人間ドックに行く-2

 
て、こうして一通りの検査が終わりますと、いよいよ待ちに待ったクライマックス。胃部レントゲンです。
なんつたって前夜からの禁酒禁煙飲食不可もみぃんなこの時のためだったのですからね。
まず、看護婦から直々に“お話”があります。
これこれこーゆーキケンがあるから、これこれこーゆー注射を打ちます。
「いいですね?」……って、ようするに怖がって暴れないよう鎮静剤を打つらしい。
おいおいそんな“怖い”もんなのかよ〜と、その仰々しさにやや腰を引きながら注射を打たれ、
もみもみしながら待ってると別室に案内されます。
するとそこは真っ白な部屋にどーんと巨大な鋼鉄製の寝台が、斜めに立っている。
寝台の端には足を載せるスペースもあって……
つまりサンダーバード1号に乗り込むときに、スコットが使うアレのデカいやつですね。
で、スコットよろしくそこに横になる、というか、直立状態で“縦”になる。
すると「起動!」とばかりにやおら寝台がうんうん唸り始め、隣の部屋の技師さんがマイクを通じて指示を出してきます。
 
の声が異常に明るいのがとてもイヤでして。
「はぁい、じゃまず目の前の小さい方の紙コップの中身呑んじゃってくださ〜い」
コップには白い顆粒状の物体が入ってます。口に入れると妙に酸っぱい。
咽にガサガサ引っ掛かるそれを無理やり飲み下すと、
いきなり胃袋の中でナニカがプチプチ弾ける感じがして猛烈に膨らみ始めます。
炭酸の元というか、発泡剤というか、ほとんどコーラ10本一気のみしたような感じです。
当然げっぷが出たくてたまらなくなりますが、すかさず技師が一言。
「げっぷは我慢!」
これ、ツラいです。汚い例えですが、泥酔して吐きそうになったのを堪えるというか。ほとんど必死になります。
いいかげんイヤになってるところへ、また技師さんの一言。
「はぁい、じゃ大きい方のコップの中のもの、半分呑んでくださぁい」
こちらのコップには白い液体がめいっぱい入っています。いわゆるバリウムですね。
 
のかに甘いのですが、けっこうどろっとしてて呑みにくい。
げっぷをこらえつつ無理やり飲み込むと、またもスルドク一声。
「右に回る、はいそこでストップ。食道撮りますから、ノドでバリウムを止めてストップ!」……って、できるかそんなもん!
「はぁい、じゃあ残りを一気に呑んでぇ」夢中で飲み込むと、やおら寝台が機械音を轟かせながらぐりんぐりん動き始めます。
足側が一気に持ち上がり懸命に手すりにしがみついてるところへ、
例によって右に回れの左に回れの俯せになれの斜めになって制止しろのと雨アラレと指示が降り注ぎ、
その間も寝台は頭側が上がったり足側が上がったり容赦なく動き回ります。
こちらはほとんど必死。
げっぷを堪えつつ手すりにしがみついて、技師さんの矢継ぎ早の命令に答えます。
ぱんぱかぱんにお腹膨らませたまま、動くシーソーの上でマット体操やってるような、そんな状態とでも申しましょうか。
やっと止まったと思ったら、今度は目の前に白い箱がぐぅんと伸びてきて、グリグリとミゾオチに食い込んできます。
「アップ撮りますからねぇ〜、げっぷは我慢〜。出ちゃったらぁやり直しぃ〜」
心身ともに疲労困憊したころ、ともあれ試練は終わります。
「はぁい、お疲れさまでしたぁ。洗面所で口をゆすいでさっぱりしてくださいねぇ」
悔しいからこちらは盛大なげっぷで返事をしてやります。
 
上で、メニューはおしまい。時計を見るとちょうどお昼時です。
打たれた鎮静剤のせいか、失った血液のせいか、頭痛とめまいと吐き気に襲われつつ、
のろのろ着替えて支払いをすませると、看護婦さんが笑顔で小さなチケットと小袋を渡してくれます。
チケットは昼食券。ドックが提携しているレストランでランチがいただけます。
また小袋にはごぞんじ「ピンクの小粒」が入ってます。お腹の中のバリウムをとっとと排出させろというわけですね。
 
て、検査は以上で終了ですが、ドック側の本当の作業はむしろここから。
受診者から集めた検体や写真やデータを調べ、分析し、不具合を見つけるわけで、これにほぼ1週間ほどかかります。
その結果は直接医師に聞きに行ってもいいし、郵送でも対応してくれます。
僕は面倒なのでいつも郵送を選んでいますが、もしナニか“怪しの影”が見つかったりするとそうはいきません。
即座に会社に電話がかかってくるんですね。
これが非常に怖いというか。なにしろ看護婦さんは電話ではなにもはっきりしたことを言ってくれません。
「ちょっと検査結果に問題がございますので、直接医師の方から説明させていただきたいと」
「どッどッどッどこが悪いんですかッ」
「医師の方から説明いたしますので」
「隠さないでください!ああ〜胃ガンですか、それとも肺ガン、いやもしかして白血病」
「ですから、医師が説明しますので」
「あ〜そういえば白いウンチョスが出ました!白血病なんですね!」
「……それはバリウムです。結果は医師が」
「カクゴはできてます!あと何ヶ月のイノチなんですか」
「いいからとっとと来やがれ!」
さすがにそんな言い方はしません。
 
もかく、看護婦さんもたいへんですが、こちらはすでに死刑宣告を受けた気分になってしまうわけです。
まあ、たいていは大山鳴動鼠一匹という結果に終わるのですが、絶対そうとは言いきれないところがこれまたツラい。
僕自身はほぼ2年に1回ずつこの“呼び出し”をくらい、胃カメラなどの再検査を受けていますが、
これがまたドックなぞ比較にならぬ地獄そのものでありまして……。
ぜひぜひ、お話したいところですが、いくらなんでも長くなりすぎました。
機会をあらためてまた稿を起こしたいと思います。
 

 
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