中世音楽合唱団
第48回演奏会

==========

指揮・解説:皆川達夫
賛助出演:花岡和生(リコーダー)、福沢 宏(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
1997年5月16日(金) 7:00pm
カザルスホール(東京・お茶の水)

●「中世音楽合唱団」、この団は皆川氏の著書などで折りに触れ登場するので ご存じの方も多いだろう。今年で何と創立45周年。今回はその記念演奏会となった。 今日のメインはなんといってもジョスカン・デ・プレのミサ「パンジェ・リングァ」。 この分野の録音が皆無だった時代、この曲の音を確かめるために結成されたのが 団創立のいきさつという。以来5年おきにこのミサ曲が演奏され続けているというから 今回でおそらく9回目となろう。客の入りは昨年に 比べるといまひとつの感があった。やはり波多野睦美がスゴすぎるのだろうか? とはいえ8割程度は埋まっていたと思う。実はカザルスに入るのは一年ぶりで ステージ上に新しく設置されたパイプオルガンにまず目を奪われた。一部に 音が悪くなったとの噂があったので少々心配。たしかにこれほどの規模なら影響が 出てもおかしくはなさそう。

●今年はオケゲム没後500年ということで、前半はフランドルの宗教曲から。 ラリュー「めでたし天の女王」オケゲム「めでたしつぐない主の御母」 デ・プレ「オケゲムの死に寄せる挽歌」が歌われた。次に控える大曲の ためなのかやや抑えた演奏だったが相変わらずすてきなハーモニーで聴かせた。 やっぱり生は良いなあ。そしていよいよメインイベント、ジョスカン・デ・プレ ミサ「パンジェ・リングァ」。この曲を生で聴くのはプロ/アマ通して 初めて。だいぶ皆川流にカスタマイズ、いや味付けしているなと思った。といっても 私はタリス・スコラーズ盤とクレマン・ジャヌカン・アンサンブル盤しか知らない のでなんともいえないけど。今年は男声が11人と増えたせいか力強さが加わり、 キリエやグロリアの推進力を生んだように思う。基本的にはスーペリウスと アルトゥスを女声が、テノールとバスを男声が担当したが、スーペリウスと アルトゥスの重唱部分、たとえばアニュス・デイIIなどではアルトゥスを男声が ファルセットで歌うという手法がとられた。これが適度な緊張感と変化をもたらして とても良かったと思う。どうせなら、この部分は思い切って4人くらいでやっても よかったかなという気もする。それにしてもこの曲は何度聴いても感動を 抑えられない。クレドでポリフォニーから一転して重厚なホモフォニーに変わる 部分とか、サンクトゥスでの2声の繊細に絡み合う音の綾とか、アニュス・デイの 次々に浮かび上がるパートとか、なにより曲全体の構成(起承転結みたいな)には 他の追随を許さないものがある。この団が病み付きになって何度も演奏してしまう のも察せられるというもの。

●休憩後、本日のゲスト、花岡和生と福沢 宏が登場。中世ものとエイク、ラッソ、 コンペール、オルティスの作品から。いつも思うけど、プロの 方のアンサンブル時の出だしのタイミングの一致はほんとに絶妙。それから リコーダーとヴィオラ・ダ・ガンバという全く異る楽器を使っていてもよく 馴染むんだよなあ。花岡さんの呼吸していることを忘れさせる息の長い演奏、 福沢さんの擦弦、撥弦によるガンバの魅力、ともに堪能させてもらった。

●後半はルネッサンスの世俗曲から。ダウランド、ジャヌカン、サンドラン、 アルカデルト、セルトン、パスロー、ガルニエ、セルミジ、ル・ジュヌといった 合唱されてる方なら一度は歌ったことのある作曲家の作品が並ぶ。作品に合わせて みな普段着に着替えて登場。皆川氏も着席して指揮。気のせいか若返ったような 歌いぶりだった :-)。プログラムに付された訳詩はかなり遠慮したものとなっている。 そして最後はいつものように聴衆を交えての「夏がきた」のカノン演奏。 はぁー、上達していない>自分 (;_;)。

●心配されたホールの響きは、少なくとも合唱ではそんなに悪くなかったし、 花岡さんの細やかなリコーダーの表現を壁ぎわでも感じとることができたという 点でまずまずではないかと思った。もっとも室内楽のように無指向で音が拡散する 状況でないと本当のところはわからないかもしれない。

●今回はともかくも「パンジェ・リングァ」を生で聴くことができてうれしかった。 きっと古くからのファンは前回の解釈と比べてどうこう。。といった楽しみ方が できるのであろう。 次回(2002年?)はとうとう50年目、10回目の演奏ということになるが、日本において これだけ「パンジェ・リングァ」にこだわり続ける合唱団というのは後にも先にも ないだろうから、これからもずっとこの曲を追求していってもらいたいと思う。

[ゲストブックに書き込みをする]


[back] Back to Early Music Concert Report Index
Last Modified: 2008/Jun/10 00:11:06 JST
ALL CONTENTS COPYRIGHT(C) 1996-2005, Masaru TAIRADATE. All rights reserved.
[E-MAIL] tallis@cc.rim.or.jp