●劣化コピーの壮大なコラージュ……『アリス・ミラー城』殺人事件
G「北山さんの新作は『「アリス・ミラー城」殺人事件』。一皮むけたといいますか、現時点での、これは作者のベストでしょう」
B「まー、この作家さんの場合、デフォルトのレベルがレベルだからなー。新作を出すたび自己ベストを更新していくなんてことだって、不可能ではないだろう。もっともこの新作もこれまでと同じっちゃあ同じ。説得力のない世界観のなか、説得力のない設定が設けられ、説得力のないトリックに基づく、説得力のない事件が、説得力のない動機を持った、説得力のない犯人によって引き起こされ、説得力のない解決のされ方をする――という基本的な作風は、相変わらずきっちり遵守されている」
G「だからぁ、そんなふうにいきなりナタで切り刻むような悪口雑言は、お願いですから止めてくださいって!」
B「ちなみにこういう言い方もできるなー。借り物のガジェット、借り物のキャラクタ、借り物のイメージ、借り物のフレーズが氾濫する、劣化コピーの壮大なるコラージュ」
G「えーかげんにせんかーい! もういいです! アラスジ行きます!
えー、物語の舞台となるのは、日本海のとある孤島に屹立する奇怪な城――『アリス・ミラー城』。雪が降りしきるその日、この城に8人の探偵が集められた。城主の依頼は、城のどこかに隠されているという『アリス・ミラー』を見つけ出すこと。探偵たちは早速、それぞれの探偵術を駆使して秘宝を探し始めるが……その時、運命の殺人劇の幕は切って落された。あるいは密室で顔を溶かされ、あるいは全身を切り刻まれて、探偵たちは次々に殺されていく。一つ死体が転がるたび広間に設えられたチェス盤の手が進み、駒は1つずつ屠られていくのだ。神出鬼没の犯人の手で繰り返される不可能犯罪、そして不可解な『アリス』の見立て――なぜ?
なんのために? なにものが? どうやって? すべての謎が解かれたとき、“世界”は反転し、崩壊する!」
B「おお、すげー面白そーッ! とても私が読んだ作品のアラスジとは思えない(笑)」
G「そういいますけどね、こういうお話しでしょ。実際、最後の最後で真犯人が登場した瞬間のインパクトといったら、まさに“世界が反転する”という感じで。ぼくなんか一瞬、何が起こったのか分かんなくなっちゃいましたもん。この作者が心血を注いだあのメイントリックはもちろん、お得意の物理トリックのオンパレードもそれなりに楽しかったし、アリス趣味やチェス連動のギミックなど、色とりどりの装飾や演出の手際も、前作までに比べればかくだんに洗練されている。年間ベスト級……とはまあいませんが、かなり刺激的な作品に仕上がっているといってよいのでは」
B「だからさー、それはあくまで“この作者さんの作品の基準でいえば”の話だと思うのよね。残念ながら、ひとさまに勧める気には、到底なれないなぁ。――まず、きみが騙されまくったメイントリックはさ、アイディア自体の古臭さはともかく、伏線の配置の仕方が杜撰なので、フェアに騙される快感というよりアホくささが先に立つ、なんともカッチョ悪いやり口に思えちゃうんだよね」
G「ううん。驚きより、呆れ感の方が先に立ったのはたしかですが……」
B「トリックについては、その他のサブトリックも含めてあいかわらず押し並べて実に幼稚かつチャチなシロモノ。にもかかわらず、そのプレゼンテーションがまことに頭の悪いというか、要領を得ないやり方だから、さらにいちだんと分かりづらいときた。結果、(作者のやりたかったことが)わかったと思ったらその余りのチャチさにガッカリ、ということの繰り返しなんだよ。ついでに装飾・演出についていえば、冒頭で述べた通り、これは全て借り物のイメージ。これはトリックやキャラクタや設定についても同じだね。作者はそれらを自分のものとして消化/昇華することに失敗しているわけで、要するに“自分の好きなものを引っ張ってきて、考え無しに並べた”だけ。だからどこまでいっても説得力なんぞカケラも生まれない」
G「んー、そこまで酷いとは思わないけどなあ。メイントリックについては、ともかくその徹底したこだわり方はまことに意欲的というか、“志”を感じさせてくれますし……読者を驚かせてくれるのは確かでしょ。うん、ぼくは好きですね。それに、たしかに作中には既成のイメージの焼き直しが頻出しますが、そのコラージュによって総体として描き出される絵は、それなりにオリジナリティを感じさせてくれる。説得力のなさについても、まぁたしかにその通りなんですが、それはそれで作り物ならではの面白さ、楽しさがあると思うんですよ。たぶんこの作家さんは本格ミステリが好きで好きでしょうがないんだと思うんですよね。その大好きな本格の、大好きなパーツを、ともかく集めて組み合せて積み上げた――そういう楽しさがここにはあります」
B「んなもんどこまでいってもチャチで幼稚な、それこそ子どもだまし以下のシロモノだと、私はそう思ったけどね。たとえばさぁ、冒頭近くで提示され最後の最後で明かされる、あのナゾナゾなんてどうよ。ほんのちょっとでもミステリに馴染んでいる人間なら、たぶん一番最初に思いつく“初歩の初歩の答”じゃん。んなもんを大威張りで、ラストでキメポーズ的に提示されても困るわけ。ジュブナイルじゃないんだからさ――ってもしかして、ジュブナイルだったの?」 |