[取り上げた本] | |
01 被害者は誰? | 貫井徳郎 講談社 |
02 模倣密室 黒星警部と七つの密室 | 折原 一 光文社 |
03 九十九十九 | 舞城王太郎 講談社 |
04 天使はモップをもって | 近藤史恵 実業之日本社 |
05 風水火那子の冒険 | 山田正紀 光文社 |
06 Angels―天使たちの長い夜 | 篠田真由美 講談社 |
07 首切り坂 | 相原大輔 光文社 |
08 迷宮百年の睡魔 | 森 博嗣 新潮社 |
09 怪盗クイーンの優雅な休暇 | はやみね かおる 講談社 |
10 とんち探偵一休さん 謎解き道中 | 鯨 統一郎 祥伝社 |
11 死が招く
(LA MORT VOUS INVITE 1988) |
ポール・アルテ 早川書房
PAUL HALTER |
12 テンプラー家の惨劇
(The Thing at Their Heels 1923) |
ハリントン・ヘクスト 国書刊行会
Harrington Hext |
13 捕虜収容所の死
(DEATH IN CAPTIVITY 1952) |
マイケル・ギルバード 東京創元社
Michael Gilbert |
14 分岐点 | 古処誠二 双葉社 |
Goo=BLACK Boo=RED
●ずらした重心……被害者は誰? G「貫井さんの、それも本格ミステリ系の作品は、なんだかずいぶん久しぶりであるように思えます。『被害者は誰?』は、『週刊アスキー』と『メフィスト』に掲載された作家探偵・吉祥院慶彦を名探偵役とする短編連作シリーズ。書き下ろし1篇を加えて、総計4篇が収録されています」 B「新本格系の作家さんではあるけれど、個人的には貫井さんにはあまり本格プロパーの作家というイメージはないんだよね」 G「でも、『鬼流院殺生祭』に始まる“明詞”シリーズは、あれはどう見たってバリバリの本格ミステリでしょ」 B「そりゃそうなんだが、その“明詞”シリーズは2作まで出て、随分続きが出てないし――その他は“症候群”シリーズを含め、むしろ本格ミステリ的ガジェットを駆使したサスペンス、スリラーというイメージなんだよね。本格への愛はあるけれども、それに縛られるつもりはサラサラないって感じで。この新作に関しても、まあたしかに(変則的ながら)本格ミステリとしての要件は押さえられているものの、作者の狙いはやはり本格としての謎解きロジックよりも、サスペンスとしてのどんでん返しやサプライズ演出にあると思う。――もちろんそれがいいとか悪いとかってことではないよ」 G「ふむ。一作ごとに趣向を変え、内容はかなりバラエティに富んでいますし、しばしば変則的ではありますが……フーダニットパズラーであるのは間違いないと、ぼくは思いますけどね。とりあえず一作ずつ見ていきましょうか。まずは基本的なシリーズ設定です。主人公は人気ミステリ作家であり名探偵でもある吉祥院慶彦。彼のもとに事件を持ち込むハチ兼ワトソン役は捜査一課の桂島刑事です。吉祥院は名探偵といっても依頼を受けて捜査するわけではなく、仕事の気晴らしに桂島の話を聞いて謎解きするという安楽椅子探偵なんですね。ただ、その推理があまりに見事なため、学生時代の後輩である桂島刑事がこっそり謎解きを頼んでいるのを、警察も黙認している――という設定です」 B「一発目は表題作である『被害者は誰?』。ある夫婦ものの家から発見された身元不明の白骨死体。家の持ち主はその正体について黙秘を続けるが、同時に発見された日記から、3人の被害者候補が浮かび上がる。白骨死体はその3人のうち誰なのか――日記の記述から死体の正体を推理する、というごくシンプルな謎の設定なんだけどね」 G「ですね。そうしたシンプルな謎であっても、作者はたとえばストレートな消去法のような謎解きロジックは使いません。ミスディレクションを駆使し、どんでん返しとサプライズもたっぷり用意して読者に挑戦します。謎解きがメインなのに非常にトリッキーな印象なんですよね!」 B「そうね。これは他の作品にも言えることだが、そうしたサプライズ重視の姿勢が、逆にフーダニットとしての謎解きロジックの甘さ・緩さにつながりがちなのが弱点なんだな。たしかに騙されるし、驚かされるんだが、落ち着いて考えるとどうも無理筋っぽかったりするわけよ。次の『目撃者は誰?』も同じだね。