と、思ったら、実行し続けるとどんどん遅くなっていくというBugを見つけてしまった。こういうのは根が深いんだよな。あー頭痛い。
蓬莱学園日記
南部密林も踏破できるようになったのに気をよくして、久々に旧図書館に挑むことにする。
今回は、身体がかなり鍛えられたのと、前回の探索で手に入れた「長くて奇麗な銀色の針」の効果を期待して、力任せで突き進むことにする。
いつものように図書委員会に対して、自分の身に何が起きても文句は言わない、という内容の誓約書を提出し、内部へと進む。
ちょっと前まで、錬金術研の他のメンバーが最深部へ到達していたはずなのだが、いつの間にやらまたぷい君がその座を奪い返していた。流石は黄泉の女王……あれ? 違ったかな? 地下帝国の女帝だったっけ?
まあ、そんなことはどうでも良い。このように、錬金術研のメンバーが怪異の向こう側に隠された真実を求めて積極的に活動しているのだから、私もそれに一役買えれば、と思ったわけだ。
というわけでがんがん奥へと進む。すると向こうに見えてきたのは、前回私を殺しかけた怨霊の集団ではないか。ふっ、前回とは違う私であることを見せ付ける絶好のチャンスではないか。
しかし、怨霊相手に力押しではどうしようもないことが、殺されかけそうになってようやく判る。一目散に逃げることになる。
しばらく走った後、いつのまにか周囲が暗闇に閉ざされてしまっていることに気付く。持っているはずの光源さえ見えない真の闇。人間が、周囲が見えないだけでこんなに精神的ダメージを受けるとは知らなかった。
半べそ状態であてもなく歩いていた私が我に返ったのは、一つ先の本棚の影から聞こえた小さな金属音だった。気付かないうちに周囲が見えるようになっている。警戒して進むと、案の定、小汚い身なりの醜い顔をしたやせっぽちの小人がこちらに襲い掛かろうと待ち伏せしていた。こういう相手なら力でなんとかなる。しかし、多勢に無勢、何とか追い払うことができた程度だったが。この小人達は、どうもファンタジー小説に良く出てくるゴブリンに見えたのだが、まさかフィクション世界の住人が現実に存在するとも思えない。きっと気のせいだろう。
さらに進む。突如頭上から前回私の寿命を奪い取っていった悪魔がまたもや襲い掛かってきた。完全に隙を突かれ、また寿命を取られた。畜生、そのうち契約で縛り付けていいようにこき使ってやるから覚えていろ。
そろそろ限界かと思われた頃、以前、邪魔をするなと怒られた、旧図書館整頓隊の殉職者と思われる幽霊にまたも出会う。
以前に比べれば、図書委員としての経験も充分に積んでいる私は、彼のやり方の非効率な部分をすぐさま見出し、それを指摘すると同時に整理を手伝うことにした。
彼に感謝されて別れると同時に、突然疲れが襲ってきた。意外と本の整理というのは重労働なのだ。だんだん気が遠くなって行く……。
目覚めると、表の仮設テントにいた。どうやら他の図書委員に助けられたらしい。
またもや、地下一階への階段が見える場所でリタイアしてしまった。何が問題なのだろうか。やはり力押しでは駄目だということは判ったが、これまでのやり方で良いとも思えない。やはり何度も潜って経験を積むしかないのか。
昨日言及したBugは、案外あっさり取れた。基本設計がしっかりしてるからだな(自画自賛)。
蓬莱学園日記
今日は、新町に映画を観に行くことにする。
この前の花火大会の時に少し触れた本田君があまりにへこんでいたので、つい「映画でも奢ってあげようか」と口に出してしまい、奢ることになったのだ。
事前情報では、今日から新作の「ジャック×7」が始まるはずだったのだが、来てみたらやってない。映研制作だからな。締め切りを守れないとは、所詮はアマチュアの仕事ということか。
仕方ないので、今掛かっている映画を観ることにする。
