Goo=BLACK Boo=RED
●完璧に再現された黄金末期本格(の弱点)……マレー鉄道の謎
G「さて、4年前からタイトルのみ予告されていたウワサの火村ものの長編が、いよいよ登場です!
作者のあとがきに曰く“新本格などではないただの本格”だそうで……」
B「4年前に予告していたといっても、実際の執筆期間は2カ月弱というところだと作者さんご自身がいってるじゃん。だから“執筆期間4年!
渾身の力作!”つーわけではないだろう。“そう思って読んだら百人が百人とも脱力する”ぞ!……だいたいさー、この内容で予告から完成まで4年半というのはなんぼ何でも長すぎる。森さんのようなペースでコンスタントに次々出るならOKかもしれないけどね。ボリューム的にも同じだね、このネタで持たすには長すぎる」
G「まあまあ、まずは内容をご紹介しましょうよ。……観光目的でマレー半島にやってきた火村&アリス。2人は現地で偶然知り合った日本人夫妻に招待され、夫妻の邸宅『ハリマオハウス』を訪れる……が事件はそこで発生した!
ハリマオハウスの庭に置かれていた離れ家で他殺死体が発見されたのだ。現場であるトレーラハウスは、なんとドアも窓も全てがガムテープで封じられた“目張り密室”。犯人はいかにしてこの密室を脱出したのか?
さてまた、なぜ現場を密室にする必要があったのか? 帰国までの限られた時間の中、火村は謎を解くことができるのか!」
B「アラスジだけ聞いていると、密室トリックのハウダニットを中心にすえた、まさに古典的正統的な本格ミステリだね」
G「ですね。作者が宣言したとおり、昨今の新本格的なアプローチとは一線を画す作品であるといえるでしょう。プロットも非常にシンプルで、ミステリとしての焦点は、それこそ密室の謎一点に絞り込まれています」
B「まあ作者的には、こういうシンプルさは狙い通りということなんだろうけど……だとしたら、なんぼなんでもセンスが古すぎると私は思う。“新本格でない本格”をやるのだからといって、こんな風に
“古典本格にありがちな弱点”をそのまま継承する必要はないわけでさ。このあたり、どう見ても作者は大いに計算違いをしまくってるんじゃなかろうか」
G「なんです? その“古典本格の弱点”ってのは?」
B「末期的な無理矢理トリック一発に頼り切ること、よ。むろん古典本格全てがそういう弱点をもってるって訳じゃないけどさ。ともかくこれって古典本格の爛熟期というか、トリックのネタが尽きはじめた末期に見られた現象といわれるもので、本格ミステリの退潮の原因の一つともされているわよね」
G「というと?」
B「つまり、無理やりひねり出した、どー見ても強引で無茶なトリックなのに、作品全体がそれに頼りきりってことね。結果、ダラダ読まされたあげく、ラストでもう一度ガッカリさせられ、作品総体がものすごく軽〜く、幼稚で、安直なものに見えてくるという……まったくさぁ、何でいまさらそんなものを再現しなきゃならないのか理解に苦しむわね。新本格の若い読者への“古典復古メッセージ”ってやつだとしたら、かんッぺきに逆効果よ。無駄に多い主人公コンビの描写に“萌え”るっきゃないってのも、これじゃ当然かも」
G「う〜、いくらなんでもそこまでひどいとは思いませんけどね。本作でいうと“目張り密室”のトリックが問題ってことですよね?
まあ確かにこいつは古式ゆかしい機械トリックですが……たとえばこの手の密室ものだとカーの『爬虫類館の殺人』とかロースンの『この世の外から』とかがありますが、これらの作品のトリックと比べてもさほど大きく見劣りする感じはしませんが」
B「あほかキミは。カー作品だってロースンだって、トリックだけ取り出したらいまや完全にバカミスだぜ?
しかも今回の『マレー鉄道』のトリックは、某赤川次郎作品のバリエーションじゃん(しかもあっちの方が全然スマートだぞ!)。つまりさ、これってのは実効性がほとんどない無茶な機械トリックである上に、それ自体ごっつ貧相なわけよ。こーゆーもんをメインに据えるなっつーの!」
G「うーん、“目張り密室”といえば、TVの『安楽椅子探偵とUFOの夜』もそうでしたよね。有栖川さんはあちらにも関係してらっしゃったわけですが」
B「はっきりいって密室に関わるホワイダニットとしては、『安楽椅子探偵とUFOの夜』の方がずっと面白かったぞ!
『マレー鉄道』の“目張り密室”はホワイダニットとしてはさらにさらに説得力がないし、意外性も皆無で、ちぃっとも面白くないッ。この“なぜ密室か?”に関する完璧なまでの説得力のなさなんて、まさに黄金時代末期の本格の弱点そのものよね!」
G「しかし密室がありトリックがあり、そして有栖川さんお得意の解明のロジックがあって……まあ、確かにいささか冗漫な感じはありますが、スタンダードな本格としてそれなりにバランスの取れた作品でしょう。細部には気が利いた仕掛けとかも結構あるし」
B「なにをいってるんだろうね、このスットコドッコイは!
たしかに有栖川さんからすれば謎解きロジックは見せ場なんだろうけどさ、いつになく強引でエレガントさに欠けてるのはどうしたわけ?
意外性もないしさあ、ロジック自体の緻密さを演出しようとして、逆に屁理屈の強引さを感じさせてしまうようではどうしようもないじゃん!
はっきりいって、謎、トリック、謎解きの全てが同じくらい凡庸きわまりない。……そういう意味ではたしかにバランスが取れているっていえるかもしれないけどね!」 |