Goo=BLACK Boo=RED
●たまたま疑似本格……『クロック城』殺人事件
G「ええっと。3月に出た本ですが、『『クロック城』殺人事件』と参りましょう。第24回メフィスト賞の受賞作ですね。メフィスト賞だから本格ミステリというわけでは全然ないんですが、なんか巻末が袋綴じになってたりして、思いっきりそそる新人さんではあります」
B「でもさー、袋綴じだから本格ってわけでもないだろ?
特に最近は。まあこのあたりの作品については、強いてジャンル分けをすれば……否、しなければならないとしたら、やっぱ本格ということになるんだろうけどね。こんなもんまで本格とカテゴライズせざるをえないあたりが、現代本格ミステリ界のモンダイだと思うぞ」
G「またそーゆー不穏っぽいこというんだからあ。勘弁して下さいよね」
B「あたしゃこの作品読んでしみじみ思ったんだけど……この際マンガ本格とか、偽本格とか、本格モドキとか、たまたま疑似本格とか……まあなんでもいいけど本格とは別に1個ジャンルをこさえてさ、きっちりはっきり分けた方がゼッタイ良いのではなかろうかと、そう思っちゃうわけよね」
G「だーかーらぁ、そういうのはやめっちゅうに! だいたいなんなんですか、“たまたま疑似本格”って?」
B「好き放題書いたらたまたま本格に似たものができちゃいましたけど、ジツは全然違ってたみたいなんです〜。っていうタイプの作品」
G「あのねー。……ったく新人さんなんですからね、きっちり内容も紹介しますよ」
B「やれやれ。えーとぉ太陽黒点の異常により終末を迎えることが決定づけられた世界。社会システムはなかば崩壊し、滅亡を食い止めようと暴走する私兵軍団が君臨する崩壊した都市で、人々はひっそりをと息を潜めるようにして暮らしながら破滅の時を待っている。その街の片隅で(なぜか)ゴーストハンターっぽい探偵稼業をしている主人公とそのパートナーのもとに、1人の依頼人……クロック城の少女が訪れる」
G「少女の依頼は、彼女が暮らす“クロック城”という城に住み着いている、スキップマンという謎めいたモンスターを退治してほしいというものでした。突如、襲撃してきた私兵軍団の追撃を逃れ、3人がたどり着いたクロック城。過去、現在、未来と名付けられた3つの館の壁面には、それぞれ10分ずつずれた時を刻む3つの大時計が付けられています。人面樹に人面壁、謎めいた研究者に美貌の助手、そして親族たち。やがて怪異と怪人に満ちたこの館で、探偵の到着を待ちかねたように奇怪な連続殺人事件が始まります!」
B「話だけ聞くとすげーヘンな本格っぽいんだよな」
G「ですね。ぱっと見非常に奇異な世界観を売り物にした異世界本格のように見えてしまうんですけれども、実はこの異世界は、本格ミステリとしての中核にあるメイントリックの必要によって生みだされた世界でありまして。つまりアレを使いたいからああいうナニが必要で、ナニを不自然でなく配置するにはこういう疑似科学オカルトファンタシィ的デイアフター風異形の世界を構築する必要があったと……。ある意味ここは、くだんの本格ミステリネタを小説として成立させるために造りだされた、非常にピュアな世界であるわけで。いうなれば世界が本格に奉仕している純本格世界なのですね」
B「……あのなあ、キミのGooもそこまでいくと犯罪的だぞ。バカをいうのもたいがいしろっつの!」
G「ま、まあたしかにね。そこまでするのはちょっと大げさかなという感じのトリックだし、そのための世界観もけっこう安っぽかったりはするんですけど……」
B「ていうかさー、メイントリックは所詮超幼稚な、その場限りの思いつきの域を出ていないシロモノよね。しかも使い方がこれまた哀しくなるくらいストレートときた。はっきりいって、近年これくらい丸見え丸分かりのトリックつーのも珍しい」
G「ん〜、それはそうかもしれませんけど、トリックのために世界をこさえるという情熱は、まさに新本格派のそれをさらに押し進めたものといえるのではないでしょうか。多少の眼高手低はともあれ、その意気を買いたいなぁ」
B「もっともらしいこといってるけどさ、これじゃなんぼなんでん“手が低すぎ”ないか?
トリックについては前述の通りだし、それを装飾し隠蔽し融合するための世界観グッズにしたところで、これまたどれもこれも借り物……それももンのすごく通俗かつ幼稚な寸借物ばかり。一から十まで安直きわまるシロモノぞろいだから、隠蔽するどころかトリック自体が無茶苦茶浮きまくっているんだよね」
G「ううん、センスは決して悪くないと思うんだけどなあ」
B「どーゆうセンスだよそれ。あのなー、いってしまえばこの作品ってぇのは、
思いつきを磨きもかけずに手っ取り早く手近なもんでまとめただけ……いや、実際そうだと言ってるんじゃないよ。あくまで“そんな風に見えてしまう”ってことなんだけどさ。作者さんがそのつもりがなくてもそう見えてしまったら、たぶん結果は同じだよね」 |