タイトルは「西遊記」。映研制作にしては、オリジナルじゃないのは珍しい。
と、思ったら、内容にはかなり手が入っていて、本当は行きたくない生臭坊主の三蔵法師を、正義感溢れる悟空、悟浄、八戒の三人が無理矢理天竺に引っ張っていく、というストーリーになっていた。この三蔵がまたええ格好しいの嫌な奴で、行った先々でトラブルに自分から頭を突っ込んで、悟空達が事態の収拾に苦労する、というのは結構面白かったかな(ん? 大抵の西遊記のアレンジってこういうパターンだったような)。
でも結局天竺に着くまでは本編に入ってなくて、続編が作られるみたいだ。そりゃそうだよな。でも映研が続編を作るって言って本当に作られることは希だから、きっとこれもここでお終いなのだろう。
そういや、また借り物競争をやるってポスターが町のあちこちに貼られていた。うーん、さすがに最初の関門でリタイアって気はしないけど、最後まで到達できる気もしないしなぁ。どうしたもんだか。
で、新町から帰ってきて錬金術研の部室に顔を出したら、暗い顔をした沢村先輩が待ち構えていて「さぁ、君も来るんだ。遠慮などしなくて良い」とか言って学食横丁の片隅にある小料理屋の座敷に引っ張られてきてしまった。
これから、弓削先輩特製の巨大イカリング食事会が行われるらしい。私も散々弓削先輩を煽ったから、食べる役の沢村先輩としては、連帯責任を取らせてやる、というつもりなのだろう。
座敷には、同じような経緯で沢村先輩に引っ張ってこられた錬金術研諸氏の顔が見える。弓削先輩がその作業の様子を逐一報告してくれたので、どんなモノが出てくるかは大体みんな判っているらしく、一様に引きつったなんともいえない表情をしている。敢えて喩えれば、刑の執行を待つ死刑囚といったところだろうか。
やがて、派手な物音と共に弓削先輩が登場した。先ほどの派手な物音は、どうやら店の戸口だか階段だかで躓いたらしい。家庭科は10だったって言ってたけど、こういう人なんだから何が出てきてもおかしくない。
まずは沢村先輩の前に置かれた巨大な皿に、自動車のタイヤのような物体がでん、とばかりに置かれた。なるほど、巨大だ。まあでかい分には私としては何の問題もない。なにせジャンボラーメン五杯半が入る胃袋なのだから。沢村先輩は、必死で自分に言い聞かせるように、これはタイヤであるとつぶやいていたが、弓削先輩の笑顔の前にその心理的防護壁も陥落したようだ。続けて沢村先輩以外のメンバーの皿にもでん、でん、と置かれていく。配膳を手伝っているのは、作業も手伝ったらしいクラスメートの和泉君だ。あっ、和泉君、配膳だけして逃げるなんてずるいぞ。
さて、味の方は……先ほどから鼻の奥に突き刺さるような刺激臭がしていると思ったら、もしかするとその臭いの源はこれか? 沢村先輩と弓削先輩のやり取りが聞こえてくる。弓削先輩曰く「味見はしてません」……そーですか。
さすがに丸のままかじりつくわけにはいかないので(誰かが許してくれても、私が嫌だ)、とりあえずは小さな切れ端にすべく、フォークで押さえつけてナイフを入れる。
……うっ、この立ち上るアンモニアの強烈な臭い……。弓削先輩、ちゃんとイカの体内のアンモニア抜きをしたんですよね? え? 臭み取りはしたけどアンモニア抜きをしてない? だって水にさらしたら他の味まで落ちちゃうって、あなた、本当に家庭科10だったんですか?(;_;)
あー、判りました。食べればいいんでしょ。食べますよ。食べるから覚悟を決める時間だけください。しばしフォークが刺さった白い肉片を見つめて。
……3、2、1、ぱくっ。
げふっ、がはげへごほ。み、水をくらさい。
がらがらがら、ぺっ。ふぅ。
あのー、味というより、口と鼻に爆発的に広がる強烈な刺激しか感じないんですが、これって、地球上の生物が食べても大丈夫なものなんですよね? アンモニアの刺激臭をごまかすために更に強いなにかを追加したように思えるんですけど、え? よく判ったねって? そんなんで誉められても嬉しくないです(;_;)。
