金雀枝荘の殺人/講談社文庫

「序章という名の終章」から作品は始まります。今邑さんは「終わりのないメビウスの環のような物語を創りたかった、とおっしゃっていますが始めは意味がわかりませんでした(ただし微妙な言い回しあり)がしかし 一度読み終えるとフムフムと納得
今邑さんの作品はどこかホラータッチ(といってもスプラッターではなくゴシックホラーです) のものが多く、この作品もその雰囲気がにじみでています。テーマ的にも「家族」を主題にした作品が多いですね
嵐で閉じ込められた洋館で事件が起こるので「館もの」の一冊といえる作品ですが、今邑さんの場合は(この作品以外も) 他の方とは大分趣きが違います
この作品どちらかというと「館もの」の緊張感より過去の事件の謎解き(これが密室なのですが)に重点がおかれている印象なので、一人二人と殺されていくあのサスペンスを期待した方は私もそうでしたが肩すかしをくうのでしょう。緊張感というのはほとんどないという印象です。といっても面白くないわけではありません。密室の謎もよくできていると思うし、「えっこの人が」という驚きもあります。そして読了してから再び「序章」を読むと、我孫子氏の「殺戮にいたる病」のように同じ場面が違ってみえる。「殺戮・・」の場合はそれでショックを受けますが、こちらはほのぼのとした気分になりますねぇ





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七人の中にいる/C★NOVELS

ペンション「春風」。クリスマス・イブ、オーナー夫妻の結婚祝いのために集まった常連客達。そこに21年前の事件が絡んでくるという楽しい設定であります
この「吹雪の山荘」のような設定だけで飛びついてしまったので読み初めの頃はこのペンションで殺戮の嵐が起こるものとばかり思っていました。ところがところが、やはり今邑さんらしく私の想像した方向とは違う方向へと進んでいきましたねぇ。そしてこの作品のテーマはおそらく「家庭」あるいは「家族愛」といったところでしょうか。今邑さんの作品ではお馴染みのテーマです。
いわゆる犯人探し物(この場合は脅迫者探しか・・)の一冊ですが一度読み始めたら止らない程よくできております。期待していた「吹雪の山荘」物とはまた違いましたが緊張感もあり楽しい。ペンション内では主人公が、そして外では偶然秘密を知ってしまった元刑事の協力者がイブまでに犯人を探そうとする様が二元中継のように交互に描かれており非常にわかりやすく、その過程で起こる宿泊者達に関するドラマも現実にありそうで面白いです。
ただ主人公自身も最後に言っていたのですが「もし・・・」だったら事態は変わっていたのでしょうね。男の眼からみるとやはり淋しいものがあります・・





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