2004 GooBoo 本格ミステリ ベストセレクション
 
第1部 国内編
 
  作品名※カッコ内は票数 著者            出版社
1 名探偵 木更津悠也 (32) 麻耶雄嵩      光文社
2 螢 (30) 麻耶雄嵩      幻冬舎
2 生首に聞いてみろ (30) 法月綸太郎     角川書店
4 紅楼夢の殺人 (27) 芦辺 拓      文藝春秋
5 アルファベット・パズラーズ (23) 大山誠一郎     東京創元社
6 水の迷宮 (21) 石持浅海      光文社
7 硝子のハンマー (19) 貴志祐介      角川書店
8 パズラー 謎と論理のエンタテインメント(15) 西澤保彦      集英社
9 龍臥亭幻想  (11) 島田荘司      光文社
10  暗黒館の殺人 (10) 綾辻行人      講談社
 
 
【ランク外作品】
惜しくもランクインできなかった11位以下の作品たち。(順不同)
 
BGあるいは死せるカイニス レイニー・レイニー・ブルー 火の神の熱い夏 fの魔弾 御手洗潔対シャーロック・ホームズ(対象年度外・次年度候補になります) 消えた山高帽子 ジェシカが駆け抜けた7年間について ウサギの乱 霧舎巧傑作短編集 平井骸惚此中ニ有リ 平井骸惚此中ニ有リ 其弐 幽霊には微笑を、生者には花束を 白昼蟲 魔王城殺人事件 修羅の夏 リピート 誰もわたしを倒せない 大相撲殺人事件 幻影のペルセポネ 密室の鎮魂歌 イニシエーション・ラブ レオナルドの沈黙
 
【ベスト10作品解説】

1位●名探偵 木更津悠也
大作注目作話題作が目白押しの激戦を制したのは、2000年度の『木製の王子』以来4年ぶり2度目となる麻耶雄嵩さん。しかも長編『螢』ではなく、パズラー連作短編集『名探偵 木更津悠也』でのベスト1奪取となりました。収められた4つの短編は、いずれも一見古典的にさえ見えるストレートかつストイックなパズラー。大胆華麗なジャンプ力と名刀の切れ味を兼ね備えたその謎解きロジックには、まさに本格ミステリのエッセンスが凝縮されています。無論、そうはいっても麻耶作品がストレートなだけのはずもなく。物語の背景には、奇妙に捩れ歪んでいく名探偵讃歌がこだましています。
●ayaメモ
引き締まった切れ味のいい短編は重厚長大な数千枚の大作に優る。ことに本格ミステリというジャンルにあっては、多くの場合ボリュームの多さはむしろハンディキャップなのかもしれない。そのことをあらためてはっきりと証明してくれたのがこの作品。ここにあるのは、本格ミステリとして必要なもの以外なに一つ加えず、ブレンドもしないピュアモルト。その香り高く豊潤な味わいは、初心者もマニアも等しく魅了せずにはおかない。――ま、ひねくれてはいるんだけど(笑)。
●投票者さんのコメント
探偵-ワトソンのねじれを無視しても、麻耶雄嵩にしか書けなかった作品だと思います/謎解きは切れ味が命。と再認識しました/名探偵讃歌/古き良き犯人当ての匂いも感じられる地味な本格にも読めますが、この奇妙なねじれは一体なんでしょうか。「螢」よりずっとスマートな作品だと思います。すばらしい。/名探偵について考えながらも楽しませてもらいました/この作者にして驚くほど真っ当で丁寧なロジック。皮肉に満ちたミステリへの視座も強烈だが、端正な本格ミステリの短編集として楽しむべきと思う
 