あー、ちり紙持ってませんか。いや、涙と鼻水が止まりませんので。別に悲しいわけでも嬉しいわけでもありませんよ。受けた刺激に涙腺と粘膜が反応してるだけです。
で、残りも食わなきゃいかんのですか。そうですよね。まだほんの一切れしか食べてませんもんね。食べ物は粗末にしちゃいけませんよね(目の前のこれが食べ物であると仮定すれば、ですけど)。
…………。
はのー、鼻が詰ばって舌と唇が腫れあがっちゃったんでふが、まだ食べないととひけないんでひょうか? ぼのふごい胸焼けもひてて、もう食べられほうにないんでふが。
へ? まら五分の一くらいひか食べてまへんけろ。なら続けろ? あんた鬼かぁっ。
…………。
あぁ、さっきから目の前が真っ暗になってしまったと思っていたのだが、突如頭上から美しい光が降り注いできた。これが天上の輝きというものだろうか。妙なる音楽の調べと共に、愛らしい天使達が降りてきて私を天上へと誘うのが見える。おぉ、神よ。罪深き知識の隷僕たる私をも貴方は救ってくださるのですね。ありがとうございます。
横を見ると、食事会に参加していたメンバーが皆それぞれ、至福の笑みを浮かべつつ天使の誘いに誘われて天上界へと登ろうとしている。皆も救われたのだな、と思うと胸が幸せで満たされていくのが分かる。
天へと登るにつれ、自分の周囲や自分自身からも、天上の光と同じ性質を持った美しい光があふれだしてくる。至福とはこのことをいうのか……。
おかしい、私は無神論者のはずだ。そう思った時に目が覚めた。目に入ったのは見慣れぬ白い天井。
横にいた看護婦さんに聞くと、私が意識を失っていたのは、半日程度らしい。胃洗浄やらいろいろやったという話だが、今の私にはその言葉を理解する気力がない。このダメージは果たしてどれくらいで回復するのだろうか。
蓬莱学園日記
昨日のダメージがまだ残っているが、修行を怠るわけにはいかぬ。
身体はまだ完調ではないが、頭脳は(たぶん)明晰だ。
というわけで錬金術研の書庫に入り、魔道書を読むことにする。
……。いかん、今日はやはり調子が悪いようだ。日本語で書いてない、というただそれだけで全く頭に入ってこないとは。
まあなんとなく極意のようなものは掴めた気がするので、いよいよ実践の方に足を踏み入れてみるとしようか。
ガンダム外伝をやるが、任務を達成したにもかかわらず、作戦地域外へと出てしまったためにGame Overになってしまうというポカをやらかす。
それ以降、何回か挑戦してみても任務が達成できない(T_T)。
蓬莱学園日記
というわけで、今日はホムンクルスの生成に挑戦してみる。
今日やってみたのは、基本的なパラケルススの手法ではなく、錬金術研内に伝えられる、オリジナルの手法だ。
有機溶液にラジウムとナトリウム、そして賢者の石の粉末に、レインボーダイヤモンド(なんだこれ?)の結晶を使用するのだ。はっきり言って、えらく高くつく。
その実験の結果はといえば、失敗だった。
身体の形らしきものはできたのだが、命が宿らなかったのだ。頭も二つあったしなぁ。
なにが悪かったのかを検証し、今度は失敗しないようにしないと。いずれにせよ、仕送りがくるかバイトでもしなければ再度の実験はできそうにもない。
蓬莱学園日記
今日は久しぶりに旧図書館に挑戦してみることにする。
前回、力押しではどうしようもないことが判ったので、以前の方針である、バランスよく進むことに戻すことにした。
現在の最深部到達者は、同じ錬金術研に所属するぷい君である。地下二階という、まだ地下にも降りたことのない私にとっては無限とも思える深部まで到達している。到達したと記されている「胎児の間」には一体何があるのだろう。
