battle6(3月第4週)
【春だから!SPECIAL】
[取り上げた本]
 
1 「A先生の名推理」    津島誠司                    (講談社)
2 「黄色館の秘密」     折原 一                    (光文社)
3 「夏のレプリカ」     森 博嗣                    (講談社)
4 「イエスの遺伝子」    マイクル・コーディ               (徳間書店)
 
 
Goo「ねえ、AYAさん!呑むのはいいかげんにして、始めませんか?」
Boo「ん〜?」
Goo「だからGooBooの対談ですよ。今日の本題でしょ」
Boo「ん〜、やっぱやるわけ?」
Goo「あったりまえでしょーがッ!そのために来てもらったんですよ」
Boo「ん〜……もう思いっきしお酒入っちゃってるしさあ、キミ適当に書いといてよ」
Goo「そういうわけにはいきません。ここまで来たら意地でもやります」
Boo「ったくしょーがないな〜。キミ、呑みが足りんよ、呑みが。とりあえずこれをイッキしなさい!
  そしたら、話さないでもないコトもない」
Goo「わかりました。呑めばいいんですね。絶対ですよ、約束しましたからね!」
Boo「くどい!……お、お、お、お?お!おお〜!!、やるじゃん」
Goo「……これでいいですか、さあ始めましょう」
Boo(おっかしいなあ、そろそろ寝ちまうはずなんだけどな)
Goo「とりあえずですね、最初はですね、「A先生の名推理」!これからまいりましょー。これはご存
  知、鮎川哲也編集のアンソロジーでデビューしたうわさの新人さん。初の単行本ですね。むろんか
  の「本格推理」に発表された名作「叫ぶ夜光怪人」も収録されています」
Boo「これはまあ、あれね。乱歩のジュブナイルの焼き直しだわね」
Goo「あ、それは許せないなあ。その言い方は、たとえAYAさんでも許せまっしぇん!ええっと〜、深
  夜の街を叫びながら彷徨する「夜光怪人」の正体、現れたり消えたり転倒したり奇怪な移動を繰り
  返す山小屋、立ち並ぶビル群を一瞬にして崩壊させた奇妙な仕掛け……まさにこの世のものとも思
  われない怪現象を、話聞いただけのA先生が論理的に解決してしまう!という、いうなれば大仕掛
  けな「隅の老人」」
Boo「う〜ん。まあ、オルツィのスタイルではあるけれど、トリックにせよ謎解きにせよ、この人のは
  やっぱジュブナイルだと思うわね。名作というウワサの「夜光怪人」なんて、いくらなんでもあの
  解決は子供じみてると思わない?」
Goo「本格とゆーのは、もともと子供じみてるもんなんです!その子供じみた部分を大まじめに楽しむか
  ら面白いわけで。稚気がなければ本格なんて読めません!」
Boo「こいつ、酒がはいると妙に強気だわね〜……あーもう呑まないほうがいいと思うよ。あ、あ、あ、
  あ〜あ。呑んじゃった」
Goo「なんかいいましら?」
Boo「なんでもないなんでもない。ともかく私は「ですます調」の文章といい、リアリティのカケラもな
  いトリックといい、やっぱり乱歩のジュブナイルを連想しちゃうわけよ」
Goo「りありてぃ〜?そんなものは、犬にでも喰われろ!れすね〜」
Boo「だってさあ、あそこまでぶッ跳んだトリックじゃ、たとえ御手洗さんでも論理的な解明なんてでき
  っこないでしょうが」
Goo「んん〜、AYAさんはわかってない!わかってないんだよなあ〜。ミステリにはそれぞれ固有の作品
  世界があるわけで。その作品世界の中で成立しうる、と思わせることができれば、ミステリ的には
  それでおっけーなんです。いわばその作品世界内における「リアル」があるわけですね」
Boo「それにしたって限度があるでしょ。あまりにも現実を遊離しすぎたトリックは、その作品世界その
  ものの成立を危うくしかねないんだから。その「リアル」と「アンリアル」のギリギリのところでバ
  ランスを取るのが、優れた本格ミステリの条件だと、私は思う」
Goo「そーゆー偏狭な考え方が本格の可能性をせばめているんです。たしかにこの作品集のトリックは子
  供だましかも知れません。知れませんが〜しかし!奇想ぶりもここまでブッ飛んでくれれば、僕なん
