中世・ルネッサンスの名曲を聴く

========== ★中世、教会では典礼を元に多声曲が生まれ、街では吟遊詩人が世をうたう。 ルネッサンス、それは合唱をはじめとする声楽曲が最も繁栄した時代。 中世から近代への大きな歴史のうねりは数々の名曲を生み、現代に歌い継がれて 500年。器楽演奏の発達はバロックの華やかなりし時代の礎となる。 中世・ルネッサンスの名曲を聴きながら、遠い昔に思いを馳せませう。

などといいつつバロックものも入ってきています。:-)


オケゲム 「ミサ・ド・プリュ・ザン・プリュ」<<だんだんと>>
&シャンソン
Johannes Ockeghem, Mass "De Plus en Plus" & Chansons
The Orlando Consort ← RA ファイル有り。
Archiv 453 419-2 録音1996年 Early Music FAQ によるサマリ
年に2曲ほど徹底的にハマる曲というのがある。1)いろんな録音をあれこれ 買い漁り、2)それぞれ30回以上CDトレイに乗せ、3)楽譜を入手し、4)音取りし、 5)さらには生演奏を聴きに行って散財する :-)。いままさに 「ミサ・ド・プリュ・ザン・プリュ」に対してレベル2)まで進行中。 このままいくと10/26三鷹にてレベル5)に到達する予定。

オルランド・コンソート(OC)は男声4人からなるアカペラ・アンサンブルで メンバーはタリス・スコラーズ(TS)、ガブリエリ・コンソート、タヴァナー・ コンソートの構成員でもあり、かつてはモンテヴェルディ合唱団、 ウエストミンスター・カテドラル、ゴシック・ヴォイシズなどでも活躍した ことがあるという。中でもCTのロバート・ハリー・ジョーンズとBassの ドナルド・グレイグは下に紹介したTS盤の録音にも参加している。 しかし展開される音楽はTS盤とはかなり異ったものとなっていて、 OC盤のほうがよりアルカイックかつ妖艶な響きを持っているような気がする。 これは男声・混声の差というより人数、曲の考証(テキストの発音や半音の 取り扱いなど)の差に依るところが大きいのではと思う(キーは同じ高さで取って いる)。TS盤がハーモニーを重視した演奏とすればこのOC盤は声の流れと いうか絡み合いに重きを置いた演奏といえるかもしれない。また「バンショワ の死を悼む哀歌」ほかのシャンソンも聴きもので、 プロ・カンツォーネ・アンティクァやヒリアード・アンサンブルとも違う、 新たな魅力を備えたグループとして歓迎したい。 この盤で古楽の名門アルヒーフからメジャー・デビューを果たすことに なったのも、ダンスタブルの録音で96年のグラモフォン Early Music Award を獲得したことと無関係ではないだろう。98年5月には来日予定。(06/23)

【関連ページ】
Early Music FAQ では今すごいプロジェクトが進行中。 Johannes Ockeghem - A discography。世に出たオケゲムの録音全てがここに。 現在の最古録音はなんと1939年! フルトヴェングラーの"足音入り第9"より前。 開戦前夜にオケゲムなんか録音して飯が食えるのかはさておき、ぜひ一度聴いてみたい もの。あとここで知ったのだがヒリアード・アンサンブルが2月にライヴ盤を発表 していたらしい。ペロタンとアルス・アンティクァの一枚と オケゲム記念盤。後者は 上のミサを含む10/26三鷹公演のプログラムに極めて近い内容。ただし subscription-only (2枚セットで$50 US)なので注意。


