ルース・カニングハム (Ruth Cunningham)
マーシャ・ジェネンスキー (Marcha Genensky)
スーザン・ヘラウェアー (Susan Hellauer)
ジョアンナ・マリア・ローズ (Johanna Maria Rose)
主催:サントリーホール
協賛:日本航空株式会社
1996年9月21日(土) 2:00pm
サントリーホール・小ホール(東京・赤坂)
●サントリーホール
10周年記念公演としてJAL協賛のもとでニューアーティストを紹介するシリーズ
の44番目。ニューアーティストといってもそれは日本においてのことであり、海外
ではすでに名声を獲得しているアーティストも多い。今回のアノニマス4もまさしく
その類で、これまでハルモニアムンディから出されたCD4タイトルはビルボード誌・
クラシックチャートの上位を賑わしている。初来日を果たした今回は全国6会場で
公演が持たれ、この日はその最終公演となった。今公演は彼女らのデビュー盤である
「イングランドの聖母ミサ」
に、ミサ式次第に従って朗読を交えた形で演奏された。
●女声4人からなるこのアンサンブルは13、14世紀の中世音楽とくに宗教曲を
得意とするグループで、6月に来日したルネッサンス期の世俗曲を得意とする男声の
クレマン・ジャヌカン・アンサンブルとは対極に位置しているといってよいだろう。
一方で両者は基本的に1パート一人で歌うという点で共通している。ただ今回のミサ
は3声が基本なのでソプラノは二人で歌われることが多かったことを記しておく。
●このアンサンブルを聴いてまず驚かされるのは各個人の声域の広さだ。
一応パートは決まっているのだが、誰もが全パートの音を発声出来得る。
「ロンデルス」で4人が同音・同旋律をポリフォニックに次々と歌っていく
場面はすごかった。もちろんパートは音域より声質で分けられるだろうが、
このカバレッジの大きさがアンサンブルとしての統一感と余裕をもたらしている
のは疑いない。冒頭の「プローザ」のように単旋律によって斉唱される部分や、
「キリエ」のようにホモフォニックな重唱で音が激しく上下する部分の揃い方と
いったら、分身が歌っているのかと思うほどだ。
●個人に目を向けるとソプラノのカニングハムとジェネンスキーは非常に 声質が似ており、声だけ聴くと判別が難しい。まあ、CDで聴くとカニングハム のほうがより中性的でつや消しの、まるでオカリナのような声なのだが。 メゾのローズはソプラノやアルトと交差して実に柔軟な声を聴かせるし、 アルトのヘラウェアーの低声は暖かみがあって包まれるような音だ。 サントリーホールの小ホールはそんなに残響が豊かなわけではないので ヴィブラートせずに響かすのはひょっとすると難しいのかもしれないが、 彼女たちはまったく気にしていない様子だった。
●この演奏会はミサ単体ということで休憩なしで行われたが、慣れていない人には あるいは辛かったかもしれない。近年は国内でも古楽の演奏会が 多く持たれるようになって嬉しい限りだが、それでも中世ものに触れる機会は まだまだ少い。もっとも今演奏会でも後ろのほうは空席が目立ったので 需給関係を考えると仕方がないのか。(注:コンサートの中盤頃には満席に なっていたようです <--- 他の鑑賞者による補足) 女声のみによる中世のミサ、 現実には存在しなかったかもしれないイベントを現代に聴く、ある意味贅沢な コンサートだった。その一方でどことなく男声が恋しくなりながら会場を後にした。