難儀な性格-1

 
 いなものから先に食べ、好きなものは後にとっておく。
そういう食べ方が子供の頃からの習慣でした。
好きなものだからこそ、後の楽しみにとっておきたい。
嫌いなものをきれいに片づけて、なんの気がかりもなく好きなものをゆっくり楽しみたい。
たぶんそういう気分なのでしょう。
いま思えばそれ自体とくに恥じる必要もない習慣ですが、
ある時からそれが妙にいじましく浅ましいものに思えて。
いっとき自分なりに努力したのですが、やはりどうにも落ち着かず、やめられない。
好きなものをホイホイ先に食べてしまえる友人が、
些事にこだわらぬ大人物に思えて羨ましかったものです。
 
のあまり格好の良くない僕の習慣は、実は食事のことだけに限りません。
生活のあらゆるシーンで、
いくつかの選択肢に順番を付ける必要がある時には
必ずといっていいほど顔をだしてきます。
 
とえば、読書についてもそう。
仕事で必要な本、なんとなく気になる本、前々から読みたかった本。
さまざまな動機で購入した何冊かの中からどれを最初に読むかというと、
僕はまず決まって「さほど読みたくはないけどどーしても読む必要がある本」を取ってしまう。
当然、いちばん楽しみにしている本は後々まで残しておくことになるわけで、
気の進まぬ義務的な読書をしながら、横目で本棚のツン読コーナーをうかがい、
お目当ての本の姿を確かめて「もうすぐ読めるんだからネ」なんて自分を励ましたりして。
ほとんどこれは自虐の快感かも知れません。
 
れど、この繊細な計算に基づいた“ローテーション”に
全く無頓着な人間が遊びに来たりすると、コトは一気に壊滅的な状況を迎えます。
後生大事にとっておいた“僕のとっておきの一冊”を、
その人はいとも無造作に手に取り、もって帰り、先に読んでしまったりするわけです。
……たいしたことではありませんよね、減るもんじゃないし。
ええ。先に読まれたからってどうってことはない。
なのに、掌中の玉を奪われてしまったような、
大切に育てた娘の処女を無理無体に奪われてしまったような、
そんな気分になってしまうのはなぜでしょう。
おかげであれだけ読みたかったはずなのに、
ちょっとだけその本のことが嫌いになったりもして……。
まことにどうも、難儀な性格としかいいようがない。
 
かげで僕の本棚のツン読コーナーには、
“大好きなのにちょっとだけ嫌いになってしまった本”というのが幾冊も、
ちょっと寂しげにならんでいるのです。
 

 
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