そんなことは行ってみれば判る。行くには先に進まなければならない。
しばらく進むと、どこからともなく響く無数の音色に支配される空間に入り込んだ。
それら、無数の音色に包まれているうち、私の挙動によってその音達を操ることができるのが判った。
私は洒落っ気を出して、その音を操って一つの曲を作ってみた。自分にこんな才能が隠されていたなんて、少し意外だ。
旧図書館の怪異にこんなロマンチックなものがあることも意外だったが。
思わぬことで時間を食ってしまった。さらに先に進む。
すると、スフィンクスと我々が呼ぶ幻獣にそっくりな存在が現れ、私に謎をかけてきた。行動までスフィンクスに似ている。
しかし、真理を追求する者である私に、そのような謎など如何程のことがあろうか。すぐさま答えを返してやると、それは悔しそうな表情を見せて闇の中へと消えた。
その直後、無気味な軋み音が聞こえたかと思うと、あっという間に本棚が幾重にも折り重なってこちらに向かって崩れ落ちてきた。
警戒していたので巻き込まれずに済んだが、何も考えずに歩いていたら確実に巻き込まれていただろう。
90年当時の図書委員の先輩達の血の滲むような努力の末に一階部分が閲覧可能になったのに、こんなことが起きてまた元の混沌に戻ってしまったというわけか。
しかし、我々がこの混沌に対抗するには、ひたすら整理を続けるしかないのだ。気持ちを新たにして先に進む。
ふと気付くと、私の身体が変化して、大きな毛虫へと変貌していっている。
この怪異はすでに体験済みだ。
こういう時は何もせずにあるがままにしていればいい。そのうち戻る。
身体が元に戻り出した頃、本棚の辻に足を踏み入れた途端、無数の貸し出し用図書カードが舞い上がり、飛び回りはじめた。
この怪異もすでに体験済みだ。
そのお陰か、なんとか隙を見つけて図書カードの舞う空間から抜け出すことができた。ズボンの裾くらいは刻まれたかも知れない。
そして私の目の前には、地下へと続く階段が横たわっていたのである。
四回の挑戦を経て、ようやく地下へと足を踏み入れることができるのだ。
しかし、いつまでも感慨にひたっているわけにもいかない。先に進まなければ。
階段を降りた私を待っていたのは、いやらしいにやにや笑いを顔に浮かべた黒猫だった。
話ができるかと思って話し掛けたら、彼はぷいと暗闇の中へと消えた。
慌てて追い掛けると、突然横手から悪魔が襲い掛かってきた。もうすでにお馴染みの顔だ。
とはいえ、悪魔に対して特に防護策がとってあるわけではない。なすすべもなくまたもや寿命を取られてしまった。
これでもう10年以上取られたことになるのではないだろうか。絶対に後で使役してやる。
先に明るくなっている場所がある。
行ってみると、そこは露天風呂だった(地下一階で露天というのも変だが)。
疲れた身体を癒してくれそうな感じではあるが、ここでは見たものが見えた通りの性質を宿しているとは限らない。
用心して入らずに後にした。
向こうから誰かやってくる。
用心して見ていると、派手な羽織袴を着たちょんまげのおっさんだった。
なんでこんなところにこんなおっさんがいるんだ、と訝しんでいると、おっさんは唐突に私に愚痴を垂れはじめた。
なんでも、自分は主君に尽くしているはずなのに、どういうわけか冷や飯食いをさせられているらしい。
どうも口ぶりからして戦国時代の人間のようだ。戦国時代といえば下克上。
というわけで、そんな主君は打ち取ってしまえと焚き付けてやった。おっさんは晴れやかな顔をして元来た方へと去っていった。去り際に「申し遅れたが、自分は明智という」と自己紹介をしていた。もしかすると、明智光秀だったのか。
さらに先へ進む。
曲り角を曲がったら、いきなり息ができなくなった。
苦しい。もがきながら目の前の空間を掻く。手に水が触れる。……水?