  かいっそ小気味がいいと感じちゃうわけで。とってつけたような「ですます調」も、この大バカトリ
  ックにはむしろ似つかわしいじゃないですか。裏返せばこの「ですます調」が、トリックにふさわし
  い作品世界を作り上げるうえで大いに意味のある仕掛けとなっているんです」
Boo「……そこまで力説するほどの内容とも思えないんだけどね」
Goo「ともかく僕は支持します!これでストーリィテリングとか文章とか、基本的な小説作法に習熟すれば、
  この作家はいずれとてつもないものを書いてくれそうな気がします」
Boo「あーわかったわかった。次いこ次」
Goo「僕の勝ち〜」
Boo「だから次いこーっつってんじゃない!」
Goo「やーいやーい」
Boo「あんたねェ〜」
Goo「はいはい、次ですねー。次はコレ」
Boo「ん〜?「黄色館の秘密」……やれやれ、夜光怪人の次は黄金仮面か」
Goo「そうでーす。久しぶりの黒星警部ものの新作です。僕はですね、この黒星ものが好きで好きで。いつも
  の叙述トリックものよか好きかも知れない」
Boo「あれは後味悪いしねえ。まあたしかに私も黒星ものは好きだけど、それも「五つの棺」と「鬼が来たり
  てホラを吹く」までね。後はロクでもない。特に今回のこれは最低だわ」
Goo「そんな言い方しなくてもいいじゃないれすか。文庫で新作が読めるんですよ〜。それだけでもありがた
  いと思わなくっちゃ」
Boo「金払ってウンコ本読まされて、その上なんで感謝しなくちゃいけないのよ」
Goo「お金持ちの山荘を訪れた黒星警部の面前で、秘宝「黄金仮面」が奪われ、奇怪な密室殺人が発生する。
  いいれすね〜ゾクゾクしますね〜「雪の山荘」モノですよ」
Boo「キミも果てしなく単純なヒトだねぇ。それだけでゾクゾクできるなんて、いっそ羨ましい」
Goo「黄金仮面が宙を翔び、人々の面前で犯人は消失し、完全なる密室殺人が発生する。なんとも贅沢な、盛
  りだくさんの趣向で楽しめますよね」
Boo「だんだんキミの正気を疑いたくなってきたわね。たしかに黒星シリーズはパロディ本格だけど、だから
  といってあの謎解きはないでしょ。大バカトリックというよりほとんど幼稚。文章もギャグもトリックも、
  全ての面においてはっきり手抜きがわかる粗雑な作品よ。作者の情熱がこもってるぶん「A先生」の方が
  ずっとマシね」
Goo「たしかに「5つの棺」や「鬼が来たりて」と比較されるとツライんですが。でもでも!トリックはいっぱ
  い入ってるじゃないですか!真犯人像だってユニークだし・・・まあ、オリジナルなネタではないけど」
Boo「オリジナルでなくたって別にいいけど、仕上げが雑過ぎるのよ。既成トリックを組合せて新味を狙うのは
  ともかく、まとめ方が粗雑だからそれが十分生きてない感じね」
Goo「文庫書下ろしのせいでしょうか、作者は少々筆を急ぎすぎたキライはあります」
Boo「パロディとはいえ、もう少し丁寧に書いてほしかったわ」
Goo「じゃあ、これは引き分けとゆーことで」
Boo「なんのこっちゃ」
Goo「ではでは、次です。国産が続いたので海外いきましょう。「イエスの遺伝子」です」
Zoo「さっきからなんれすか〜2人でこしょこしょミステリの話してるじゃないれすか〜。ボクも混れれくらさい
  よお」
Boo「……キミはいいからアッチいってらっしゃいね」
Zoo「そりはないれしょ〜。僕はれすね〜ツネヅネGooBooにフマンがあったんれす!だいたいれすね、本格ミステ
  リの時評なのに、ろうして京極とか森とか旬の作家を取り上げないんれすか〜」
Goo「それはたまたまタイミング合わなくて……」
Zoo「らめれす!らっれ前回は去年の作品とりあげれいらじゃないれすか」
Boo「うっるさいわね〜、いーわよ取り上げてやろうじゃないの!」
Goo「ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜」
 
(第1部了)
 
#98年3月28日/MAQ邸にて
 
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