とはいうものの、クロフツの探偵役が展開する捜査・推理の過程は意外なほど行動的で、個人的には延々と関係者の尋問が続く初期のクイーンなどよりはるかに変化に富んでいるように思える。「樽」においても終盤にはアクションシーンなども用意されている。ただし同時に、直接ストーリィに関係しない部分でも描写をけっしてゆるがせにしない偏執的なこだわりが、物語のスピード感を削いでいることも否定できない。といってその時点では読者にとっては何が重要なのかは判断できないから、気軽に読み飛ばすこともできないわけで……。結局のところこの念入りな描写にじっくりつきあうことができるかどうかが、クロフツを愉しめるかどうかの分かれ目ということになるだろう。
 
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