2位●螢
もう一つの新作『螢』の第2位ランクインにより、麻耶雄嵩さんは今回、GooBoo本格ベスト史上初の1、2位独占という快挙を実現されました! その立役者たる長編『螢』は、“嵐の山荘”状況の“館”を舞台に“学生”のみの登場人物たちが繰り広げる連続殺人劇。新本格の申し子たる作者は、この使い古された新本格の王道パターンを逆手に取って、あまりにも異常なその最終進化形を生みだしました。捩れた発想と歪んだフェアプレイ精神、そして超絶技巧の出会いが生んだ驚天動地のロジック――まさにそれは新本格の極北です。
●ayaメモ
美しく捩くれたアイディアに洗練されたテクニック。見方によっては少々せこいミスリードといえないではないではないけれど、なんたって技巧だけでこれほどのサプライズを作りだしちゃうんだからたいしたものよね。ともあれ新作を出しさえすればベスト10入り確実で。しかもオーソドックスで、古典的で。それでいてつねにもっとも革新的で、先端的で。――どう考えても麻耶さんのポジションは、カッコよすぎである。
●投票者さんのコメント
トリックの使い方に口あんぐり/捩くれた本格。トリックに新しいところはないが、角度を変えて見せている点が秀逸。/解決篇でもっとも驚かされた作品/期待を裏切られなかった唯一の新本格作品/手垢のついたネタ・設定のオンパレードながら、ここまでひねりまくり、かつ本格を読む楽しさを十全に味あわせてくれた傑作/解決では開いた口が閉じませんでした。/「新本格らしさ」がそのままトリックになっている。/一人称ミステリとしての隙のない仕上がり、逆説的な●●●●●●が描き出す犯人特定のロジック。麻耶が現代ミステリの最先端ということに誰も異論を挟まないだろう。/こういう手もあったのか! トリック辞典に新しい1項を加えた作品
 
2位●生首に聞いてみろ
同じシリーズの短編集によって本ベスト10にもたびたびランクインしてきた法月さんですが、今回は実に10年ぶりとなる法月綸太郎シリーズの新作長編で堂々の2位を獲得しました。石膏像の首切りという奇妙な事件から始まる謎解き物語は、精妙な伏線が張り巡らされた複雑なプロットをもちながら、しかもすっきりシェイプアップされた軽やかな読み心地。細部までよくよく考え抜かれ、丁寧にブラッシュアップされて、総体的なバランスの良さ、完成度の高さはピカイチです。まさにパズラーのお手本のような長編といえるでしょう。
●ayaメモ
ホントはけっこう陰惨な事件でなんだけど、名探偵法月綸太郎も今回はあんまし悩まないし、ロスマク風味の味付けもやや控え目。そのせいもあってか物語としての読み応えは、いつもに比べると少々物足りない。がまぁ、だからこそパズラーとしてのスジの良さがいちだんと際立ったのは確かで――これはやっぱり作者の計算なんだろう。もっとも、これが果たしてフェアな謎解きロジック足りえているかというと、いささか以上に心許ない気が、私はするんだけれど。
●投票者さんのコメント
待った甲斐がありました/とにかく久しぶりだし、本格魂は変わらないということが分かった。/待ったかいがあった、が、次はいつまで待てばよいのでしょう?/完成度が高い一冊。今年を代表する作品。叙述ミステリを本格ミステリと勘違いする作家と異なり、このようなストレートな方向で勝負してくれたのは嬉しい。/「狭義の上にも狭義な本格」を満たしている作品で、これと『螢』『木更津』以外の作品は、逆に何処かの条件を満たしていないと思います。/このレベルの長編をせめて2年に1作書いてくれるとありがたいんですけどねえ。/この作品の読みどころは何といっても首を切り落とした意味……ではなく、エピローグこそに全てが集約されているといっても過言ではありません。そこに収斂されていく美しさは、全体の地味さを補って余りあるものがあると思います。
 
4位●紅楼夢の殺人
作者がデビュー直後から構想し準備していたというこの長編は、中国四大古典の1つ『紅楼夢』に世界観を借り、これを本格ミステリに移し替えた異世界本格の超大作。地上の楽園に次々と発生するとびきりの不可能犯罪は、すべて“ここで起こらなければならない犯罪”だった。つるべ打ちされる奇想天外な超絶トリック、あまりにも異様な動機――すべてを結ぶ異形の着想は、それだけで本格ミステリとして空前の達成といえるでしょう。まぎれもなく現時点における作者のマスタピースというべき1冊です。
●ayaメモ
ユニークな着想と意欲あふれる力作であることは間違いない。が、本格ミステリとしての“構え”が大きいぶん、その失敗もいちだんと大きく目に付いてしまった気がするわけで。せっかくの“異形の着想”を肉付けすべき本格ミステリ的意匠が、あまりにチャチで雑駁で――いってしまえば雰囲気ぶち壊し。『紅楼夢』ワールドの“幻想のリアリティ”が失われてしまったのだ。かえすがえすももったいない、傑作になりそこねた作品。
●投票者さんのコメント
ちょっと何でもあり状態かなとも思うのですが、中国ものが好きなので楽しかったです。ただ、せっかくの貴公子と姫君の世界なのですから、もう少し格調の高い美しい言葉遣いの会話だったらなぁ/馴染みの薄い舞台で心配でしたが、ぐいぐい読めて、この舞台ならではの真相に感心しました/今年は絶対これ。アンチミステリが同時に本格ミステリの大傑作になっているという奇跡的な作品。/読み慣れなかったけど読後は幸せでした。/個々の事件を見るとそれほどでもないが、主人公の設定も、読者の常識さえも驚きの中に取り込んだ仕組みに白旗。30年後でもインパクトを失わない作品だと思う。/喰わず嫌いしてたけど、これには感心しました。この舞台設定でしか成り立たない動機、というのが良かった
 