こちらの作品では“安楽椅子探偵方式”ではなくて、いきなり事件関係者の視点で物語が始まる。――同じ社宅に暮らす同僚の妻と情事にふけっていた男の元に脅迫状が舞い込んだ。金は払ったもののどうにも腹立ちが収まらない彼は、推理を巡らして脅迫者を絞り込んでいく。一方、同じ頃その社宅で“心当たりの無い旅行券が届く”という奇妙な事件が続発していた。桂島刑事の話から旅行券の謎を解いた吉祥院は、事件の裏に隠されたもう一つの事件をもあぶり出していく」 G「一見とても結びつきそうもない2つの事件を、読者には予想もつかない意外な角度で結びつけ、さらにどんでん返しを炸裂させる。後者の事件など、ミステリ読みならすぐに察しが付いちゃうんですが、作者は巧みなミスリードでもって、さらにその上を行く。まさに作者に翻弄される喜びが堪能できる1篇です」 B「まぁなあ。作者はミステリの基本パターンをとことん裏返しひねり回して、ともかく読者を騙す、引っかけることに全精力を注いでいるんだな。その手口は相当にあざとく、お世辞にもスマートとはいえなくて――作り物臭さが時に鼻につく。面白いちゃ面白いんだが、奇麗な謎解きものの面白さとは明らかに違うよね。次は『探偵は誰?』。かつて自分が遭遇した事件をネタに、吉祥院が若き日の自分自身をも別名で登場させたミステリ作品を書いた。モデルエージェンシー社長の別荘で起こった殺人事件を描いたパズラーだ。問題篇の原稿を読んだ桂島刑事に、吉祥院は問いかける。“解決篇の名探偵役、すなわちオレは誰だ?”」 G「フーダニットパズラーという意味では、これが一番ストレートといえるのではないでしょうか。とはいえ、やはりその解法にはやはり一筋縄では行かないギミックが仕込まれていますから、読者が解くのは難しいでしょう。ここは素直に読んで驚くのが正解かも」 B「ミスディレクションを総動員という印象で、密度の高さは認めるがこれまたあざとい。もちろん私だって仕掛けは大好きだけど、読者を騙すためだけの仕掛けという印象が先に立つのは、本格として捉えるとどうも腑に落ちないんだよな。アンフェアとはいわないでおくが、正々堂々たるフェアプレイともいえないだろう。パーフェクトに騙されても爽快感がないのは、そのせいではなかろうか。ラストは書き下ろしの『名探偵は誰?』。交通事故に遭ってしまった先輩。加害者は楚々たる美女とて、さすがの先輩も落ち着かない。しかし気の毒だけど、美女には別の目的があったようだ……まあ、新本格らしいサプライズ狙いのボーナストラック。最後の最後まで驚かせてくれるのは確かだね」 G「おっしゃる通り、総じてパズラーとしては無理筋も多いのですが、サプライズ重視の系列の本格ミステリ作品集としては、ひじょうに質が高い。稀に見る純度の高さというか密度の濃さだと思いますね」 B「かといって、それが本格ミステリとしての密度の高さかというと、私は疑問だ。あくまでこれは、本格ミステリ的な技巧を駆使したサプライズ狙いのミステリというべきだと思う。少なくとも作者は読者を騙し、驚かせることに全精力を注いでいるわけで――読者に謎を解かせようなんて気はハナっから無いだろう。何度もいうけどそれが悪いというわけじゃないよ。本格ミステリとしては、重心の置きドコロをズラした異色篇だというべきだってこと」 G「非常に技巧的というか人工的な、サスペンスと本格ミステリのハイブリッド……北川歩実さんの一連の短編に近い印象ですかね」 B「うん、フーダニットとしてのひねり方の元ネタは、むろんマガーだろうけど、総体的な印象はそんな感じだね。その意味ではこれも、けっこう読み手を選ぶ作品かもしれない」 G「“被害者当て”の変形フーダニットなら、ぼくも書いたことがありますが……」 B「論外!」 |
●どこまでが人間なのか……迷宮百年の睡魔
G「森博嗣さんの新作長篇が出ていますね。その新作『迷宮百年の睡魔』は、2000年に出たSFミステリ長篇『女王の百年密室』に続く“女王シリーズ”(なのかな?)第2作。筆の早い森さんにしてはずいぶん間が空きましたよね」
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#2003年6月某日/某スタバにて
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