必死で泳いで頭上の空間へとなんとか辿り着き、周囲を見渡すと、そこは眞八郎池だった。遠くに旧図書館の塔が見える。
なんでこんなところへ出るんだ? 空間が歪んでいるといっても、ちょっと離れ過ぎじゃないか。
とはいえ、今回は自己新記録を達成できた。
まだまだ最深部への道は遠いが、着実に自己新記録を積み重ねていけば、いつかきっと到達できるはずだ。
がぜんやる気が出てきた。明日も潜ってみるとするか。
腹の立つCM、追補。
そういや、エイブルのCMも台詞速回し系だ。最近流行っているのか?
蓬莱学園日記
自己記録更新に気をよくして、昨日に引き続き、旧図書館に潜ることにする。
もう旧図書館入りも五回目だ。だんだんこのおどろおどろしい雰囲気にも慣れてきた。
現在の最深部第一到達者は、最初に最深部到達者になった図書委員の寿原ショウコ先輩らしい。むむ、この座を早く錬金術研の手に取り戻さねば。
というわけで意気も盛んに奥へと進む。
しばらくは順調に進んでいたのだが、その私に声を掛けるものがいる。振り向くとそこには、もう何度も殺されかけているあの怨霊がいた。
既に理性をなくしている相手を、理路整然と説得しようとした私が愚かだった。冷静に話を聞いてくれる筈もなく、またもや殺されかけ、命からがら逃げ出すことになった。
なんか初っ端から疲れてしまった。
走って乱れた息を整えるために小休止をしていると、いきなり天井が崩れてきた。
危なく潰されるところだったが、何とか逃げることができた。
しかし、旧図書館も建物自体が崩壊寸前になってもうずいぶん経つと聞く。全体が崩壊してしまわないのは、やはり内部に貯えられた超自然的な力が作用しているのだろうか。
先へと進む。しばらく歩いていると、突然、次から次へと嫌な思い出が蘇ってきた。
何者かによる心理攻撃だと悟った私は、それに対抗すべく、なるべく楽しい思い出を記憶の底から救い出すことにした。
十五分間の間、この静かな死闘は続いた。
やがて、だんだんと嫌な思い出が浮かびあがる間隔が空いていき、やがて止まった。私は勝利したのだ。
またもや私に声を掛けるものがいる。
声の方向を見ると、以前私をペテンに掛けた馬券売りが立っている。
今度こそは騙されてなるものか、と思ったのだが、奴の口調には魔術的な何かが含まれていて、逆らうことができない。
しょうがないので、がちがちの本命を買うことにする。リスクも少ないが、当たってもこの前の負け分など取り戻せそうにないくらいの賞金しか出ない。
レースは順当に進み、当然のように本命馬が一着を取った。
明らかな作り笑いをしながら私に配当金を渡すと、馬券売りは煙のごとく消え去った。
再び歩き出す。
ふと見ると、以前私に石を投げ付けてきた妖精が、前と同じように本棚の影からこちらを覗いているのに気がついた。
前回で学習した。こういう手合いは気がついたとしても、紳士的に無視してやるに限る。野良猫に対する態度と同じだ。
案の定、彼女は私をジッと見つつ、緩やかに存在を希薄にしていき、やがて消えた。頬を染めてはにかんでいたように見えたのは私の気の迷いだろうか。
地下に続く階段が、私の目の前に現れた。
以前と同様に、黒猫がにやにや笑いとともに迎えてくれる。
彼はやはり暗闇の中へと身を翻したが、また追い掛ける程、私は愚かではない。彼とは違う方向へ歩を進めることにする。
それは一瞬の出来事だった。
あっ、と思った時には、既に押し寄せる本の津波に巻き込まれ、どちらが上でどちらが下だかも判らない状態になっていた。
上質の革を用いて装幀された分厚い本は、一つだけでも十分凶器になりうる。その本が数えきれない程押し寄せ、その中でもみくちゃにされるのだ。
当たりどころが悪ければ、待つのは死。上手くいっても肋の二、三本は覚悟した。
やがて私は津波から放り出され、書架の一つに当たって床に倒れ伏した。全身が悲鳴をあげている。
しばらく横たわったまま唸っていたが、やがて痛みが引きはじめた。驚いたことに、骨折は免れたらしい。
これは旧図書館が、もっと先に進めと私に語りかけているのだと自分を鼓舞して先に進む。
やがて私は、前回辿り着いた温泉へとやってきた。
前回よりもダメージは深刻だ。その湯につかってゆっくりと休みたい誘惑に強く駆られるが、理性の方が勝った。
振り切るようにして前に進む。
気付いた時にはもう既に何も見えなくなっていた。
これもまた既に経験済みの真なる暗闇である。自分の身体でさえも見えない。
心静かにただ待てば、やがて去るはず……はず……はず。やっぱ駄目だ。
パニックに陥って、やみくもに走り回る。私は暗所恐怖症だったのか?