5位●アルファベット・パズラーズ
自著を1冊も出さぬうちにベストアンソロジーに作品が収録(『本格ミステリ03』)されるという離れ業をしてのけた俊英、期待の第一作品集が堂々の第5位ランクインです。収録された3編はいずれも不要な成分を極限まで――小説として必要だったはずの要素まで容赦なく削ぎ落とし、クリーンルームで純粋培養したかのようなストイックなパズルとなりました。企みに満ちたプロットとアクロバティックな謎解きロジックにひたすら翻弄され、意表を突きまくられる快感を、あなたもぜひ。
●ayaメモ
パズラーという語が使われているタイトルから来るイメージとは少々違って、実はロジカルというよりもトリッキーで、精緻というよりもアクロバティクで――しかもおそろしくプラスティック。小説だろうが、物語だろうが、作り物になりすぎることをカケラほども怖れない。それどころか、小説がパズルで何が悪いといわんばかりのクールさで、無慈悲などんでん返しを眉ひとつ動かさずに炸裂させる。新世代本格ミステリの新しいリアルがこれだ。
●投票者さんのコメント
この先どんなものを書いてくれるのやら/本格マニアのための作品集。/今年の論理的推理小説No.1/好きなものを書いたらこうなったという天然な香りがしました。初期新本格に通じる無邪気な雰囲気。/粒揃いな3編の中でも「Yの誘拐」に尽きます。精緻にして端正なロジックに感心し、思いもよらない結末に愕然。理想的な本格ミステリです。/どう考えても無理ありまくりですが、本格ということにこだわっていることはよく伝わってきます。真面目な語り口が損をしていると思います。もっとバカミスらしく装ってもいいんじゃないかしらん
 
6位●水の迷宮
昨年の『月の扉』(第3位)に続き、激戦の今年も6位にランクイン。長編3作目にして早くもベスト10常連の貫録です。本格ミステリ系新人の中でもパズラー指向の強い作家さんですが、同時に舞台やキャラクター造形など1作ごとに工夫を凝らしてサスペンスあふれる舞台を作り上げ、質の高いエンタテイメントに仕上げてくれるのが大きな特徴です。今回もまた水族館でのタイムリミットサスペンスという特異な設定のもと、緊迫した謎解きを展開しています。
●ayaメモ
丁寧な仕事といわれればたしかにその通りなんだけど、実は肝心カナメの謎解きロジックには、舞台やプロット造りほどには力が注がれていない。謎の構造や伏線、キャラクタの配置も意外なくらいワンパターンで、いってしまえば安直。特に今回は『プロジェクトX』風の陳腐なプロット構造があからさますぎて、登場人物の顔触れを見ただけで犯人も事件の背景も、あっさり見当がついてしまう。バランスの良いエンタテイメントであることは、本格ミステリとして必ずしもプラスにはならない。
●投票者さんのコメント
映画化したい本格ミステリってのは珍しい/ロジックと物語が奇麗に融合した傑作。/レベルは高いが、過去の作品と同工異曲。/高いレベルで安定したアベレージヒッター。突出したところはないけど安心して読める/今一番注目している作家さん。最初から大傑作の予感がしました。細かいとこまで理詰めで作っているのがたいへん好ましい。が……、ラストでやや滑ったかな/巧い人だと思います。物語と謎解きをバランスよく配合して、過不足のないエンタテイメントです。
 
