Goo=BLACK Boo=RED
●多重解決ドミノ倒し……白光
G「えーと、この3月に刊行された連城さんの『白光』は、『小説トリッパー』誌に98年秋から2000年冬にかけて連載された長篇です。……2002年は『人間動物園』という長篇も出ましたし、実はこの年は連城さんのミステリ回帰の年でもあったのではないか、という話もありますね」
B「まあ恋愛小説とか書いていても、やっぱしミステリっぽい仕掛けがちょろちょろちりばめられていたし。連城さんご自身は、そのあたりあまり厳密に区別するつもりはないんじゃなかろうか。実際この『白光』にしろ、ミステリといえばミステリだけど、“現代の家族”の1つのありようちゅーもんを描いた普通小説という読み方だって、じゅうぶんできるわけだしね」
G「ただ、この作品で試みられている仕掛けというか、趣向には、正直いってかーなーりびっくりしました」
B「そう? 連城さんの作風に馴染んだ読み手なら、途中まで読めば作者の狙いくらいはじゅうぶん想像付いちゃうと思うけどな」
G「そうなんですが、まさか実際に、それもあそこまで徹底してやり倒すとは思わなかったですよ。そもそもそんなことが可能だとは、思えなかったし」
B「裏返せばさ、そのきわめて人工的かつ技巧的な仕掛けゆえに、前述の“家族小説”としてのテーマについては、いささか以上に嘘臭くなってしまった嫌いはあるけどね」
G「ともあれ、ざっくり内容と参りましょう。えー、そうですね。ここに1組の姉妹がいます。万事に控え目な優等生タイプの姉と、奔放で派手好きで刹那主義の妹と。対照的な性格をもつ2人はやがて成長して共に結婚し、それぞれ1人ずつ娘を生みます。……こうしてできあがった2組の家族7人(姉の家にはいささか惚け始めた舅が同居しているので4人家族なんですね。妹の方は3人家族)が、この物語の登場人物のほとんど全てであり、そのまま物語の語り手でもあります」
B「つまり、語り手は物語が進むごとに家族から家族へ、入れ替わり立ち替わりバトンタッチされていくわけね。というわけで、構成は凝りに凝っているけれど物語自体はいたってシンプルだよ。……さて、その日妹はカルチャースクールに行くため(と称して)、いつものように幼い娘を姉の家に預けた。しかし、姉は自分の娘を歯医者に連れていくため、預かった妹の娘を舅に託してこれも外出する。ほんのわずかな時間だから惚け始めた舅でも大丈夫だろう、妹の娘は小さいけれどしっかりしているし。……けれどその僅かな時間に、悲劇は起こった。姉が娘を連れて帰宅したとき、少女の姿は消え、留守番を任せたはずの舅は錯乱状態。やがて彼女は無残な死体となって、意外な場所から発見される。平和な住宅地のしかも白昼、その家でいったい何が起こったのか?」
G「というわけでミステリとしては実に単純な事件であり謎であるわけですが、その小さな謎の足もとに実は深く黒々とした底知れぬ謎の深淵が口を開いている、という感じで。……語り手が替わりながらそれぞれが推理し、あるいは“それぞれの真相”を語るたびに、事件の様相はがらりと一変します。ことに終盤近くの逆転に次ぐ逆転は、ちょっと信じられないような“語りのアクロバット”といえますね」
B「そのドミノ倒し的に連発されるどんでん返しの強烈なサプライズと、そのたびに明らかになっていく家族の心の闇とを連動させるのが、おそらくは作者の狙いだったんだろうけど……これはいささか消化不良だなー。“語りのアクロバット”の人工性/作り物っぽさが際立ってしまい、“家族の間に横たわる深淵”とやらも私にゃどうも作り物っぽく見えてしまうんだ」
G「まぁそのあたりは読み手によって受け止め方は違ってくると思いますが、ぼく自身はこれはもう純粋に、技巧の限りを尽くしたミステリとして楽しめばいいんじゃないかと思います。パターンとしては1人称多視点の多重解決ものということになり、その趣向自体はさほど目新しくない気がするんですが、ともかくこれほど壮絶な多重解決は見たことがありません。技巧に裏付けられた力技というか、はなれわざというか……ともかく読者の行なう推理は、それがどのようなものであれ確実に一本背負いを喰らうでしょう!」
B「っていうか、そもそも推理しようなんていう本格読み的な発想はこの作品に関しては禁物ね。もともとこの作者のミステリ書きとしてのスタイルは、謎解きというよりトリッキーさそのものの味わいを楽しませるものでさ。ゆーなればサプライズ重視のフランスミステリの方向つうか……無論、この作品にも伏線は張られてはいるけど、それは謎解きのためというよりどんでん返しに小説的な説得力を与え、完成度を高めための仕込みという意味合いが強いのよね」
G「たしかに伏線については、謎解きの手がかりというよりどんでん返しのための踏みきり板、みたいな感じではありますね。そもそも各語り手の独白には“実は”とか“よく考えてみれば”といったフレーズがバシバシ出てきますし。さすがにぼくも、これを本格ミステリとは呼びかねますけどね。でも、それはそれとして十分楽しめましたから」
B「もちろん作者の技巧を賞味するためにも、伏線を見落とさぬよう注意深く読み進める必要はあるけれど、だからといって解こうなんて考えない方がいい。読んで驚け、そしてくらあい気持になれ、なのさ!」 |