モンテヴェルディ「聖母マリアの夕べの祈り」
Claudio Monteverdi "Vespro della beata Vergine"
Rene Jacobs/ Nederlands Kamerkoor/Concerto Vocale
harmoria mundi FRANCE, HMC 901566/7
キング・インターナショナル, KKCC-371/2 録音1995年
名曲中の名曲であるにも関わらず、CDゲットはこれが初めて。なぜ 買わなかったか。古楽系の中では圧倒的にメジャーなので図書館でも 借りられるし演奏される機会も多い。FMでもしょっちゅう流れるのでほとんど 持っている気分になっていた(^^;)。そして録音の数も半端じゃないので いったいどれを選んでよいのやら。2枚組だしどうしても慎重になる。 で、なぜこのヤーコプス盤を選んだか。1)先日TV放映された彼の「ポッペア」 に惚れた、2)以前「談話室」でヤーコプス盤を熱烈に推薦しておられる 方がいた、3)新譜である、ことの3点。ガーディナー盤はLDで、サヴァール 盤はこの次買うということで。

それで結果はというと大当たり。 聴いていきなり幸せな気分に浸れるのがうれしい。冒頭の同音合唱を取り巻く 器楽陣の生き生きした演奏を聴くと、これから始まる音楽に期待度増大、 なにやらワクワクしてきてしまう。 CTのA.ショルをはじめ独唱陣も充実、とくに重唱部分を聴くと「オルフェオ」 や「ポッペア」などのオペラもいいけど、音の重なりを堪能できるという点で この晩課をもってモンテヴェルディの最高傑作としたくなる。 合唱も緩急自在、祈りと暖かさに満ちていていうことなし。 最後の盛り上がり方もすばらしく、感動のフィニッシュの余韻を グレゴリオ聖歌で締めくくる。 なんかベタ誉めになってしまったが、ほんとにケチのつけようがあり ませんよ。とにかく聴いてもらうしか。なお、日本語解説・訳詞は ガーディナー盤を 無人島に持って行く一枚としておられる礒山雅氏(国内盤の割引価格と輸入盤の 価格が200円しか違わなかった。この差で先生の詳細な解説が付くなら国内盤がお得)。 この新盤を聴いて持って行くのが2枚になったのでは、と憶測するのはヤーコプスを かいかぶり過ぎというものか。

【注目ページ】
京都クラウディオ・モンテヴェルディ合唱団内にある "Vespro"って何?のコーナーに歌詞対訳、演奏形態の考察、実演顛末記など 詳細な情報が載せられています。「晩課」の解説としてはおそらく国内最強。 この曲に対する思い入れの深さが感じられます。(06/09)


オケゲム 「ミサ・ド・プリュ・ザン・プリュ」<<だんだんと>>
「ミサ・オ・トラヴァイユ・シュイ」<<私が悩んでいることを>>
The Tallis Scholars
Gimell, 454 935-2 録音1996年 Early Music FAQ によるレビュー
いや〜、これはイイ!タリス・スコラーズ一年ぶりの新譜はオケゲム 没後500年記念盤となった。「ミサ・ド・プリュ・ザン・プリュ」は バンショワの同名のシャンソンに基づくミサで、ATTBの4声。 キリエの重厚なハーモニーはデュファイに、グロリアの小数声部による 掛け合いはジョスカンに通じるものがあって興味深い。また (なんとクレドより長い)サンクトゥス&ベネディクトゥスで重唱と合唱が 交互に入りながらもまさしく "だんだんと" 昂揚していく様は美しすぎ。 ところどころで用いられる半音階的手法も耳に心地よい。演奏はいつもの ように各パート二人ずつ、最上声は CTでも可能な音域だがあえて女声を起用。これが見事に成功している。 二人の女声アルトの声質は全く異るもので、グロリアで対照的な重唱を みせてくれる一方、合唱ではシャープでしかも厚みのある音を生み出している。 この曲の一番の見せ場となるサンクトゥス&ベネディクトゥスでは、 彼らの真骨頂ともいえる完璧なハーモニーをこれでもかと聴かせてくる。 さらにキャロライン・トレヴァー(アルト)のバスとのカラミ(^^;)の部分では 裏も表も使ってくれて思わずシビレる(死語)。彼女の超低音アルトを これほど堪能できる盤は他にない。