7位●硝子のハンマー
青春ミステリ『青い炎』以来4年ぶりの新作、しかも作者にとって初の本格ミステリにより貴志さんが初めてのランクイン。前半がオーソドックスな密室ものフーダニット、後半が同じ事件を犯人視点で描いた倒叙ミステリという特異な構成で、緻密な謎解きとスリリングな倒叙スリラーが両方楽しめるお得な1冊となりました。厳重なセキュリティが施され介護ロボットが置かれた「現場」、名探偵は防犯のプロである防犯コンサルタント――まさに現代のリアルな密室です。
●ayaメモ
密室トリック自体は某新本格第一期生の某短編のそれのバリエーション。その使い方や本格ミステリとしての演出にも、さしてユニークな部分はない。密室ものとしてはあまり良い点を上げられないが、実はこの作品の読みどころは、詳細緻密に描かれたディティールだ。前半部は防犯のプロによる徹底的な捜査、検証のディティール、後半部は犯人による密室づくりの詳細なディテール。まさにこれは、密室殺人という不可能犯罪の裏表を克明に描いたリアルな本格ミステリルポルタージュなのだ!
●投票者さんのコメント
非常に緻密な作品。/探偵役、被害者、被疑者 の誰よりも犯人に一番好感を持ってしまいました。最後のお説教がなく、探偵役にもう少し魅力があれば、ポイントはもっと高かったと思います。/捨て推理が面白い/密室トリックオタクの作! でもおもしろい/密室殺人ものでは今年もっとも楽しく読ませていただきました。/密室トリック以上に細かい伏線が見事で、第二部の倒叙も密室モノの単調さをカバーして『99%の誘拐』を思わせ、読ませる。僅かな違和感から犯行が発覚するのも鮮やか。
 
8位●パズラー 謎と論理のエンタテインメント
西澤保彦さんは初のノン・シリーズ短篇集でのランクイン。『パズラー』というタイトル、そしてあの都筑道夫さんが提唱した『謎と論理のエンタテインメント』という副題まで添えられて、まさに本格ミステリ作家・西澤保彦が自信をもって贈る堂々の西澤流パズラーでしょう。内容は“ゲーム色の強いフーダニット”ではありませんが、まさに謎と謎解きの1セットから生みだされる極上のエンタテイメントとして、その質の高さはずば抜けています。
●ayaメモ
ユニークな着想、練りこまれたプロット、洗練を極めた技巧……おそろしく高いレベルでバランスした質の高さ、完成度という点で、おそらく今回のベスト10作中随一といっていい高密度作品集。――けど、これはどう転んだって“パズラー”ではないわよねぇ。巻末に貫井さんが友情あふれる解説を書いていらっしゃるけど、この作品をして無理にパズラーにカテゴライズする必要がどこにあるのか、私にはわからない。最高に上出来なミステリ短編、それでいいじゃない。
●投票者さんのコメント
珠玉の本格ミステリ短編集だと思う。/パズラーという言葉のイメージから想像される作品からは遠いけど、たしかに“謎と論理のエンタテインメント”ではある/ノンシリーズ短篇でも傑作が書けることを証明した作品集。こういうのをどんどん発表して欲しい。/非シリーズものの好短編集/一編一編がいい意味で非常に技巧的で、しかも本当に質が高い。/溜め息が出るほど巧い
 
9位●龍臥亭幻想
1996年刊行の御手洗モノ大作『龍臥亭事件』の続編、ではありませんが、同じ舞台に同じ登場人物たちが集まって、さらには御手洗&吉敷の2大名探偵が共演!というサービス満点の1冊です。衆人環視の神社から消失し、3ヶ月後に地震で地割れした地中から死体となって出現した巫女の謎、そして死体に乗り移って復讐する森孝魔王の奇怪な伝承と復活。過去と現在を結ぶ想像を絶した怪事件、怪現象を一刀両断する名探偵の名推理。まさに島田さんにしか書けない島田流本格の極め付けです。
●ayaメモ
歴史や科学や人間の情念の狭間から、常人の想像を絶した“謎”という名のストーリィを紡ぎだし、そこに命を吹き込む類い稀な幻視力――それが作家・島田荘司の最大の特質だ。それはもちろんこの新作でも十二分に発揮されている。実際、ここに描かれた謎はあまりにも“不可能過ぎ”“突拍子もなさ過ぎ”て、並の作家が書けば幻想的どころかマンガにしかならなかっただろう。さあ諸君、“解かれるということ”それ自体信じられない“天上の謎”とはこのことだ!
●投票者さんのコメント
御手洗潔と吉敷竹史、夢のコラボ! その期待に負けないほどの謎・謎・謎!/謎を創るミステリー/「謎それ自体」がこれほど大きな魅力となるミステリーはあまりないでしょう。/御手洗さん吉敷さんの競演はちょっと肩透かしだけど、こんな強烈で強力な謎解きを描けるのはやはり島田荘司だけ/謎解きとストーリーテリングが渾然一体となった傑作
 
