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第4回 「ユージュアル・サスペクツ」をめぐる問題/VS Mr NOBODY
今回のお客様
NOBODYさん
のProfile
MAQと同じく島田荘司を熱愛する本格フリークながら、最近はしばしばエルモア・レナードなどにも浮気中とか。
ジャンルを問わずツボ突きまくりの批評&エッセイが満載の、ミステリと映画のHP「SALOON」にはMAQも日参しています。まだ見たことがない方は、
こちらへ!
CAUTION!
今回は映画「ユージュアル・サスペクツ」の大胆なネタバレがあります。
未見の方はお引き取り下さい!
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sect
01
■
意外性と裏切りと
M
映画にもミステリにも一家言お持ちのNOBODYさんをお迎えして、今回はぜひミス
テリ映画についてお話したいと思っています。
N
でも、私もあまり古い映画は見てませんよ。いいんかな?
M
僕も同じです。ネタは新しい作品を取り上げましょうよ。
N
最近のミステリ映画で面白かったもんというとなんやろ。アクションものならなん
ぼでもあるけど、ミステリ映画となると意外に……。強いていえば「ユージュアル
・サスペクツ」かな。
M
いいですね「ユージュアル」。実はつい最近ビデオで見直してみたんですよ。
N
2度見たって人けっこう多いみたいやね。すごいなと思うのは、2回目観てもおも
しろいという人がけっこういることです。それだけ伏線の張り方が巧みということ
なんでしょうか。
M
2回目はやはり、ぼくも伏線を確認するという感じで見ましたね。
N
それは、確認しとかんと納得がいかない部分があったということなんかな?
M
そうですね。これはいつもの悪い癖なんですが、見る前に期待しすぎちゃったんで
す。だから最初の感想は「なあんだ」という期待外れの気分が勝っていたかも。い
や、面白かったんですよ。面白かったけど、でも……特にラスト前は「アレじゃね
えの?アレだったら勘弁だぜ」と思ってましたんで。
N
私も「これで犯人がスペイシーじゃなかったらすごい」と(笑)。スペイシー=カ
イザー・ソゼという図式は、今のミステリでは真っ先に否定せなあかんところです
からねー。正体不明の人物にみんな殺されていくクライマックスは、めちゃ盛り上
がったんですが。
M
だけど、一般的には褒めている人の方が多いでしょ。近年マレなミステリ映画!み
たいな評価のされ方をしている。で、ぼくが間違った見方をしてたんじゃないかな、
と不安になったわけです。
N
で、見直してどうです。評価、変わらはった?
M
あんまり(笑)。むしろミステリ映画として、不満な部分を再確認した結果に終わ
りましたね。
N
ミステリ映画として……ということは、やっぱりラストのあのどんでん返しの処理
の問題ですかね。
M
そうですね。かみ砕いていえばあのラストで僕が感じた驚きは、スペイシー=カイ
ザーとしか考えられないけど、でもそうだとしたらアンフェアだ。まさかそこまで
アンフェアなコトはやるまい。なのに……という意外性だったんです。たとえば、
1つしかないと断言されていた合鍵が実はもう一つあった、と明かされる密室みた
いな。「意外」というより「裏切られた」という気持ちですね。
N
なるほど。しかし、それはこの映画の根本的な構造そのものに関わるトリックです
よね。それ抜きでは「ユージュアル」という映画そのものが成立しないんじゃない
かな。
M
というと? どういうことですか。
N
つまり、身も蓋もない言い方をすれば、この映画は不測の事態から拘束されること
になってしまったスペイシーが、その場で嘘を作り出して警察の手を逃れようとす
る映画やと思うんです。だからスペイシーの語るストーリーは「嘘でなければなら
ない」というか。嘘であることによって映画が成立してるんですよ。
M
なるほど〜。つまり制作側は確信犯だったと。
N
だから、重要なのはスペイシーの話の中身じゃなくて、それを包む物語全体の仕掛
けを看破できるかどうかということでは?
M
そうですね。いわれてみるとその通りです。「ユージュアル」という作品全体が観
客に対する、1つの罠になっているわけですね。
N
まあ、その罠もたいていのミステリファンなら看破できちゃうところが、この映画
の弱点なんですが……。
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sect 02
■
「嘘つきフラッシュバック」の問題
M
そうそう!そうなんですよ。ミステリ的にはごくごく当たり前のどんでん返しとい
うか、当たり前すぎていまさらやれないネタですよね。……まあ、それはミステリ
ファンという特殊な人種特有の感想なんでしょうからよしとしましょう。でも、だ
としてもやはり、この映画の手法はアンフェアだと思うのです。
N
アンフェア……って、またミステリ用語が出てきましたね。どういうことですか?
M
この映画って大半が真犯人スペイシーの証言で占められてるでしょ?で、彼の証言
が映像となってスクリーンに映し出されている。
N
そうやね。映画全体の8割くらいは彼の証言で構成されています。
M
しかもスペイシーは真犯人だから当然、容疑を逃れようとして偽証するじゃないで
すか。ことに証言の核心部分である、謎の人物カイザー・ソゼの登場とカイザーに
よる仲間の殺戮。これを彼は目撃証言として語っている。そこまではいいんですよ。
けれど、製作者/監督はまったくの偽証であるこのスペイシー証言をそのまま映像
化してしまっている。……これが問題なんですよ。
N
ん?偽証を映像化することがまずいわけ?
