世界1ゴージャスなカルトムービー
 
先日、これが第18作目となる「007」シリーズの新作「Tomorrow Never Dies」を見てきました。
ピアーズ・ブロスナンのボンドもいよいよ板についてきたようで、
いささか軽めですが、若々しいボンドを颯爽と演じていました。
ところで、皆さん。このピアーズ・ブロスナンは、ボンド役者として何代目になると思いますか?
ちょっと数えてみましょう。
個人的にはやはりベストという感じのショーン・コネリー、
ほとんど知られてないジョージ・レイゼンビー(この人は1作のみ。
けっこうカッコいいと思うのですが、あまり人気なかったみたいですね)、
実はコネリーより年上だったロジャー・ムーア、
本当は英国劇壇の名優だったティモシー・ダルトン、そして現在のブロスナンですから、
このA・ブロッコリ製作の007シリーズでは彼は5代目ということになります。
(実は、このシリーズがはじまる前にTVシリーズがあったらしいのですが、ぼくは未見です)
ところが、実はこの5人以外にも、ぼくが知るかぎりで3人の映画版ボンド役者がいました……。
といっても、じつはこの3人は1本の映画に出てくるんですね。
つまりどういうわけかジェームス・ボンドが3人も登場してしまう。
それが「カジノ・ロワイヤル」という映画です。
 
タイトルを見ればお分かりの通り、
これはイアン・フレミングの007物語のいちばん最初のものを映画化した作品です。
作られたのはブロッコリの007シリーズでいうと、「二度死ぬ」と「女王陛下」の間あたり。
もちろんぼくも、そんな大昔の映画をリアルタイムで見たわけではありません。
僕自身がこれを見たのは、世間一般にビデオレンタル店というものが普及するようになってから、
ビデオで見ただけなのです。
ぼくは昔から007が好きでしたから、名画座での「007大会」なんてのもマメにチェックし、
ブロッコリ製作のシリーズの方は全て見ていたのですが、
「カジノ・ロワイヤル」だけはとうとう最後まで銀幕でお目にかかることはできませんでした。
ことほど左様に、この映画版「カジノ・ロワイヤル」は評価が低い。
というか、誰からも無視され続けてきた作品なのです。
ビデオで見て、ぼくはこれをおおいに楽しんだクチなのですが、
同時にこれがヒットしなかった理由も分かりすぎるくらいわかりました。
それはこの映画があまりにも過剰過ぎた、ハチャメチャコメディの「失敗作」だったからなのです。
 
ボンドが3人も登場するということからも、想像がつくかもしれませんが、
この映画では何もかもがおっそろしく過剰です。
ボンドガールは200人。空飛ぶ円盤を始めとする大量の秘密兵器。むちゃくちゃに巨大なセット。監督までもが5人がかりです。
そして極め付けはものすごく大量のスター!
たとえばボンド役の3人ですが、まずは英国紳士をやらせたら天下一品のデビッド・ニブン。
ごぞんじクルーゾー警部のピーター・セラーズ、
そしてテレンス・クーパー(この人は僕もよく知りません。名前はなんとなく記憶にあるのですが)。
一方、彼らの上司Mには名匠ジョン・ヒューストン。
ボンドの敵役のル・シッフルには、泣く子も黙る天下の名優オーソン・ウェルズ!
そして、ウェルズを動かす秘密組織スメルシュのボスが、なんと若き日のウッディ・アレン!
(このアレン、まだ若くて頭もフサフサしておりますが、相当程度にヘンです。
なんせ彼の野望は「世界を身長140cm以下の男と美女だけにする」ことなのです!)
他にもピーター・オトゥールやW・ホールデン、デボラ・カー、
ジャン・ポール・ベルモンド、ジョージ・ラフト!なんかも、ワケのわからん役で顔見せしています。
こうした膨大な数のスターたちが、全身全霊を込めて凄絶なパイ投げをやってるような……。
たとえていえば「カジノ・ロワイヤル」とは、そういう映画です。
 
つまり、これは007映画の設定を借りたハチャメチャな物量コメディであり、
およそ当時の日本人のセンスには刺激的すぎるほど刺激的なナンセンス精神にあふれた、
正真正銘の怪作だったのです。
笑う、というより呆れる。呆気にとられて開いた口がふさがらない。文字通り、そんな感じなのです。
考えてみれば、コメディにも関わらずあまりのハチャメチャぶりに逆に笑えなくなる……。
そういう映画ってありますよね。
たとえばスピルバーグ唯一の大外し作品「1941」とか、
もはやカルトムービーになりかけてる「ブルースブラザース」とか。
あれらを100倍派手に、ぐちゃぐちゃにしたような映画を想像していただければ、
かなり「近い線」かもしれません。
さて、どうでしょう?あなたも見たくなったのではありませんか?
映画ファンなら見たくならないはずがない、という気がします。
でも、大きなレンタル屋さんでも、これを置いておくような気の利いたお店は少ないかもしれませんね。
なんせこれはぼくの知るかぎり、世界1人気のない007であり、
世界1ゴージャスなカルト・ムービーなのですから。
 
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