10位●暗黒館の殺人
ベスト10のトリを取ったのは、いわずと知れた2004年最大の話題作。館シリーズ最新にして最長の超大作、貫録のランクインです。悠揚迫らぬ語り口で――幾つもの視点が複雑に交錯しながら――過去と現在を行き交いつつ――ゆるゆると語られる異様な殺人物語。それは館シリーズ六作を、そして新本格そのものの歴史を総括する、文字通りの総集編的巨篇となりました。そのあまりに巨魁なありようを、嫌う人がいるのは分かります。でも、無視することだけは、誰にもできないはず。
●ayaメモ
半分も読まぬうちに(まぁ、それだけでも大変な労力なのだけど)読者たるあなたはたぶん気付く。もしかして――アレか? ぴんぽん!ピンポン!ぴんぽん!鳴り響く正解コールに耳を塞ぎ、目を背けて。気付いてしまった正解を確認するためだけにたどる、残りの旅路の長いこと! いや、まあ実際にブツリテキにも、途方もなく長いんだけどね。
●投票者さんのコメント
ありとあらゆる些細な隅々まできめ細かな神経が行き届いた巨城/“あの雰囲気”を堪能できるのですから、長いほどいいんです/12年ぶりの館シリーズ!! っと期待はしたのですが……期待のほうが大きかったようです。/あの大長編にして驚くほどシンプルなネタ。まさに筆力の産物/かくて新本格は「世界そのもの」になった/合理と非合理の狭間で紙一重のところで本格に踏みとどまっている。この巨体にしてなんという繊細さか!



【国内ベストGooBoo】
G「というわけで――2004年は麻耶雄嵩さんの年だったというべきでしょうね」
B「なんたってワンツーフィニッシュだからなー。得票を合計すれば、んもうぶっちぎりのナンバーワンだよね。いや、おみそれしました」
G「力作話題作注目作がしこたま出た年でしたから、投票自体もっとバラけるかと思ったんですが、実際にはそうでもなくて。むしろ特定の作品に集中したという感じの方が強かったです」
B「それはキミが“狭義なうえにも狭義な本格”なーんて無理無体を欲求したせいだろう。そんな作品、もともと一握りしかありゃしないんだよ。それに、実際に投票した方はお分かりだと思うけど、昨年は話題作注目作は豊富だったとはいえ、こと狭義の本格ミステリに限っていえば、いうほど充実していたとはとてもいえない。もちろんベスト10作品のクオリティ自体には何の不足もないけどね」
G「たしかに賑やか&華やかだったわりには、食い足りない1年だったかもしれないですね。まあ昨年は“鳴り物入りの期待の年”でしたし……おっしゃる通り、ジャンルをできる限り狭く捉えようとする原理主義者にとっては、そもそも基本的に“豊作なんてありっこない”わけですが(笑)」
B「しかし結果を見ると、本格ミステリのベストとしても特にパズラー指向の強い作品の含有率が高いものになった気がするわね」
G「ってことは投票者の皆さんにとって“狭義の上にも狭義の本格”とは、オールドタイプのコード型本格ではなく、サプライズメインのメタショッカー系でもなく、モダン・ディティクティブ・ストーリィたるパズラーなのだ、と。そういうことになるのでしょうか」
B「“その方向”に誘導したのは他ならぬキミじゃん。ま、実際にパズラー指向の作家さんの数も、なんだか僅かずつ増えつつある気がしたけどね」
G「“拡散と多様化”への反動でしょうか。一種の本格原理への回帰みたいな流れがあるのかな」
B「というか、単純に本格ミステリ多様化の一環としてのパズラー指向ってことなんじゃないの? ベスト10入りしたパズラー系の作品を見ても、パズラーとひと括りにしにくいほどバラエティに富んでるし。パズラー自体も多様化が進み、細分化されている感じがする」
G「そもそもジャンルそのものの中心が見えないって感じはありますが……それでも、たしかにパズラー指向みたいな流れが出てきた気はしますよね。それこそ作者と読者双方に――てなところで、独断と偏見で選ぶ2004年度のベスト本格ミステリ作家賞ですが」
B「なにィ、それって毎年恒例になったのかよ!」
G「たったいまなりました。そういうわけで、今回はそのパズラー指向の流れを象徴する希望の星に、今後への期待も込めてお贈りします!おめでとうございます〜〜」
 