走るのを止めたのは、前方に赤い色の何かが見えてきたからだ。
足を緩めて慎重に近付く。近付くにつれ、その正体が明らかになってきた。
どういうわけだか、真っ赤に染め上げられたモアイ像が立っている。なんだこりゃ。
誰か、ここに先に辿り着いた不心得者が、マジックで瞳を描き込んだらしい。そのため、余計に場違いな感じがする。
たいして深い意味はあるまい。無視して先に進む。
やがて私は閉ざされた扉に行く手を阻まれた。
ノブを握っても回せない。押しても引いても開かない。スライドさせるのも一応試してみた。
扉には金属製のパネルが打ち付けられていて、そこには問いかけの言葉が刻まれていた。
その答になる言葉はすぐに浮かんできた。思わず口をついて出る。
次の瞬間、扉は呆気無く開いていた。
疲れた。しばらく休まなければもう一歩も動けない。
そう思って座り込んだ瞬間、呆気無く意識が闇へと沈んでいった。
やはり先ほどの本の津波のダメージは大きかったようだ。私はこのまま旧図書館に埋もれることになるのか……。
目を開くと、そこは図書委員会の仮説テントの中だった。また誰か図書委員に助けられたらしい。
今日も自己記録を更新した。聞いた話では、モアイ像から地下二階への階段はそう遠くないということだ。
次回は地下二階へ到達できることを信じて、今日は休むことにしよう。
しまった。銀行に行きそびれ、気付けば一文無し。
さすがに雨が降っている中、駅前まで足をのばす気にはなれない。
仕方ない。明日の朝、早起きできたら、会社に行く前に銀行に行くことにしよう。
蓬莱学園日記
さすがに連続して旧図書館に潜ると疲れが溜まる。
というわけで、疲れが一気に解消するという評判の足つぼマッサージとやらに行ってみることにした。この店は布袋通りにあるので、印象はあまり良くないが、背に腹は替えられぬというやつだ。
最初は妙にくすぐったくって、逃げ出したくなったのだが、時間が経つにつれてだんだんといい具合になってきた。うん、確かにこれは気持ちいいかもしれない。
が、疲れているところに横たわってこんな気持ちの良い状態に置かれれば、眠くなるのが必定。というわけでぐっすり眠りこんでしまったのだが……。
目覚めてみれば、布袋通りの路地裏。財布は空っぽ。って、またかい!
