ラ・ヴォーチェ・オルフィカ
ジョスカン・デ・プレ「ミサ・ロム・アルメ」

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指揮・コルネット:濱田 芳道
合奏:アントネッロ(ヴィオラ・ダ・ガンバ:石川 かおり、福沢 宏)
パイプオルガン:能登 伊津子
1996年3月11日(月) 7:00pm
東京カテドラル聖マリア大聖堂(東京・目白台)

★今年で結成10年目を迎える混声古楽合唱団、ラ・ヴォーチェ・オルフィカの 第12回公演。古楽アンサンブル・ アントネッロ主宰である濱田 芳道の指導のもと、これまで徹底して 中世・ルネッサンス・バロック時代の音楽をレパートりーとして演奏活動を 展開してきた。昨年は日本テレビ主催「システィーナ・コンサート in Tokyo」 でアレグリの「ミゼレーレ」を演奏し、好評を得ている。今回はアントネッロ と、バッハ・コレギウム・ジャパンのオルガニスト、能登 伊津子との共演である。

★まず行って驚いたのはその集客力だ。アマチュア団体の定期演奏会と タカをくくって開演10分前に着いたら、ほとんど満席状態(全自由席)。 やむなく最後列から2番目の席に ;_;。演目がジョスカンということを 割り引いても、これだけ集まるというのは固定客が多いのかもしれない。 開演を前にしてファンファーレ的に俗揺「ロム・アルメ」の軽快な調べが 大聖堂に鳴り響き、いやがうえにもこれから始まるジョスカンの世界への 期待が高まる。

★第1曲は「オケゲムの死を悼む挽歌(5声)」 。やや緊張気味ではあったが、 豊かな残響を活かした透明な響きに思わずウットリ。やはりこの種の曲は 教会で歌われることが望ましい。「深き淵より(4声)」 ではソプラノの 高音域で音が登り切らなかった感じ。「悲しみの聖母 (スターバト・マーテル) (5声)」では慣れてきたのか、ソプラノの声に伸びと一体感が出てきた。 なお、合唱は全部で29人でソプラノが1/3を占めるが、固定されているわけではなく 曲によって移動があった。

★注目された「アヴェ・マリア(4声)」 は中世のセクエンツィアに基づく 有名なほうではなく、グレゴリオ聖歌の同名のアンティフォナに基づくもの (後にアルカデルトやバッハ=グノー等が用いた歌詞)のほうである。 これを聴くのは全くの初めてだったがこんな名曲だとは知らなかった。 (この曲の録音はLPを含めても現存しないと思いましたが、ご存じの方、 お知らせ下さい。)

★一方器楽の第1曲はヴィオラ・ダ・ガンバと コルネットによる「ベネディクトス」。 聴き覚えのある曲だと思ったら あの「ミサ・パンジェ・リングヮ」からのものだ。ご存じの通り、ベースと テノールの掛け合いが素晴らしい部分だが、濱田の卓越したコルネット演奏が 光った。この後「運命の女神」 「ジョスカンのファンタジー」「ラ・ベルナルティーナ」で アントネッロによる合奏が展開。器楽合奏を生で聴くのはこれが 初めてだったが、やはり生演奏の醍醐味はCDでは味わえないものだと思った。 特にコルネットの響きは私好みだ。ただ、席が後部のため視覚的に楽しめなかった のが残念。

「喜べ、キリストの母処女マリアよ(4声)」 は下部3声を器楽が担当。 器楽はやや控えめな感じで、ソプラノの持ち味を引き出す好演だった。 前半最後の「愛さずにはいられない(5声)」。 だいぶ乗ってきたようで、各声部とも充実した響きになっていた。

「悲しみの聖母」「ロム・アルメ&スカラメッラ」 のオルガン独奏を 担当した能登の演奏は2/11のBCJ公演でも耳にしていたが、ここでも小柄な身体とは 対照的なスケールの大きい演奏を聴かせてくれた。

【休憩:読者の方もここでひと息いれて下さい ^_^;】

Face of josquin ★休憩後、待ちに待った 「ミサ・ロム・アルメ・セクスティ・トニ(4声)」 だ。ルネッサンス期のミサ曲には5声部以上からなるものも多いが、ジョスカンの ものと断定されているミサ曲は全て4声である(部分的に多声化するところはあるが)。 そのためか各声部に要求される音域は大変広く、この曲でも特に中2声は高低関係が 逆転することがざらにある。これをいったいどのように演奏するのか、大変興味を もって臨んだ。
●テンポは思っていたよりもかなり速く、これで果たして崩壊せずに最後まで いけるのか一瞬心配になったが、みな指揮者をしっかり見ており問題なさそうだ。 このミサ曲はこれまで私が耳にした中で最も気に入っているミサ曲で、一緒に歌って しまいたかったがグッとこらえて心の中で歌うことにした :-)。
●休憩前の曲はシットリ系で、どちらかというと雰囲気を大切にする方向で 演奏されたが、こちらは「戦さ人」の感じもよろしくはつらつと歌われた。 テノールとアルトゥスは混声で歌われ、唱によって入れ替わりがあった。 声質の統一に苦慮する場面も見受けられたが、正しい選択だったと思う。
●クレドの中間部最後に現れる不協和音が今一つ決まらなかったのは、中間部を 締めくくる音だっただけに惜しまれるが、まあ細かいことだ。
●サンクトゥスとベネディクトゥス、それとアニュス・デイ IIの2、3声の重唱で 歌われる部分は、スーペリウスだけが人声で低声部をヴィオラ・ダ・ガンバが 担当した。面白い試みだとは思ったが、私としてはやはり人声による掛け合いを 期待していたのでちょっと残念だった。
●最後のアニュス・デイ IIIのカノンは人数が多いとかえって歌いにくいのでは と思われたが、練習の成果か、意外にすんなりとこなしていた。
●よくいわれることではあるが、ジョスカンの曲は歌詞と曲とのマッチングの絶妙さ において、同時代のほかの作曲家の曲とは一線を画していると思う。 このミサにおいても、歌詞が曲の流れの中で生き生きと浮かび上がり、聴く者に 語りかけるようでいつも心打たれるものを感ずる。それだけにジョスカンのミサの 魅力を余すところなく完璧に歌い上げるのは至難の業だとも思う。 この日の演奏でも、更なる曲造りの余地を残したように感じた。とはいえ、 意思の疎通が計られた演奏で満足できるものだった。

★アンコールでは「千々の悲しみ(4声)」 と再び「オケゲムの死を悼む挽歌(5声)」 が演奏された。ミサ曲で大きな拍手を得たためか、両曲ともとても自信に 満ち溢れた演奏で素晴らしい出来だった。

★以上、アンコールまで含めてジョスカン一色というファンにはこたえられない 演奏会だった。この会場ではこれで4回目ということで、残響特性にも慣れて いるようだ。全体を振り返ってみて、バランス的にベースがもう少し いるとよかったかなという気がした。発声や和音の問題はクリアされている団体 であり、なにより古楽を愛する者の集まりである様子が演奏からもパンフレット からも伺える。多くのジョスカン愛好家が集まったこのイベントに身を委ねることが でき、至福の時間を過ごせたと思う。最後に、この演奏会に招待して下さった 同団の斎藤氏に心から感謝したい。

【最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。_o_】

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Last Modified: 2008/Jun/10 00:11:04 JST
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