M
じつは本で読んだ知識なんですが、これって「嘘つきフラッシュバック」といって
ミステリ映画の禁じ手の1つなんですよ。
N
「嘘つきフラッシュバック」……はじめて聞く言葉やね。
M
アルフレッド・ヒチコックが語った言葉だそうですよ。要するに映画というメディ
アにおいては、映像がスクリーンに映し出されただけで観客はそれを真実と思い込
んでしまう。それだけ強い力をもっているというか……だから、いくら事前にそれ
が容疑者の証言だという断りが入っていても、映像化された瞬間に観客は疑いを捨
ててしまう、と。
N
なるほど。いうてみればキリストさんが証言しとるようなもんやね。映像化された
だけで無条件で真実と受け止められてしまうという。
M
そうそう。読み返して確認できる文章というメディアとは比較にならないほど、制
作側が優位なメディアなんですね。だから小説以上にフェアでなければならないわ
けです。ヒッチ自身、生涯でただ一度だけ、たしか「舞台恐怖症」という映画でこ
の「嘘つきフラッシュバック」を使ってしまったそうで、死ぬまでそれを悔やんで
いたんですって。
N
へえ、なるほどねえ。登場人物が嘘の証言をするのは構わない。しかし、それを映
像化してしまうのはアンフェアであると……。面白いですねえ。でもなんとなくわ
かる。たしかに「ユージュアル」は、その「嘘つきフラッシュバック」がメイント
リックということになりますね。
M
そう考えると、ぼくが最初に見たときの「裏切られた」驚きというのも当然だった
かな、と。
N
「嘘つきフラッシュバック」というアンフェアが平然と使われたことに対する驚き
やね。
M
NOBODYさんがおっしゃるとおり、この映画では映画の構造そのものが「嘘つきフ
ラッシュバック」によって支えられてますからね。アンフェアの誹りから完全に逃
れることは不可能でしょうが、ある程度の逃げ道はあったと思うんですよ。冒頭に
もっと強くこれは「あくまでスペイシーの証言」の映像化であるという点を強調す
る描き方をしておくとか。モロ虚偽である場面(たとえばカイザー登場のシーン)
のみ映像をカットして、スペイシーの顔のアップに戻り、彼の言葉だけで描写する
とか……。虚偽と事実の段差を(明確でなくとも)推理しうる手がかり・示唆がほ
しかったですね。
N
しかし、映像作品でそこまでフェアプレイにこだわる必要があるのかなぁ。まあ、
「ユージュアル」を弁護すれば、たとえばこの作品で流れる回想シーンはスペイシ
ーの嘘を映像化しただけのものである、あるいは聞き手が頭のなかに作り上げた映
像であるって説明はどうでしょう。苦しいですかね。たしかにスペイシーの回想っ
て雰囲気で映像が流れていますし……。でも、聞き手がいるということでワンクッ
ション入ってると思うんですが。
M
う〜ん、NOBODYさんって心優しい人だなあ。自分がえらく底意地の悪い人間に思
えてきた(笑)。
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sect 03
■
この監督にミステリ映画を作らせたい!
N
どうもMAQさんは、ミステリって言葉が付くと、なんであれやたらと点が辛くなる
傾向があるみたいだね。
M
ayaさんの影響でしょーか(笑)。なんにせよこれだけ議論したくなる作品なんて、
めったにあるもんじゃない。貴重なミステリ映画であることは確かだと思います。
N
それはいえてますね。……ところで、ブライアン・シンガーって新作撮ってはるん
ですかね?っていうより、そもそも新作はミステリー映画なのか?(笑)。
M
ヒットしましたからねー、「ユージュアル・サスペクツ2」かも知れませんよ。
N
え?ホンマに?
M
いや、そうだったらどうしようかと(笑)。
N
毎回毎回スペイシーが大嘘ついて、警察をだまくらかすとか(笑)
M
(笑)……いずれにせよミステリ映画撮るとしたら大変でしょうね。あの手は二度
と使えないでしょうし。かといってストレートなサスペンスじゃ、観客は納得しそ
うもないですし。
N
そんなうるさいこと言うてるのは、MAQさんくらいだよ。あ、ayaさんもおったね。
M
あの人といっしょにしないで下さい(笑)。じゃ、最後に今後期待する監督をあげ
ておきましょうか。そう、ミステリ映画を作ってほしい監督ということで。
N
またまた、難しい注文やね……。そう、三谷幸喜さんってのはどうです?「十二人
の優しい日本人」も「ラヂオの時間」もすごいようできた脚本で面白かったし、こ
の前TVで観た「バイ・マイセルフ」って舞台も、かなりミステリーな話でした。こ
の人はそういう素質、めちゃくちゃある人やと思います。古畑ばかりでなく、ぜひ
映画でバリバリのミステリをやってほしいね。
M
三谷さんはいいですよね。ぼくも彼の作ったミステリ映画、見てみたいな。やっぱ、
ミステリ映画は脚本が生命だと思うから、いい脚本がかける人じゃないと……。
N
そうそう。そのせいか、なんとなく舞台畑出身の人に期待してしまうんですよね。
M
たしかにそうですね。じゃあ、ぼくはケネス・ブラナーをあげておきましょうか。
この人も英国の舞台畑出身ですしね。監督に脚本に主演まで兼ねる、当代きっての
才人。まあ、最近はシェイクスピアに夢中ですが、ぼくは彼のヒチコックタッチの
サスペンス「愛と死の間で」が大好きなので、またああいう映画作ってくれないか
な、と。
N
あの映画って、映像で叙述トリック?をやってるところがあったでしょ。あ、うま
いなぁ、って思った記憶あります。まあ、ホンマのこといえば、いまいちばん期待
してるのはジョン・ウー&チョウ・ユンファの黄金コンビ復活なんですけどね!
M
あ、それはぼくも見たいです〜(笑)。
(talk in February-March 1998)
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