まったく、(都合により削除)の(都合により削除)野郎どもが。お前らなど(都合により削除)で(都合により削除)するのが天の理というものだ。こんな(都合により削除)を野放しにしておくとは、公安の(都合により削除)どもは、一体何をしているのか。もう(都合により削除)と言うしか他にない。
二度と布袋通りなどに足を踏み入れるものか。
蓬莱学園日記
今日は、錬金術研で各自の持つ魔術書を読んでその内容を報告し合うという、いわゆる輪講に参加することにした。
大変残念なことに、私は誰かに内容を語って聞かせるような魔術書を持ちあわせていないので、聴講、という形での参加となった。
しかし貴重な書物からの知識を、ただ受け取るだけでは心苦しい。そこで、英語の書籍もそれなりにあるようだったので、弁天図書館からthe Oxford English Dictionaryを借り出して持っていくことにした。
え? 全三十巻にも及ぶOEDをそう簡単に持ち運べるものか? ふっ、文明の進歩から取り残されたようなことを言ってはいけない。最近はCD-ROM版OEDというものが存在するのだ。
あの大部が、見出しや例文も含めて全て、たった一枚の円盤に収まってしまうのだから感心するやら呆れるやら。ついでに、検索も自動化されるので至極快適だ。
閑話休題。
そういうわけで、CD-ROMと一緒に借りてきたノート機を抱えて、私は部室へと向かった。
錬金術研の部室は、先日の巨大イカリングを持ちこんだ人間がいるので、若干まだアンモニア臭い。実験室の方から漂ってくる他の薬品の臭いと混ざり合って、なんとも言えない悪臭になっている。
先輩方が色々と臭い消しのための魔法を使ったので、これでも随分改善されたらしい。持ち込まれた直後はガスマスクなしでは室内には居られなかったそうだ。それがたった二三日で、少々臭いかな、程度まで回復するのだから大した物だと思う。
私が部室に入ると、主催者の伊月君が紅茶を入れているところだった。
早速一杯ご馳走になるが、たぶんこの紅茶が持っているであろう芳醇な香りは、部室の悪臭によって、台無しとは言わないまでもかなりその魅力を減じていた。非常に残念。又の機会があればぜひもう一度別の場所でご馳走になりたいものだ。
やがて、読書会に参加する面々が集まり始めた。皆、立派な革装丁のかなり古そうな本を抱えている。
それらの中に秘められている知識を吸収することができるのだと考えると、期待に胸が高まる
読書会の具体的な内容は、長くなるし、何より専門的になりすぎるのでここには敢えて書かないことにする。
ただ、ある魔術書は、開いただけでどこからともなく哄笑が響いてきたり、ある話題は口に出すだけで場の雰囲気(人間が醸し出すものではない)が突然変わったりした。
後半になると部室のそこら中で、粘着質の音や床を爪で引っかく音、啜り泣きの声などが聞こえていた。
当然、錬金術研に所属しているからにはその手の害にならない怪異などには慣れっこになっているので、気にしている人はいないようだった。
当然、私も気にしないことにした。旧図書館の怪異に比べれば、こんなものはなんてことはない。
蓬莱学園日記
今日は、新町で行われる障害物借り物競争に出場してみる。
以前出場した時は、最初の学園敷地内一周でリタイヤしてしまった。リターンマッチである。
さすがにこれまで十分鍛えられたので、最初の学園敷地内一周はなんとかクリアできた。
続いて、借り物の紙を貰って謎掛けになっている文章を読み解かなければならない。これも簡単。事前の綿密な情報調査によって、既に答を知っていたのだから。答は、洋風レストラン「エベレスト」のマカロニグラタンだ。
しかし、このマカロニグラタンは超人気メニュー。連日、長蛇の列が店の前にできている。列に並んでいたんじゃ制限時間内に借りてくることなんかできる筈もない。
とはいえ、列に並ばずに入手しようなどと試みるのは、列に並んでいる人たちにボコボコにされるのがオチだ。しかたないので列に並ぶ。
並んでいると、前の人と何やら交渉して順番を譲ってもらっている人がいる。そうか、事情を話せば前に行かせてくれるかもしれない。
だが、やってみると自分に人望のないことだけが判明するのみだった……。空しい。
というわけで、今回も時間切れ。参加賞のポケットティッシュが増えただけだった。次こそは!
旧聞になるが、ゲーメストを発行していた新声社が破産申告手続きに入ったそうな。原因はゲーメストなのか、それとも○ゲ屋?
まー、アーケードじり貧みたいだからねぇ。攻略になってない攻略記事が読めるのはゲーメストだけだったのだが。
ゲーメストがどれくらい売れていたのかは知らないが、コンビニ流通にまで食い込んでいる雑誌ではあるのだから、どこかの出版社が拾うのか?
*1
"(都合により削除)"は、田中哲弥氏に全てのCopyrightがあります。
蓬莱学園日記
気持ちを入れ替えて旧図書館に潜る。
が、今回は目新しい怪異に出会わなかったし、なにより、到達距離を伸ばすことができなかった。
アイテムが手に入ったわけじゃなし、ちょっと徒労感のある探索になった。
メモ程度の意味で、今回出会った怪異を箇条書きしておくとしよう。