2004年度:ベスト本格作家賞 大山誠一郎さん
 
B「例によって副賞は何にもないし、何の栄誉にもならない賞だけどな!」
G「んじゃ、そろそろayaさんのベストをお願いします」
B「了解了解。例によって順位は無しね」
 
●ayaの国内ベスト
アルファベット・パズラーズ 大山誠一郎     東京創元社
生首に聞いてみろ 法月綸太郎     角川書店
名探偵 木更津悠也 麻耶雄嵩      光文社
硝子のハンマー 貴志祐介      角川書店
天城一の密室犯罪学教程 天城 一      日本評論社
 
G「ふうん、堅いセンですねぇ。けど、天城さんも入るんですか?」
B「小説としては異様につまらないけど、“にも関わらず本格ミステリではこれもアリ”、なのよね。そんな本格ミステリの“小説としてのオカシさ”のサンプルとして入れておきたい」
G「んじゃ、ぼくの番ですね」
 
●MAQの国内ベスト
1 名探偵 木更津悠也 麻耶雄嵩      光文社
2 生首に聞いてみろ 法月綸太郎     角川書店
3 螢 麻耶雄嵩      幻冬舎
4 fの魔弾 柄刀 一      光文社
5 アルファベット・パズラーズ 大山誠一郎     東京創元社
6 龍臥亭幻想 島田荘司      光文社
7 監獄島 加賀美雅之     光文社
8 レオナルドの沈黙 飛鳥部勝則     東京創元社
9 幽霊には微笑を、生者には花束を 飛田 甲      エンターブレイン
10 星の牢獄 谺健二       原書房
 
B「たしか君は、(a)小説としての主題/興趣の中心が「謎解き」であり、(b)「解かれるべき謎」が、早い段階で読者に明確に提示され、(c)その謎が「論理的に解かれて行く過程」が明確に描かれていて、(d)読者へ謎解きに必要な手がかりを提供あるいは必要十分に提供したと「思わせて」くれた作品――のベストを選ぶハズだが」
G「はぁ、まあそうですね」
B「その条件に当てはまるのは、上位3〜4作品だけじゃない?」
G「う〜。某氏と同じこといってる〜。でも、まあたしかにそうですね。特に(c)(d)の項目を満たしているといえるか怪しい作品が多いのですが……ここに挙げた作品は、いずれも読み終えた時点では結構セットクされちゃったというか。満たしていたように思わされてしまったというか」
B「そのあたり、きちんと検証しなくちゃ意味が無いじゃん」
G「もちろん点数については上位3作品だけに入れましたよ。でも、ここに挙げるのにそれだけじゃ寂しいので、条件を少し緩めにして下位を足した次第です」
B「ふうーん。ちなみに最下位のこれはライトノベル?」
G「『幽霊には微笑を……』ですか? ライトノベルですけど、よく練られた異世界本格ですよ。素直に感心させられたので入れてみました」
B「どっちにしろ、なんか座りの良くないベストだねぇ。来年、もしまたやるなら、今度は妙な規制は設けない方が良いかもね」
G「うーん。でも、ここはこだわりたいポイントなんですよねぇ」
B「じゃ、さらに細分化したらどう? たとえばパズラー部門とコード型部門、サプライズ部門に分けるとか」
G「面白いけど、投票者さんにさらに負担をかけそうですねえ。だいたいそのジャンル分け自体難しい作品が多いでしょうし……また年末まで要検討です」
B「あと、(a)〜(d)は厳しいっちゃ厳しいけど、本格ミステリにとっては当たり前の条件にも思えるわよね。なのになぜ、それに当てはまる作品がこんなにも少ないのか?」
G「そうですね。それはもう少し考えてみたいテーマです」
B「ま、面白い本格がいっぱい読めれば、んなことどーだっていいけどね!」
 
第1部・完(2005.1.22)
 
■ごあいさつへ  ■第2部:海外篇へ(工事中)
 


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