てっとりばやく面白い本を探す
 
【その1】
 
 
「極楽の鬼」 石川喬司 講談社 初版1981年
(1966年に早川から刊行され同名の本の、増補完全版がこの講談社版です)
かつて「ミステリ・マガジン」に連載されていた名物書評コラム「極楽の鬼」(1964/1〜65/12)および「地獄の仏」(1966/1〜69/12)の一部をまとめたもので、作者自身の言によれば「ここ3年間(当時)の翻訳推理小説はほとんど全部、紹介」してあるそうです。
それだけでも大変な仕事なのですが、内容的にも単なる新刊紹介の域を超えています。滋味に富んだ蘊蓄を披露しているのはもちろん、毎回毎回きちんとヒネリを利かせオチを付け、まっとうな読み物として再読・三読に耐えるエンタテイメントに仕上げている。ゆえにブックガイドながら古びることなく、斯界の伝説的名著となったわけでありまして。
昨今多く出回っている安直なブックガイド本・ベスト100本とは根本的に異なるのです。
試みに本文冒頭を見ますと、新刊として「事件当夜は雨」「水平線の男」などが取り上げられています。いわば現在では古典と扱われようかという名作が、トレトレの新刊として評されているわけで……古典未経験の初心者には、実用書としてもじゅうぶん役に立つ一冊といえるでしょう。
 
 
「夜明けの睡魔」 瀬戸川猛資 早川書房 初版1987年
これまた「ミステリ・マガジン」誌上に2年半にわたり連載された同題のミステリエッセイを一冊にまとめたもの。
昭和55年の連載開始時は、当時英国に登場した(英国の)新本格ミステリ派の諸作(ジェイムズやデクスター、モイーズ、ラヴゼイといった作家連)を取り上げるというコンセプトでしたが、やがて扱うジャンルの幅も広がってミステリ界全般の「新しい波」を紹介するという方向に変わっていきました。
かわって「昨日の睡魔」と題する第二部では、いわゆるミステリの古典的名作を現代的な視点で読みなおすという試みを行っており、僕などにとってはこちらの方が面白かったし参考になりました。
というのも「不可触領域」的に奉られることが多い古典的名作を、歯に衣着せず率直に評しているわけで、いわばミステリファンの多くが言いたくても口に出せない心の叫び=ホンネを代弁してくれているのです。
しかし、かなりネタバレもしていますしね、初心者にはやはりちと勧めにくいかな。
筋金入りのマニアさんにお勧めの一冊でありますよ。
 
 
「ニューウェイヴ・ミステリ読本」 山口雅也監修 原書房 初版1997年
このコーナーで取り上げたものの中では例外的に新しい本です。
ガイドブック本が大流行の昨今、書店にはこの手の本が氾濫していますが、実のところ、その多くは安直なランキングや粗筋紹介でお茶を濁すお手軽本で、読むに堪えないものも少なくありません。
そんな中にあって質量ともに屈指の充実ぶりを誇るのがこの一冊。新本格ミステリを真正面から論じたものとしてはおそらく現在最強の本といえるでしょう。
内容は、新本格ミステリ作家総出演という感じのロングインタビューに、やはり新本格の代表的作品を取り上げたブックレビュー。そして先駆者である鮎川、泡坂、島田らを論じた作家論に評論、エッセイ。
まさに盛りだくさんの内容で、多彩な角度から新本格ミステリというムーヴメントのありようを捉えています。
ことに新本格作家18人が一堂に会したインタビューは壮観のひとことで、これだけのものをまとめて読める機会はたぶんめったにないはず。
ファンならずとも一読の価値あり!といっていいでしょう。
そうそう、島田荘司さんのエッセイも収録されていますよ。
 
 
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