ポップコーンの効用
 
最近、客席での飲食を禁じる映画館が増えました。
べつにぼくも客席で大っぴらに飲み食いしたいとは思いませんが、
だからといって大上段に「規制」されるのはなんとなくむかっ腹が立ちます。
美術品でもあるまいに。たかが映画、観客が楽しく見られりゃそれでいいと思うのですが。
なんせ最近では洒落臭くもロビーにちんけなカウンターバーもどきをこさえて、
飲みたいやつは先に飲んどけといわんばかりのタカビーな態度のところまであったりしますね。
おまけにメニューはビールにジンジャエールくらいしかないくせに、そいつに結構なお値段を付けたりして。
その勘違いぶりに思わずヘソが茶を沸かしますけど、
むろん観客もバカではありませんから、あまり利用者もなく閑散としてたりするのが、実になんともいい気味です。
といっても、まあ、飲み食いOKの劇場の売店でも、もともとたいしたものが置いてあるわけではありません。
主食っぽいのはせいぜいサンドイッチ程度で、あとはスナック、チョコレートの類い。
飲み物がコーラにコーヒー、ビールがあれば上出来というところでしょうか。
 
まあ、そのメニューはともかく、以前からどうにもフに落ちなかったのですが、
とくだん珍しいわけでも美味しいわけでもないそうした飲食物が、どうしてあんなにバカ高いのでしょう。
外の自販機で買えば120円のコーラが、紙コップに注いで氷を放り込んだだけで200円。
自販機を置いてる小屋はむしろ良心的というべきで、
1歩外にでればいくらでもある商品に、映画館の売店に置くだけでいきなり倍近い値段が付くのですから、
こりゃどう考えてもぼったくり。
ただでさえ世界屈指の高料金を取られてるのですから、たかがコーラにそんな金を払ういわれはありません。
ですからぼくの場合、最近はもっぱら外のコンビニや自販機で仕入れてから小屋に入るようにしておりまして。
それこそ小屋ごとに「飲食物の仕入れポイント」というのを決めているほどなのですが、
ただ一つ、やはり劇場の売店でできたてホカホカのやつを買いたいと思うものがないわけではありません。
 
なにか?というと、これがポップコーンでありまして。
正直いってこんなもの普段はまったく食べないのですが、劇場ではなぜか欲しくなる。
特に、小屋にかかっているのが香港やハリウッド製のコメディやアクション映画、ホラー映画の、それもB級モノだったりしますと、
やはりこいつとコークは欠かせない!という気分になってしまうのですね。
おバカなB級映画を見ながら、わしづかみにしたポップコーンをほお張るのは、今もやっぱりかけがえのない至福の時間。
多少お高くても、ついついLなぞ注文してしまうハメになるわけです。
ちなみになぜポップコーンかというと、アメリカのガキどもが映画館でしきりとこれを食べてるから、
という他愛もない理由なのですが、たとえばこれがポテチではやはり困ってしまいます。
パリパリ音がするし手もベタベタする。
おまけにカケラをポロポロこぼしたりしてどうにも往生してしまいます。
そうでなくとも、実はポップコーンには食べる以外にもう一つ、とても大切な用途がありますよね。
つまり、それがどうしようもないクソ映画だった場合、ポップコーンなら安心してスクリーンに投げ付けられる、という……。
 
ベタベタしてないから、前列の客にかかった場合も怒りを買いませんし
(まあ、まったくというわけにはいきませんが)スクリーンを汚す心配もない。
しかもそれでいて白いので暗い劇場の中でもひときわ目立つ、というわけで。
暗闇にぱあっと飛び散るポップコーンの白い輝きは、あれでなかなか感動的なものだったりして。
ストレス解消にはもってこいなのです。
まあ、お行儀の良い日本の観客はそんなことはいたしませんが、
ぼくは香港の場末の小屋でコレを散々体験しましたので、
日本の劇場でもヘマな映画を見ると投げ付けたくてウズウズしちゃいます。
ちなみに、ポップコーンはエンドクレジットが流れ始めてから「入れ物ごと」投げ付けるのがポイントです。
コーンだけ投げたって飛びゃあしません。節分の豆じゃないんですから。
当然、せっかく投げ付けても、ポップコーンの量が少ないと貧弱でつまらないのですが、
だからといって最初からそのつもりで取っておくわけのは邪道というもの。
ここはあくまでナチュラルに、自然体でコトに望むのが正しい身の処し方です。
 
不思議なもので、映画が面白ければなぜかポップコーンの減りも早く、
つまらない映画の時ほど最後の最後まで残ってしまうというわけで。
「なんだ〜これで終わりかよ」とがっかりしながらフト手許を見ると、ポップコーンは山ほど残っている。
思わず怒りを込めてスクリーンに……。
これこそ人間の本性に根ざした自然な流れというべきもの。
天下御免のポップコーン投げ道というものでありましょう。
そもそもお金を払ってウンコ本を読まされた読者が、その本を床に叩き付ける権利を持つように、
ヘマな映画を見せられた観客はスクリーンにポップコーンを投げ付ける権利を持っています。
むろん、だからどんどんやりましょう!……とは、まあ、申しません。
皆さまの中にも試してみたいという方、いらっしゃいましょうが、
その結果どういうコトになってもMAQは一切関知いたしませんので。
どうか、ご自分の責任においておやり下さいませね。
 
そういえば昔は客席にアイスクリーム売りが来て、本編が始まる直前まで売り歩いてたりしたものですが、
最近は見かけませんね。
小ぶりのクーラーボックスにぎっしり詰め込まれた、あれはたしかエスキモー印のアイスモナカ。
ウチは三代続いた由緒正しい貧乏人なので、結局一度も買ってもらえなかったけど……
食べてみたかったな、あれ。
 
HOME PAGETOP MAIL BOARD