一方の「ミサ・オ・トラヴァイユ・シュイ」はバルバンガンorオケゲムの シャンソンをモチーフとしたものでSABBの4声。「プリュ・ザン・プリュ」 を陽・動とするならこちらは陰・静といった感じ。ポリフォニックなところは ほとんどなく2声の重唱と4声のホモフォニーで進行するのだが、Tがないこともあって 天の声と地の声が対話しているとでもいうのか、これまでにない音楽が展開されて いる。タリス・スコラーズの演奏はここでも申し分のないものだが、S、AともCTに して男声のみのバージョンも聴いてみたい気がする。

彼らの今来日公演のプログラムには残念ながらオケゲムはリストされて いないが、代わりに10月のヒリアード・アンサンブルが「プリュ・ザン・ プリュ」のクレドを演奏する予定になっている。 それにしてもこんな名曲がいままでほとんど録音されていなかったのは 不思議。今回アニヴァーサリを迎えたことでようやく状況は変わってきた。 「プリュ・ザン・プリュ」については Clerks Group が 96年末に新譜を発表、 そしてこの5月13日には Orlando Consortがアルヒーフから発売予定 (Archiv 453 419-2)。 とくに後者はタリス・スコラーズの現役メンバー2名を含んでいるだけに、 TS盤との解釈・演奏方法の違いなどが注目される。一方「オ・トラヴァイユ ・シュイ」のほうは76年のポメリウム盤など古いもののみ。いずれにせよ、 このTS盤はこれまでのオケゲムのCDと比較しても画期的録音といえるのでは ないだろうか。これからもっとオケゲムを聴き込んでみたい、そんな気にさせて くれる一枚だ。そして彼らの録音の中でも「ミサ・パンジェ・リングヮ」や ビクトリアの「レクイエム」と並ぶ傑作として挙げたい。 (04/14)


ワン・ヴォイス〜中世トルバドゥール、トルヴェールの愛の歌
Catherine Bott (Soprano)
L'OISEAU-LYRE POCL-1716, 録音1995年
中世のフランスを中心に活躍した吟遊詩人トルバドゥールとトルヴェールの 残した愛の歌を古楽界の名ソプラノ、キャサリン・ボットが伴奏なしの ヴォーカルのみで歌い上げるという大胆な録音。たった一人でってことで 「ワン・ヴォイス」という邦題になっているが原題は 「Sweet is the song」。ボルネイユ、 ヴェンタドルン、ファイディトなど聴きなれない名前ばかり並んでいるが、 ここではそんなことはどうでもよくただボットの深くしかも透明な美声に 酔いしれるのみ。過度に誇張するわけでもなく一見何の変哲もない演奏に 聴こえるが、何度も聴く内に旨味が出てくる。中世の詩を素直に 歌うことで聴く者に想像の自由を与えているような気がするのだ。 というのも詩の内容は中世に固有のものばかりでなく、現代にも通じる 恋愛など日常の人間模様が含まれている。その様子が朗読に近い演奏形態 により雑音なくすっと入ってくる。彼女の演奏にはそうやって結果的に聴者を 自分の音楽に誘う確かな自信のようなものを感じる。ぜひ歌詞対訳を見ながら 鑑賞したい。(4回ぐらい聴いたところで、うーむ、 してやられたぜって思った。できたら生で聴きたい!)
モンテヴェルディやパーセルの歌劇などで活躍する彼女を知る人にとって、 その魅力を再確認できる盤といっていいのではないか。また、アノニマス4 あるいはセクエンツィアの表現する中世とも異った世界が展開されているのが 新鮮。こういう盤が商業的に成功するのか疑問だが、ともかく邦盤まで プレスされるあたりはさすが人気のボットというところか。全12曲。(02/24)

クリスマス・キャロル&モテット (96/12/22)
Christmas Carols & Motets
10th-16th c. [World]
クリスマス関連リンクもこちらに収録

トマス・タリス「エレミアの哀歌」 (96/09/16)
Thomas Tallis The Lamentations of Jeremiah
16th c. [British]

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Last Modified: 2008/Jun/10 00:12:55 JST
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