001 取材

 1月29日、よく晴れた土曜日の昼前、ぼくはわが家を出て池袋に向かい、東武東上線の急行小川町行きに乗った。
 Sさんの尽力で『小説現代』(講談社発行)に、登山エッセーの連載が始まった。ぼくにとっては最高の新しいミレニアムの記念事業だ。
『山と渓谷』や『岳人』の読者は登山者だ。「日本百名山・はじめの一山」を連載中の『旅の手帖』(弘済出版社発行)は旅好きの雑誌であり、ぼくのページを読んで下さる方は山好きのはずだ。『蘇る!』(経済界発行)という健康雑誌には、「らくらく登山教室」を連載中だが、「山歩きが最高の健康法」という考えがベースになっている。さくら総研の機関誌『さくらあい』にこの春から連載がきまっているが、テーマは「健康登山のススメ」だ。
 書くことが大好きな岩崎だが、ふり返ってみると、登山者や山好きや、これから山にでも登ってみようと思っている人、健康維持のためになにか運動をやってみようと考えている人に、「山」を書いてきた。文章を書くということについての緊張は毎回あるが、書く内容についての緊張はなかった。
『小説現代』に連載、これは緊張する。なにを書こうか、どんな風に書こうか、悩んでしまう。山登りを始めた頃の「初心」が蘇えったようだ。ワクワク、ドキドキ、こんな緊張感は永いこと忘れていたので、すっごくうれしい。
  自分の講演の中で、「善玉緊張と悪玉緊張」という話を時々する。山に登るということ、プランニング、リーダーシップ、これらは善玉緊張で、精神の活性化にすばらしい効用がある。いまぼくは、147センチの身体が善玉緊張でピーンとしている。
 1月号には「霧島山」を書いた。2月号は季節に合わせて雪の「美ヶ原」、メジャーな山を連投したので、3月号は近郊の低山と思って寄居にある「鐘撞堂山」にきめた。いざ書こうと思って机にむかった。東上線の車窓の風景にでもふれようと思ったが、記憶にない。山道についてはしっかり覚えているのに、車内ではおしゃべりしていたか、居眠りしていたか、外を見ていても、意識がないから記憶に残らなかったのだろう。
「郊外」という言葉を使いたい。国語辞典には「まちはずれ(の原、野、田畑)」とある。東上線がどこからまちはずれを走るのか、そのための取材という次第。
「取材」という言葉も好き。プロっぽい、カッコイイなんて書くと独りよがりだろうか。どこかウソっぽくもあって、そんな印象のすべてをひっくるめて、この言葉は独特の雰囲気を醸し出していると思う。
 なにを書こうか、どんな風に書こうか、ぼくのページに目を留めてくれるかくれないか。緊張感、悩み、心配する、なんてことは本当にすばらしいことだ。生きている証であると、天に感謝しているきょうこの頃である。

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