一千億の理想郷【定義篇:作家】-1
 
※敬称略。発表年代順。新しいものほど下(後)に配置してあります。「本格ミステリ」という呼称自体に異同がある場合は、カッコ付きで補っています。また、発言の年月は、書籍からの引用の場合は基本的に当該書籍の初版刊行日に準じています。
※基本的に全て「原文からの部分引用」です。
※同じ筆者/発言者の文書・発言が複数の項目に収録されている場合、各文書末尾に「※>定義篇」といった形でリンクが張ってあります。
 
 
戦前(〜1945)

● (探偵小説とは)「或る問題が作者によって創り出され、且つ解決せられ、同時に頭脳明晰の読者なれば、その同一解決を導き出しえるであろうようなチャンスが与えられている読物を謂う」
……カロリン・ウェルズ(作家 『ミステリ・ストーリイの技巧』 1913年)

●(全くの探偵小説と)「名づけ得べきものは、犯罪をば様々なクリュウ即ち手掛りを辿って偵察し、遂に犯人を突き止めるに至る迄の分解、総合の過程を描いて行くものである」
……馬場孤蝶(作家 『アラン・ポオの研究』 1922年1月)

●(探偵小説では)「その主たる興味が謎の解決に置かれていなければならない。そして物語の初期に於て、その主要部分が読者に提示せられ、且つその謎たるや、充分読者の好奇心を惹き起さしめなければならないし、さらにその好奇心は最後に於て充分に満足させられるように仕組まれていなければならない」
……ロナルド・A・ノックス(ミステリ作家 『傑作短編探偵小説年間』序文 1928年)

●(探偵小説とは)「普通の意味での小説の項目にあてはまるものではなく、むしろなぞなぞの範疇に属するものである。つまりパズル、小説の形をした、複雑化し拡大されたパズルなのである」
……ヴァン・ダイン(ミステリ作家 『探偵小説二十則』 1928年9月)

●(探偵小説とは)「犯罪とその捜査をとりあつかった小説のうち、謎の設定とその解説が、もっぱら論理的操作によってのみ行われるものをさしていう」
……ドロシイ・セイヤーズ(ミステリ作家 『探偵・ミステリー・恐怖短編傑作集 第1巻』序文 1928年)

●(厳格な意味での探偵小説は)「第一、犯罪が行われること、しかしてこれを中心としてストーリーが発展する事。第二、detectionがある事、第三、多少のmysteryが必ずある事」
……浜尾四郎(ミステリ作家 『犯罪文学と探偵物』 1930年7月)

●(探偵小説の)「十の要素(殺人方法、手掛り、フェアプレイ、意外性、解決の推理、プロット、サスペンス、文体、性格描写、背景描写)のうち、殺人方法から推理までの五つは探偵的要素で、残りの五つは小説的要素である。前者の探偵的要素の皆無又は希薄なものは、探偵小説とは呼べない」
……甲賀三郎(ミステリ作家 『探偵小説講話』 1935年 ※>批評篇

●(探偵小説の)「条件とは何か、それは、謎があり、論理的思索があり、そして解決がある。といふ、三つの重要なる条件である。この三つを具備するといふ形式を通して何が出て来るかといへば、文学が出て来るのである。芸術が出て来るのである」
……木々高太郎(ミステリ作家 『人生の阿呆』序文 1936年)
 

戦後〜新本格(1946〜1986)

●(探偵小説とは)「主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く経路の面白さを主眼とする文学である」
……江戸川乱歩(ミステリ作家 『幻影城』 1950年5月)

●(探偵小説の)「本質的要素は、第一に筋、第二にトリック、第三に推理と、これだけは絶対に必要。従って構成はきちんとして、物語はこころよい迫力を持ち、そこに魅力ある主人公(名探偵)が登場なければならぬ」
……福永武彦(作家 『探偵小説の愉しみ』 1956年)

●(推理小説とは)「小説構成の面白さを、犯罪に関する謎という一種の限界状況の中で、極端に強調した文学である」
……斎藤 栄(ミステリ作家 『紅の幻影』あとがき 1968年)

●「論理による謎を、論理をもって、合理的に解決するのが、本格推理小説です」
……都筑道夫(ミステリ作家 『黄色い部屋はいかに改装されたか?』 1975年6月 ※>批評篇1 >批評篇2)

