[其ノ弐]北陸遠征失敗('93.5/3)

走行データ

  • 所用時間:約24時間
  • 走行距離:約700Km
  • 費  用:忘れた
  • 同乗者:1人
  • 走行経路:千葉県柏市発立山経由戻


    1日目

     出張帰りの新幹線の中で、ビールをかっこみながらバカな話をしているとき、同行の某Y氏が言った。

     「俺んとこの立山なんてさあ、雪が10メートルくらい積もるんだよね。」

     瞬間的に「嘘でぇ」と思った。自慢じゃないがこちとら、ちゃきちゃきの北海道生まれである。雪にかけちゃそんじょそこらの内地人には負けない。雪が多いイメージはあれ、実は北海道の積雪はたいしたことはない。東北日本海側は雪は多いが、それでも2〜3mだろう。だいたい降雪量と積雪の高さは別物で、1m降ったとしても、1日たてば自重で潰れ、積もっている雪としては60cmかそこらになってしまうものである。したがって10mも雪が積もっているとなると、その降雪量は30mくらいないとならない。そんなことはありえない。つまりウソだ。とうことを0.2秒くらいで考えたわたしは、「そりゃあウソでぇ」と反応したわけである。

     しかし某Y氏は執拗だった。北陸出身の看板はダテではない。日本海の荒波に育まれた(のかどうかは知らないけど)気性をみなぎらせて立山10m積雪説を、ツバを周囲にまき散らせながら主張するのである。よおし分かった。今度のGWには立山に行ってやろうでわないか!

     こうして日本周回MINIの旅北陸遠征編の幕が切って落とされたのであった。

     つまるところ私の目的はMINIを運転することであり、普段コンビニ往復とか、都内大渋滞のろのろ運転程度にしか活躍していないMINIに、年に1回もーいやだ、って言うほど乗る、というのが第一目的である。従ってその準備はいたって簡単。計画はズサン。行動は思いつき。というのが原則である。事前準備は本2冊。マップル中部道路地図と、ドライブのお供にベストドライブ<北陸・佐渡>(山と渓谷社)を買っただけ。

     計画としては、中央高速を一気に北上し、黒部ダムの方から立山に入り、某Y氏の真偽を確認した後、ちょっと戻って糸魚川に抜け、日本海に沿って北陸自動車道を西進、金沢から九頭竜ダムの横を通って美濃経由中央高速に戻るか、あるいは、金沢を通り抜けて福井に向かい、若狭湾をちょっとかすめて米原経由関越自動車道で東京に帰るか、その時の状況で決める。全行程丸2日、下手すると3日目にかかるかな?という、相変わらず無謀な強行軍である。

     これで事前準備は完了した。そうして連休渋滞を避けた平成5年5月の3日を計画始動日と定め、またウダウダとした生活に耽溺する私であった。

     私が住んでいるのは会社の独身寮なのであるが、前日に隣の部屋のOが寮に残っているのを発見。いきなり声を掛けることにした。

     「明日黒部に行くべ」
     「何しに?」
     「なんとなく」
     「いいよ」

     こうしてナビゲーター兼アシスタント・ドライバーを確保した私は、5月の3日午前0時千葉県柏市のM寮を出発したのである。

     柏インターチェンジから常磐自動車道に入り、首都高を経由して中央自動車道に乗る。さすがにMINIではないが、中央はスキーに行くのによく使っているので、慣れたものである。関係ないが、いつかMINIでスキーに行ってやる!絶対ハマると思うけど。談合坂サービスエリアあたりで朝飯とゆーか夜食。

     長野に入ったあたりから天気が一気に悪化する。岡谷ジャンクションから長野自動車道に乗り換えた頃には、どーしゃぶりーの雨の中を(古いね)かっとばしていく。徐行している一般車両を尻目に、無謀にもMINIを追い越し車線に入れ、120km/hrで水煙を巻き上げながら先を急ぐ。きっとそのうち事故るだろうなあ。雨の中でブレーキを踏むと片ぎきして車体が左に振られるので、一切ブレーキは踏まない。私のMINIが悪いのか、MINIのブレーキシステムが悪いのか、よく知らない。とにかく危なくてしょうがない。

     松本インターチェンジで一般道に降り、R147で大町市を目指す。この頃には雨があがったが、曇天の空はうざったい。大町アルペンラインで扇沢に向かう。が、なんか観光地の裏側っぽいところを過ぎ、林道の坂を駆け上ろうかというとき、旅行の成功を危ぶむとんでもない事態に巻き込まれたのである。なんと雪が降り出してきたのだ!

