鈴鹿山脈概要


東海道新幹線で東京を出発し名古屋に到着する頃、車窓の左手遠くに長く横たわって見えるのが鈴鹿山脈です。鈴鹿山脈は、北は関ヶ原から南は加太越えまでの南北に長い山脈で、その長さは50kmに及びます。特徴として、県境稜線より三重県側は急崖をなして伊勢平野に落ち込むのに対し、滋賀県側は緩やかに近江盆地へと下っていき、その山中に愛知川や茶屋川などの流れを湛えて、幾重にもかさなった広大な山域を作っています。地質としては、北部の霊仙山から藤原岳にかけての石灰岩地帯と、竜ヶ岳から油日岳まで延々と続く花崗岩地帯に大きく二つに分けられますが、綿向山周辺や日本コバ周辺にはそれぞれ特徴的な地質のブロックがあります。
鈴鹿はかつてより人との繋がりが深い山です。位置的に日本の東西を分断する所にあるためか、これを東西に横断する街道や間道がたくさん発達しており、そのいくつかは歴史上の出来事にも名を残しているものもあります。主要なものは北から順に、五僧越え、国道の横断する鞍掛峠と石榑峠、八風街道、千草越え、武平峠、安楽越え、そして東海道の通る鈴鹿峠などがあり、それぞれに由来、歴史を秘めています。
また、今でも山中を歩くと、山深い所にかつての繁栄や生活のあとを見ることができます。一つは鉱山です。容易に見ることができるものの一つに、愛知川の最上流の杉峠に向かう途中にある御池鉱山跡がありますが、残された石組みや広大な敷地から、かつて数百人の人々がこの山中で生活していたことが偲ばれます。このような鉱山が各所に散らばってあるとのことです。もう一つは炭焼きでしょう。谷を登っていると随所に炭焼窯の跡を見ることができます。今は登山者も通わない谷の奧に炭焼の跡を見つけ、滝を一つ登ってさらに上流にまた炭焼の跡を見つけといった具合です。また、いくつかの峠を炭焼きが越え、また山中には貯蔵や輸送といった機能を担う拠点も点在していたようです。
鈴鹿山脈は植生の豊富な山々でもあります。最近は林道の延伸や植林地の拡大で自然のままの風景が少なくなりつつあるのは残念ですが、まだまだその殆どは2次林に覆われた美しい雑木林です。御池岳周辺は石灰岩地帯の植生が見られ、山頂付近はオオイタヤメイゲツに覆われています。またシロモジのきれいな紅葉、入道ヶ岳周辺のアセビの群落、中南部の花崗岩帯の特徴的な岩塔を配した白砂青松とも言えるような景観など、素晴らしい景観が楽しめます。また花の種類も多く、春は福寿草、カタクリ、イワウチワ、イワカガミ、ショウジョウバカマ、ニリンソウなどが咲き競い、アカヤシオやシロヤシオなど、ツツジの花も豊富です。秋はトリカブトの青が多く、また菊の花もいろいろと咲いています。
この山域を登るのに最も適している時期は春と秋です。冬は日本海からの風が琵琶湖を通って直接ぶつかる為、北部の山々は深い雪に閉ざされます。特に平坦な頂上部を持つ山が多いため、見通しの悪いときは非常に危険な山となります。中部になると、比較的雪の量は少ないようですが、それでもスキー場が営業できるほどです。この様な壁のような形になっているため、伊勢湾沿岸が良く晴れた日でも山脈は厚い雲に埋もれているという日が冬はよくあります。しかし3月になると春山といった様相になり、良く締まった雪が笹を隠し、縦横無尽に歩けるという楽しい時期になります。ただし、鈴鹿峠以南の山は降雪も少なく、冬でも登りやすい山です。夏は藪が繁り、特に北部の山々の沢沿いではヤマビルが大量に発生するため、危険はあまり無いものの、慣れなければこれはこれで厳しい山になるかもしれません。
主要な鈴鹿の山にセブンマウンテンというのがあり、登山大会が毎月のように開催されます。これは北から順に、藤原岳・竜ヶ岳・釈迦ヶ岳・御在所山・雨乞岳・鎌ヶ岳・入道ヶ岳となります。最近の登山大会はこれにあまりこだわらず、対象も若干拡大されているようです。登山道はよほどよく歩かれているルートは別として、いわゆる一般道でも背丈ほどの笹を潜って進むということが良くあります。逆に地図に無いような沢沿いの道も、昔の炭焼道や仕事道があり意外と歩きやすかったりします。また最近は鉄塔巡視路が一部で多くなり、これも利用できます。この山域は一通り歩き回って感触を掴むと、山中を自由に歩き回れる面白いエリアです。さあ、山遊びに分け入ろうではありませんか。