラーとしての
 要素/完成度を補完したわけですよ。ぼくはこの作品に、そういう野心的な試みを観ることができるので
 は、といいたいわけで」
N「ふむ。そう……島田作品を嫌う人が使う常套句に『偶然に頼りすぎ』ってのがありますよね。たしかに
 ガチガチのパズラーを求めてる人には、島田作品におけるロジックってのはロジックとさえ呼べない代物
 なのかもしれない、ってのは感じます。よく『水をも漏らさぬ論理』みたいな言い方をしますが、島田作
 品の場合、水は漏れまくってます。もうだだ漏れ。ただ、それがまったく気にならないほどの奔流が上か
 らそそぎ込まれているわけで。むしろ、島田作品で気になるのは上の水のあふれ具合のほうやないでしょ
 うか。アンタ、なんぼほど水そそぎ込むねん!って感じ(笑)。……抽象的すぎるかな」
G「いやいや、そんなことないです。ひっじょーにわかりやすいです。で、その点で島田作品と飛鳥部作品
 を比較するとどうなります?」
N「ええ、その点、飛鳥部ミステリにおけるロジックは十分ハードルをクリアしていて、パズラーとしての
 完成度は決して低くないと思います。じっさい、前作は成功を収めました。図象学という後押しはあった
 わけですが」
G「でしょ? 必ずしも完全に成功しているとはいえませんが、少なくとも『島田理論』のパズラーとしての
 側面を補完するという点で、『意味のある実験』だったのではないか、と。ぼくはこれがいいたいわけで
 す」
B「だっからさあ、わっかんねえやつだなあ。残念ながらこの作品の場合は、パズラーとして緻密であるこ
 とそのものが、作品全体を矮小化させてしまっているのよ。野心は野心として、失敗作であることは否定
 できないでしょ? なによりあの『真相』を読んで、私はとてつもなくがっかりした、脱力した。謎解きを
 読んで脱力させられてしまうパズラーなんてものを、私は認めない。島田作品と比較するなど100万年早
 いわ!」
G「いや、そりゃあねえ。島田さんと正面から張り合えるとは思っちゃいませんが、この方向(パズル部分
 の補完)というのは、とても面白い……西澤さんのアプローチの仕方と並んでひじょうに豊かな可能性に
 あふれた方向だと思うんです。この一点からもやはり応援すべきなのではないでしょうか」
N「うーん、なるほど、いわれてみればおもしろいアプローチやったかも。たとえば、MAQさんのいう『パ
 ズル部分の補完』がしっかりしていたなら、『眩暈』なんかもあきれるような傑作になってた可能性はあ
 りますよね。……と、どうしても島田さんほうに話がいっちゃうんですが(スミマセン、飛鳥部ファンの
 方)、『眩暈』ってのはホンマに惜しい作品やったと思うんですよ。じっさい、島田さんが目指す究極の
 ミステリってのは『眩暈』の延長線上にあると思うんですが、そういう作品が仮に現れるとして(べつに
 島田作品である必要はないんですが)、そのときには『パズル部分の補完』ってのはちょっとしたキー
 ワードになりそうな気はします」
B「なるほど、『眩暈』ね。NOBODYさんのおっしゃる通り、あれは歴史的傑作となりえる全ての要素を備え
 ながら『あえてそれを避けて意図的に破綻させた』作品って感じはあるわよね」
G「意図的に、ですか?」
B「うーん、これはあくまで私がそう感じるってだけなんだけどさ。……しかし、仮に『あの方向』でその
 延長線上に現れえる『究極のミステリ』を書ける人がいるとしたら、やっぱ島田さんだろうねえ。そして
 また、そこで『パズル部分の補完』というのが重要な意味を持つというのもとりあえず同意してもいい。
 しかし、飛鳥部さんはねえ。この人はパズラーとしてのロジックというものについて、ちょっと勘違いし
 てるような気がするんだよね」
G「そうかなあ、このヒトの作品って、パズラーとしての完成度はけっして低くないと思うんですが? 本格
 系の作家の中でも、ロジックというものについてよく考えてらっしゃる1人なんじゃないかな」
B「パズラーのロジックは説明でも、まして言い訳でもない。ロジックそのものが一つの作品として、美し
 くしかも大胆でなければならない。説明が付けばいいってもんじゃないのよ。例外はもちろんあるけれど、
 基本的に謎解き部分が長いパズラーにろくなモンはないね。長くなればなるほど説明臭くなり、言い分け
 がましくなるってわけさ……蘊蓄大爆発の「あとがき」もいいけど、そーんなもんに力を注いでいるヒマ
 があったら、ロジックつうもんについてもっともっと考えて欲しい。イマジネーションを膨らませて欲し
 い。作者にはそうお願いしたいわね」
G「なんか、えらそーですねえ。……ともかくぼくは応援してますからね」
B「いいこぶりっこもたいがいにせえ!」
N「まあまあ。このヒトがユニークな才能を持った貴重な戦力であることはまちがいないですよ。それに、
 先ほど触れたキャラクター造形の素晴らしさという点も含め、全体の描写、文章力はしっかりしてたと思
 います」
G「そのあたりは新人離れした力を持ってらっしゃいますよね!」
N「そうですね。島という隔絶された世界でありながら、現実世界ともきちんと繋がりがあって……このへん
 のバランス感覚はなかなかのもんやないでしょうか。私の好みではないんですけど、チョロっとブンガ
 クっぽい香りもたたえた雰囲気は独特。小難しいあとがきから察するに、本格という枠にはまる作家では
 ないんかもしれませんね」
B「ま、ね。ある意味、すでに自分の世界ってもんを持ってる、ということはいえるかもしれないわね」
N「ただ、カバーの折り返しで「N・Aの扉」(新潟日報事業社)とかってのが近刊として予告されてます
 が、いまいちそそりませんなぁ。出版社で差別するつもりは毛頭ありませんが、ちょっと不安ではありま
 す」
G「ああ、なんかこの作品と裏表の関係にあるとかいう作品ですね」
B「コレの裏ってことは、もしかすると●●視点で●●と見せて実は●●だったりして」
N「イヤ、まさか。そんな安直な」
B「わっかんないわよォ〜」
G「なんかだんだん不安になってきますねぇ……」
 
(Talk in November 1999)
 
HOME PAGETOP MAIL BOARD