     5月とはいえ立山連峰は甘くなかった。いくらモンテカルロ・ラリーで優勝経験を持つMINIとはいえ、ピレリの10インチ145Rじゃ非力もいいところ。あっと言う間もなく谷底の粗大ゴミになるのが関の山。でもまあそれは後で考えるとしよう。とりあえずそこらにMINIを停めて、10mの雪の山を見に行かずばなるまい。

     扇沢からトロリーバスで黒部ダムへ。おお、これが有名な黒部ダムか。何が有名なのかは忘れてしまったが、小学校の教科書に載っていたぞ。黒部ダムを囲む山々はやっぱり雪化粧で、夏装束の我々にはちと寒い。ダムの反対側から黒部ケーブルに乗り、立山ロープウェイに乗ると、そこは一面の銀世界。大観峰から立山トンネルバスに乗ると、そこは室堂。山頂直下の雪野原である。雪は降ってないが、風は強く、寒いことこのうえないが、場違いな格好の男2人は、そこらをウロウロする。貸してもらったゴム長は有り難かった。夏靴じゃあちと歩けない。

     そうしてそこにそれはあった。

     室堂から美女平に抜ける立山黒部アルペンルートの入り口がそこにあり、雪の山に道路の幅だけ深い溝を刻み、そこにバスが分け入っていく。道際の雪の壁は5mもあろうかという高さで、バスにのしかからんばかりに垂直に切り立っていた。

     某Y氏の名誉は保たれた。こうして幻の湖ロプ・ノールを発見したかのごとく、我々は深い満足と安堵を共に、その地を立ち去る決意をしたのであった。平成5年5月3日AM11:30頃の出来事である。

     そっくり同じルートで扇沢に戻る。今年は雪が少なく、積雪は7m程度とガイドのおじさんは言う。それはいいが、この往復だけで8,000円以上取るのは暴利じゃないかい?というセリフは腹の中でつぶやくにとどめ、雨の降り始めた扇沢で昼飯にする。どこぞの店で山菜ちらしを頼む。うーん。名物にうまいものなし。

     腹がくちれば眠くなる。車の中で仮眠。MINIの中で男が2人寝るのはちょっと窮屈である。外はみぞれ混じりの雨。さぶい。

     14:00頃出発。山を下りると雨はあがっている。ようするにこの日は山の上だけ雨なのだね。

     雪が降っていたこともあり、白馬を越えて日本海に出るR148をMINIで山越えするのはムリと判断。ここに北陸遠征の夢は潰え、涙をのんで帰京を決意するのであった。

     帰りに大町市をウロウロしてみたが、大して面白いものは見つからなかった。そのまま長野自動車道に乗る。後はひたすら走る走る。運転かわってもらおうかと思っていたが、雨降りの夜の高速をシロートに運転させるのはこわいので、延々ひとりで運転し続ける。

     雨が降ると再びブレーキが滑る。走っている間はエンジンブレーキオンリーだからいいけど、サービスエリアに入れようとちょっとでもブレーキを踏むとハンドルを取られる。雨降り夜中に、ライトを点けてワイパー稼動してカーステ鳴らしていると、ワイパーの動きが悪くなることが多いけど(う〜ん非力なバッテリ)、さすがに高速上だとOKだね。ワイパー・ブレードも代えたばかりだし。

     再び談合坂パーキングエリアで飯を食い、柏に着いたら24:00だった。ちょうど24時間で立山を往復したことになる。

     まあこの程度であればスキーブームの全盛期にはザラだったから、それほどキツくもないね。今のところ。

     んじゃ寝るわ。じゃね。


    [走行データ/1日目]

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