●「謎ときゲームとしての推理小説は、探偵小説が解決の手がかりとする諸条件を全部、読者にも知らせてなければならぬこと、謎を複雑ならしめるために人間性を納得させ得ないムリをしてはならないこと、これが根本ルールである」
……坂口安吾(作家 『推理小説について』 1978年)

●「ヘンリーは穏やかに言った。「ミステリの読者といたしましては、ルービンさま、あらかじめ証拠となるべき事実が示されておりまして、あとになって、そこに気付かなかった自分の知恵の不足を恥じるという方が、わたくしは好きでございます」
……ヘンリー(作中人物)/アイザック・アシモフ(SF作家 『黒後家蜘蛛の会2』 1978年)
……発見者: 杉本@むにゅ10号 (*the long fish* 管理人 ※>批評篇:読者

●「推理小説(の前身探偵小説も含めて)は、犯罪に関する謎解きに読者も参加して楽しむ知的ゲームの小説である。……(中略)……犯人も被害者も探偵も、作者の道具であり、現場や手がかりはすべて作者にとって都合のよい設定になっている」
……森村誠一(ミステリ作家 『ロマンの切子細工』所収「横溝ミステリー復活の土壌」より 1978年7月 ※>批評篇

新本格〜(1987〜)

●(本格ミステリーとは)「幻想的で、魅力ある謎を冒頭付近に有し、さらにこれの解明のための、高度な論理性を有す(形式の)小説」
……島田荘司(ミステリ作家 『本格ミステリー宣言』 1989年12月 ※>讃歌篇

●「純文学の小説は、虚構を通じて真実を語るが、推理小説は同じく虚構を通じて、論理の――正しくは論理的推理の――美しさを読者に呈示する」
……由良三郎(ミステリ作家 『ミステリーを科学したら』より 1991年5月 ※>批評篇

●(推理小説は)「一定の形式を必要とする文学である。それが成功するためには、1.人工的な謎と、2.謎を解明する人工的な論理と、3.それに伴う意外性、を必要とする」
……土屋隆夫(ミステリ作家 『推理小説作法』1992年4月 ※>讃歌篇

●(本格ミステリーとは)「“主として犯罪における謎が論理的に解明されていく小説”だと思っています。乱歩が言うところの探偵小説ですね」
……歌野晶午(ミステリ作家 『奇想の源流』より 1996年5月 ※>批評篇

●(自分にとってミステリーとは)「謎を解明していく面白さを追求したもの、ということなんです。ただそれだけしかない。そこにはどんな修飾もつきません」
……井上夢人(ミステリ作家 『奇想の源流』より 1996年5月)

●「アクション的な要素や人情的なものを排除して、主として人間の頭脳の明晰さをアピール、そういうかっこ良さをアピールする物語ですね。それが「本格」だと思っています」
……森博嗣(ミステリ作家 『98本格ミステリ・ベスト10』森博嗣氏インタビュー 1997年11月)

●(《本格推理》とは)「手がかりと伏線、証拠を基に論理的に解決される謎解き及び犯人当て小説である」
……二階堂黎人(ミステリ作家 『本格推理(15)』「新編集長の言葉」より 1999年11月)

●「まず手掛かりをもとに論理的に解決するというのがありますね。あときちんと伏線を張る。さらにトリックがあればなおよしと。……(壊そうという意識はなくて)……むしろ、それだけは守ってあとは自由にというか、やりたいようにやるということですね」
…… 麻耶雄嵩(ミステリ作家 『ユリイカ』1999年12月号所収のインタビュー)

●「謎があって、それが解明される。そこに至るまでの過程に(探偵が登場する場合もあるが)論理(推理)があり、驚き・意外性がある。どちらか一方ではなく両方(論理と意外性)の度合いが高いほど、本格である」
……綾辻行人(ミステリ作家 講演会『本格ミステリの魅惑』 2000年秋 ※>批評篇1 >批評篇2 >批評篇3
……提供者:mihoro(『綾辻行人データベース Ayalist』管理人)

●「作中に記された手掛かりから導くことが可能な意外な結末、などを用意して、読者を論理的におどろかせるために書かれた作品」
……薔薇小路亜矢花(作中人物)/鯨 統一郎(ミステリ作家 『ミステリアス学園』より 2003年3月)

 
 
 
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